前回の続きです。そろそろ本題に入ります。
「減速操作開始から目標G到達まで1秒間で完了するにはどんな躍度分布か?」この問いに対して前回は三角形の躍度分布を示し、たかだか目標0.2G、0.3Gに到達するのに案外大きな躍度を要することが分かりました。
今回は目標G到達まで前回とは異なる躍度分布を考えます。
パターン1
前回示した三角形の躍度分布です。減速Gは0Gから滑らかに増大し、目標Gに滑らかに収束します。
パターン2
躍度がピークを持たず一定で減速Gは右肩上がりの一様勾配です。一見するとパターン2の躍度が低く穏やかに見えるかも。でも0Gから立ち上がりと目標G到達の躍度が不連続でG分布はシャープエッジになります。その時点の躍度と発生Gはあまり大きくないのにショックを伴います。このショックを嫌って台形分布も考えられますが、躍度の勾配を寝かせるほどGの立ち上がりを滑らかに出来るので結局は三角形の分布が合理的です。
パターン3
躍度分布は三角形ですが立ち上がりの勾配を目一杯に寝かせて目標Gに到達させます。しかし目標G到達以降の躍度と不連続になり減速Gのピークがシャープエッジになりやはりショックが生じます。それと到達Gはパターン1と同じく0.2Gですが加速度分布は異なり、0→1秒間の減速G分布の面積=減速が小さく、減速効率がパターン1より劣ります。(減速距離が長くなる)
比較するとパターン1の三角形が合理的です。パターン2,3の躍度が不連続に変化する様子から、躍度の勾配が大きくなるほど滑らかな変化からシャープエッジ寄りに近付く傾向が窺えると思います。
では躍度の勾配はどれくらい立てて良いものか?
前回の躍度分布で目標0.3Gの場合、0→0.5秒で躍度のピークは0.6G/sに達し、勾配で表すと (0.6G/s)/(0.5s)=1.2G/s^2 になります。
私の感覚からすると 1.2G/s^2 は日常運転で常用するには大きい。大き過ぎる。例えば緊急時のブレーキで0.4G/1秒間として躍度ピーク0.8G/s、躍度勾配1.6G/s^2は有りかも知れないけど、日常的に1.2G/s^2は無いだろうと思います。
そうすると命題の「目標G到達まで1秒間で完了」の部分が引っ掛かります。そこで三角形の躍度分布でA,B2パタンーンの系列を考えます。
パターンAは前回示した分布、パターンBは躍度勾配を揃えた分布。計算するのはパターンAが単純で簡単ですが、目標0.3G以上は躍度の勾配が立ち過ぎる印象。パターンBは躍度の勾配を揃えるので目標Gが高くなると所用時間が延びて躍度ピークはパターンAより控えめ。これなら無闇に躍度勾配が立つことはない。ちなみにパターンBは作図を簡単にするため躍度の勾配を0.8G/s^2に抑えてます。*1
*1
目標0.2G/1秒を基準として(ここから0.8G/s^2となった)、目標0.3Gは躍度分布の面積(到達G値)が1.5倍となるように√1.5≒1.22倍に拡大、目標0.1Gは同様に面積(到達G値)が0.5倍となる様に√0.5≒0.7倍に縮小して躍度分布を定め、それに合わせてG分布を作図しました。
パターンAは目標Gごとにブレーキペダル踏力のペース配分を可変。躍度0からピークまでは速める、躍度ピークから0まではペースを落とす。発生する減速Gは0.1Gから0.3Gまで異なるカーブを描きます。
パターンBはブレーキペダル踏力のペース配分は同じで持続時間が異なる。躍度0からピークまでは速める、躍度ピークから0まではペースを落とす、これはパターンAと同じ。発生する減速Gは0.1Gから0.3Gまで重なります。パターンBの方がペース配分を身につけ易く、尺の感覚(制動距離)も安定しそうに思います。
こう考えると「目標G到達まで1秒間で完了」って意味あるのかな? 「速やかに減速Gを立てる」を言いたくて盛った表現かな。減速Gグラフを何となく見た目で判断するうちは「こんなものか」で妥協しても躍度分布で定量化すると躍度0-0の時間幅(三角形底辺の長さ)が丸見えで1秒超過が露呈。
では改めて、
躍度の勾配はどれくらいまで立てて良いものか?
G-Bowl教科書とも言うべき『四輪の書』p.047に減速G立ち上げ勾配の限界について、車の姿勢変化の速さ(を超えないように)で決まるとの記述があります。GJアテンザではどれくらいかな? これは車としての限界値で、日常運転と厳しいコースをギリギリ詰めて走るのとで違いそう。でも限界まで詰める練習もあるでしょう。結局はその時のコースや状況に応じて選ぶのかな。「Gを一定範囲に納めましょう」と同じで、G上限 0.2G、0.3G、0.4Gなど選ぶように。
それにしても大まかに日常の街乗りから公道ワインディングで常用する躍度の勾配は1.0〜1.1G/s^2くらいが上限と見ています。なので1.2G/s^2は常用するには大きい。(私の認識であり1.2G/sが正しい正しくないということではありません)
長くなったのでまとめると、躍度の分布は三角形(二等辺三角形)が合理的、躍度の勾配が立ち過ぎて不連続はショックが生じて不快、よって躍度の勾配を無用に立てるのはよろしくない。操作開始が遅れて後追い操作で勾配が立ち過ぎるのはダメという意味で。躍度の勾配に着目すると、躍度自体はあまり大きくなくても勾配が急峻になることがあるので要注意でしょう。
「躍度が大きい」と「躍度の勾配が急峻」は別問題という事例として、去年ブレーキ練習したログ合成動画を素材にしてVer.5で躍度分布を観察しました。
G-Bowlアプリ設定で躍度上限 - 前後(Y)方向 0.5G/s、躍度通知条件「常に通知」、躍度勾配はCSVデータから算出して合成動画のグラフに1.0G/s^2に到達した時点をマーキングしました。躍度の勾配1.0G/s^2とは0.5秒で躍度が0G/s→0.5G/sに達するペースです。
この事例の躍度通知0.5G/sは「ダメですよ」の意図ではなく単に0.5G/sに達しましたの意味。不本意ではなく意図した躍度発生。躍度勾配1.0G/s^2のマーキングも良い/悪いの意味ではなく、私自身が意図したものか気付かずに不意に生じたものかを区別するものです。要するに単純な良否判定を意図したものではありません。
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Posted at
2018/07/22 00:10:08