リアヘビーです、以上!
……なんて書いたら話がそこで終わっちまいますね。まぁ、どうして今回、そんな分かりきったことを書き始めたかと言うと、よくMR2に関して周りから
『MR2はミッドシップのくせにリアヘビーwww』
『MRのくせにエンジン横置き、ワロスwww』
『MRというよりRR』
『本物のミッドシップではない』
『なんちゃってミッドシップ(嘲笑)』
みたいな言動がしょっちゅう。しかもそれがMR2乗りからもチラホラ聞こえてくるもんだから、果たしてそれは真実なのかどうか検証してみようかと。
まず、自動車の重量配分についてですが、前輪のみで操舵と加速を行うFF車を除けば、基本的に前後の重量配分は50:50が理想であると言われます。
実際、これを達成しているマツダ・ユーノスロードスターやRX-7(FD3S)、ホンダ・S2000の回頭性、運動性の良さ、コーナリングの切れ味は一級品とされています。
前後の重量配分に関しては各メーカーが様々な理論や考え方を持っているようで、現在トヨタが開発中のFT-86などにおいて、開発担当者は『我々は50:50が理想だとは考えていない』と述べ、前後均等の重量配分にはしない、と言うことを明かしています。
……今、『しょせんトヨタだし』って誰か言ったでしょ? 分からんですよ~? ホンダがタイプRの生産中止を決めた今、2年後のモータースポーツはトヨタ&スバルが席巻してるかもですよ!?
ただ、この『50:50』と言うのは、前後均等信仰が根強く生きている現在の自動車業界において、メーカーの技術力を誇示出来るポイントであると共に、、その自動車の大きなセールスポイントともなっているのです。
また、ここで興味深いことは、50:50を達成している車種がいずれも、エンジンをフロントボンネット内に収めながらも四輪の中心に配置する『フロントミッドシップ』と呼ばれる構造になっていることです。
自動車の部品中、最も重い重量物であるエンジンをフロントに配置することによって前後均等がやっと達成されるなら、リアミッド=いわゆるミッドシップなら、普通に考えたらリアヘビーになって当然な気も致します。
では、ここでリアにエンジンを配置するMR方式のクルマの重量配分の例を上げて見たいと思います。
※重量配分は『モーターファン別冊 モーターファン・イラストレーテッド Volume32 特集 ミッドシップ 理論と現実』より
●トヨタ MR2 AW11(前期)
・登場年:1984年(昭和59年)
・車両重量:950kg
・前後重量配分:
44.2:55.8
・全長×全幅×全高(ホイールベース):3925mm×1665mm×1250mm(2320mm)
AW型MR2。FF車であるAE82型カローラをベースに作られた、日本初のミッドシップ車でございます。まぁ、リアヘビーっちゃリアヘビーですね。関係ないですけどAW型、国内と輸出を含めたら10万台以上売れてます。
●トヨタ MR2 SW20
・登場年:1989年(平成元年)
・車両重量:1230kg
・前後重量配分:
42.3:57.7
・全長×全幅×全高(ホイールベース):4170mm×1695×1240mm(2400mm)
2代目MR2。パワーが無いパワーが無いと散々ボロクソに言われたAW型に対し、『日本一加速力のあるスポーツカー』を目指して作られたSW型。ベースとなったのは、当時WRCにも参戦していたST165セリカです(マイチェン以降はST185だったりST200系だったりしてそう)。Ⅰ型搭載の3S-GTは、2リッターとしては当時世界最強出力を誇るエンジンでした。もう、明らかリアヘビーですね。
●トヨタ MR-S ZZW30
・登場年:1999年(平成11年)
・車両重量:990kg
・前後重量配分:
40.4:59.6
・全長×全幅×全高(ホイールベース):3895mm×1695×1235mm(2450mm)
3代目MR2……と言うと、激怒する人続出しそうなMR-S。ベースとなった車種は不明ですが、どうもシャーシは新設計っぽいです。エンジンはセリカと同じものが積まれています。スポーツカーを目指したSW型から、『Fun to Drive』をコンセプトとしたAW型と同じスポーティカーに戻りました。SWと比べると全長は短くなっていますがホイールベースは伸びています。でも、さらにリアヘビーに磨きがかかりましたねぇ……!
