2011年05月25日
今帰った。今日は、どっと疲れた。まるで命を吸い取られたようだ。
でも、記憶を整理しておきたいので、急いでここに打ち込んでいきたい。
今日は長崎市に行った。仕事で会議に出席するための出張だ。
12時ちょうどにバスは長崎の「中央橋」に到着し、下車した部下と私はまず腹ごしらえをするために、賑わう通りを歩きだした。
県庁前の横断歩道を渡る。
案の定、昼休みに入ったばかりで、県庁の建物からはどっと人が流れ出てきた。
「まずい・・行きつけの食堂が満席になる」そう思いながら、横断歩道を足早に渡った。
横断歩道を渡りきり、県庁坂を下ろうとしたそのとき・・・
「ガタン」と大きなな音がした。
音がした方に振り向くと、住宅建材を積んだトラックが、先ほど私が渡った横断歩道をゆっくりと横切るところだった。
「この荷物が揺れた音か?」そう思いながら、トラックを見送ると・・
その通り過ぎた後ろに、人が倒れていた。
倒れた瞬間を見ていない。でも直観的に人が轢かれたのだと気付いた。
慌てて、車道に出て倒れている人に走り寄る。
二十~三十代の女性だ。外傷は見えないがピクリとも動かない。
部下に110番・119番通報をさせる。
走り去ったトラックは30メートルほど先で停止していた。
周囲に集まった人たちに、車の通行止めと安全確保を頼む。
倒れている女性に声をかける。しかし反応はない。
脈を診る。しっかりとした心拍が返ってくる。息もある。
手を握り、大声で「目を覚まして!聴こえる?」何度も繰り返した。
やがて「う・・・」かすかな反応が返ってきた。
「名前は?」「痛いところはどこ?」
「う・・・ん・・・」
わずかに頭が動く。
「動かないで!」そう言って、頭が動かないように首から後頭部に手を差し込み固定した。
「もうすぐ救急車が来るよ。頑張って!」
「う・・・ん・・・」
「わかる?聴こえる?もう救急車来たよ!」
少し目が開いた。でも焦点がまったく合わず、表情がまったくない。
警察官が近寄り名前を尋ねる。しかし反応がないので横に転がったバックの中身を調べ出した。
救急隊員が来た。
「呼吸・脈拍ともに正常レベル。でも頭部強打の恐れあり、後頭部に大きなコブがあって意識は混濁しています!」
「氏名・年齢は返答なし、警察が持ち物で調べてます!」
そう申し送った。
「もう大丈夫。よく頑張ったね。治療してもらおうね」
そういって握っていた手を離す。
救急隊の動きに合わせ、頭に敷いていた手を引っ込める。
私の手は血だらけだった。
あたたかい生命の温度を感じたが、すぐに血は冷えて固まった。
警察の事情聴取に応じる。
私が見たトラックが轢いたわけではなさそうだ。
どうやら別の車が轢いて逃げたことが疑われている。
白昼のオフィス街の横断歩道。
私と部下以外にもたくさんの人たちが渡っていたのにもかかわらず、誰もその瞬間を見ていない。
今でもまだ、女性の化粧の匂いと血の匂いが手に残ってとれない。
何度も洗ったのだから、本当は記憶の中だけの匂いかもしれない。
いかんともしがたい気持ちが整理できないでいる。
生命の温度と、それを支えたいと思ったエネルギー、それが手から消えないでいる。
「医者って、常にこんなプレッシャーと戦ってるのか」そんな思いがこみ上げている。
生命って熱いんだ。
それを車ではね飛ばして途絶の危機に晒しておきながら、逃げた奴がいる。
そう思うと、なんともしがたい怒りがこみ上げてくる。
生命の温度を感じた私の手は、ハンドルを握る責任の重さを絶対に忘れないと思う。
そして、すべてのドライバーにその責任を再認識してもらいたいと願う。
今日はとても疲れた。
Posted at 2011/05/25 00:01:25 | |
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