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2017年01月27日 イイね!

先代Cクラス後期のセールスマニュアルの話(後編)

先代Cクラス後期のセールスマニュアルの話(後編)やや日数が空きましたが、メルセデス先代Cクラスのセールスマニュアル、今回は後編となります。

再構成の上での前編ではマイナーチェンジでの変更点をお送りしました。今回は前回の続きでグレード別の紹介とそのグレードをどういうマーケティング戦略で売るのかという話となります。私同様、後段の話をお好きな方も多いことでしょう(笑)


早速本編・・・へ進む前に、今回も話の理解の一助ということで、前篇同様、参考情報へのリンクを貼っておきます。
 〇後期のモデル変遷を書いたもの
 〇後期のボディカラーの変遷を書いたもの


それでは、本編へご案内。



最初は、グレード構成とその主な差異になります。

この時点のグレードは、スタンダードモデルを基本として、上級グレードにはスポーティ志向のアバンギャルドとラグジュアリー志向のエレガンスを設定。さらなるスポーティを求める向きにはよりダイナミックなAMGスポーツパッケージが選択可能という構成でした。ほぼ、全方向に対応可能な構成でバランスも良いように思います。

ところが、この構成は長く続きません。プレスリリースにある変遷の結果、グレード縮小に伴うエレガンスの廃止や選択仕様だったAMGスポーツパッケージの標準化が進んだことで、全体的にスポーティ方向に振られたグレード構成となっていきます。

現行では再び、エレガンス以外はこの構成に戻っています。エレガンスの名前替わりとなるエクスクルーシブも限定で導入されたものの、人気は芳しくなかったようで、その後の拡大や再導入はされていません。

余談ではありますが、スタンダードのステアリングは、エレガンス用のクローム付きが流用されるようになるというのが、このページでの発見(笑)





オプションの一覧です。

それまでは独立したグレード設定だったエレガンスがパッケージオプションの扱いとなる一方で、スタンダードモデルでもAMGスポーツパッケージが選択可能となったのは、大きな変更と言えます。自分的には魅力的に思えるエレガンスパッケージですが、1年後の年次改良の際に選択不可となってしまいます。また、AMGスポーツパッケージも、アバンギャルドでは標準化が進み、スタンダードモデルでは選択不可となる変遷となっています。

書かれているように、当初に比べてだいぶオプションのパッケージ化が進んでいます。それでも現行よりは、はるかに選択の自由度が高い設定でした。こういった設定は、抱き合わせで不要なものまで購入しないで済む反面、仕様はネズミ算的に増えていきますから、ユーザーの混乱や管理の手間も無視できません。現在は、車種も増える一方ですから、同一車種内の仕様を絞ることで管理コストを下げ、メリットの一部を還元するという考え方となっています。
そこには、輸入車である以上、在庫以外の仕様は長期納車が必至ですから、結局自分も含めて在庫にある仕様の選択が殆どという実状も影響しているでしょうね。






左頁は、カラーバリエーションが掲載されています。

これもボディカラー変遷との対比が解り易いと思います。定番の無彩色系(白・銀・黒)は、ホワイトがカルサイトからポーラーに変更されているぐらいで、世代が進んだ今もほぼ変わりません。その他の有彩色系は、結構入れ替わりが行われています。こちらで新鮮味を訴える戦略ですね。これも有彩色系は在庫が少ない、という実状があるようです。

この時点では内装色は豊富に揃っていますが、その後内装色も選択範囲縮小の対象となってしまいました。この部分は、運転している時には外観よりもはるかに目にする部分だけに、オプション以上に納期を待ってでも・・・と思えるのですけれどね。その思考の下地には、だいぶ昔の「間違いだらけのクルマ選び」に書かれていた、「メルセデスのようなクルマを選ぶ場合、多少待ってでも気に入った内外装色を選ぶこと。そして、それを最低10年は乗ること」というのが影響していたりです。


右頁は、発表に先立つ形で実施された販売関係者による内覧会の結果です。
このモデルは、2011年5月30日の発表ですから、4ヵ月前と意外と早めに行われています。リコール等で登場時期より前のクルマも対象に含まれている理由は、こうしたところにあるのでしょうね。

