
今回は、初代カリーナの内、排ガス規制以降のモデルとなる通称”Bigカリーナ”を取り上げてみます。
この時期のモデルの例に漏れず、純粋なクルマとしては排ガス規制前の方に良さがあるというのが、通説となっていますが、あえてこちらを取り上げてみようかと。
整理が大変な排ガス規制期の変遷をまとめておきたいという私事情も大事です(笑)。
排ガス規制の詳細を知りたい方、あるいは排ガス規制って何?という方は、こちらからどうぞ(国土交通省の資料への
リンク)。
カタログ紹介に入っていく前に、前史を軽くおさらいしようかと思っていたのですが、お友達の
大都会パート12さんが
初期型カリーナを取り上げられていますので、トラックバックさせていただく形として、こちらからはバッサリと省略することにします。
リンク先は、同じ初代カリーナながらも、初期型と最後期に近い型ということで、その変わりぶりを比べていただくのも一興だと思います。おそらく想像以上の変化なのではないでしょうか。
さて、登場以降、1400・1600・2000の3シリーズ、2・4ドアセダンとハードトップの3ボディ体制に広がって、最盛期を迎えていたカリーナですが、1975年2月にクリーンエンジン搭載車が追加されたのを皮切りに、同年10月に本格的な排ガス規制対応モデルとして、このBigカリーナが登場となるわけです。
この時点で、登場から5年近くを経ていたのですから、通常ならモデルチェンジとなっていたはずなのですが、自社の膨大なモデルを排ガス規制に適合させるという大命題を前には、そんな体制は組めずモデルチェンジは先送りという判断がされていますね。
その分、この変更は通常のマイナーチェンジの範囲を超えて手が入っていたりします。(新たに追加されたバンパーモールが非装着の)セダン1600DX同士で比較した場合、全長は45mm増の 4,200mm、全幅は25mm増の1,595mm、ホイールベースは70mm増の2,495mm、フロントトレッドは55mm増の1,330mm、リヤトレッドは10mm増の1,295mmへとそれぞれ拡大。特にホイールベースの延長が目立っていて、どうやらAピラーから前のフロントセクション部を大幅に変更したようです。
この変更は、排ガス対策でエンジンルームに余裕が必要なためとアナウンスされていますが、カローラ系とコロナがサイズ拡大される中で、立ち位置が苦しくなり始めたカリーナのポジションを再調整した効果もありました。
前段はこのくらいで、ここからはカタログの紹介です。
発行は、1976年(昭和51年)6月となります。
最初の見開きでは、セダンとハードトップ、各々の最も特徴的なデザインの部分が強調されています。
初代カリーナのセダンといえば、やはりこの縦テールですよね。
残念ながら好き嫌いは分かれたようで、販売の足枷となった部分はあるようです。2代目以降は縦の分割線を入れることでイメージを残しつつも、だんだんと横型のテールとなっていきます。
モデルライフ中の縦テールは、初期が一番シンプルで、法令改正に沿ってワンテールが廃された時に、新たに設けられたガーニッシュ内にバックランプとリフレクターが位置変更されています。ところが、Bigに至って、ガーニッシュが廃されて、初期にやや戻ったように映るのが興味深い点ですね。
もう一方のカリーナのハードトップといえば、リヤクォーターフィン。
サイドビューではファストバックの流麗さを見せつつ、ノッチバックの利点である後方視界の良さやトランク開口部の面積の確保を両立させたデザインとなります。三菱のギャランFTOが同様のデザインで先行しましたが、こちらがデザインの事例とされることが多いようです。
こちらは好評で、次世代でセミファストバックからノッチバックに変更されたセダンに対して、ハードトップはデザインイメージをそのまま残していますね。
Bigで、一新されたインパネ。画像はハードトップ1600ST。
セリカもインパネは一新されたのですが、あちらは従来のイメージを残したものだったのに対して、こちらは大きな変更となっています。
そのデザインは、大きな一枚ガラスのメーターに加えて、最上段に配された空調吹出し口に代表されるセンターコンソールのレイアウト等、当時としては画期的なものでした。
メーターの視認性を考慮した2本スポークのステアリングもセリカと異なるカリーナ独自の形状で、これも80年代的です。
このインパネは、3代目マークIIとも共通するイメージがあって、その先進性は高く評価されるべきだと思います。
もっとも2代目カリーナではメーターやレイアウト等、やや前代に戻されたのは興味深い点です。Big・2代目・3代目と並べた時に3代目に近いのは、モデルとしては古いBigだったりしますね。
