
2019年もそろそろ年の瀬を迎えようという、この時期に更新をしてみます。
しかも久方ぶりのカタログネタということで。
いざ、始めてみると、編集機能が昔よりも減って、不便になっていることを実感し。基本機能以外は、タグを使って直接編集しろということなのでしょうか。。。
愚痴は早々に切り上げて、本題へ。
今回は、標題のとおり、1987年に発行されたカローラ店のパンフレットから、6代目カローラが登場した時のものを取り上げることにします。
この6代目は、半世紀以上に渡るカローラの長い歴史の中でも、国内で特に売れたモデルであり、1990年に記録した年間30万台越えの記録は歴代でも最多。これは、エコカー減税の追い風を受けたプリウスに破られるまで、不倒の記録でもありました。
この台数の多さは、バブル景気の影響が大きいと思う一方で、カローラ自体の魅力が寄与した部分も大と言えます。個人的な感想の前提で書けば、カローラの歴史の中で、分岐点かつ記念碑的なモデルは、3代目、6代目、9代目と思っています。偶然にも3世代ごとでありまして、今回の12代目もこの仲間に入れたいと思いつつも、やや躊躇を覚えるのは、この3世代から感じた貪欲さが、今一つ足りないように感じられるから。
先ずは個人的記念碑認定の中でも1・2を争う6代目を振り返った後、現行モデルと対比させることで、何が物足りなく感じさせているのか、私感に繋げてみようと思い立ったということで。
思い入れの強さから、みん友さんのコメントでやや書き過ぎたかなと思えた部分も、自分のところでなら遠慮なくやってしまいますよと(笑)
前段が長くなりましたが、それでは6代目の紹介に入っていきます。
最初の見開きでは、この世代のイメージリーダーとなるスーパーホワイトIIの1.5SE LIMITEDを掲載。
大き目のコピーで「近未来への分岐点」が掲げられ、表紙でも使われた「ニッポンの自動車の新しい物語が始まります」も再度本文中に書かれています。
当時は大袈裟に思えたのですが、今振り返ってみると、この時に見せられた変革は、そのコピーも大風呂敷とは決して思えません。前年度に登場したソアラ、スープラ、カムリ/ビスタにその予兆は感じつつも、このカローラが本格的な分岐点。ここからセルシオ登場に至るまでが、黄金時代だったと改めて強く思います。
カローラがここまでやったから、上級車種はもっと頑張らなくちゃ許されない、そんな存在だったのです。
時代は、贅沢志向を強めていて、自動車技術も円熟の域に入りつつありました。そうした背景の中でどの技術を選択し、練り込んで、一台のクルマを作り上げていくのか、作り手の卓見が成否を決する。今以上に過当競争だった時代にあって、このモデルは作り手の凄みを時を経るほどに強く感じます。
前の見開きに続いてスタイリングの紹介。
5代目までのカローラは、同級車の中でもやや背が高く、パッケージング重視を感じさせるものでしたが、この世代に至って、低全高化。外観の評価が今一つだった先代への反省もあってか、スタイリング重視に舵を切ります。
その成果は、水平基調のロアボディに富士山型のキャビンに結実。日本人が素直に受け入れられるプロポーションはやはりこの辺りだと思えます。Cピラーを曲面で構成したのは、やや新しい点。意外と直線も残しながらも、新しさを感じさせる要因でもありました。
デザイン自体は、カリーナEDに端を発する流れの中にあり。間違いだらけのクルマ選びでは、アウディ100からの影響が書かれていますね。
この後、トヨタのセダンは、セルシオ登場まで、この形の相似形で構成され、金太郎飴と評されることになります。口の悪いのは評論家界隈、マニア界隈であって、市場の評判は、何となく上品で悪くない、嫌われないデザインという事でむしろ好評だったように思います。軽自動車を除いた登録車のシェアでは、トヨタが半分近くを占有していた時期となりますが、街中でもその台数の多さが気にならない、このデザインにはそんな特徴もありました。これと比べると今のトヨタ車のデザインは・・・以下自粛。
ボディカラーのスーパーホワイトIIは、先代では末期の限定車のみに設定されていたものですが、この世代になって全車に採用。スーパーホワイトは、ここまで高級設定の認識だったものですから、感慨深いものがありました。
1987年は、ホワイトの比率が一番高かった時期でもあり、発売当初の街中ではこのホワイトカラーを多く見かけました。その後はホワイトブームへの反動もあって、グレー等も一定比率を占めるようになります。
続いてはエンジンとサスペンションの紹介
この世代で何が一番驚いたって、やはりハイメカツインカムです。
カムリで既に登場していた技術とはいえ、それは量販グレードとは異なる上級グレードのみの設定。それをカローラでは、最多量販かつ主力グレードとなる1500に全車採用ですから。
直上となるコロナ/カリーナはもちろん、更に上のマークII3兄弟の最多量販グレードも、オーナー層の最上級となるクラウンですらお買い得グレードではシングルカムが主力であり、4バルブツインカムはあえて選ぶ高級な設定だったのです。この後は、このハイメカによるツインカム化が進み、やがてはフルラインハイメカツインカムと化するのですが、それでも十分なインパクトでした。