と、まぁ、ボロクソに言われまくってるトヨタのミッドシップはこんな感じでございます。さて、次はお待ちかね、皆さん大好き世界のホンダの登場でございます。
●ホンダ NSX
・登場年:1990年(平成2年)
・車両重量:1425kg
・前後重量配分:
43:57
・全長×全幅×全高(ホイールベース):4430mm×1810×1170mm(2530mm)
もはや説明不要。国産初のスーパーカーと名高いNSX。そのタイプRは黒沢元治氏をして『世界最強だな、無敵だ』と言わしめた国産最強のミッドシップでございます。元々はホンダの高級(?)FF車であるレジェンドをベースに、MR2と同じくミドルクラスのミッドシップを目指してたはずが、いつの間にやら1000万のスーパーカーに、と言うのは言わない約束です。
さて、ここで重大な事実が発覚しました。NSXの重量配分。なんとSW型MR2とほとんど変わらないのです! もちろん、若干NSXの方が重量配分は良いのですが、全長やホイールベースの長さを鑑みたら、明らかにMR2の方が上手いことバランス取ってますよね……。
さらに言えば、燃料タンク。NSXはシート後方に配置されてますが、MR2は左右のシートの中間に配置されています。つまり、燃料満タンの状態では、NSXの方が重量配分が良いですが、走行している内に燃料が減って来ると……SW型MR2の方が重量配分が良くなってくるということには……ならんか。ガソリンの減少による前後バランスの重量変化はMR2の方が少ないけど。ま、どちらにせよ、AW型の方が重量配分は良いですけどね。
そろそろMR2=リアヘビー論が怪しくなって来ましたが、まだまだ分かりません。
●ホンダ ビート
・登場年:1991年(平成3年)
・車両重量:760kg
・前後重量配分:
42.1:57.9
・全長×全幅×全高(ホイールベース):3295mm×1395×1175mm(2280mm)
軽自動車初(?)のミッドシップであるビート。まぁ、ここで比較対象に挙げるのもなんだかなぁ、って気もしますが、こんな感じです。でも、ビートはかわゆぃね~。
●マツダ オートザムAZ-1
・登場年:1992年(平成4年)
・車両重量:830kg
・前後重量配分:
44:56
・全長×全幅×全高(ホイールベース):3295mm×1395×1150mm(2235mm)
マツダ唯一のミッドシップ。もちろん軽自動車です。ビートよりもホイールベースが短くて車重は重い。でも、重量配分は国産最強の部類です(何 。一重にガルウィングのおかげかと。スズキのキャラも忘れないで上げて!
さて、国産のミッドシップが出揃いました。これだけ見てると、どっちかって言えば
MR2ってミッドシップとしては重量配分が良い方ですよね……。NSXのことを『リアヘビーwww』と、バカにするならともかく。
そういや昔、マツダがロータリーエンジンを搭載したリアミッド車を考案してたそうですが、結局ボツになったそうです。これが実現してたら凄いことになってただろうなぁ……残念でなりません。でも、FDの性能を考えたらFRで正解だったのかもですね。
ていうかどれもこれもFFベースのなんちゃってMRに軽自動車じゃねーか、そんなのホンモノのミッドシップでも何でもねぇぜ! という声が外国製スーパーカー乗りの方々から聞こえてきそうな感じです。
というわけで、海外のミッドシップの例も挙げてみなければならないようです。
●ロータス ヨーロッパ
・登場年:1966年(昭和41年)
・車両重量:612kg(!)
・前後重量配分:
orz
・全長×全幅×全高(ホイールベース):3994mm×1638×1079mm(3211mm)
古くからトヨタとは技術提供、部品共有で深い提携関係にあるロータスが、初めて製作したミッドシップ。ていうか軽いにも程があるぞと言いたいぐらいのライトウェイト。あまりにも古すぎて重量配分が分かりませ~ん(泣)。誰か、ヘルプ!ヘルプ!
ロータスヨーロッパと言えば、藤島康介原作の『エクスドライバー』を思い出しますね~。なお、霧島世代の人間に『サーキットの狼』なんて言っても分かろうはずがない(キリッ
●ポルシェ 914
・登場年:1970年(昭和45年)
・車両重量:898kg
・前後重量配分:
50:50(!)
・全長×全幅×全高(ホイールベース):3985mm×1650×1220mm(2450mm)
かの有名なポルシェが、フォルクスワーゲンと共に開発したミッドシップ車。フォルクスワーゲンの既存の部品を使用することにより、安く仕上げることを可能としたとかなんとか。これの重量配分なら文句はでまい!
