
S-MXというクルマを知っていますか?
HONDAが1996年11月に発売した国産バナゴン。
発売した1996年は日本テレビ系列の「進め!!電波少年」という番組で、ヒッチハイクで世界一周するという猿岩石がブームになった年。
記憶にある人にとってはあの年だったのかと理解して頂けるだろう。
まだ世の中は悲観的でもなく、パソコンブーム、インターネットブームもあって今のような長い不況の時代が来るなんて想像もしていなかった。
S-MXは東京モーターショーにショーモデルとして参考出品されてから、あちこちで噂が噂を呼び発売から人気を博すことになる。
しかし、その時代のファッションやブームに乗ったS-MXはマイナーチェンジのみの一代限りで消滅する。
S-MXを研究して売り出されたTOYOTAのBbが売り出され人気を二分したとも言われるが、S-MXは2000年という短い時代にピッタリと合ったクルマであり、HONDAもS-MXを開発し発売した時にそれをわかっていた節がある。
S-MXはチャレンジでもあり、HONDA得意の遊び心が詰まった若者へのプレゼントでもあった。
発売から18年。
環境問題やガソリン価格の高騰で廃車率が進み、あれほど中古市場に出回っていたS-MXは激減している。
S-MXというクルマは大衆車でありながら未だに人を惹きつける魅力を持っている。
言葉では表現するのは難しいのだが、とにかく乗っても眺めても楽しいクルマなのだ。
そんなS-MXのことを少しだけ紹介してみよう。
■スタイル■
S-MXの良さはローダウンの格好良さに尽きる。
当時としてはメーカードレスアップとしては最高のデザインを誇るS-MX。
現在の中古市場でもローダンの人気は未だに高い。
サイズは全長4mを切る3,950mmという短さ。
コンパクト車のFITが3,900mm、フリードが4,215mmと比較すれば理解できるはず。
シャシを流用したCIVICさえ4,180mmなのだ。
ステップワゴンと同じ車幅1,695mmから考えるとスゴイ事なのだ。
ステップワゴンが3列シートで8人乗車を考えれば、2列シートで4人乗りのS-MXが短くなるのは納得。
フロントオーバーハングを767mm(ステップワゴンと同じ)、リアオーバーハングを683mmに極力切り詰めている。
そしてローダウンでも1,735mmもある全高のおかげで、まるでチョロQのような愉快なスタイルに仕上がっている。
と言っても格好悪いものではなくその逆。フロントからのチョイ悪風のマスクがずんぐりむっくりのスタイルを引き締めて全体に妙にマッチしているのだ。
Bbがモデルチェンジで全く変わったスタイルになったが、S-MXの持つステータスを引き継げるスタイル、デザインは難しいのだろう。
S-MXは一代で終わったものの、それだからこそこのスタイルが生きている。
■ベンチシート■
ベンチシートと言えば商用車が定番。
一部のクルマを除くとほとんど設定はない。まぁ、ベンチシートを求める人も少ないだろうし、それほど売れるとも思ってはいない。
けれど、ベンチシートの便利さを体感した人にとっては、これほど素晴らしいアイテムはないだろう。
S-MXの販売コンセプトは恋愛仕様だった。
これは新しい形のデートカーとして若者向けにアピールしたもの。
カタログにも、「常識にとらわれない発想が生んだ、新しい「寄り添う」楽しさ。ふたりの距離を縮める、ソファー感覚のベンチシート。恋路は常に平行移動するものである。」などと書かれている。
つまり設計、デザインの時点からS-MXと言うクルマはベンチシートに決まっていたわけだ。感覚に敏感なユーザーを虜にしたS-MXではあったが、その露骨過ぎるアピールに手を出せなかった人も多いはず。軟派クルマの筆頭と謳われた故の悲劇であった。
そんなことを抜きにしても左右どちら側でも乗降できる利便性。
広々としたシート。これはまさにトランスポーターとしては最高のクルマだと思う。足下を含め助手席に置ける荷物の量、室内で食事する時、もちろん助手席に異性を乗せた時の空間など、ベンチシートで良かったと感じることはとても多い。