ある意味、評論家やユーザー以上に厳しい目を持つのが販売最前線。高評価を基調としつつ、ユーザー目線で見ても鋭い評価が目立ちます。



といったところまでが、浅瀬の領域で(?)、ここからが深海となります(笑)
いいモデルはできた。では、それをどう売り込むかという話です。




最初は、ここまでの分析です。

左頁では、絶好のライバル関係にある、BMW3シリーズとアウディA4との対比がされていて、実に興味深いところです。
元々3シリーズが強かったところに対して、CクラスがW204で、A4がB8で切り崩しにかかった構図となっています。また、全世界を揺るがしたリーマンショックの影響が見て取れたりもします。2009年・2010年と約25,000台で推移した3車販売台数ですが、近年は30,000台を超える台数となり、総量としては増えていますので、その分は他車からの移行ということなのでしょう。時期はずれますが、Cクラスに関して、現行はボディの大型化が起因したのか、クラウンとの競合が増えたという記事を見たことがあります。
(販売台数の参考文献:JAIAの統計情報

価格帯・販売実績と顧客プロフィールの比較も興味深く。
Cクラスは3シリーズとA4よりも、価格帯がやや上ということで、その対策として追加されたのが、C200や同ライトということなのですね。
平均年齢も、3シリーズとA4がほぼ同等で、Cクラスはやや上。この当時は、本国も同様だったと記憶しています。もっとも、数字を持たずのため断言こそできませんが、やや年齢の高いCクラスでも日本車のセダンよりは年齢が低い気はします。スポーティに寄せる戦略も、その対策ということなのでしょう。こうした数字、この後の推移が大いに気になるところです。


グレード別の販売比率では、中心にC200アバンギャルドがあったことが判ります。W204の導入当初は、おそらくエレガンスとアバンギャルドの比率は、ほぼ同等の想定だったのでしょうが、明らかにアバンギャルドの方が売れたようです。その影響がグレード設定に影響しています。


現状の分析はここまでで、ここからはモデルコンセプトとなります。
大まかに分けると、スタンダードモデルは新規顧客の獲得が役割という想定だったようです。上級となるアバンギャルドは既納顧客対応モデルで、C200アバンギャルドがその中心。更なる上級のC250やC350は上級志向のユーザーを押えつつ、ダウンサイジング志向も満足させるとなるようです。



ここからはモデル別の更なる販売戦略となります。



先ずは、C200ライト。

C200ライトは、価格訴求モデルとして2010年8月に追加されました。C200の装備を厳選することで40万円以上安い設定はお買い得感の高いものでしたが、受注生産ということで、実際はライトで引き寄せてC200を売るという状況だったようです。

ところが、比較的好評だったことや新規顧客の獲得を目的として、受注生産から標準販売への変更、色設定の拡大、装備やオプションの充実といった変更がされています。(それにしても、国産上級セダンからの代替想定の40%はかなり高いような)
こうした変更はユーザーに歓迎された反面、収益に影響したのか、わずか半年足らずでライトは落とされ、C180に変更されることとなります。このC180、本国では翌2012年に1800から1600に変更されるのと入れ替わる形での導入というあたりに、大人の事情がありそうです。

C180自体は好評で、C200に替わってスタンダードモデルの中心に成長していきます。その後、C180は末期で受注生産となり、現行初期で一旦標準販売となるものの、今は再び受注生産とされています。分析と照らし合わせると、他車からの移行が少なくなったのか、あるいは移行でも上級が好まれるようになったのか、知りたいところではあります。





続いては、C200です。
こちらも前期の途中となる2008年4月から設定された、価格重視のグレードです。そんな出自ながらも全く不足は感じることはありませんが。
AMGスポーツパッケージが新たに設定されて、スポーティ志向にも対応可能となりました。この新設定、今よりはるかに減税額の大きかったエコカー減税へ対応させるためという側面もありそうです。減税幅でオプション金額の半分が賄える形ですから、適合を意識しないはずはありません。こうしたあたり、この制度の効能は認める反面、制度が粗かった故、仕様を歪めてしまったことを指摘しないわけにはいきません。

C200は、後から追加されたC180の好調の余波を受ける形で、エレガンス仕様共々、C180アバンギャルドにその位置を譲ることとなります。エレガンス好きとしては、C180の選択仕様として残してほしかったところです。

ターゲットユーザーは、ライトと同じ大手企業勤務ながら、年齢と年収が上がっているのが密かなポイントです(笑)。ターゲットにある国産は、ほぼエコカー減税に非適合でしたから、エコカー適合というのは、意外とポイント高いのでありました。



右頁には、基幹モデルとなるC200アバンギャルド。
前期では約半数を占めて最多量販だったグレードです。グリルスターを採用したセダンという記念碑的存在ですし、それが成功したことで、その後の流れを変えたとも思います。ここまで上がると、新規顧客の獲得よりも既存ユーザー(特に前期モデル)の代替が主と想定されていたようです。

この後は250・350に先んじてオプション設定だったAMGスポーツパッケージを標準にしてスポーティ色を強めることとなります。現行ではAMGラインと名を変えつつ再びの選択制となり、元の位置に収まっていますね。





