
思い出のクルマ第16回です。
今回は、それまであまり気にしてこなかったホンダのセダンを初めて意識したクルマになります。今でもこのクルマは好きでして、少し前にあった「歴代Honda車人気投票」でも迷わずコレに票を投じました。何より書いている内にイロイロ思い出して文字量が増えていたりもします(笑)。
歴史をもう少し遡ると、初代のアコードも小さな高級車として見ていた部分はあるんですが、何となく小さいながら背伸びしているみたいな感がありまして、ウチで買おうとはなりませんでした。
そんな見方が変わりだした契機は、GX71の新型車情報を仕入れるために買ったCAR and DRIVER誌を継続購入しだしたことでしょうか。この誌、若い世代が主な購入層だったためか、ワンダーシビックやプレリュードが読者の人気車種でした。シティ以降に登場したホンダ車が共通して持つ、何となく知的というか小洒落た感が人気の理由だったと思います。
同誌を買い出した頃は、まだ2代目アコード&初代ビガーの末期。これはシティの前に登場していた車で、4wA・L・BやPGM-FI搭載等改良はされていたものの、スタイルはオーソドックスかつホイールベースは短くという旧世代。そのため、新世代待ちみたいなのが当時の情勢でしたね。海の向こう、北米では現地生産も始まっていて、一足先に人気が盛り上がっていたのですが。
当時のライバル車たちはというと、、、
FFセダンは、まだ第一世代で効率重視の視点から、合理性 > 質感。一方、6気筒を積んだFRセダンはハイソカーブームの最盛期で、演歌調とも評された内外装の意匠を持っていました。
コレ、同誌の読者層には趣味が悪いと嘲笑されていたんですよね。
同じく旧世代に属するクイントが一足先に華麗なる変身を果たしたことで、更なる期待が盛り上がる中、登場となった3代目アコード&2代目ビガー。
詳細はカタログを用いて説明しますが、最新のスタイルとメカニズム、何よりワンダー シビックやプレリュードの持つ小洒落感を持ち込んだクルマでありました。当時はえらく新しいセダンが登場したなと衝撃的だったのです。
ちなみに、設計者(荻野道義氏)へのインタビュー記事から抜粋すると、
○スタイル、サスペンション、エンジンそして室内と4つの点を基本ベースの高いところで実現するというのが根本の発想。
○このクルマのメインはあくまでも1.8lOHC。DOHCの特に2.0lはイメージリーダ的存在
○我々は一所懸命4つのお願いをやりましたけれども、我々は将来この延長線上でいくんだというところを感じていただけるとそれ以上の喜びはない
が主だったところでしょうか。
それでは、当時のカタログを振り返ってみましょう。後述の理由から、出展は兄弟車のビガー。一部改良が行われた昭和61年5月の内容となります。
2015/5/3 画像を全て更新すると共に一部追加をしました。
トップグレードとなる2.0Siのフロントビュー
同年代のライバル車と比較すると、フロントカウル&ノーズの低さが同年代のホンダ車に共通する特徴。
リトラクタブルライトは、その低さをさらに強調するアイテムですが、セダンとして見ると好みが分かれそうな部分。私自身は、後年登場する固定式ライトのアコードCAの方が好みでした。
タイヤ&ホイールは最上級グレードまで13インチに留まりますが、”低く・薄く”の見た目には、むしろ貢献しています。
1.8SOHCの上級グレードMXL。
先代同様、ナンバープレート位置がアコードと異なるバンパー下部となります。リヤハイデッキは、プレリュードから始まった当時の本田風味ですが、ワンダーシビック4ドアがビジネスライクという評価だったためか、こちらはリヤウィンドーを大きくラップラウンドさせて傾斜させています。
リヤウィンドーの傾斜角は、今に至るまで実用性とパーソナル感のせめぎ合い。あまり傾斜させるとリヤデッキが短くなって車格感が低く見えるという問題もあります。この時期のホンダ車は、いいバランスでデザインされていると思いますね。