ハードトップ1600STのインテリアです。
深く検証はしていませんが、シート等は大きな変更はされていないように映ります。画像は当時主流のハイバックシートですが、末期にはエクストラインテリアが追加設定されて、ローバックシートも選択可能となります。
空調は、インパネを一新する際に新設計とされたようです。
内外気の切替とエアコンスイッチをモード切替レバーから独立させたフルエアミックスタイプは、これまた当時としては先進的でした。頭寒足熱のバイレベルモードがない点を除けば、80年代以降現在まで続く空調の基礎がここで構築されたと言っても過言ではありません。
サイドデフロスターは、インパネ側方からではなく、両脇の吹き出し口を2段構成にすることで、その役目も負わせているのが、過渡期的ですね。
カタログ本来の順番とは入れ替えて、先にメカニズムの紹介です。
この時期最大の課題だったエンジンの排ガス処理には、当時盛んに宣伝されていた
「複眼の思想」に沿うかのように、3種の方式が存在していました。
詳細は、カタログの記載を参考としてくださいませ。
この中ではTTC-V(複合渦流方式)は先行こそしたものの、ホンダが開発したCVCCのライセンスを取得し試作した色合いが強くて、本命はTTC-C(触媒方式)にありました。また触媒方式と同時に研究が進んだ成果が、TTC-L(希薄燃焼方式)としてこの時期に登場しています。こちらは触媒レスの反面、高回転時のパワーレスと、AT非設定というネガがありました。このTTC-Lは、名前こそ早期に消されたものの、触媒方式との組み合わせで53年規制以降にも残ることとなります。
セリカはTTC-Vの設定がなく、コロナはTTC-Lの設定がないという具合で、3種全てがあったのはカリーナのみでした。
サスペンションは、フロント:ストラットとリヤ:5リンクリジッドという、70年代後半から80年代前半のFR車に多く見られた組み合わせを、70年の初登場時から、いち早く採用していました。同時期のコロナは、フロント:ダブルウィッシュボーン、リヤ:リーフの組み合わせでしたから、足の違いが選択の決め手にもなったわけです。コロナも6代目以降は、カリーナと同じレイアウトとなりますね。
同じく順番を入れ替えて、装備等の紹介です。
8トラックとカセットのどちらかが選択可能なオーディオや、EDモニター等が当時らしい設定ですね。当時のアピール装備だったOKモニターは、コロナのように天井に備えることができず、メータークラスターサイドのやや苦しい位置に備えられています。改良型の一窓式が登場する前ですから、これも仕方がなかったのでしょうね。
ここからはバリエーションの紹介。
先ずはセダンシリーズからです。
規制導入に伴い1400が廃止されたことで、名目共に中心となった1600シリーズです。この時期にカリーナ=1600のイメージが定着した感が強くて、この後もカリーナの量販グレードは1600や1500が長い間占めています。
もっとも厳しい規制の前には、DOHC&ソレックスのGTは生産中止、SUツインだったSTはシングルキャブに変更されています。
自動車ガイドブックの掲載を引用しつつでまとめてみた、排ガス規制関連の変遷は、以下のとおりとなります。
・1975.10.24(11.1発売) マイナーチェンジで50年規制に適合(A-TA14)
・1976.3.25(即日発売) TTC-L(51年規制)の追加(B-TA31)
・1976.5.21(即日発売) TTC-C の51年規制適合(B-TA30)
1400に替わって、新たに設定されたのが1800でした。
このことは、コロナの領域に近づくことも意味していました。
こちらの変遷は、
・1975.11.28(即日発売) 50年規制適合(16R-U)で新設定(A-RA10)
・1977.2.28(即日発売) 3T-Uに換装することで51年規制に適合(C-TA32)
R型では、マークIIやセリカの適合の関係で2000が優先されていて、1800は後回しだったことが垣間見える構図です。結局R型からT型に換装することで、期限切れぎりぎりに設定継続となっています。
当初のR型は、確かに表面上のパワーは1600よりも出ていますが、T型と比べて大きく重かったため、相殺された面もあります。その点、最後期の1800は、末期ということで注目を集めることこそありませんでしたが、同時期のベストグレードと言えそうです。
右頁は、クリーンエンジンとして鳴り物入りで登場したTTC-V
その割に出来は今一つで、酷評されたエンジン群の中でも最も最低の評価だったのが、このシリーズでもありました。
