行ってきました！　東京モーターサイクルショー 2013！　後篇

　「あの…な、…こ、コレ…」

俺は、その小さな立方体の箱をそっと開いた。すると、

“彼女”の瞳も徐々に広がって行く。

　「こ、これ、付けてくれるか…」

俺の鼓動は最高潮となった。その振動で、桜の花びらが散って来るのではないかとさえ感じた。

そっと“彼女”の顔を窺った。すると、その広がり切った瞳の中に、みるみる真珠の塊が溢れて来

ているのが分かった。信じられない事に、俺の手は震えていた。しかし“彼女”の手は、もっと震え

ていた。俺は意を決してもう一度言った。

　「こ、これ、付けてくれるか…」

震える両手を胸の前で重ね、懸命に目の前で展開する出来事に堪えていた“彼女”は、箱から俺

の顔へゆっくりと視線を上げると、コクッと頷いた。頷くと同時に大きな真珠が二粒、ぽろっと零れ

落ちた。その景色は、まるでスローモーションのように感じた。俺もこみ上げてくる熱いモノを必死

で耐えながら、より一層震える手で、小箱から、キラリと光るリングを取り出した。

　「多分…、サイズは…合うと思うけど…」

未だ胸の前で固まっている“彼女”の左手を、ゆっくりと引き剥がすように引っ張ると、ようやく“彼

女”の手がこちらに向き指を開き始める。俺は、フーッと息を吐き出し、懸命に震えを止めながら、

“彼女”の薬指に標準を合わせ、ゆっくりとリングを通して行った。ピッタリと薬指の根元に煌めくリ

ングが納まると、いきなり“彼女”は俺の胸に顔を押し付けてきた。そして今度は小刻みに震え始め

る。みるみる俺の胸が熱い涙で濡れていった。俺もいつしかサンタクロースのトナカイの様に鼻の

頭を真っ赤に染めていた…。


　先に平常心を取り戻したのは“彼女”の方だった。俺を押し出すように埋めていた胸から離れると、

アニメの中に居る少女の様にスカートの裾をつまみ、ランラン♪と鼻歌を奏でながら桜の木の下で

ダンスを始めた。目の前で心の底から楽しそうに踊る“彼女”は、その決めポーズの度に左手を高く

上げて、まるで太陽に透かして見る様に薬指のリングを掲げた。

　「今、この瞬間が、人生で一番幸せな時かもしれないな…」

春麗の桜の下、まるで童心に戻ったかのようにはしゃぐ女性の姿を、俺は眩しい想いで目に焼き

付けていた。

　「嬉しい…、すーっごくうれしい！　ありがとう、コン兄ぃ！」

　「高かったんだから、大切にしろよ！外側のダイヤも、内側のルビーも本物だからな！」

“彼女”は慌てて指輪を外し、ジッと指輪に見入った。

　「あ、なんか、文字が彫ってある…」

　「ちゃんとお前さんの名前と、俺の名前を彫り込んであるんだよ！　だから質屋に入れても、安く

買い叩かれるから、売っても無駄だぞ！」

俺は敢えて、照れ隠しと言うか、敢えて下世話な話にしたくなった。

　「んもう！　コン兄ィったら！　そんな事する訳ないでしょ」

　「うふふ！」

　「あはは！」

緊張して、銀座の某ジュエリーショップに入った事が、昨日の様に感じて来た。因みにその時も、

上下ジャージにサンダル姿で行ったが、無我夢中で注文した事しか記憶に残っていなかった…。


　一通り、暖かな春の風が二人の間を駆け抜けると、ようやく二人は真正面に立ち、今度はゆっく

りしっかりと抱き合った。今度は“彼女”が照れたようだった。

　「まゆ、お腹空いた～！」

懐かしいフレーズが俺の耳に心地良い。

　「OK！じゃ、海鮮モノでも喰いに行くか！」

　「うん！　行く行く！」

　「じゃ、お前さんの車で行くよ」

　「うん分かった。まゆのベンツは〇〇駐車場に停めてある！」

　「よし、じゃあ行くか！」


　俺と“彼女”は、この為に近くに停めていたフィットに乗り込み、ビッグサイトを後にした。


　“幸福”と言う記念をそこに刻んで…。


　　つづく



　※尚、この日の模様は、愛車紹介ハーレーファットボーイのフォトギャラリー内の→　“ココ”　と、

　　　NSR250Rのフォトギャラリー内の→　“ココ”　 にアップしておりますので、どうぞご覧下さい！