自動車評論家の、徳大寺有恒さんが亡くなりました。2000年代初めからは活動も縮小されており、あまり表舞台に出られる機会は減っておりました。残念でなりません。
氏の著書である「間違いだらけのクルマ選び(1976年初版)」との出会いは、1983年か1984年に、父の書棚にあったものを小学生だった私が持ち出したことでした。表紙に車のイラストはあるものの内容は文字が多く、読み応え充分でした。
本の内容は、後年年度発行になってからのものと比べて、「車選び指南」が中心となっており、各車徹底批評との二部構成となっています。各車徹底批評の方は後年のものと概ね同じ様式ですが、各社のキャラクターやドライブフィーリング、車両の成り立ちなどが簡潔にまとめられており、実写を目にしなくてもイメージが沸く内容になっていました。もちろん、徳大寺氏自身が感じたことであり、少々の思い込みも含まれております。
後年の巻頭は、その年に起こった車に関する出来事や世相のこととなりましたが、この頃は「車選びで注目して欲しい部分」を氏なりに述べた内容となっています。例えば、速くもないエンジンを積んだ車種にタコメーターが付いていることをして「不要なアクセサリー」と書いたり、「新発売になったばかりのクルマを買うと、とんでもないトラブルに会うので避けたほうが良い。」という、今でも通用しそうな?ことも書かれておりました。
私はこの本により、「電子制御燃料噴射エンジンこそこれからのシステム」、「サスペンション型式をもっと気にすべき」ということを知りました。それまでは「ミニカー」や「足漕ぎ車」しか関わったことがなかった私は、実車はスタイルや排気量の違いこそ理解していたものの、メカニズムについてはさっぱりでした。
これを機に、エンジンやサスペンションの概要にも関心を抱くことになりました。エンジンには出力だけではなく、「トルク」という数値があること、回転の上がり方には、数値に現れない「フィーリング」があること、サスペンションは「様々な型式」があり、路面の突起乗り越えやロールなどでアライメントが変化することなどを、学ぶきっかけになりました。
その結果、私自身を自動車趣味の道へと導き、以後の人生が決まりました。この本と出会ってなければ、小学生の時のラジコンブームでサスペンションに関心を持つこともなかったでしょうし、中学・高校の教室内で車の話をすることもなかったでしょうし、大学もわざわざ文系コースから理系学部を受験することもなかったでしょうし、大学で自動車部にも入らなかったことでしょう。
学校が変われば最初に就職した会社も違っていたでしょうし、当然今の会社にもいなかったことになります。今この生活をしていることはベストかどうかはわかりません。どうやらベストではなくベターではあると思うのですが、なんとか収入を得て生きていられます。
また、いわゆる「造詣(ウンチク)本」が広く一般的になったことも、この本の存在を抜きに語れません。当時は成人男子は「仕事、タバコ、酒」の時代で、趣味に時間を費やすことなど考えられない時代でした。結果、車選びもセールスマンのいいなりだったそうです。そんな時代にあって、自動車雑誌を読まない層にも自動車の楽しみを伝えたことは間違いありません。なんとこの本、新聞広告だけではなく、TVCMすらしたそうです。おそらく父がこの巻だけを持っていたのも、当時話題になったからではないか、と思うのです。(父は、自動車が趣味でも仕事でもありません。)
この後、タイトルが「間違いだらけの」で始まる本が流行になっただけではなく、ラーメンブームやラーメン本、ラーメン評論家の存在なども、この本がきっかけになっていると思えてなりません。人が自身の中に蓄えた、生活には役に立たない(?)ウンチクを書物にして商売にしたことでは、画期的だったと思います。
「間違いだらけのクルマ選び」は、1987年版(1986年末発売)以降毎年購入し、それらが古くなった今では「生きた近代史」の教科書として、大切に保管しております。あちらでも車を楽しまれていることを願ってやみません。
↓リンク先で、正続間違いだらけのクルマ選び電子版を読めます。
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Posted at
2014/11/09 01:59:53