
今年は暑さが続くなぁと思っていたら、それまでの分を取り返すかのようにいきなり寒くなり、戸惑っております。
季節の変わり目でもあり、体調を崩しやすい時期、くれぐれもご自愛くださいませ。このご時世だと、風邪をひいて発熱でもしようものなら、噂話に尾ひれがつく可能性もアリ。例年以上の体調管理が肝心ですね。
時節話は早々に切り上げて、思い出のクルマ話、第36回です。
今回は、2代目ランサーフィオーレを取り上げることにします。
同車は、ちょうど37年前となる1983年(昭和58年)10月21日に登場。
初代の登場は、1982年(昭和57年)1月22日でしたから、何と僅か1年9か月でのモデルチェンジでした。
もちろんこれには理由があって、ベースとなったミラージュは1978年3月に3ドアが登場。同年9月に5ドアを追加した後、ランサーフィオーレの登場と同時に4ドアを追加して、ミラージュIIに車名を変更するという、やや複雑な変遷を辿っています。
最初のミラージュ3ドアから数えると5年半強となりますから、初代ミラージュはむしろ長いくらいのモデルライフだったとも言えます。4年近く経ってから4ドアを追加するというのが異例ではありまして。日本の小型車のFF化が進行する中での過渡期的展開がここにもあったと言えるでしょう。
三菱的には、前年に登場したコルディア/トレディア、スタリオン等が期待の割に販売成績に反映せずの状況でした。直前にFF化を果たしたギャラン&エテルナシグマに続く、ミラージュ/ランサーフィオーレというこれら主力車種のモデルチェンジは、反転の機会として期するものがあったであろうことは、間違いありません。
さて、ここからはカタログの紹介に入っていきます。
最初の見開きでは、表紙に続いて、ラグジュアリー系のトップグレードとなるCXエクストラが、専用色グレーストーンで掲載されています。グレーストーンは、カイザーシルバーにベージュの組合せだったようです。
このCXエクストラは、ハッチバックを主力とする姉妹車ミラージュ4ドアには設定のない、ランサーフィオーレの専用グレードの一つであり、同車のイメージリーダーともなっています。
先代もプレスドアの採用を始め、全体的にクリーンな印象のスタイリングであり、モデルチェンジでそれをさらに洗練させた感があります。
今回取り上げるにあたり、スペック等を再確認したのですが、パッケージングとしては、Aピラーから後は先代の踏襲。フロントトレッドを拡大し、エンジンコンパートメントも横方向に拡げたようです。拡げた理由は、ライバル車への対抗もあるものの、その最大は恐らくディーゼルを搭載するためと推測します。
キャッチコピーは「若い大人の・・・」。中高年層を主購買層と想定しつつ、大人の雰囲気を求める若者、あるいはヤングファミリーにも支持を拡げたかったのでしょうね。
当時の最多量販価格帯に設定されていたCG-Fのリヤビューと共に、スタイリングに関する解説が書かれています。
先述の通り、リヤビューは先代の面影を残すもの。ハッチバックからは4年遅れたとはいえ、先代から2年足らずでのモデルチェンジですから、それも当然かと思います。
先代はハッチバックをベースにトランクを後付した感が、どうしても拭えないものでした。この代は当初からセダンの検討が含まれていたのでしょう。プロポーションとしては洗練されたように感じます。
先代のボディサイズは、全長4105mm、全幅1590mmということで、一回りのサイズアップが行われています。
デザインの基調は、当時としても先進的に映るフラッシュサーフェス。注目点は、サイドカットオープニングフード、ブーメラン型ランプ、シンプルなフロントグリルが集まるフロントマスクにあるというのは私感。当時としてもモダンなルックスに映りましたが、市場評価としては理解が進まず、年次改良で加飾を加えつつで一般的な方向に舵を切ることになります。
インパネの紹介頁です。
先代の空調吹き出し口は助手席以外、インパネの下寄りに配置されていましたので、モデルチェンジに伴い内部構造は一新。ギャラン風にメーター下段にスイッチ類を集めた作りも可能だった筈ですが、こちらは先代同様、ライトとワイパーのみに留めています。
