今年一年、
この「◯月の読書」で取り上げた本は
33作品 39冊 となりました。
年間読書冊数としては、少なくもないけど多くもない…?
どうせならキリ良く40にしたかったけど、今読んでるのがちょっと間に合わなさそうなので…
まぁ、ゆーてもほぼ仕事の合間に読んでるだけですからコンナモンでしょ。(ーωー)
しかし、
本格的に読書趣味をやりだして(というのか再開してというのか…)から1年半ほどですが、
なんだかんだ、結構肥やしになっているような気がする。
「あ、コレの元ネタってアレやん(°∀°)」とかいうのがちょくちょく分かるようになってきたし。
そういうのがわかってニヤニヤできるようになると、また楽しいワケです。
「やっぱりジウジアーロのこの線の引き方が…」とか言ってるのと似たようなもんw
そろそろ胸張って「趣味:読書」と言えるくらいになってきたカシラ。
VIDEO
カレス・L・パウエル 『ガンメタル・ゴースト』 (2013)
原題『ACK-ACK MACAQUE』
1959年、イギリスとフランスが政治経済に於いて統一され、フランスはエリザベス二世統治下のフランス州となった。
…という歴史改変を土台に敷き、その100年後の2058年から始まる物語。
主人公格の人物が3人おり、序盤はそれぞれの視点で交互に展開し、徐々にその3つが集束して1つの流れになる安定の展開。
メインテーマは「人格をデータ化してコピーし、元の肉体からサイボーグに人格を移し、半永久的な命を得る」というよくあるアレ。
…なんですが、ここにもう一つ現代的な要素が加わります。
「オンラインゲームのNPCが、実は有機コンピューター化された生身の存在だったら」
※NPC:Non Player Character ゲームシステム側が操作するキャラクター
ゲームの中という仮想現実世界に囚われた人格。
そこから自分で出る方法は無く、重要NPCなのでパラメータはほぼ不死身=自殺もできない。
本人にはそこがバーチャル空間であるという認識は無く、しかし何とも言えない違和感を感じている。
そのゲームキャラクターが、原題にもなっている
「アクアク・マカーク」 。
マカークの本来の肉体は脳にケーブルを繋がれて眠り続けている。
そのマカークを救出する運動に巻き込まれた、英仏連合王国の(反抗期の)皇太子。
だが彼の方が、この人格コピー計画の核心に近い所に居た。本人は知らぬまま。
物語の展開としては、共通の敵(人格コピーの研究会社)をそれぞれ違う経緯から追う3人が、団結して壊滅させるというわかりやすい安心の内容。
3部作の1作目らしいので、とりあえず最初は単純明快にスカッと終わらせるという感じ?(笑)
が、"英仏連合王国" という設定をいまいち活用し切れていない印象もあり。
自分が誰かの器として造られたとわかった時、それに憤るアイデンティティは "自分" と言えるのか。
「死なない」のは幸せなのか、「死ねない」のは不幸なのか。
肉体を捨てて意識だけで生きることが果たして幸せなのか。
そんなテーマも含んでいますね。
イマドキな切り口でサクッと読める冒険小説です。
内容や表紙絵から見ると、国内だと "ラノベ" にカテゴライズされそうな気もする。
ディック・フランシス 『興奮』 (1965)
原題『For Kicks』
今月初めの乗馬ネタ がココへ繋がる布石だったとか言いました(笑)。
えー、これに関しては作品の話に入る前にまず色々と語っちゃえますがw
著者ディック・フランシスは、元ジョッキー、イギリスの障害騎手です。
日本では障害競馬の認知度は低いですが、競馬には平地競走と障害競走(最近ではジャンプレースという言い方もする)があり、ディック・フランシスは障害競走専門の騎手でした。
リーディングジョッキー(最多勝)を取ったこともある人気騎手で、
障害競馬の世界最高峰と言われる
"Grand National" にも8回出走(優勝経験は無く2着が最高)。
(ちなみに。
Grand National は、距離約7200m、障害数30というコースを最大40頭が出走して争うが、完走率は非常に低く事故も多い為、「世界一過酷なレース」と呼ばれる。
日本の平地競走の最長距離は3600m、障害競走でも4200mなので、その規模の違いがお分かり頂けるかと思う)
俗に「デヴォンロック事件」と呼ばれる1956年のGrand Nationalでの、不可解な現象の当事者となったことが、その後の小説家としての競馬スリラーシリーズに繋がったのではないかとワタクシ個人的には思う。
さぁ、「グランドナショナル デヴォンロック」でググりたまえ!(°∀°)
フランシス作品の内容を全て知っているワケではないですが、彼の競馬スリラーシリーズで扱う事件や謎は、全て
実際にあった事件 (のハズ)です。
よく管理された日本のJRAを見慣れている我々日本人にはあまりピンと来ませんが、本場欧州の競馬は常に様々な事件の舞台になってきています。
替え馬事件や、身代金目的の馬の誘拐、政治デモの一手段としてレースが妨害されたり、レース後に騎手が拳銃自殺したとか、はたまたオカルト的なミステリー話まで…
小説の題材には事欠かない…という言い方は不適切かもしれませんが。なんしそういう世界でもあるわけです。
この『興奮』で扱われるテーマも実際にあった事件をモチーフにしています。
障害レースで、番狂わせの大穴が続いていた。
その時の状況から推して、勝った馬には明らかに興奮剤が投与されていると思われる。
しかしいくら検査しても興奮剤の反応は出ず、馬体にも注射痕などは見つからない。
いったいどんな手口で不正が行われているのか…?
