売り手と書き手の思惑が混ざり合ってか、新型クラウンの記事を多く見かけます。
その中に、「今回の一新はタクシー、パトカー、法人車といったイメージからの脱却を狙った」といった趣旨のものがありました。これ、はるか以前にも見かけたような既視感がありまして。
今回はそんな話で書いてみることにします。
思い返すと、クラウンの長い歴史というのは、フォーマルとパーソナルを両立させることで積み重なってきたと言えそうな。21世紀のクラウンは、一つのボディでこの両方を成立させていますが、それ以前は4ドアという枠組みの中で別ボディを成立させ、フォーマルとパーソナルを両立させる手法を取っていました。
その話に入っていく前に軽く前史を書いておきます。
そもそもクラウンは、初代から2代目の初期くらいまでは、フォーマル用途が主という成り立ちでした。ライバル関係にあったオースチン→セドリック、スカイライン→グロリアとの関係においても、その傾向は顕著だったわけです。
その傾向が変わってきたのは、2代目の中期以降。豊かになったことでオーナー層の需要が増え、ついにはフォーマル層の需要と逆転していきます。続く3代目、4代目というのは、そうした需要に応える形でフォーマルからパーソナルに振れていった時期と理解しています。3代目のオーナーデラックスやハードトップ、4代目のスピンドルシェイプ、そのどれもがパーソナルに向けたものでした。
結果、3代目は商業的にも成功したものの、4代目は成功とは言い難い状況となってしまいます。4代目とほぼ時を同じくして登場した3代目セドリック/4代目グロリアが、フォーマル層の需要を奪取。翌年にはクラウンに先んじる形で4ドアハードトップが追加され、オーナー層にも好評をもって受け入れられることとなります。
クラウンも、マイナーチェンジで対抗するものの、ここに至って、2ドアと4ドアという分けのみではなく、4ドアの中でフォーマルとパーソナルを分けることが必要になったのです。
ここまでが前史ということで、ここからは画像を入れつつでセダンとハードトップが併存していた時代を紹介していくことにします。
〇5代目(1974年登場)

この代で初めて4ドアハードトップが登場。
ハードトップ=ピラーレスという認識だった時代において、安全性や剛性を理由とすれども、ハードトップを前面に立てることには躊躇いがあったようで、4ドア・ピラードハードトップと謳われていました。初期のカタログには、パーソナルセダンという併記も見受けられます。
デザイン手法としては、フロントからBピラーまでをセダンと共用、Bピラー以降は2ドアと共用ということで、セドリックに近い(の後を追った)成り立ち。センターピラーを残した4ドアと、センターピラーを省略しつつオペラウィンドーを仕立てた2ドアという分けはクラウン独自とも言えますが。
従来の4ドアセダン・2ドアハードトップの需要の一部は、4ドアハードトップに移行。その数は想定以上だったようで、クラウンの代名詞的存在に成長してゆくこととなります。
セダンは、ハードトップの登場を受けて、先代比で室内高やリヤドアを拡大。スタイルを気にせずに後席重視に振ることが可能になりました。比べてみると、Cピラーの傾斜角、それに伴うキャビンの大きさでセグメントしていると判ります。
〇6代目(1979年登場)

5代目は明確にセダンベースを感じさせる成り立ちでしたが、この代では一部部品を除いて、基本的にはパネル類を別部品としたボディとして登場しています。
一方、フロアシフトでは別デザインを採用していたインパネは、タクシー用インパネを作った影響なのか、メーターを除いて共用とされています。
これ以降、トヨタにおける4ドアセダンと4ドアハードトップの関係は、同様に外板のパネル類を別とするのが、不文律となっています。
ハードトップのCピラーの傾斜角をセダンより強めたのは、5代目と同様ですが、新たにラップラウンド・リヤウィンドーを採用することで、視覚的にもよりキャビンの小ささを感じさせることができるようになりました。
〇7代目(1983年登場)

先代で別ボディとなったセダンとハードトップは、この代でさらにイメージを分ける形となります。一旦共用となったインパネも、ハードトップのフロアシフトは再び別デザインとなりました。
ウェッジシェイプの採用とベルトラインを一段下げてキャビンの明るさを強調するのは共通の手法ですが、ハードトップではキャラクターラインの位置をあえて下に置くことで、ノーズの低さをさらに感じさせるデザインとしています。この手法は、ノーズの低さ=車格の低さが危惧されたことで、役員審査の回数を通常より増やしたという記事が当時ありました。
結果、ハードトップは従来にない若さが幅広い年齢層に受け入れられて大成功。ハイソカーブームにも乗って、販売台数にも大いに貢献することとなります。
一方のセダンは、フォーマル層を意識過ぎと判断されたようで、オーナー向けには売り難いという評価だったようです。6代目までは、ハードトップの比率が増え続けつつも、ほぼセダンと同率といった状況でしたが、この代に至って、完全にハードトップが主流となります。
〇8代目(1987年登場)