続いては、左頁にC250アバンギャルド。
W204の登場時点ではV6搭載ということで200とは差別化が図られていましたが、シリーズ最初のCGI(直噴ガソリン)を採用する際に4気筒化。後に200がスーパーチャージャーからCGI化されることで、200の高出力版に位置づけられることとなりました。高出力が主での差別化は容易ではなく、この後は少量が販売された後、現行では装備面でも差別化が図られることとなります。

サブターゲットの世帯年収は、さらにアップ(笑)
意外とこの辺りの方はスポーティなものを希望されているということが読み取れもします。



最後は、C350アバンギャルド。
250が4気筒化されたことで、唯一の6気筒となりました。Eクラスの進化に合わせる形で前期の300から350にハイパワー化されています。搭載エンジンからしても、既納顧客を守る一方でEクラスからのダウンサイザーも求めるのは自然な形です。さすがにその高価格ゆえ、250以上に見かけることは稀なクルマだと思います。現行では、C450を経た後C43という形でAMGに近い位置づけとされています。



といったところでいかがだったでしょうか。

変更点ぐらいは、カタログの見比べでも可能ですが、この手の分析や戦略は通常、表に出ることはあまりないため、貴重な情報が多数あると感じます。
タイムリーネタだとさすがに逡巡するところがあるのですが、5年以上前ということで、ご笑覧いただければと思います。


Cクラスは、このマイナーチェンジ以降、モデルチェンジ末期となった2013年を除いて、念願だった3シリーズを上回る販売台数を売るクルマに成長します。そういう点からすると、この変更は大きな進化というだけではなく、一つの契機でもありました。その実績の裏には、その後も年次改良は手を緩めることなく行われてきたということも挙げなければなりません。
クルマとしては後年ほど仕様が充実(特にレーダーセーフティの追加は大きいですね)かつお買得になっていますので、最新型=最良であることは疑いようもない事実なのです。しかしながら、それと並行して販売台数の縮小に合わせる形で仕様統合も行われていますから、この時点が設定としては一番バランスがいいという考え方はあるかもしれません。ここ最近は、数をやや追い過ぎなのではないかとも思いますし。


メルセデスは、この後、往年の「The best or Nothing(最善か無か)」を再び掲げますが、その名に恥じないくらい力が入っているように映るのは、決してオーナーの贔屓目だけではないと思います。そこにはコストダウン一辺倒とは明らかに違う視点が確実に存在しています。技術的な差は少ないのだとしても、それを商品というパッケージとして成立させる手腕は一朝一夕で身につくものではありません。

往年との対比でいろいろ言われることのあるメーカーですが、知れば知るほどその奥深さに感心させられるメーカーでもあります。きっと、そうした蓄積がメーカーへの信頼に繋がっているということなのでしょうね。
Posted at 2017/01/27 22:15:05 | コメント(3) | トラックバック(0) | セールスマニュアル話 | クルマ
2017年01月23日 イイね!

先代Cクラス後期のセールスマニュアルの話(前編)

先代Cクラス後期のセールスマニュアルの話(前編)久方ぶりのセールスマニュアル話となります。

お題は、先代のCクラス後期という何とも力の入りそうなもの。
その一方で、先代とは言えどもまだまだ旧車の域ではないモデルですから、ちょいと緊張してもいたり(笑)

今回取り上げますのは、先代(W204/S204)が2011年にマイナーチェンジした時点のもの。量が多いので、再構成の上で前後編に分けることにします。

この世代は、自分で乗っていることもあって、まだまだ新しい気でいるのですが、数えてみると5年以上の年数が経過していますね。なるほど、認定中古車の主流は現行に移るはずだよなぁと。

とは書きながらも、まだまだ中古車市場では台数の多いクルマでありますし、セールスマニュアルの体ではあるものの、このマイナーチェンジによる変更点を情報として把握しておくというのも、よろしいかもしれません。

なお、今回取り上げるにあたり、以前作成して参考となりそうなものの、リンクを貼っておきます。

 〇後期のモデル変遷を書いたもの
 〇後期のボディカラーの変遷を書いたもの


さて、前置きはこのぐらいにして、本編に入っていきます。



最初は見開き

204は、2007年の発売開始以降、好評をもって受け入れられ、長年に渡る好ライバルかつこのセグメントのリーダーとなる、BMW3シリーズ(E90)に近付くことに成功しています。その後、やや販売は落ち着く一方で、アウディA4がB8系以降、新たなライバルとして成長しつつありました。

