フィギュアスケート女子SP
ソチ五輪公式リザルトより
真央16位 痛かった「3回転ループ」のミス
澤田亜紀のフィギュア女子SP解説
(スポーツナビ)2014/2/20
ソチ五輪のフィギュアスケート女子ショートプログラム(SP)が現地時間19日(日本時間20日)に行われ、前回バンクーバー五輪銀メダルの浅田真央(中京大)は自己ベストを20点以上下回る55.51点で16位発進となった。日本勢は鈴木明子(邦和スポーツランド)で60.97点の8位、村上佳菜子(中京大)は55.60点で15位だった。
首位は前回優勝のキム・ヨナ(韓国)で74.92点、2位には地元ロシアの17歳、アデリナ・ソトニコワが74.64点で入った。3位はイタリアのカロリーナ・コストナーで74.12点。団体戦で注目を浴びた15歳のユリア・リプニツカヤ(ロシア)は65.23点で5位だった。
浅田は最初のトリプルアクセルで両足着氷となり転倒、2つ目のジャンプの3回転フリップは回転不足のジャッジ。また得点が1.1倍になる後半の3回転ループ−2回転ループは最初のジャンプが2回転となり、連続ジャンプにできず。ジャンプのミスが得点に響き、思わぬ順位となった。
浅田のジャンプミスの理由、そのなかでも光った表現力とは。そして上位につけた選手から見る、金メダル候補は!? 元選手の澤田亜紀さんに話しを聞いた。
真央、得意の「ループ」でまさかのミス
日本の3選手は1つずつジャンプがパンク(空中でジャンプ姿勢が開いてしまうこと)してしまいました。残念ですが失うものがないので、FSでは力を出してほしいですね。
浅田選手の(転倒した)トリプルアクセルですが、ジャンプの浮き上がりは良かったと思います。ただ体を開く(ジャンプ体勢から元に戻す)のが遅くなってしまったのかもしれません。降りたときに腰が曲がっているというか、引けた姿勢になっていたので、そのまま耐えられずに転倒してしまったのかなと思います。
3回転フリップにも回転不足がつきましたが、確かに跳んだときに「もしかしたら……」とは思いました。明らかな回転不足という感じではありませんでしたが、今は技術審判の方がスロー映像を見て判定するので、それで見た場合、回転不足ということになったんだと思います。あえて言うなら、いつもよりもジャンプの“浮き”が足りなかったような気はしましたが、その辺は際どいところですね。
最後のミス、3回転ループ−2回転ループの連続ジャンプ予定が2回転ループの単発ジャンプになった部分は、本当に珍しいミスでびっくりしました。1本目の最初は上手く回っていましたが、空中で回転するなかでズレが出てしまった。ジャンプの入りは全然良かったのですが、空中で(腕で体を締めて)細い軸をつくろうとして、それでかえって力んでねじれてしまった感じでした。ジャンプはすべて(左回転の場合)右足が軸になるので、右足で跳び上がり、そのまま右足を軸にして回転します。でも締め過ぎたからか左に開いてしまっていた印象です。(2本目を跳べなかったが)ああなると次にループジャンプを付けるのは難しいです。
1本目の3回転が2回転になった後、2本目に3回転を跳んで連続ジャンプにできればよかったのですが、本当に普段はしないミスなので、少し混乱して、何をしていいのか分からなくなったのではないでしょうか。浅田選手はループジャンプが得意な印象があります。トリプルアクセルはミスを想定して練習をしていると思いますが、ループでまさかミスするのは思っていなかったと思います。でもあぜんとしたなかでも、次のステップで「レベル3」(※注:最高評価はレベル4)の滑りをして加点ももらっているので、「ヤバい」と思いつつも、表現力でカバーできるのはさすがです。いつもに比べれば、演技に入り込めていない感じはありましたが、ステップは体が覚えこんでいるくらい練習をしていると思いますから。
ジャンプミスは残念でしたが、表現はすごく出ていて良かったです。もちろんジャンプが得点源なので(失敗してしまった分)、全体の得点が伸びませんでしたが、演技構成点(芸術性などを評価)だけだと全体の4位でした。ミスがあると点数に響きがちですが、ミスがあったなかでもきちんと評価してもらえたと思います。
