
4年前にイザベラ・バードの日本奥地紀行(明治中頃に東北日本海側と北海道の旅)を読んでから、アジアのシリーズ物の朝鮮紀行は「読むリスト」に入ってましたが、ようやくと。
イザベラ・バードは名前から分かる通り女性でそれこそ世界各地を訪ねていて、朝鮮紀行では62歳(西暦1994年)から65歳まで、二回に渡って当時としては老年と言える年代で過酷な旅を続けています。
ルートは朝鮮中部から北部、それと満州からロシア沿海州までと広範囲。文中で、ソウルは朝鮮の縮図と言ってます。
文中、どこにも批判的な表現はなくて、まさしく中立的な立場で朝鮮の風土、生活、政治組織に的確な分析を行なっているのが特徴です。基本的に景色と人を愛するわけですが、日本奥地紀行と異なり、当時の朝鮮を取り巻く国際情勢故に、政治や経済に関する記述が多いのは大きな違いです。
なぜ日本が明治維新以降急速に西洋化ができて、朝鮮は制度も含めt近代化できなかったかを考えてみるに、一番の要因は中国(当時は清国)との冊封体制に安住して鎖国(日本とは交易)故に、西洋事情に疎かったことにより、日本だと薩長に代表される改革派の厚みがなかったためだろうと思います。また同様に、教育システムがほぼ存在しなかったために、改革の中核をなす中間層も形成できていなかったためだろうと。
日本は薩長や土佐藩、鍋島藩、いずれも西国は幕府中央からの距離が遠い地の利を生かして、鎖国政策にもかかわらず、交易や情報交流が盛んだったために、危機感ある層で維新のドライブが可能だったろうと。尊王攘夷が開国に向かう変わり身の早さも、現実を理解したが故の変化なわけで。
歴史は過去を振り返るのが目的ではなく、今と将来に生かすことが目的だろうから、いろんな示唆があります。
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<以下、本文中からキーワードと思える部分のメモ>
○ 国政と官僚組織
国王は心優しく温和であるが故に、人の言いなり、つまり気骨と目的意識に欠けていた
それ故に、国王の親族が政治に干渉
官職は金で売買が当たり前
一族で出世した人間がいれば、一族の他の居候の扶養義務(官位斡旋含め)
役所の官僚は無礼、横柄そのもの
朝鮮の官僚は大衆の生き血を吸う吸血鬼である。政府官僚の大半はソウルで生活を送り、地元の仕事は部下に任せている
官僚組織は腐敗の極み、例えば中央に100ドル集めるときに末端からは250ドル徴収して中抜きされる
朝鮮には階級が二つしかない、盗む側と盗まれる側
朝鮮全土が官僚主義に染まっている、腐敗の海である
国民のエネルギーは眠ったまま
なぜなら、儲かったという噂で、両班(貴族)から毟り取られるから、必要最低限しか働かない
貴族からは、借金(決して返金されない)の名目で、有り金を搾り取られる、出さなければ監禁されて金を出すまで鞭打たれるか、無実の罪で投獄
物を買っても金は払わないから実質盗人と同じ
国王はロシア公使館で1年間潜幸して戻ってきたときにも、日本の進歩と正義を目指す行き方は反対の策を取り始めた
○ 教育と女性の地位
朝鮮では愛国者、思想家、高潔の志を排出できていないのは教育制度の問題
勉強は科挙(漢籍)のためだけにあり、思考力が問われることがない
朝鮮では女性は存在そのものが気にかけられない、キーセン以外教育は受けさせない
女性は蟄居(家の奥に隠される)が通常の形で、人前に姿は表さない
粗野で礼儀知らず、日本の同じ階層の女性のしとやかさや節度、親切心からは程遠い
○ 日本人への思い
日本は3世紀前の遺産(秀吉侵攻)から嫌われているが、きちんと対価を払い、危害を与えず、庁内から滅多に出てこないから、クレームの言いようがない
日本人は小人だが、朝鮮人はたくましい
○ 中国との関係
清との従属関係を絶って独立国家になれと言ったのは日本から、従って朝鮮を独立国家としたのは日本
宗主国(清)の制度を真似て、儒教と鎖国(日本とは限定的に交易)を行った
○ 閔妃暗殺は日本の評価を地に落とした
三浦子爵ほかによる暗殺のこと
当時、日本は列強各国代表から非難は受けていなかったが、日本は冷却期間を置くため、静かに撤退
○ 日本の行動と評価
朝鮮人を通して朝鮮の国政を改革することに徹頭徹尾誠実であり、実の多くの改革が制定されたり検討された、また国王はその絶対権力を奪われていた
臨機応変の才ににかける行動、例えば王宮を包囲して国王の身柄拘束は君主の尊厳を損ねた
商売において、イギリスが日本の後塵を拝しているのは、カスタマフォーカスじゃないから
イギリス商人は、自分で現地を見ないで、人の話を頼りにしている
清国兵は物を盗む、乱暴狼藉
日本は徳川時代以降300年にわたる商業支配権を強化し、自由に行き来するために特権を得て、他の諸外国の支配は許さないというのが明治維新以降の意図だろう
ライバル(清)を打倒したが、朝鮮を隷属させる意図はさらさらなく、保護者あるいは保証人としての役割を果たそうとしていると信じる
○ 朝鮮人への評価
民族として怠惰ではなく、真摯な行政と収入の保護がないから
朝鮮は流言飛語の国である、知っていることより、今耳にしたことを人に話すが嘘と誇張で脚色する
見たことのない西洋人の女故、自分は好奇心の的、日本奥地紀行でも同じだったけど
朝鮮の富んだ土壌であれば、今の倍の人口を養える、法が不正の道具でなく、民衆の保護に向けば
事例としてロシア保護下の沿海州朝鮮人の豊かな農家を見れば分かる
○ 宗教:シャーマニズム
朝鮮に宗教はない、仏教は迫害されソウルの城門内に僧侶が入ると死刑
従って都市に寺院や聖職者はいない、家々に神棚もなく、偶像や神輿もない
仏教は辺境部で信仰される迷信を伴った宗教
宗教の代わりに人々の行動を規定するのがシャーマニズム、人生のあらゆるイベントと病気は全て鬼神の仕業(日本だと東北、下北半島のイタコと言った感じ)
このような土壌故、宣教師によるキリスト教布教はそれなりに効果を上げている
○ まとめ
朝鮮人が自立するためには、
① 朝鮮には内部から自らを改革する能力がないので、「外部」から改革されなければならない
② 国王の権限は厳重かつ恒常的な憲法上の抑制を受けなければならない
数ヶ月の不在でソウルの街並みが清潔さを取り戻したのも税関庁の発案をソウル市長が実行に移したから
日本から独立というプレゼントを受けたが、使い方がわからない状態
両班(貴族)が搾取と暴政を欲しいままにしてきたが、庶民にも権利があることを一般大衆に理解させようとしている
イギリスはじめヨーロッパ諸国は無関心、中国から見れば取るに足らない存在ということか
今は、最も忍耐強い国(ロシアのこと)と最も野心的な国(日本のこと)のなすがまま
もしロシアが朝鮮に対して積極的な意思を示せば、日本はそれにブレーキをかける力は充分備わっている