渋滞を避ける為、かなり遠回りにはなるが一旦南下し、
そこから改めて高速に乗る事にした。陽は高く上がり、お
昼時を少し過ぎた頃、次の春薫る場所へと近づいた。ココも埠頭の先端に有る公園だが、広さと
言い景色と言い整備された園内と言い、結構イイ公園と言える。しかも平日は殆ど人が居ない状
態だ。なのでマッタリと一人で過ごすにはもってこいの場所だ。とは言え、私がココを利用する事は
余り無い。何故ならココは泳げないからだ(爆) 海を目の前にして飛び込めないのはストレス以外
の何物でもない！ 特に今、行動を共にしている黒い物体に関しては言わずもがなだ。そんな事を
考えながら高速を降り、目的地への道を走っていると、この道路では御馴染みの“連続シケイン”
が次々と迫ってくる(苦笑) 色々意味があって造ったのであろうが、今は不便でしかない。または
逆に、バイク小僧達の格好の遊び場となってしまう可能性もある。と、文句を言っていると、終点の
駐車場が見えて来た。この駐車場は、釣り人用に備え付けられたようなものなので、3時間までは
250円と、リーズナブルな駐車料金だった。同じ「3時間駐車」でも、有楽町にある某パーキングで、
5,000円ボッタくる輩パーキングとは雲泥の差だ。と、数台しか停まっていないパーキング内にフィッ
トを停めて、早速園内の散策へと向かった。黒い物体は、青い空と青い海がコラボする空間に、一
気に解放された鮭の稚魚の様に走り回った。私はカメラと機材を抱え、ゆっくりとその後を追った。
黒い物体は、アッチでマーキング、コッチでマーキング。そして、あそこでウ〇コ、こちらでクシャミと、
忙しく立ち回っていた。私はイイ天気ではあるが、強風にさらされ続けた為、急激に体力を消耗して
いた。やはりというべきか、広い園内にも拘らず、人は2,3人程しか見当たらなかった。その一人に、
ベンチに腰を掛け、ラジオに耳を傾けている爺さんがいた。見るからにホームレスの風貌だが、靴
と手袋と帽子だけは立派なモノを身に着けていた(苦笑) 普通にその前を通りかかった時、その爺
さんが突然怒鳴り出した！
「何を言うかこの若造が！ 日本は、再度、富国強兵の道へ
進むべきなんじゃ！ この売国奴め！！」
強風で聞こえなかったラジオから声が漏れた。どうやら国会の予算委員会の答弁を中継していた
ようだった。それに対し、アツく語る爺さんだった。一瞬微笑ましく感じたその時、しかし同時に、同じ
く強風によって気が付かなかった、もう一つのモノが明らかになった。それは、ツーンと鼻腔の奥に
突き刺さるような刺激臭だった。この爺さんの体臭だった(苦爆)
「その基本理念には賛同するが、お前さんには付いて行かねーよ！」
私は心の中で宣言していた(爆) しかし黒い物体は結構気に入ったようで、しきりにその爺さんの
体臭を恍惚の表情で嗅いでいた(爆) どうやら犬には堪らない匂いなのであろう(苦笑) しかし結
局、この爺さんは何者だったんだろう…。
そうこうしていると、目の前に池が現れた。よく見ると、カモがいっぱい生息していた。急いでカメラ
を取り出し、シャッターを切り続けた。 パシャパシャパシャ…バシャン！ 通常のシャッター音と違う
音が振動と共にファインダーを覗く眼窟に響いた。何だろうとファインダーから眼を外すと…。黒い物
体が池に飛び込みカモを追っていた(爆) 一斉に飛び去るカモ達を、それでも渾身のパワーを振り
絞って、あっと言う間に池を渡り切り、その奥のススキ林の中へとカモを追いかけ突進していく黒い
物体。どうやら彼の本能を目覚めさせてしまったようだ。私はポケットから煙草を取り出し一服した。
願わくは、どうだ！とばかりに黒い物体が、その口に獲物を咥えて来ない事を祈るばかりだ。カモ達
には、その黒い物体の魔の手から、一刻も早く逃げ遂せて欲しいとも願った。煙草の灰が真ん中に
差し掛かる頃、残念無念の表情をした黒い物体がススキ林の間からその顔をのぞかせた。どうやら
狩りに失敗した様だった。フーッと最後の煙を肺の底から吐き出し、カモ達の健闘を讃えた。水と泥
でビショビショになった黒い物体は、近くに有る手頃な芝生の丘の中腹辺りで、ゴロンゴロンと転げ
まわっている。その様子を遠くの建物の影からじっと見つめる猫達の姿も確認された。人間の気が
付かない所で、様々な動物達の葛藤が交差している様だった。その中で唯我独尊が如き、傍若無
人の振舞いをしている黒い物体は、間違いなく現在、この地の王として君臨していたのであろう…。
既に根元まで達し消えていた煙草を灰皿に落とし、反対側にある広大な広場へと移動した。この
広大なエリアにも1名の先客がいた。広い芝生の中に有る木陰で優雅に佇むマダームであった。よ
く見ると、その周りにはワンコの姿も確認された。それぞれ黒と白の、フレンチブルドッグ2匹がいた。
特に気にせず園内を散策していると、自然とそのマダームの傍まで近づいた。しかし先方がこちら
の姿を確認した瞬間から、そのフレブルマダームの非難染みた表情に気が付かざるを得なかった。
確かに黒い大きなワンコとオッサンがノッシノッシと近づいて来たら、誰だって楽しくはないであろう。
しかも余り人付き合いが好きではないから、犬を飼い、そして平日の昼間、人が殆どいないと思わ
れる、この埠頭の突端に有る公園に来ているであろう事も、想像に難くない。
「まあ、春の息吹は堪能出来た事だし、後は飯喰って帰るべー」
と言う訳で、そそくさとこの地を後にする事にした…。
約1時間後、本日大盛り無料！の文言に思いっきり釣られ、チェーン展開している普通のラーメン
屋でチャーシューメンを啜っていた。まあ味は悪くはないので、しっかりと完食し、満足気に外に出
た。とその時、背筋に冷たいモノが駆け上って来た。
「イ、イカン！ 春っぽい食事をしようと海まで行ったのに、
近所の普通のラーメン屋で、飯喰ってしまったぁ！」
梅の花ビラが、開けっ放しのクルマの窓の中へサラサラと入って行く。中を覗くと、その花びらを
体中いっぱい付けたまま、待ちくたびれて春眠中のワンコの姿があった。
嗚呼、春だな…と思った。
おわり
今回は随筆調で書きましたので、オチは有りません。ご容赦の程！(笑)
※尚この日の模様は、愛車紹介フィットのフォトギャラリー内の
→ “
ココ” にアップしておりますので、どうぞご覧下さい！
渋滞を避ける為、かなり遠回りにはなるが一旦南下し、
