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2013年04月26日 イイね!

振り向く暗闇の中にソレは居た・・・ “僕” 編 ⑤

振り向く暗闇の中にソレは居た・・・ “僕” 編 ⑤ 晴れて我が家の飼い犬となったとはいえ、毎日の日課

に大きな変化はなかった。やはり朝、学校へ行くついでに

神社に繋いで置いて、学校が終わると神社でしばらく遊び、

そして家に帰るという行動に変りはなく、しばらくは平穏な

日々が続いていました…。


 犬は更に大きくなり、まるで“僕”と成長のスピードを競っているようでした。と同時に、何かうまく

言葉に出来ませんが、この犬が、何か不思議な生き物のように思えてくるようになりました。何か

オカシイのです。いえ、悪い気はしないのです。寧ろ“僕”にとっては心地良いと思う方だと断言出

来るのです…。


 “僕”と茜の仲も順調に行っておりましたが、コチラの方に限っては、母の表情は険しいままで変

わりは有りませんでした。

 「マサルさん、何度も言いますが、交友関係を改める努力をなさい!」

旧家のプライドがこの時ばかりは、ムクムクと膨れ上がるばかりです。茜の家は、決して貧しくはな

いのですが、そこの主筋に当たる旧家と、ウチが犬猿の仲という事が、その態度を決定付けている

のです。確かに、両家の険悪な関係は、小さい頃から肌で感じていました。“僕”が実際に体験した

だけでも、3回程、両家で大きな争いがありました。それはお互いの田んぼや畑を荒しあったりとか

鶏等の家畜を殺し合ったりとか、はたまた、お互いの庭先に糞尿をまき散らし合ったりとか、おおよ

そ幼稚なイザコザが単発的に起こっていました。元々の理由は分からないのですが、たしか母に腕

を切り落とされた者も、かの家の下男だったと思います。たまに見かける片輪のオジサンが多分そ

うだと、そのおじさんの“僕”を見る目つきで、子供ながらなんとなくわかりました。ただ、こんな寒村

でも、仲違いは他にもあり、ウチと、かの家の抗争だけが激しかった訳ではありません。この時代

は、未だ因習が色濃く残る時代であり、それは江戸時代から続く身分制度の残滓であったり、文明

開化による新参者の台頭であったり、或いは男女間の縺れであったりと、複雑に絡み合う様相をみ

せ、一言では表せない、村内に微妙な空気となって漂っていました…。


 そんな中でも、“僕”の人生は順風満帆だったと言えるでしょう。国民学校を卒業し、無事中学校

へ進学すると、今度は一気に勉学に励むようになりました。そんな生活だから、茜との仲も段々と

疎遠になって行くのはやむを得ない事だと思います。当時の村で女学校へ進学する女子は殆どお

らず、茜もその例に漏れず家の仕事を手伝っていて、いずれは何処かに嫁に出される身分であっ

たから…。


 或る日、いつもの様に学校から帰って神社へ犬の散歩に行くと、茜が本殿の手すりに腰かけ、俯

き加減に表情も暗く、浮いた足をブランブランしていた。“僕”が其方へ行こうとするより先に、犬の

方が我先にと茜の元へと走って行った。

 「あ、〇〇! 元気だった? うふふ!あはは!」

犬が茜の顔を舐めまわし、先程までの沈んだ表情とは打って変わって、嬌声を上げる。少し遅れ

て“僕”が近寄ると、また茜の表情が曇った。

 「…マサル君…」

 「どうした?」

 「マサル君!」

茜の眼に、みるみる涙が溢れて来た。そして、ムンズと“僕”の腕を取り、社務所の中へと連れて

行かれた。茜が後ろ手に戸を閉めると、いつになく真剣な眼差しで迫って来た。

 「マサル君!私の事好き?」

突然の告白に唖然としていると、今まで見た事が無い茜の表情がさらに激しさを増した。

 「マサル君!私の事好き?」

尚も畳み掛けてくる勢いに押され、思わず

 「う、うん」

と口を突いてしまった。茜は更に切羽詰った表情となった。

 「じゃあ、じゃあ、マサル君、今すぐ私をさらって何処かに行って!」

 「…。」

流石にそれは勢いで返事する訳にもいかず、押し黙ってしまった。

 「ワァーーー!!」

“僕”の態度を見た茜が、一気に泣き崩れた。

 「ど、どうした? 何があった?」

 「わたし、私……」

尚も嗚咽が止まらず泣きじゃくる茜を、ただジッと待っていた。

 「あ…の…ね、私、…お嫁に行かなければならないの…」

“僕”は、茜を見つめた。ただしその中に驚きの感情は無かった。この時代、女は15歳を過ぎると、

いつお嫁に行っても良い状態で待機している様な“モノ”であったから。実際茜以外の同歳のオナ

ゴの殆どが、既に嫁いでいた。とは言え、“僕”にとって母以外の一番身近な女性がいなくなるとい

う事が、まだよく理解出来なかった。

 「やっぱり…、やっぱりそうよね…。マサル君は、別の大きな家からお嫁さん貰うよね…」

“僕”は尚も何も言えずただ茫然と茜を見ていた。すると茜の感情がまた沸々と高まって来るのが

感じられた。まるで肉食獣に変化している様だった。それに対し、情けないかな、“僕”は逆に草食

動物が如く、かしこまっていた。

 「マサル君!」

茜がいきなり飛びついて来た。“僕”はその勢いにもんどりうって、思いっきり壁に頭をぶつけた。

 「イテテテ…」

ボンヤリしていた焦点が定まって来ると、まるでタックルするように“僕”の上にのって抱き付いて

いた茜の姿が見えた。

 「茜を、茜を何処かに連れてって!」

そう言うと、茜はより一層の力を込めて“僕”に抱き付いた。“僕”はこの時2つの事で混乱していた。

勿論その一つは、茜と別れてしまうという事。でも、もう一つの混乱は…。“僕”の胸の中で必死に

しがみついている茜だったが、そのボクの胸に何か、その…、何とも…言えない、“感触”があった。

それが茜の乳房だったという事に気が付くのに、多少の時間がいったが、気が付いてからは“僕”

の胸の鼓動は急加速した。色んな感情が体中を巡り、顔の熱さも急に上昇した様だった。茜の胸

は、とても大きく、そして思いの外…、柔らかかった。そして、僕自身の一部にも異変が起こった…。


  つづく
Posted at 2013/04/26 03:00:58 | コメント(1) | トラックバック(0) | 私小説 | その他

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