…まぁ、ワタクシは "元ネタ" を知っているのでトリックの仕組みは読む前から分かっていたんですが、
それを差し引いても
推理小説として非常にハイレベルな傑作 です。
潜入捜査のドキドキ感が終始貫かれ、味方からも嫌疑をかけられながらも謎を1ピースずつ解明していく気持ちよさ。
元専門家が書く物語なのに、いや、逆に元専門家が書くからこそか、
競馬そのものを知らなくても問題無く楽しく読むことができると思います。
フランシスの競馬シリーズは全てそういう感じらしく、
"競馬シリーズ" と言っていますが競馬がメインでは無く、あくまで舞台背景が共通しているというだけで
競馬に興味の無い人が読んでも充分以上に読み応えのある良質な推理小説のようです。
ピーター・トライアス 『UNITED STATES OF JAPAN』 (2016)
第二次大戦で日独が勝利した世界。日本統治下のアメリカ。
これだけで、脳裏によぎるのは
ディックの『高い城の男』 。
実際、この著者自身、ディックの『高い城の男』に影響を受けたと明言しているばかりか、本作を ”精神的な続編” と語っている。
ビミョーに有り得ない日本人名だらけなのはさておきw
まずは著者の日本文化への深い知識に素直に拍手。
現代日本人よりもよほど日本文化に詳しい。
さらに、其れを空想世界の中でリアルに描いている。
現代のスマホに相当するモノも、名称が "電卓" に変わり、機能も日本の技術でより高度に進化していたり、
ファーストフードの代名詞であるハンバーガーの代わりに、天ぷらバーガーなる物が出てきたり、
日独の勝利≒ファシズムの勝利であり、憲兵や秘密警察が闊歩していて天皇批判は即処刑だとか、
お約束の人型巨大兵器もしっかり登場します。
そして、『高い城の男』で体制批判のアイテムとして登場した ”アメリカが勝利した世界を描く小説” にあたる物が、
本作では "オンラインFPSゲーム" として登場します。
※FPS:First Person Shooter 本人視点でのシューティングアクションゲーム 早い話が戦争ゲーム
そのゲーム
「USA」 の開発者と言われる退役軍人と、それを匿っている反体制組織を追って、帝国陸軍検閲局の主人公と秘密警察の女が奔走する、という話ですが、
各場面場面での背景描写や世界感の構築が非常に緻密で良くできている。
主人公の謎めいた過去が、物語の進行に連れて徐々に明らかになっていく様や、
一見、任務に忠実な冷酷な秘密警察員かと思える女も、疑いを知らぬ馬鹿正直故に実は無能であるという構図は、
キリスト教信仰を天皇崇拝に置き換えた、アメリカ社会への当てこすりであるのかもしれない。
中盤では、かつての或るゲーム「クーロンズゲート」のようなオリエンタルな怪しい異世界的な場所も出てきたり(ややグロ表現有り)、
後半の人型巨大兵器での戦闘は完全にガンダム系のソレ(ただしガンダムよりももっと "戦車" 的)であるし、
日本の伝統的側面のみならず、所謂 "Cool Japan" なサブカル関係にも多いにインスパイアされているのが見て取れる。
それら
多岐に渡る "日本的要素" を、それぞれ非常に深い所まで理解し描いた上で、全体をバランス良く纏めている、正に傑作。
正直、『高い城の男』より面白い。
また、読後に強いメランコリーが残響する結末も、本作のメッセージ性を強調する重要な部分。
ハッピーエンドでは成立しない物語でもある。
とてもキャッチーでサクサク読める(というのも、一つの ”腕” だと思う)ので、是非どうぞ。
帯に書かれた文句は決して大げさではないです。(・∀・)
しかし、作中で「USJ」「USJ」と出てくる度に脳内で某テーマパークに変換されて大変だった件www