
120と130クラウンのアスリートを取り上げるのであれば、同時期のこれに触れないわけにはいかないでしょう。
混迷していると陰口を叩かれていた日産が復活の狼煙を上げる契機になったクルマでしたし、私もとても好きなクルマです。
今でこそ、フルサイズセダンが”走り”を謳うのは当然の感がありますが、これが初登場するまでは、最高級車は、走りを前面に出さないという不文律的な物が歴然と存在していました。
トヨタはマークII3兄弟にこそ、GTツインターボを登場させましたが、クラウンにはスーパーチャージャーのみとしていたのです。Y30までのセドリック/グロリアは、430のターボSで、若干走りに振ってみるものの、Y30ではその路線をやや戻してみたりして、クラウンと大同小異の存在となっていました。
ターボエンジンを搭載し、スポーティサスペンション&アルミロードホイールを標準装備した、430のターボS
ターボSのスポーティさはやや後退し、若干豪華方向への振り戻しが見られるY30のアーバンシリーズ
それがモデルチェンジしたら、マークIIツインターボ以上のスポーティグレードが登場したのですから、本当に驚きでありました。
初登場時のグランツーリスモSV
エアロパーツ風のフロントエアダムバンパーは、白全盛期の中、あえて黒をイメージカラーにしたことも相まって、とても新鮮でした。
それまで黒は、社用車に見えるということでマイナス査定でしたが、これ以降プラス査定に大逆転します。
89年版間違いだらけのクルマ選びの中で、販社はこのグレードを設定することに反対したが、主管が押し切って販売したという記述があります。
真偽は定かではありませんが、このクルマの主管である三坂 泰彦氏は、周囲が反対しても主張を貫かれたという話が他にもいくつかありますので、十分にあり得る話だと思います。
2020/4/19追記***
登場直後に放映された新車情報の中でも、「三坂チンスポイラー」「三坂バンパー」と名付けられるくらい、エンジニアの抵抗があったことが披露されていました。司会の三本 和彦氏とのやり取りにおいても、三坂氏が主張を貫かれたことが解ります。
当該のやり取りは30:18あたりから
***追記ここまで
登場少し前から興っていたハイソカーブームもあって、430やY30の年齢層が意外と若いことや、購買層がどういうクルマを望んでいるかが掴めていたからこその戦略だったのでしょうね。
月刊自家用車誌で連載されていた車種別総合研究において、三坂氏へのインタビュー記事があるのですが、それによると「(Y30の)アーバン系は、2%ぐらいしか売れなかった。今度の(グランツーリスモ)は、グロリア系で2割ぐらい売れていて、セドリック系で1割ぐらい売れてて、トータルで14%ぐらい売れている。」と答えられています。
初期受注は、従来からあるブロアム系の人気が根強かったということなのですが、初期も過ぎてブロアム系の人気が下降しても、グランツーリスモは人気が持続します。
結果、1年後には350万円級(VG20DETを搭載したブロアムとグランツーリスモSVの2グレード)だけでシリーズ中の7割を占めるほどになるのです。(この部分、車種別総合研究でシーマを特集した際のインタビュー記事より)
そんなグランツーリスモが1989年(平成元年)6月にマイナーチェンジした時の専用カタログを掲載します。
先ずはセドリックです。

続いては、グロリア
初登場時のインパクトが強かったため、グランツーリスモ=黒の印象が強かったのですが、この時期にはダークグレイ、レッド、グリーンが前面に出ています。
この時の変更は、インタークーラーの追加とハイオク仕様への変更で得た185馬力 → 210馬力へのパワーアップと4速 → 5速ATへの変更が主な内容でした。
フロントエアダムバンパーは、形状変更されたものの、5ナンバー最大のサイズは変わらずであり、V20ツインカムターボ ブロアムが、従来V30用だった大型バンパーと大型サイドガードモールを得て、3ナンバーになったのとは対照的でした。
この変更により、V20ツインカムターボブロアムの特にハードトップは、9割以上が3ナンバーで買われることとなり、ブロアムの拡販に貢献しています。(この部分、車種別総合研究のY32登場時のインタビュー記事より)
このことからすると、グランツーリスモ系が5ナンバーのままに留め置かれたのは、評価が分かれる部分かもしれませんね。
以降、モデル末期には、V20ツインカムターボにグランツーリスモ スーパーSV、V20EにはグランツーリスモSが追加されています。
(その他に30周年記念車も掲載したかったのですが、長くなったため省略)
最後に、いつもの諸考察。
グランツーリスモをブロアムと並ぶ新たな柱としたセドリック/グロリアはY32・Y33と同じ構成を続けることとなります。Y34ではこの構成が崩れますが、同時期に今度はクラウンがアスリートをグランツーリスモ的成り立ちで登場させることとなるのです。
このあたり、トヨタの方がその価値を解っていて、自社にも関わらずその存在を肯定できない日産という、何だかよくある構図が垣間見えてしまったりします。170以降のクラウンアスリートは、どう考えてもセドリック/グロリアのグランツーリスモを受け継ぐ存在としか見ることが出来ませんし。
もっとも私は、Y31ならグランツーリスモを選びますが、クラウンならアスリートではなくロイヤルを選ぶという認識を変えられずにいます。
その理由を考えてみると、Y31に惹かれるのは、「クラウンに寄切られそうになる中で、あえてクラウンから離れた世界観」、「調和よりも個を大事にしたという物語」等であり、その象徴としてグランツーリスモという存在を見ているからなのだと思います。一方でクラウンという安定した世界観の中で構築されたアスリートには、そうした部分を感じることができないからなのでしょうね。
それにしても、その先見性には驚くばかりです。
もっと小さいクラスにはスポーティサルーンは存在していて、それをフルサイズセダンに持ち込んだということなのですが、今や輸入車含めて、このクラスのセダンは、スポーティ抜きでは存在することが困難なのです。
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カタログ話(雑談編) | クルマ
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2015/05/29 21:45:47