余談半分で書くと、ベースとなったA型エンジンは元々縦置き想定だったらしく、横置きが主流の時代になって、カローラで継続採用すべきだったのかは悩まれていたようです。
前代のモデル途中で、1300は3バルブのE型に換装。1500も前年のカローラII兄弟で登場していましたから、こちらを選択する選択肢もあったようで。私自身もE型の予想でした。
さらにA型でも3バルブでやるか4バルブにするかは悩まれたようでもあり。
A型を継続採用するにあたっては、ボアアップとハイメカツインカムの採用。結果的に1990年代末期までカローラシリーズの主力を支える形になります。
この時期、インジェクション化は想定に入っていたようで、キャブ仕様で登場したのは過渡期的ではありました。翌年に(GTを除いた)最上級のSE LIMITED EFIを追加した後、マイナーチェンジではインジェクション化が行われることとなります。
この変更の直前にコロナ1500をキャブ仕様で契約した(納車前の)身には、とても厳しい仕打ちでもあったのです。
サスペンションは、基本的に先代技術の熟成版。フロアパネル共々、2世代に渡って使うのが当時の基本方針でした。むしろ特記すべきは、一部に残っていた初代から続く縦置きFRを整理して横置きFFに統一したこと。
今でこそ、最後のFRとなったAE86の名声は高まりましたが、当時はこの集中と選択はむしろ歓迎されたくらいでした。この代のレビン・トレノは、それまでの3ドアが廃止されて2ドアのみに絞られましたが、ミニソアラ・ミニスープラ的存在として、むしろユーザー層を広げることに寄与しています。
これまた余談で、主査を務められた斎藤明彦氏としては3ドアをやりたかったそうですが、仕様が限られる中で泣く泣くドロップした、という当時のインタビュー記事があったりします。3ドアはヤング男性が主になりがち。2ドアはもう少し幅広い層に売れる。だから2ドアのみに絞ったと。ヤング男性向けのデバイスとしてエアロパーツを設定。そんな事情だったようです。これまた想定通りに、エアロとMTで男性が買い求め、エアロレスとATで女性が買い求めた。もちろん例外はありますが、そんな印象が残っています。
左頁にはインテリアの紹介
7代目クラウンが口火を切り、続くマークII3兄弟が時代のアイコン的存在にまで普及させたワインレッドの内装色が、カローラにも採用されています。当時の高級感の代名詞でもあります。
シートのデザイン自体は、それほど派手なモノではなく、むしろこの後の流れの基礎となるシンプルモダンなモノとなります。
先代前期では5:5分割のトランクスルーが採用されていましたが、後期のSE系ではトランクスルーが廃される替わりにリヤセンターアームレストが採用。この代でもセンターアームレストが選択されています。今では考えにくいのですが、当時はユーティリティよりも高級感の方が好まれた一環の設定と言えます。
この世代、特に前期で指摘されたのが、ドアパネルに平面で張り付けられたパワーウィンドウスイッチ。まだまだマニュアルウィンドウの方が多かったこのクラスにおいて、並立させるにはこの形状が善と判断されたようですが、さすがに操作性には難あり。
社用車としても購入した当時の月刊自家用車誌では、何度も繰り返しで指摘していたものでした。マイナーチェンジではアームレストに組み込む形で改善が施されることになります。
右頁はインパネの紹介
先代では解放感を重視して、最上段のラジオ配置を廃したり、インパネとコンソールの分離を行っていましたが、この代では、もう一つ前となる4代目のデザインへの回帰を感じさせるものとなりました。
質感の点では、このクラスの平均をはるかに超えて、上級車と比較できるレベルにまで成長。操作アプローチ量の低減が配慮されるようになったのも、このカローラが発端です。
このクラスの豪華装備設定は、ファミリアのS-XEが端緒で、サニースーパーサルーンがそれを流れを加速させていましたが、決定版はやはりこのカローラ SE LIMITEDだと思っています。
先代からの流れや1500ガソリンのみの設定から推測すると、SE LIMITEDはそれほどの比率を占めるとは思われていなかったのかもしれません。しかし急速に贅沢志向を強めていた時代にあっては、その豪華装備は大いに歓迎され、カローラの販売台数の後押しとなったのです。
バリエーションの紹介です。
左頁は自家用車が主、右頁は営業車が主の分類と言っていいと思います。
左頁の中でLIMEはやや特殊。当時流行した女性仕様車の末裔であり、マイナーチェンジで設定廃止となります。
先述のとおり、SE LIMITEDをイメージリーダーにしつつ、唯一のスポーティグレードとしてGTを設定。両車でイメージ構成を計りつつ、XEが最多量販で台数を稼ぐという体系でした。