(トリプルアクセルで)転倒はしましたが、ステップや技のつなぎもいつもと同じようにできていました。ミスをするとそのことがショックで、やってしまったことが気になって、その後の演技の表現がおろそかになってしまうことがあるのですが、そこは切り替えて、取れるところで取り返そうとしている感じがしました。
FSへは、あとは上を見るだけです。集大成の五輪として、結果はともかく、自分も満足できて、周りからもあの演技は良かったねと言ってもらえるような、記憶に残るような演技をしてほしいですね。
着実に持っているものを出したキム・ヨナ
6分間練習の時は険しい顔をしていたので、どうなるかと思いましたが、大舞台でも今持っているものを淡々と出したなと思います。レイバックスピンが「レベル3」の評価で、最高評価より1段下でしたが、最初からそれを狙っていたのではないかと思います。最高難度のレベル4を取るためには、今行っているレイバックスピンに加えて、インクリーズ(Increase)と言って回転速度を徐々に上げることや、ビールマン姿勢が必要なのですが、それがなかったので。
キム・ヨナ選手は腰を痛めていたと思います。レイバックのように上体を反った姿勢で高速回転のスピンをするのは、かなり腰に負担がかかります。レベルを1つ下げてでもそれは避けて、確実に出来栄え点を取ろうという作戦だったのではないでしょうか。実際に、レイバックスピンはレベル3ですが、審判からの評価もマイナスはもらわず、加点がもらえています。
3回転ルッツ−3回転トゥループは、相変わらずジャンプ幅のある、いい3回転−3回転でした。SP2位につけたソトニコワ選手は高さのある3−3、キム・ヨナ選手は幅のある3−3で対照的ですね。タイプの違う3−3ですが、どちらも評価はされると思います。
幅のある連続ジャンプを跳べるのは、スピードを上手く利用できていて、跳び方が上手いということ。キム・ヨナ選手の3回転ジャンプの1本目はルッツなので、右足をつきます。それでもその足でガリガリと氷に引っ掛けずに跳び上がり、跳んだ後もきちんと足を乗せられています(両足を跳びやすい形にできる)。目立った“穴”はないかもしれません。メンタルが強いんだなとも思います。
会場で見ていないので分かりませんが、演技構成点はもう少し出ても良かったかなと思いました。技術点は、迫力がある技や、何かの点がドーンと目立つわけではありませんが、全体的にきれいで、これくらいの点数だと思います。
鈴木明子、気合いが裏目に…?
鈴木選手は最初の3回転−3回転のトゥループに気合いを入れ過ぎた感じがありました。その状態から次の3回転ルッツ−2回転トゥループも心ここにあらずで跳んでしまった。次のスピンを回っている間に切り替えられて、途中からは表現に割り切って演技していたのではないでしょうか。
明らかなミスでのこの順位でショックだったと思います。FSでは切り替えて、記憶に残る演技をして、頑張ってもらえればと思います。
村上佳菜子、スピンで「レベル1」の理由
村上選手は、3回転−3回転が最初に決まって良かったです。ただフリップは1回転になってしまいました。あまり見ない失敗でしたが、右足のつま先を少し強くついてしまったのかもしれません。それに、五輪に来るまでの練習で、最初の連続ジャンプに懸けていたと思うので、それが決まって安心して、少しフリップへの注意が足りなくなってしまったかもしれません。
それからスピンは足替えのコンビネーションスピンが「レベル1」と低い評価になっています。コンビネーションスピンは、「キャメルスピン」「シットスピン」「アップライトスピン」の3つがそろわないといけないのですが、そのどれかが足りなかったのかもしれません。