変遷は、
・1975.10.24(11.1発売) マイナーチェンジ(A-RA14)
・1976.3.25(即日発売) 51年規制適合と同時にパワーアップ(C-RA31)
早期の規制適合とそれに伴う優遇税制の適用、豪華装備等のアピールポイントはあったんですけれどね。
未対策時代は、スポーティグレードを中心に2ドアセダンの掲載が多かったカリーナですが、TTC-Vや1800では4ドアのみ。1600もスタンダードの室内写真以外は4ドアが掲載されているといった具合で、既に時代の主流は4ドアにあったことが判ります。実際に、Bigの2ドアセダンは、当時でも見かけなかった気がしますね。
ここからはハードップの紹介です。
セダンと異なる部分のみ取り上げていきます。
ハードトップでは、スタンダードが無い代わりにSRが設定されていました。排ガス規制に伴いシングルキャブ化されたのは、STと同様です。
トヨタの形式名は、50年規制までが数字の部分でボディ形式を類別、51年規制以降は数字の部分は共通となります。
ちなみに、最初のアルファベットが排出ガス規制の識別記号となりますが、51年規制では車重により記号が異なっています。このため、ちょうど境界線上にあったカリーナやコロナでは、グレード違いでBとC、両方存在する可能性があります。可能な範囲の検証はしましたが、例外や間違いがありましたら、ご容赦ください。
・・・ということで、ハードトップでは、50年規制が(A-TA18)、51年規制以降はセダンと共通の(B-TA30・B-TA31)となります。
1800には、あっても良さそうなSRが、実は設定されていませんでした。
型式名は、50年規制がA-RA16、51年規制はC-TA32となります。
TTC-Vのハードトップは51年規制適合時に追加されています。従って型式名はC-RA31のみです。
2000GTは、この時期のトヨタ他車の例に漏れず、最も速くかつ最も豪華なグレードでした。コロナにはセダンの設定があったものの、こちらは未対策時からハードトップのみで、セダンの登場は2代目まで待たされる形となりました。
変遷は、
・1975.10.24(11.1発売) マイナーチェンジ(A-RA17)
・1977.1.11(即日発売) 51年規制適合(C-RA30)
となります。
この他にも、2000のSOHC(18R-U)や1600DOHC&EFI(2T-GEU)の設定が可能だったはずですが、販売施策上の判断からか、初代では設定が見送られ、2代目で実現することとなります。
主要装備一覧です。
各グレードが設定されていたものの、オプションがレスも含めて豊富に用意されていたため、スタンダード以外ではオプションで補うことも可能でした。
1600が中心だったものの、1800やTTC-Vを同グレード間でもやや豪華装備にしてセールスポイントにしようとしていたことが判ります。
小さくて読み取り辛くなってしまいましたが、主要諸元表です。
ATの設定が少ない反面、5速MTが広く選択可能なあたりが、キャラクターを示していますね。
ボディサイズとしては、ちょうど中間。この辺りがファミリーカーとしてもスポーティカーとしても激戦区にありました。
といったところで、いかがだったでしょうか。
このBigカリーナ、カタログを眺めている分には、とてもいいんです。
前輪が前出しされたことで、ロングノーズに映りますし、広げられたトレッドをカバーするためにフェンダーの張り出しが大きくなっているのも、見栄えがします。特にハードトップのスタイリングのバランスは未対策モデルよりこちらの方が良好だと思います。さらに上でご紹介したように、インパネも改善が著しい。
ところが、それらの長所を全く覆すくらい、走らないクルマだったようです。走らないだけではなく、回転落ちも悪く、さらに燃費も低下というのも、よく聞いた話です。
50年や51年規制というのは、処理方式が定まらない中で、規制値をクリアすべく暗中模索を繰り広げた時期でした。各社、大なり小なり走りはスポイルされたようですが、その中でも最も大きな影響を受けたのがトヨタというのが当時の定評ですね。膨大な車種の対応に忙殺されていたのが、その原因だったようです。
そんな理由から、このクルマも少し前の安全コロナ同様、1980年代初頭までは中古車として再販されたものの、1982年頃には店頭に並ばないクルマとなっていました。年数換算でも早々に消えていった感が強いです。
だからこそ、今になってこうして見直してみるのもいいのではと思ったりします。見過ごされていた部分に光をあてる、それはここのお題目の一つでもあるのです。