エンジンの解説
種類は、1.8SOHCの12バルブ+シングルキャブ、1.8DOHC+デュアルキャブ、2.0DOHC+PGM-FIの3タイプ。2.0のDOHCは、カムリ・ビスタに続くもの。他社のハイパワーモデルは、まだターボが多かったのですが、この辺で潮流は決まったように思います。
また普及グレードにもマルチバルブを採用。こちらも他社が追随することとなります。トヨタがハイメカツインカムでDOHCを一気に普及させたのも、この辺の影響を受けているような。
サスペンションの解説。
プレリュードでフロントダブルウィッシュボーンを採用していたのですが、こちらは後輪にもダブルウィッシュボーンを採用。
他車は、FF化の際に4輪ストラットを採用することが多かったので、FF車世界初となるこの機構は衝撃的でした。
スタイリングの解説
フロントロー&リヤハイデッキのスタイリングは、ウルトラ・ロー&ワイドと表現されています。
特徴的なノーズの低さに連動する形で、ライバル車よりも車高が低く抑えられています(車高:1,355mm)。以前に紹介したカリーナEDの車高でも1,320mmですから、キャビン上下方向の寸法はかなり厳しい制約を受けているのですが、低く座らせることで解決策としています。パッケージの方向性はこの後登場するレジェンドも同じでしたね。
他社は4ドアハードトップを売りにしていましたが、この時期のホンダ4ドアはサッシュレスドアにあまり興味を示さず、何れもプレスドアとしていました。セダンでもハードトップに負けないくらいスタイリッシュなパッケージングではあります。

インパネ
フロントカウルからインパネを斜めに傾斜させて開放感を演出するテーマは
FF初代カローラ辺りと共通するモチーフですが、こちらは当時のホンダ流で、ドアトリムからの連続感も重視。
フロントカウルが低いため、インパネの上下高が制約されてしまい、オーディオは1DINサイズを標準とします。

インテリア
シート材質はモケットですが、トップグレードであってもギラギラ光らせず落ち着いた色調の範囲に止めています。先のインパネデザインと相まって、品質感は同級のトヨタ車を凌いでいる感を受けます。
この時期にホンダ車のファンが増えたのは、独創のメカニズムと共に内装の趣味の良さがあったと思います。
左は装備品の紹介
右はトップグレードの2.0Si
この画像にある液晶デジタルメーターは、装着車が少なかったと記憶しています。
1.8のグレード一覧
ホワイト全盛期にも関わらず、中間色にイイ色が揃っています。
当時は、ホワイト・シルバー・ガングレー辺りを良く見かけました。
装備一覧表及び主要諸元表
アコードにはあった最廉価グレードが落とされているため、標準装備は、全車一定水準をクリアしています。
全長4,535 × 全幅1,695は、マキシマやギャランシグマに続くFF4気筒の最大サイズ。先代がむしろコンパクトな方でしたので、新型は一気に拡大された感を受けました。
新車価格表
その頃のホンダって、ようやくディーラー網の整備が始まった頃。当時よく出かけていた池袋には東池袋駅近くにベルノ店があって、ビガーの他にもプレリュードやインテグラ等、いくつかのカタログを貰っています。店舗に入ろうとした契機も両スペシャルティカーではなく、このクルマでしたね。
デビュー当時は、まさしくゾッコンでした。
同級生の家でカリーナEDを購入する際、こちらを勧めていたりします。この年のカー・オブ・ザ・イヤー受賞を嬉しく思ったりして。
もっとも翌年に、こちらの影響を受けて豪華派に転じた(それでもマークII3兄弟よりは知的に見えた)FF2代目となるカムリ&ビスタが登場したことで、好みはそちらに傾いていきます。
当時は、製造地の近くに住んでいたため、ホンダ車に乗っている関係者も多かったのですが、自分でコロナを買う頃にはモデル末期になっていたこともあって、購入候補とはなりませんでした。
今の視点からすると、十分購入できる範囲だったため、もう少し注目しておくべきだったなと少し後悔していたりもします。(少し前には、スーパーステージを含む後期のカタログを収集してみたりして)
振り返ると、あの頃のホンダは本当に勢いがあったと思います。前年末に登場したシビック&CR-XのSiの興奮も冷めないうちに、クイントから転じたインテグラが全車に同エンジンを搭載(ただし一部はキャブ仕様)して登場。夏には、大人気だったプレリュードに2.0Siが追加、さらに今回紹介したアコード&ビガー。秋には、競争が激化していた軽自動車(ボンネットバン)に再参入する契機となったトゥディが登場、そして年末近くには、保守層でがっちり固まった高級車市場に挑戦したレジェンドの登場。
一連のラインナップは、今の視点の方がむしろ神がかって見えますかね。
まぁ、あの頃は良かったという話は、長年のホンダファンの方が想いも強いはずでうまく表現できると思いますので、私からはこの程度ということで。
ただ、同年代のトヨタセダンがもはや再現不可能であろう作り込み重視であったのは、当時のライバル車、特にミドルサイズ以下ではホンダ車の影響が大きかったという認識を持っています。
現在のセダンは既に直接のライバル車が不在という状態が長く・・・
厳しすぎない競争関係はお互いにとって良い刺激になると思うのですけれどね。