デザインのテーマは「できるだけ広く。見渡せて、しかも全て自分でコントロールできるもの。」とあり、イメージするものとしては「放送局」あるいは「オーケストラの指揮者」という言語が、当時の設計陣から語られています。
CXエクストラは、最上級ということもあり、液晶式電子メーター、オートヒーター、AM/FM電子同調ラジオ、フロントパワーウィンドが標準ということで、当時の同クラスとしては、かなり豪華な装備設定でした。
設定の狙いとしては「まだ贅沢ですが、客の需要をみてみたい。将来はこういう方向にいくと思う」「お客様の、ユーザー志向が多様化の方向になっている。豪華なもの、より上級グレードのものをほしがってきている」「大衆車クラスにサイズダウンする人たちも、装備は上級車にあったものを、そのままほしいという人が増えてきている」ということが語られています。
その後の動向も含めて正しい読みだったと思いますし、最後の部分はうちが正しくその一人でもありました。
インテリアの紹介頁です。
CXエクストラのフロントシートは、実はスポーティ系と共通の形状となります。
インテリアカラーをブラウンに、シート生地を高級ニットにすることで、高級感を演出しています。インテリアカラーやシート生地は、同時期のカローラ/スプリンターSEサルーン、サニーSGLエクストラ等と同じ印象を受ける部分です。
先代由来のパッケージングの不利を意識したのか、フロントのシートレールやドアガラスレギュレーターによるスペース創出の工夫が書かれています。今とレベルの違いこそあれ、室内の広さが重要視された時代ですね。
分割可倒とセンターアームレストを備えたリヤシート、トランクの内張等は、カローラ/スプリンター以上のきめ細かさだったりします。後の改良で追い付くあたりがトヨタの抜け目のない所でもあり。
メカニズムの紹介頁です。
実はエンジンは全て変更されていたりします。
先ず、1.3と1.5は先代の1.2と1.4からの拡大。同クラスは偶数排気量から奇数排気量に主流を移していましたので、ようやく追いついた感もありました。販売サイドの意向が語られていて、他車比-100ccと思われがちだったと。
1.6もあったことから、1.2を落として1.4と1.6にする案も質問されていますが、「間・間といくよりは…」「今までの1.4を1.6に上げるのは難しい」と返されています。1.5に税制の境界があり、1.2と1.4はオリオン、1.6はサターンと系列も異なっていましたから、主力を1.4と1.6の二本立てにする選択は考えられなかったでしょうね。
1.3は1244cc→1298ccで、1.5は1410cc→1468ccで対応しています。どちらもボアアップですから、1.5はこの辺りが限界だったのだろうと推測。同時期の1.5としては、トヨタ3Aの1452ccに次ぐ排気量の小ささとなります。
ターボは1.4のオリオンから1.6のサターンベースに変更。コルディア/トレディアが先に搭載したキャブターボを、両車が1.8ターボに移行したことに伴い、ECI化して流用したという見方もできます。同クラスのターボは1.5が多数派だった時期であり、100ccのアドバンテージがありました。
ディーゼルはこの代で初登場。このディーゼルは、後にターボが追加され、シグマに搭載されることにもなります。このシリーズだけに積むなら、一回り小さいサターンベースの方がベターだったように思いますが、小排気量ディーゼルの難しさと他車との共用を考慮しての選択でしょう。ちなみに、先に存在していた2.3のFR用ディーゼルは大き過ぎて搭載は無理だったとのこと。
ミッションは従来からの4速MT、4×2のスーパーシフト、3速ATに加えて、新たに5速MTとELCオートマチックが設定されています。
元々ミラージュは、当時の多数派が採用する、右ハンドルの運転席側にエンジン、助手席側にミッションという配置とは逆の置き方を採用して登場しました。シビックの後を追ったかなと推測させる配置ですが、エンジンを逆回転させた本田に対して、FRとの共用もある三菱は逆転も出来ず、ミッションで逆回転させることにします。逆回転ギヤに副変速機能を持たせ、アピールポイントとしたのがスーパーシフトの出自となります。