クルマを利用するライフスタイル、私の場合は車椅子を搭載して移動が多いので、これほど便利なステーションワゴンはないと思っている。
反面、ベンチシートはホールド性の悪さがある。
いわゆるコーナー時に体をホールドできないので、不安定な姿勢になってしまうのだ。これが滑りやすいシート生地と合わさり、慣れるまでは結構怖い思いをするのだ。LOWDOWNだと低速からの加速が素晴らしいので、峠道では体が左右に振られ走りの楽しさは逆にスポイルされてしまう。この利点と欠点をどう取るかでS-MXの魅力は増えもするし減りもするのだ。
まさにベンチシートの魅力に惹かれた人だけが虜になるクルマがS-MX。
■完璧なフルフラットシート■
ステーションワゴンと言えばシートアレンジ。
多彩なシートアレンジでアピールする車種が多いのだが、3列シートのほとんどは荷物を搭載するスペースに不満が残る。
8人フル乗車の場合は必然的に荷物は足下に置くケースが多い。
2列シートで4人乗車のS-MXはトランクスペースを340リットル確保されている。
これでも足下にはかなりの余裕があっての状態だ。
常に車椅子と工具を車載している我が家のS-MXも十分過ぎるスペースが確保されている。
また、リアシートを跳ね上げておくと後部に920リットルのスペースが完成。
50ccのバイクを乗せることも楽勝。トランスポーターとして十分利用できる。
長尺の荷物も運転席意外をフルフラットすれば助手席側へ搭載可能。
そして最大のウリが完全フルフラットのシート。セミダブルベットほどの空間が出来上がるので車中泊にピッタリ。定員が二人乗車ならキャンピングカーでなくても十分な車中泊をすることが出来ます。
私の場合S-MXを便利なクルマとしてRV的に利用する魅力を感じているので、スタイルが良いだけにS-MXには常に魅力を感じています。
■ボディレストア■
私のS-MXは2009年5月から3ヶ月間近くボディをレストアしました。
交差点での衝突事故をきっかけに、完全修復という形でフロアを造り直し、メーカーから新しいボディパネルを取り付けてあります。
足回りやフレーム修正、など細かい作業を行いほぼボディだけはしっかりとしたものになりました。
驚いたのはS-MXにはほとんど腐食がなかったこと。
前オーナーがサーファーだったので、腐食は諦めていたのですが幸いです。
掛かった金額は総額で\998,000円。ほぼ100万円という金額。
事故ということで保険会社に対して、現状復帰を請求することでなんとかなりました。
というか馴染みの板金屋さんのお陰がほとんどです。
車椅子のトランスポーターということ、相手側が信号無視というこちら側の過失ゼロが請求が通った要因のようです。
HONDAは部品供給はほぼS-MXに関しては大丈夫でした。
再生産待ちになりましたが、ほとんどのパーツが出てきので保守関係はまだ大丈夫でしょう。そんなこともあってS-MXの愛着は増しています。
■3枚ドア■
S-MXの特徴のひとつが3枚ドア。
右側は運転席のみで、左側は後部もある2枚の非対称。
ステップワゴンもこれに準ずるが、S-MXの右後部ドアはパノラミックウインドウと呼ばれる一枚物。
乗ってみるとこれが特急電車の窓のように大きい。
乗り心地やシートの質はどうあれこのパノラマは確かに感動する。
後部ドアの不便さは確かにあるんだけれど、ベンチシートのおかげで荷物の置き場を確保できればそれほど気にはならなくなった。
逆に4枚ドアだったらどうなのだろうか・・・。
きっとキャパやライフの親分程度の味気ないイメージになったのではないだろうか。
万人に受けるデザインだったらS-MXはヒットしても、個性という部分で早々に消えていったのかも知れない。個性的なクルマを造る集団が、たまたま自由に造ることができたからこそ素晴らしい個性がある。
人とは違う毛色のクルマを求めるにはとても良いのではないだろうか。
そして国産車である信頼と耐久性。だから乗っていられるのかも知れません。
とりあえず乗ってみたいと下駄代わりだったS-MX。
未だにすっかりハマっています(笑)。