●ランボルギーニ カウンタック LP400
・登場年:1971年(昭和46年)
・車両重量:1065kg
・前後重量配分:
43:57
・全長×全幅×全高(ホイールベース):4140mm×1890×1070mm(2450mm)
何か説明が必要で? というぐらいに超有名な、スーパーカーの代名詞。『カウンタック』や『彼女のカレラ』のおかげで『クンタッシ』という名称も普及してきたかな? どうでもいい話、霧島が初めて名前を憶えたクルマがこれでございました。
●フィアット X1/9(エクスワンナイン)
・登場年:1972年(昭和47年)
・車両重量:880kg
・前後重量配分:
41:59
・全長×全幅×全高(ホイールベース):3900mm×1570×1170mm(2200mm)
……最近の若い人は知ってるのかな、このクルマ。もはやノスタルジックカーでございます。しかし、ミッドシップの歴史を語る上では決して欠かすことの出来ない名車でございます。
当時、高級スーパーカーの象徴であったミッドシップを、FF車を反転させることにより、安価に製作し、若者の手にも届くものとすることに成功したのがこのX1/9なのです。このクルマが無ければ、おそらくMR2も生まれなかったでしょう。ただ、欧米人が乗るクルマなのに、小柄な日本人が乗っても窮屈で不便なクルマだったそうな……。X1/9に乗ったことのある人が、AWに乗ってまず驚いたのは、その居住性の素晴らしさだっとかなんとか。
●ランチア ストラトス
・登場年:1974年(昭和49年)
・車両重量:980kg
・前後重量配分:
37:63(!)
・全長×全幅×全高(ホイールベース):3710mm×1750×1114mm(2180mm)
反則級のWRCカー。ヤングジャンプで連載中の『カウンタック』にて、主人公の後期型AW11と激闘を繰り広げてましたね~。ていうか、恐ろしいぐらにリアヘビーでございますねー(棒読み)。
●ロータス エスプリ
・登場年:1975年(昭和50年)
・車両重量:1020kg
・前後重量配分:
44:56
・全長×全幅×全高(ホイールベース):4191mm×1860×1111mm(2438mm)
1987年~1996年(?)までのモデルは、テールランプがハチロクレビンと同じ部品です(マジ)。
●フェラーリ F40
・登場年:1985年(昭和60年)
・車両重量:1100kg
・前後重量配分:
38.9:61.1(!)
・全長×全幅×全高(ホイールベース):4430mm×1980×1130mm(2450mm)
これも超有名。バカ高、バカ速スーパーカーの代名詞。あれ……重量配分の様子が……!?
●フェラーリ F50
・登場年:1995年(平成7年)
・車両重量:1230kg
・前後重量配分:
42:58
・全長×全幅×全高(ホイールベース):4480mm×1986×1120mm(2580mm)
これも超有名。バカ高、バカ速スーパーカーの代名詞。おや……重量配分の様子が……!?
●ポルシェ ボクスター(1996)
・登場年:1996年(平成8年)
・車両重量:1252kg
・前後重量配分:
47:53
・全長×全幅×全高(ホイールベース):4291mm×1652×1320mm(2272mm)
水平対向+RRの組み合わせこそがステータスだったポルシェが珍しく作ったミッドシップ。リアヘビーなクルマを作りなれてると言うか、やっぱ前後の配分が良いですね~。ただ、2006年モデルでは46:54と、重量がリア寄りに傾いていきます。
●ロータス エリーゼ
・登場年:1996年(平成8年)
・車両重量:690kg(!)
・前後重量配分:
37:63(!)
・全長×全幅×全高(ホイールベース):3726mm×1701×1175mm(2300mm)
日本国内のジムカーナ&ラリーでも活躍しているエリーゼ。『ダートを走る最も美しいクルマ』と呼ばれているそうな。同じセリカのエンジンを積んでいるという点では、MR2のライバルですね~。こないだ霧島、峠でエリーゼに千切られましたけど……なんだこの車重! 軽すぎです! あと、スーパーリアヘビーですね。
●ポルシェ カレラGT
・登場年:2004年(平成16年)
・車両重量:1250kg
・前後重量配分:
42:58
・全長×全幅×全高(ホイールベース):4556mm×1915×1192mm(2700mm)
間違いなく、近代スーパーカーの一つ。足回りなんてもはやレーシングカー。え、重量配分はご覧通りリアヘビー。
……マジで疲れた……もう、いいかな……? もう、ゴールしても……いいよね……?
結論:
ミッドシップは基本的にリアヘビーです!
むしろMR2なんて、重量配分が良いぐらいです!!