5速MTはターボとディーゼルのみの設定。従来はスーパーシフトだったターボのミッション設定をどうするか、議論はあったようです。5速にするか、スーパーシフトも加えて燃費とパワーを両立させるか。「走りを重視し、性能一本でいったらいいんではないか」が選択の理由とのこと。
実は市場模索も兼ねていたようで、翌年の年次改良では継続扱いのスーパーシフトは廃され、5速に変更されることになります。
ELCオートマチックは、ミラージュへの設定はなく、ランサーフィオーレのCXエクストラのみが選択可能でした。電子制御と2速・3速のロックアップを備えた効果は、燃費データへの反映が読み取れますが、通常のオートマ+2万円が設定拡大を躊躇わせたかなと。
バリエーション一覧です。
この内、GSR・CXエクストラ・CG-MDは、ミラージュだと5ドアへの設定(ただしCXエクストラではなくCXスーパー)となり、4ドアではランサーフィオーレのみで選択可能でした。
最近知ったのですが、GSRは翌年の年次改良でカタログから落とされています。ミラージュ5ドアは継続していたので、4ドアの廃止は意外でした。4ドアのターボならランサーEXを買われたのかなと。この改良では、CXエクストラがミラージュ4ドアにも追加されている点も含めて、三菱らしい設定の目まぐるしさがありますね。
大人向けという狙いからか、ボディカラーは地味目が多く。グリーンやブルー等の設定が無いのは珍しく感じます。反面、グレードにもよりますが、内装色はブラック・ブラウン・グレー・ダークレッドと豊富な設定。
サイドカットオープニングフードは、当時はまだ多かったフェンダーミラーの設定が難しかった筈ですが、フード側に設置する形で対応しています。
装備の紹介と主要装備一覧、そして主要諸元表と続きます。
装備の違いだけかと思ったら、実はメカ部分もきめ細かく違うのが、三菱の特徴。先に紹介したELC-ATに加えて、燃費向上を狙った1.3のエレクトロキャブ及び1500のMD等、既にこの時期から、なんでこんなに作り分けるんだろうの片鱗は見受けられますね。
といったところでいかがだったでしょうか。
FRでスタートしたランサーと、後からFFで加わったミラージュ。小型車のFF化が決定的となる中で、やや異なりつつもクラスの重なる両車をどうするのか、三菱はとても悩ましかっただろうと推測します。
選択は、当時のランサーEXと同クラスにミラージュをベースとしたトレディア/コルディアを投入。さらにミラージュには4ドアを加え、その姉妹車にフィオーレのサブネームを付けつつもランサー名を語らせる方法でした。
後発のFF2BOXは、伝統的なカローラ・サニーに対してややクラス下に見受けられてもいましたから、この選択は上下から包囲できるという目論見もあっただろうと推測します。
結果は、買い手を困惑させることとなり、その皺寄せは、新型車で一番ネームバリューの乏しかったトレディアが受けることとなります。取扱チャンネルを変えつつも、ランサーEXからの移行を想定していたトレディアが早々に失速した理由の一つですね。
トレディアの失速により、このフィオーレはランサーの代替需要も急遽担うこととなりました。三菱は、他社とはクラスを微妙にずらすことで、売り上げを伸ばせるという考えは、その戦略が外れたことで、新たな対応を迫られることになるのです。
この代の4ドアには、先代4ドアとの関係、トレディアとの関係が影を落としていることを感じます。前年に登場したこの2台が、サイズやシャシーの選択に影響しているように見受けられるからです。
エンジンこそ他社と揃えられたものの、先代のシャシーの多くを踏襲したことで、ライバル車よりもやや小さなサイズというハンデを背負うこととなりました。4ドアだけでもトレディアのリヤセクターを共用していれば、そのハンデは払拭できたように思います。でも、その選択はできなかった。改めて見直すと、全体計画の策定とその采配の難しさが伝わってくるかのようです。
ここからは思い出話を。
このランサーフィオーレは、
カローラに代替する際に彗星のごとく、浮上したクルマとなります。
父は私が物心つく前から、とある自動車整備工場、所謂モータース屋さんと親しくしていて、車検はもちろん整備や装備品の後付け等も含めて、ほぼお任せしていました。