同じ主査が担当したことで、好評だった7代目のイメージを受け継ぎつつ、長所を伸ばしまた短所を潰して生まれたのが、この8代目です。
7代目のハードトップは好評だったものの、伝統的な格調と重厚さが重視されたことでフロントマスクは量感を増す形となりました。手法が6代目以前に戻ったという評もありつつ。
またセダンの復調も課題だったようで、セダンもまたややキャビンを小さくし、レンズ類のデザイン共々ハードトップのイメージに近づけることとなりました。7代目を色濃く残す中でも、セダンはハードトップに近づいたというのが、比べるとご理解いただけると思います。
この代でワイドボディが加わったハードトップは、先代以上に比率を伸ばし、結果セダンはフォーマル用途に特化するという方針となっていくこととなります。
〇9代目(1991年登場)

当初予定のなかったセルシオの国内導入や主査の交代は、クラウンの形を大きく変える契機となりました。
9代目・10代目を担当された主査は、クラウンはハードトップという強い意志をお持ちだったようで、ハードトップをマジェスタとロイヤルに分化する一方、セダンやワゴンは8代目を一部改良のみで継続するという選択をします。
セダンは、フロントドアとリヤドアの下半分を残して、その他のパネル類を一新することで、全面改良となったハードトップとの共通性を感じさせるデザインとされています。この変更は、8代目でややスリム(特に後席頭上空間)になったセダンのキャビンを再び後席重視に戻す効果もありました。
ハードトップ、特にロイヤルはパーソナル向きに振ったものの、伝統から離れたデザインは評価が今一つとなり、1993年のマイナーチェンジでは、好評だった8代目を連想させるデザインに戻されています。
〇10代目(1995年登場)

景気の後退は、マジェスタへの移行を果たせず再びロイヤルが中心という形で再定義されることになります。その分、マジェスタは提案型になれたという見方も出来そうです。
今回はセダンもハードトップ系に僅かに遅れる形で、フルモデルチェンジを受けました。バンとワゴンは8代目のまま継続。
セダンのロワーグレードは、クラウンコンフォートに分かれたのもこの時です。
マジェスタに続いて、ロイヤルとセダンも長年続いたペリメータフレームを外しモノコックボディとなりました。ロイヤルとセダンのシャシーは、先に登場していた90マークII系を延長したものを採用。このシャシーは、元々3ナンバーサイズの設計ということから、5ナンバーの幅に収めるのは苦しく、セダンではタイヤとホイールサイズをロイヤルとは分けることで、何とか成立させています。
この時期には、クラウンのデザイン様式が確立された感があって、幅の違いはあれどもハードトップとセダンでデザインを明確に分けたと感じる部分は少なくなっています。セドリック/グロリアもほぼ同時期に変遷を重ねていますが、歴代間の振れ幅はもっと大きいと感じそうです。なお、セダンとハードトップをこうして並べると、ナローボディとワイドボディの対比の感もあったりします。
この5代目から10代目の間が、フォーマル=セダンとパーソナル=ハードトップという形で、両立に苦心しつつも成立できていた時期となります。
この後の11代目では長年続いたハードトップからセダンへの一大変革に加えて、当初こそ、9代目の時と同様、10代目のセダンを併売する形となりましたが、2年後には11代目のみに統合されることとなります。
11代目以降、従前のロイヤルシリーズに加えて、新たにアスリートシリーズが登場したことも影響しているのでしょう。以降、先に書いたとおり、14代目まではフォーマルもパーソナルも同一ボディの中での対応を続けてきました。
15代目に至って、再びこの2つの分けが課題として浮上したのでしょうね。
これまでと異なるのは、両方を追うのではなく、パーソナルに特化する方針としたこと。この選択の背景には、冒頭に掲げたようなフォーマルに類される需要が段々減ってきていて、さらにその一部はアルファード等へ移行したという分析があるからなのだと推測します。
私的には、マークXやレクサスISが存続する以上、先代の一部を残すという形がこれまでの慎重な選択とも重なって理想だったように思いますけれども。その方が新型である15代目をより割り切って作れた気もするのです。おそらく、その過程では幾多の審議があって、その結果イメージの変化をより優先した結果ということだと思うのですが。
この選択の是非は販売台数が決めることになるはずですし、その結果は次の代の姿を決定することにもなりそうです。
あまり自分のクルマというイメージに繋がらないものの、何かとそれでも推移を気にせずにいられないのがクラウンというクルマではあります。
【画像の引用元】
・FavCars.com
ブログ一覧 |
新型車雑感 | クルマ
Posted at
2018/07/23 22:01:04