50:50に近いミッドシップなんてボクスターシリーズぐらいじゃないの。それよりワンクラス上のカレラGTなんか、明らかにリアヘビーだし。
ていうか、これを見てると、MR2について『MRというよりRR』という人は、何の車種を以って『本物のミッドシップ』を定義してるんでしょうかね……。つうか乗ったことあるんでしょうかね、その『ミッドシップ』とやらに。そういう言い方する以上、RRにも乗ったことあるってことになりますけど、ポルシェにでも乗って限界走行したことあるんですかね……? まさかスバル360かサンバーじゃあるまいな(笑)
MR2の場合、エンジンルーム周りの剛性の問題やら足回りの問題があるから、結果的にRRに近いって言われるのかもしれんけど、少なくとも重量配分の問題でRRに近いと言われるのは完全なる間違いです!
ちなみに、世界最速のミッドシップと言えばF1マシンですが、F1マシンの重量配分と言えば、エリーゼとかと大して変わらんかったハズですよ……?
ついでに書いておきますと、↑でピックアップした車種は、知名度を最優先に選んでおります、結果、不思議と割と前後重量配分が均等に近いモノが多くなりました。
ちなみにフェラーリテスタロッサなんて40:60で完全にリアヘビーですし、NSX真っ青のカーボンモノコックボディを採用してるマクラ―レンF1で、41.2:58.8。つうかフェラーリとかルノーとかデ・トマソとか、大抵SW以上にリアヘビーでございます。
では、何故にミッドシップはリアヘビーが基本なのでしょうか。
それは、トラクションの問題です。
スポーツカーは、ハイパワーになればなる程、トラクションがかかりにくくなります。よって、ある一定以上のクラスになると、完全にFF車は消滅して、FRかMRかの後輪駆動オンリーになります。そして、フロントヘビーのFRと、リアヘビーのMR。どちらがトラクションに有利などというのは言うまでもありません。
もちろん、前後重量配分はFRの方が上ですが、それぐらいのパワーを使う速度域なら、フロントのスポイラーなどによって、空力学的にフロントの接地力を劇的に良くすることが可能です。つうわけで、レーシングカークラスのマシンには、ミッドシップが採用され、基本、リアヘビーなワケなのです。……もちろん、これはミッドシップにおける理論の一つにしかすぎませんけどね。
ならば、速さを追求する上で、MR2ぐらいのミドルクラスにミッドシップを採用するメリットがあるのか、と言われたらそんなもんないです。あのクラスでなら、FF車が速いというのはもはや明らかです。
そんなこと言いだすのなら、最初からシビックタイプRかインテグラタイプRに乗ればオッケーなのです。
ただ、スポーツカーが好きな人というのは、速さだけを求めてパートナーを選ぶのではないはずです。何かそのクルマに感じるモノがあったからこそ、ある人はハチロクを選び、ある人はシビックを選び、ある人はRX-7を選び、ある人はMR2を選ぶワケなのですよ、はい。
あ~まだ難題が残ってた。エンジンの話。
エンジン横置きとか言いだすなら、NSXだって横置きです。……V型気筒だけど。居住性確保するための苦肉の策だったんじゃないですかね……。いくらフォーミュラカー造りに長けてるホンダだって、ロードゴーイングカーのミッドシップを作るのは初めてだったワケですし……。CR-XをMRに改造した試作車作ってみて、何か思う所があったんじゃないですかね……。
他にはフェラーリのディーノとか、ランボルギーニのミウラとかが横置き採用です。
ちなみに前後方向での搭載位置なら、MR2はNSXよりも、若干フロントよりにエンジンが搭載されています。どっかで透視図を見て下さいな。
あと、『MR2はエンジンの搭載位置が高いんだよ! 』という話。こればっかりは何とも言えんので、下のリンク先を見て、各自考えて下さい……
東京大学自動車部にて、MR2のエンジンを換装してる様子
ついでに言うと、京都大学の自動車部では、MR2の車体下部にタイヤを挟みこんで行って徐々に持ち上げ、エンジンを下ろしたとかいう猛者が居るそうな……。ネットで画像も観たことあるけど、アドレス忘れた……
最後におまけ。国産のミッドシップでこんなのがあります。
・車両重量:870kg
・前後重量配分:
46.7:53.3
・全長×全幅×全高(ホイールベース):3395mm×1475×1880mm(2420mm)
なんと! MR2より断然軽くて、断然ちっちゃくて、しかもホイールベースはMR2より長いのです!
その理想的なMR車とは……
アクティです
そう、軽トラです。
ちまたでは、『港のNSX』と呼ばれてるとか何とかいうアクティ。軽トラとバカにするなかれ。どこぞのラリーでは、アクティが優勝したという話があったりするのです!
つうわけで、重量配分の良いミッドシップに乗りたいのなら、アクティをどうぞ~(笑)