Gr.III鉱物油は粘度指数120以上の鉱物油で、Very High Viscosity Index(超高粘度指数)を略してVHVIと呼ばれています。
API鉱物油グループカテゴリーは以下のようになっています。
Gr.I鉱物油 粘度指数80~119 硫黄分0.03%以上
Gr.II鉱物油 粘度指数80~119 硫黄分0.03%未満 High Viscosity Index
Gr.III鉱物油 粘度指数120以上 硫黄分0.03%未満 Very High Viscosity Index
Gr.I鉱物油とGr.II鉱物油の粘度指数は同じ範囲になっていますが、実際に市販されているGr.II鉱物油はGr.I鉱物油より粘度指数が高いです。
市販品はこんな感じ
VHVI+の硫黄分が0.001%以下となっていますが規格はありません。
市販品のスペックがこれでした。(Yubase+)
VHVIに比べると硫黄の規制値が非常に厳しい。
逆にVHVIの0.03%未満って300ppmなのでかなり大きな数値です。
300ppmのイメージが湧かない?
有機モリブデン(MoDTC)を添加した場合、Mo含有量は500ppmくらい、酸化防止剤としてMo添加した場合は100ppm以下です。
そう考えると硫黄の300ppmというのは添加剤級に多いと言うこと。
全てのVHVIが300ppm硫黄が残留する訳ではありません。
精製度合によって差があるでしょうからGr.II鉱物油で300ppmはあってもVHVIはさすがにそれ以下でしょう。
それでも半分の150ppm程度だとしたら?
VHVI+の10ppmや合成油の0ppmと比較すると大きく劣ります。
リンや芳香族などの不純物も同様に残留しています。
硫黄は最終的に硫酸(H2SO4)になります。
やはりVHVIは性能的にも鉱物油なのです。
これに対してVHVI+は随分印象が異なります。
PAOやGTLに匹敵すると言っても遜色ない耐久性。
酷評したGRエンデュランスもベースオイルだけは良かった。
思っていた以上にVHVIとVHVI+の差が大きい気がします。
これは
エクソンモービルの鉱物油精製工程です。
エクソンモービルが提供している技術サービスと言えばいいのかな?
これらのサービスの提供を受けて各社オイルを精製しています。

一番下のスラックワックス、FTワックスからオイルを製造する工程がVHVI+ないし、GTLの製造工程になります。
スラックワックスは鉱物油を生成した後に残る留分から作ります。
炭素数C30~C60程度の常温では固体の炭化水素。
このスラックワックスを触媒を介して「異性化」すると液体になります。
異性化処理とは分子量は同じまま分子配列を変えることです。
つまり違う物性のものに変わります。(上の図のMWI™ )
常温の固体から常温の液体になる訳ですから状態変化ではありません。
全ての固体のノルマルパラフィンが異性化する訳ではないと思うので触媒反応のあった特定の範囲のノルマルパラフィンだけが異性化するのでしょう。
とすると抽出される分子量はある程度揃っていて不純物も異性化し無さそうですよね?
ここで異性化したイソパラフィンだけ取り出しますが、そのままだと硬いオイルなのでこれを水素化分解(上の図のMAXSAT™ )して更に分子量を揃えていくのでしょう。
この辺の工程はGTLやPAOも同じだと思います。
合成油の最終処理に近い感じ。
合成はしていないものの、異なる物性へ変化させていることから鉱物油と言うには申し訳ないくらい原型は留めていません。
実際粘度指数は非常に高くてものによっては145とかあります。
エクソンモービルのVISOMとかエネオスのWBASEがこれです。
「ワックス異性化」と言われたらこれ。
SKルブリカンツのYubase+はこれとは異なる製法のようです。

赤枠で囲ったところがそれで常圧蒸留の留分(ドロドロしたやつ)を触媒脱蝋して水素化分解する。
この工程は通常のVHVIの精製工程と同じはずですが、この工程でもVHVI+が精製出来るようですね。
そのまま水素化処理を進めると低粘度の液体になってしまいそうなので、留分のワックス分から異性化してVHVI+を生成するのか詳しいところまでは判りません。
恐らくワックス異性化と同様にノルマルパラフィンを異性化してイソパラフィン化するのだと思います。
それでもYubase+の粘度指数は134~145あるので高性能ですけどね。
ともかく、VHVIと比べるとどちらも圧倒的に高性能と言えそう。
VHVI<<VHVI+≒GTL≒PAO
じゃあ、VHVI+が使われているエンジンオイルはどれか?
これはVHVI+と書いてある以外に判別が出来ません。
何たってGr.I鉱物油からGr.III+鉱物油まで全部「鉱油」ですから。
CAS#64742-54-7だってGr.IIからGr.III+です。
SDS見てもVHVI+の判別は出来ない…
VISOMはCAS#が異なります。
64742-70-7 触媒脱ロウ重質パラフィン(Mobil VISOM6)
64742-71-8 触媒脱ロウ軽質パラフィン(Mobil VISOM4)
が、これだってどの工程で触媒脱蝋したのかによってGr.II~Gr.III+まで判りません。
私がGTLへ逃げてしまうのはこれが理由。
VHVI+も試すまで判らない。
VISOMもYubase+も日本で買えるのに使っているオイル屋さんを殆ど見かけません。
一番安いVHVIも、合成油以上の性能を持つVHVI+もどれも「合成油」と書かれてしまうと扱いづらいのでしょうね。
せめてVHVI+以上から合成油表記OKだったらまた違った世界だったろうに。
カストロールのせいで本当に合成油並みの性能のVHVI+が日の目を見ない。
罪人はカストロールだけじゃないか。
こないだ買うかも?と言っていたトヨタ純正のATFもVISOMと同じCAS#でした。
これがVHVI+なら間違いなく買いなのですけどね。
買って試すしか無いという…
【余談】
ファ〇トロンネクスト(プルタミナ)はGr.III+の記載はありますが、どう考えてもVHVI以下の性能でした。
インドネシアのプルタミナはSKルブリカンツと協業してGr.III+を作っているような話を聞いたのでGr.III+で間違いと思いますが、安すぎるし実際の性能もアレなので…
ベースオイルが良くても添加剤次第と言うことか?
でも、それなら今使っている
HX5Plusがベンチマークになりそうです。
あれはベースオイルがGTLで添加剤があまり入っていない雰囲気はありますが、それでも組成の良さは体感出来ます。
ファ〇トロンまだ残っているのでアルトで試してみるか…
【余談2】

Yubase+の製造工程の図ですが、これをGTLに置き換えると同じように常圧蒸留の留分からGTLオイルが製造出来そうですよね?
一般的にGTLオイルは一番下のFTワックスから異性化して製造しますが、留分からGTLオイルが生成出来るとしたらリーズナブルなGTLオイルが作れそう。
シェルの安いGTLはこれじゃないのか?と予想しています。
市販していないので本当のところは判りませんが、ワックス分を除いた更に留分からオイルが作れるとしたら…
誰か教えて~