先代までは、GT以外のスポーティグレードも途中途切れながらも設定されていたのですが、この代ではGTのみに集約されています。リヤドア付のスポーティを望む向きにはFXの5ドアで対応する、それは両ボディのイメージ構成にも有効と考えられたことから、セダンには不要と判断されたようです。
もしかすると、セダンのユーザー層を高齢化させる分岐点だったのかも、というのは穿った見方でしょうか。
GTとSE系は5MTと4ATの設定の一方、XE以下は4MTと3ATの設定。私的には大きな格差と思えましたが、当時は4MTと3ATでも十分という認識の方が多かったようです。
もっとも、時代背景もあって、想定よりもSE LIMITEDは多く売れましたし、XEの上級化が望まれました。翌年には上級版となるXE SALOONが登場し、特別仕様としてXE SALOON LIMITEDも登場。SEはその影響で、末期にはひっそりと消されていたりします。
前代との対比では、XE:GL SALOON、TX:GLとなり、XEとTXは元々は近い筈だったのですが、この代で明らかな形で分離されています。4代目くらいまでは営業車といえばDXが殆どだったのですが、この時代になるとTXを購入する事例も増えてきます。この時代のレンタカーも1300TXが大半でした。
裏表紙には、カローラセダン以外のカローラ店の取り扱い車種が掲載されています。
セダン系はカローラとカムリの二本柱、クーペ系はレビン、セリカ、スープラという体系でした。
カローラバンはFRのまま掲載されていますが、この後数ヵ月でFF化されて、2世代分の進化を果たすことになります。
といったところでいかがだったでしょうか。
懺悔も込めつつで告白してしまうと、登場当時、家には5代目の最初期モデルがありましたから、この6代目というのは素直に受け入れられないものがありました。
5代目は使い易いファミリーカーとして、歴代でも珍しく理知的に構成された世代であり、その視点からすると6代目は、当時の一大ムーブメントだったハイソカーブームに流されて売れ線を狙ったというように映ったのです。
ところが、その背景にあったのは、膨大に広がった選択肢の中から新時代を見据えて必要な選択と集中を行った確かな目であり、ここまである種の劣等感を感じさせた要素を排除し、これ一台で満足できるものを作り上げようとした貪欲さでした。
当時の私はそこを見抜けなかった。時代を経るほどに、その事情を知るほどにこの代の凄みを再認識させられたものです。
冒頭で書いたとおり、その貪欲さはトヨタの黄金時代の基礎にも成ったほど。もちろん、他社にも影響を与え、このクラスの新たな基準ともなりました。トヨタのセダンという縦視点から見ても、Cセグメントという横視点から見ても、新たな時代が始まるは、決して大袈裟ではない、そう思うことが出来ました。
そしてその基準は、同じ横置きFFながらも、もう一つの雄である、VWゴルフとは明らかに異なる和の文化を感じさせてもいました。
この代を纏められた斎藤主査は、次代の7代目の登場を見届けて次の職に移られました。カローラの長い歴史の中でも、この6代目の飛躍とその流れの延長線にある7代目の到達は、一つの頂点として最も輝いて映ります。
この時代にも、カローラという名前だけで、ある種の評が定着しつつありました。この代はそれを見事に払拭して見せた。
3代目と9代目との共通性を見出しつつ、この代を分岐点&記念碑と称した理由がここにあります。
30年以上の時を経た今年、カローラはシリーズの本流となるセダンとワゴンのモデルチェンジが行われました。これまでのトヨタは、ずっと長い間、セダンとワゴンに冷淡だと思ってきました。今回のモデルは、ようやくと思える存在。近年多くなった、海外向けの単なる流用ではなく、日本市場向けの配慮も多く見受けられる。だから、個人的に高く評価もしています。
でも、カローラにはこの代に限らず、長い歴史の中で何度も驚かされてきたんですよ。海外の仕様も情報として得られるだけに、国内仕様だってもっとやれたんじゃないかという思いがどうしても拭えない。
皆さんご存知の通り、セダンやワゴンは、軽自動車・コンパクトカー・ミニバン・SUVに包囲されていて、市場では明らかに退潮傾向にあります。もしかすると、今回のカローラの成否は、この国におけるセダン・ワゴン市場の存続の可否にも繋がってしまう可能性を背負っているのかもしれない。
であるならば、もっと貪欲さを見せて欲しかった。社内の車種の序列なんか気にせずに、これ一台で十分、これ以上は要らないという説得力で新しい物語を作り始めてもらいたかった、そんな風に私は思っています。
時代は大きく変わりましたし、カローラの社内の位置付けも変わっているのだと想像します。私が書いたような思い切りがやれない理由はきっと沢山。ミドルセダンの最後の輝きだったマークXもついに生産が打ち切りとなってしまった。そんな現在において、それでも、何となく期待してしまうのは、その対象がカローラだからなのでしょうね。
※久しぶりの長文でもあり、思い入れ過多故の書き過ぎが見受けられましたら、ご容赦下されば幸いです。