
在京キー局・フジテレビ系列のニュースネットワーク「FNN」が運営するサイト「FNN PRIME」から
『韓国が日本に“初反撃” 全石炭灰に放射線検査義務』に注目。
このところ激化の一途を辿る日韓の摩擦が、昨日発表された韓国側の”反撃”により、いよいよ貿易面で影響が顕在化してきた。
しかし、この対抗策が非科学的で稚拙、かつ韓国内への影響の方が大きいことを指摘しておきたい。
そもそも「石炭灰」とは何か、何故韓国へ輸出されているのかを理解する必要がある。
電力会社の火力発電所、および大規模工場のボイラー設備などで熱源として多用される石炭は、重量比で燃焼前の10~12%程度(=灰分率)が燃え残り、回収される。
主に燃料として用いられる一般炭の輸入・生産の統計(約1億2千万トン。うち国内炭シェアは1%未満)から推測して、毎年1,300万トン以上の石炭灰が排出されるが、廃棄物として埋立処理される量は僅か5%程度で、殆どがリサイクル活用されている。
もっとも多く使われているのが、リサイクル量の70%を占めるセメント分野で、普通セメントの原料として石灰石に次いでヴォリュームのある粘土の代替材になる(但し原料総量の5%未満)ほか、コンクリートの性質を改善・向上させる目的で微細な石炭灰(=フライアッシュ。石炭の燃焼ガスを浄化する電気集塵機から回収される)が、混和材料として5%以上~30%まで用いられる。
セメントの材料として敢えて石炭灰を用いるのは、リサイクル活用の向上=廃棄物削減だけでなく、天然資源の一つである粘土の節約・石灰石の比率が下がることで水和熱(コンクリートが固化する過程の化学反応に伴う発熱)が低減され温度変化や収縮に伴うひび割れを抑制・化学反応が長期継続し含有するガラス質が作用して緻密な構造物となることで強度が増進(但し短期的には強度発現が遅く、早期に型枠を外せない)・フライアッシュの粒子が球形でベアリング効果を発揮し少ない水量で流動性および充填性(=ワーカビリティ)を高められるといった利点からである。
鉱物資源である石炭には、天然由来の放射性物質(ウラン・カリウム・トリウム)の他、ベンゼン・セレン・砒素・水銀などの有害・有毒物質が含まれる。
都政の混乱もあって大幅に開場が遅れた、豊洲市場の土壌汚染問題をご記憶だろう。元々輸入石炭を荷揚げし露天で保管する港湾施設だった石炭埠頭の跡地ゆえ、石炭由来の物質が溶け込んだ雨水が地中に浸み込んだことが原因である。
よって石炭灰には放射性物質および有害・有毒物質が必ず含まれており、なおかつ燃焼前の石炭よりも、体積が減ったことで濃縮されている(それでも国際的な規制値は下回る)。
同じ放射性物質でも、原発事故で拡散したものと推定される放射性セシウムを含有していたのであれば、韓国側の対応も一定の理があるが、そのような例は今のところ無い。
あったとしても日本側で出荷前に検出し、指定廃棄物として適切な処理が為されるだろう。
また国民の健康を護るため、放射性物質を包括的に検査するのであれば、前述した通り天然由来の放射性物質を含有する石炭を始め、あらゆる鉱物資源および関連産品を検査しなければならない。
韓国内の石炭火力発電所や大型ボイラーからも石炭灰が大量に排出される一方で、日本産の石炭灰のみをターゲットに据えて検査を強化する科学的妥当性は無く、かつ国民の健康保護には何ら役に立たないことは明白である。
では韓国内にも石炭灰があるのに、日本から輸出されているのは何故か。
これには、少々複雑な経済的事情がある。
日本国内で埋立処分するには、好適地の不足や近隣対策の困難さから高額なコストがかかる。そこで日本側が運搬費を負担し、ほぼ原価に近い水準で韓国側へ売却している。なお運搬費負担は、埋立処分コストよりも大幅に安い。
韓国内で発生する石炭灰は、(適切な対策をしているかはさておき)処分の費用が極めて低廉であることに加え、国内と言えども発生場所からセメント製造プラントまでの運搬費用が必要なことから、日本産石炭灰の方が価格競争力が高い。
日本側はリサイクルの促進と埋立処分のコスト削減を両立でき、韓国側は高品質の石炭灰(ほぼ全量がフライアッシュで年間160万トン程度)を安価に調達できる、win-winな関係を築いていた。
この佳き循環を、韓国政府が一方的に破壊しようとしている。
フライアッシュを混和したコンクリートが多用される、ダムや港湾施設(コンクリートのヴォリュームが膨大=水和熱の発生が極めて激しい一方で、短期に供用開始するインフラではない巨大コンクリート構造物)の工事が減少傾向にある中、輸出できずに国内へ還流する分の活用先を探すのは容易でない。
だが物性に関する研究や、施工技術の面で工夫や検討を重ねることで、輸出に頼らない活用策も見出せよう。
対する韓国側は、日本製フライアッシュの調達が滞れば、フライアッシュを混和したセメントおよびコンクリートを、現状の価格で出荷するどころか、安定的な石炭灰の国内調達体制を早急に整えない限り、供給すること自体が困難になる。
コンクリートそのものはフライアッシュ抜きでも練ることは可能だが、結果として水和熱と乾燥収縮の影響でひび割れだらけ、ワーカビリティが低く型枠の隅々まで充填されず、それを補うため加水するなどして空隙が多く耐久性の低い(フライアッシュコンクリートは緻密であるがゆえ、化学薬品の侵食や物理的な摩耗に強い)構造物が、粗製乱造される可能性も否定できない。
短期的にセメント会社の利益が減殺されるだけでなく、長期的にかの国のインフラへ、悪影響を及ぼすリスクが懸念される。
数年のスパンで表面的な経済的損失を比較すれば、日韓双方で痛み分けになろうが、インフラ整備に直接影響しない我が国に対し、首都中心を横切る漢江に架かる鉄橋(聖水大橋)が崩落したり、デパート(三豊百貨店)が突如倒壊した苦い経験を持つ、あちらの国はどうなるか。
慎重に検討した上での用意周到な”反撃”なのか、韓国側当局者や、建設技術者にお尋ねしてみたいものだ。