そのモータース屋さんは、全社の取り次ぎを可能にしつつも、一番の取次先は三菱(カープラザではない方)だったのです。
マークII、ましてや中古車となると、三菱に相当する車はなかったのですが、対象がカローラとなると、三菱の新型車も検討されては?というのが話の発端。
希望はハッチバックではなくセダンということもあり、お勧めされたのがランサーフィオーレ。グレードは中間のCG-F。この部分は朧気ながらですが、奥様も運転されるのなら、ということでATの見積もりをもらっていたように記憶します。これからはATの時代ですよ、という話もあったような。
話を聞いてきた父は、どう思う?と私に見解を求めまして。
私としては、最上級のCXエクストラの豪華装備に魅力は感じたものの、父がデジタルメーターがダメということで、これはボツ。それでも内装色や装備の設定等、女性向け仕様のCG-Fではなく、CXを候補にすべきだろうと。
ATについても、当時の父はMTに拘っていたため、ボツ。
結果、カローラSEサルーンとランサーフィーレCXの比較となったのです。両車とも試乗する機会はなく、殆どカタログスペックだけでの比較ではあったのですが。
お互い、同クラスに新型車として登場したばかりでしたから、比較してもほぼ拮抗していました。
最終的にカローラに軍配を上げたのは、ホイールベースとリヤトレッドの違いから生じる室内スペースとスーパーシフトよりは5速の方が使い易いだろうということ。CXの同等はSEでしたので、装備もSEサルーンがやや勝っていました。
ATなら縁故を優先してランサーフィーレの選択もありかなと思いつつも、カローラをATで購入するなら、当時3速だったSEサルーンではなく、4速のECT-Sを選べたカローラSRが候補に替わり、やはりカローラだなと。
当時の同クラスの状況を思い出しつつで、書いてみると。
私的には、むしろ同時期に一新されたシビック35Gの方が強力なライバルに映ったのですが、こちらは地元にも関わらず、父が全く乗り気にならず。
その他のサニー、パルサー、ファミリア等は、登場後の年数も経っていて、比較の俎上に上がることはありませんでした。
実は、隠れたライバルは、FFコロナEXサルーンで、ボディサイズの点から検討外としたものの、価格差もそれほど大きくなく、ここは検討の余地があったなとは、今更ながら。当時の商戦では、カローラとコロナの1500はガチのライバルで、コロナはカローラのお客を吸引して台数を伸ばす一方、カローラが苦戦する要因となっています。カリーナは、まだFRの末期。
こうして書いてみると、当時からトヨタの設定あるいはスペック上のアピールが上手かったという見方もできますね。
ランサーフィオーレは、先に書いた通り、翌年の年次改良でスーパーシフトに替えて5速を設定しますが、うち的には既に後の祭り。
比較対象だった2車は、その後、カローラは歴代比で苦戦しつつも大量の販売台数を計上する一方、ランサーフィオーレは不人気と判断される販売台数に留まることになります。
比較をした私からすれば、少しだけカローラが良く映ったのは事実ですが、その台数差ほどの違いがあったかというと、決してそんなことはなく。少しの違いが大きな台数差となって反映する、既に何度か書いていますがクルマという商品の持つ恐ろしさだとつくづく思います。
当時の三菱は、販売不振の原因を豪華さの不足と認識していたのか、クリーンに映ったスタイリングは、手が加えられていって、末期にはかなり異なる装いとなりました。私的見解で恐縮ですが、同時期のシグマ共々、一番のグッドルッキンは最初期型と確信しています。内容的には最終型が一番完成度が高いというのも、もう一方の事実ですけれど。
ギャランのポジションの再定義とミラージュ&ランサーの統合を果たした次世代以降は、買い手視線でも理解し易くなって、このクラスの選択肢の一つとして存在感を発揮していくこととなります。
40年近く前の大衆車。ましてやランサーフィオーレともなれば、今となっては希少車に類されるものと思います。再注目されるハチマルの中でも、かなり地味な存在。今回の取り上げが、極僅かでも再認識のきっかけとなれば幸いです。
登場年月日の出展:自動車ガイドブックより
作り手の言葉の引用:月刊自家用車誌車種別総合研究より