「やっぱり、86カッコよかったわねぇ」
86の試乗の後日、何の気なしに嫁が言い出した。
「あんな車、あなたにも乗ってもらいたいものだわ。」
いや、違う。嫁は自分で乗りたいだけなのだ。
「あんな、そう言ってもらうのは有り難いんだけど、お前乗りたいだけだろ。」
「へへ。解る?ああいうスポーツカーにオバちゃん乗ってるってのも、カッコいいじゃないの。」
・・・・やっぱり図星だ。
「おまえ乗っちゃったらさ、オバちゃん頑張ってる感じが痛々しいし、妙な生々しさがでるから止めとけって。」
「なによそれ、どういう意味よ。」
やばい、本音が出てしまった。買いもしない車のことで、喧嘩になるのは御免だ。
早々に論点を変えてしまおう。
「ま、まぁよ、似合うに合わない別にして。もし86買うとしてだ、内装考えたらGTクラスだろ?そしたら乗り出しでざっと見ても300マンオーバーだぞ。頭金無しでローン組む金額で無ぇよ。それに、うちは住宅ローンでもう腹いっぱいだから、これ以上借金はできんわい。」
「そうだわよね。あーあ、宝くじ当たんないかなぁ。ね、宝くじ当たったら、86買おう。」
忌野清志郎は、宝くじは買わないと歌ったが、俺ら夫婦は宝くじを買う。なぜなら、お金が欲しいからだ。
だが、86に乗った俺の姿を想像すると、嫁に放った言葉が自分に返ってくるものであることが理解できた。そんぐらいの理性はあるのだ。周囲にいくら煽られようと、夫婦で痛々しい姿を晒すのは、気の弱い俺には些か無理のある話である。
しかし、また本音を言うのは憚られる。当たりもしない宝くじの使い道で、喧嘩になるのもクダラナイわけで。ここは適当に話を合わせるに限る。
考えてみると、インプを買ったので車に使える資金はカラッケツ。調子がいいとはいえ、グランツァは12年物で18万キロを超えている。毎日通勤で往復60km弱走ることを考えると、一年で60km×20日×12ヵ月=14,400kmは走ることになる。2年もすれば大台の20万キロ突破になってしまう。さすがに20万キロ超えたら、五体満足ですこぶる快調とはいかないだろう。後2回・・・いや3回は車検を通したい・・・としたら25万キロ突破である。5年間、宝くじを買い続けたとしても、きっと資金を捻出できないだろうことは、流石の俺でも想像がついた。
「そうだなぁ、宝くじ当たったら、86買うのもいいねぇ。でもさ、宝くじ当たるの待ってても、いつ買えるかわからんよ。グランツァも間もなく20万キロ超えるしなぁ。ここは、金を借りたつもりで、積立ようぜ。グランツァ大事に乗って5年は持たせればそこそこ貯まるんじゃないの。月5万積めば、5年後にゃ86買えるぞ。」
「そうねぇ・・・。グランツァだって、いつどうなるか分かんないのに、宝くじ当てにできないわよね。あなたのコヅカイや保険類を見直せば、5万は無理にしても3万ならいけるかも。3万だと5年で180マンかぁ。遠いけど、何もしないよりましよね。」
俺のコヅカイがリストラ対象なのは正直気に食わなかったが、クルマの資金を大っぴらにキープできるのは有り難い。俺のコヅカイだけでは、どう頑張ったて車の購入資金なんぞはヘソクリできない。シメシメ、いざ、資金がたまったら、俺の通勤車を買うんだからと、イニシアチブを取ってしまえばいいだけだと算段してほくそ笑んだ。
その日以降、まだ貯まってもいない180万円+αで買える車を、あれこれ想像しては楽しんでいる俺であった。
【シリーズもの】
1.Devil’s Whisper (86への誘い。)
2.Divine Protection(86の助手席より。)
3.取らぬ狸の皮算用(86試乗の後日譚)。
Posted at 2012/05/30 20:36:26 | |
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