コンビネーションスピンは先に挙げた3つの各スピンを2周以上回らないといけないのですが、本人の感覚と、見た目の感覚が違うことはよくあります。例えば「キャメルスピン」では、お尻よりも高い位置に脚が上がっていないといけないのですが、本人は回転数のスタート地点だと思った位置が、審判にはそう見なされていなくて、回転数が足りなくなってしまったり。それもあって、スピンはプログラムの中で少し長めに時間を取っていることが多いのですが、今回は元々スピンの時間を短めにとっていたのかもしれないです。プログラムはミスなくできれば、曲から演技が遅れたりしませんが、少しミスがあれば少しずつずれてしまいます。それをもし気にしていて「スピンを早く終わらせないと」と焦る気持ちがあったとしたら、その気持ちは分からないでもないです。
2位ソトニコワは勢い リプニツカヤはまさかの転倒
ソトニコワ選手は、今日はすごく良かったです。高さがある3回転−3回転のトゥループを跳んでいました。演目の「カルメン」は妖艶なイメージだと思うのですが、ソトニコワ選手のは17歳の若さがあふれるエネルギッシュなカルメンでした。スピードにも最後まで乗っていましたし、ステップは勢いがありましたね。今季、今までのSPではポロポロとミスをしていたかと思うのですが、声援に後押しをされているようでした。得点もキム・ヨナが74.92点で、ソトニコワ選手が74.64点と、わずか0.28点差。技術点はソトニコワ選手の方が、0.06点上回っています。キム・ヨナ選手の方が基礎点が高いルッツを跳んでいるのにソトニコワ選手の方がわずかながら高い点を出したということは、FSでもソトニコワ選手がこのままの調子でいけば結果は分からないと思います。FSではキム・ヨナ選手も得点の高いルッツを2本入れると思うので、ベースの基礎点から言えばキム・ヨナ選手の方が優位ですが、勢いもありますし分かりません。
リプニツカヤ選手は最初の3回転ルッツ−3回転トゥループが良くて、このままいくかなと思っていたら、3回転フリップで力が入り過ぎてしまいましたね。跳ぶ位置もいつもよりリンクの壁に近かったかなと思います。壁が近く跳び急いだために転倒してしまったのではないでしょうか。キス&クライではとても暗い表情でした。金メダルを期待されていてこの結果はショックだったと思いますが、持っているものを出せば分かりません。FSは焦らずに演技してほしいですね。
3位コストナー、演技構成点では満点も
世界ランキング1位のコストナー選手が3位に入りました。日本やロシアの選手に注目が集まる中、たんたんと安定した演技をしたと思います。今まで五輪と相性が悪かった(06年トリノ五輪9位、10年バンクーバー五輪16位)のですが、持っている力をすべて出したなと思いました。
小柄なリプニツカヤ選手の後で演技したこともあって、体の大きなコストナー選手の演技は映えました。体が大きいとすべての動きが大きく見えるので。
演技構成点では10点満点が2つ付いています。大きなミスがなく彼女らしさを出した演技をしていて、1位のキム・ヨナ選手、2位のソトニコワ選手に何かミスがあった場合は、もしかしたら優勝するかもしれませんね。
日本の3選手はFSでは持っている力を出してもらって、悔いない演技をしてほしいです。チャレンジするものはして、力を出し切って。男子FSはミスが多い結果になったので、女子はできるならノーミスで、全員がすっきりした気持ちで終われる試合になるといいですね。
<了>
澤田亜紀/Aki Sawada
1988年10月7日、大阪府大阪市生まれ。5歳でスケートを始め、ジュニアGP大会では優勝1回を含め、6度表彰台に立った。シニアでは2004年全日本選手権で、安藤美姫、浅田真央、村主章枝に次ぐ4位に入り、07年四大陸選手権でも4位の成績を残した。5つの3回転ジャンプを跳ぶなど力強いジャンプが持ち味。トレードマークとも言える、氷上での明るい笑顔も人気を呼んだ。11年に現役の第一線を退き、現在は関大を拠点にコーチとして活動している。
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まおちゃん 。・゚・(ノ∀`)・゚・。