このマイナーチェンジは、そんなライバル達を見据えてのものとなります。翌年には3シリーズが次世代に進化することが確定もしていましたし。

そんな状況もあってか、それまでメルセデスのマイナーチェンジはあまり大きく変わることはないという通例を破る大幅変更となっています。


詳細は、個別ページを見ていくことにして、ここではグレード別の価格に注目してみます。
今の価格と見比べると、約10%ぐらいはお安い設定と言えそうです。今のモデルとは装備の差がありますし、何より消費税の3%違いがあるわけで、高い・安いの判定は一概には言えませんが。昨今の販売状況を値引きや登録済み未使用車等を加味しつつで考慮すると、できれば、これぐらいの価格であってほしいという思いは持ちつつ。





エクステリアの変更その1です。

フロントマスクはほぼ一新と言っていいと思います。
当時は、存在感を強調する方向に変更された各部の造形に対して賛否が分かれましたが、今ではこれぐらいなら、むしろ大人しいぐらいでしょうね。

ライト類にはLEDが入り込み始めた頃で、ポジショニングライトで個性を主張しています。

ドライビングライトは、前期の途中でLEDが選択可能となっていましたが、更なる改善。デザインアイコンと書かれている割に、205では意匠のみ → それも消されるという経過となってしまいました。

このライト類、私的にはハロゲンの意匠の方が大人しくて好ましく思ったのですが、その機能を買ってバイキセノンを選択しました。セットオプションとなるLEDドライビングライトと合わせて、夜間の視認性に大きく貢献しています。

今はキセノンからLEDに主流が移っていますし、日進月歩の分野と言えますね。





エクステリアの変更その2です。

こちらはリヤ部。
フロントの大幅変更から比べると、変更規模は少なめとなります。

と書いてはみたものの、リヤバンパーのデザインまで手が入っていたのはこの資料で初めて知りました。


ランプ類はフロント同様に、LEDの採用が主眼。昼間はデザインがあまり変わっていないように映っても、夜間は明確に判別可能。これまた、安全性に寄与する部分と言えましょう。
81の時は時代考察の点でLED化に逡巡していて、クルマ替えたらLED化をやろうと思っていたのですが、ほぼ手を入れる必要はありませんでした(笑)


空気抵抗係数は、元からCd=0.27と優秀な値でしたが、更なる改良により0.26に進化。高速域の加速や燃費に貢献しています。





インテリアの変更その1です。

基本レイアウトは前期からの踏襲となりますが、インパネ自体を変えちゃっていますから、こちらも大幅変更と言っていいでしょう。

その主な目的は質感の向上にあります。
以前に前期をお借りしたことがありまして、乗り比べると解り易いですね。

機能自体は、前期もほぼ同等で十分以上のものがあるだけに、それを効果的に見せる術に長ける様になったという言い方でしょうか。この時期以降、質感の向上というのは今に続く重要なテーマであることを感じます。

この変更で唯一改悪と思えるのは、ハザードの位置です。咄嗟に押せない位置への変更は、安全の点から疑問符を付けざるをえません。





インテリアの変更その2です。

と書きつつも、ここでの変更は、インパネの変更に伴うグローブボックスぐらいです。
この変更で車検証入れが入れられるようになったとされていますが、実際はマニュアルの類が分厚いため、最小限のモノ以外は、トランクサイド行きだったりします(笑)。おそらく、同じような使い方をされている方が多いのではとも。


ラゲッジの容量ですが、リヤシートを倒さない状態だと、特に高さ方向はセダンの方がスペースを稼いでいたりするようです。もちろん倒した際の自由度は、ワゴンがはるかに勝るわけですが。

このクラスらしく、ゴルフバッグの積載方法が掲載されています。横方向の寸法に制約があるため、実際の積載量は限界がある感が否めません。そういえば、現車を買う際、最初に行ったブランドスクエアの説明で、ゴルフをやられますかという質問があったことを思い出します。


リヤシートの可倒は、実は自車にはない機能でして、数少ない不満点の一つだったりします。それで困ったことは殆どないのですが、イザという時に長尺物が載せられるというのは機能の点で大きい気がします。

本当は選択可能なら、選びたかったのですが、自分が買う時には選択不可でした。その点は承知の上だったわけではあるのですが。





メカニズムの変更です。
この頃前面に出されていた、Efficiency(=効率性)が掲げられています。

最大の目玉は、従来の300に代わる350の設定と、4気筒系への7G-TRONIC(7速AT)の拡大採用となります。

350は大幅なパワーアップを伴っていて、この変更を機に4気筒系から離れた感が強いですね。今のC43に近いと言えるかもしれません。

7Gは内外装の変更と共に、私が後期を推す理由となるものです。ギヤのワイド化による効用もありますが、ギヤ間のステップ比が近づいたことで、やや引っ張り気味の印象がなくなっていることやシフトショックが減っていることも挙げられます。この時以降、先日も使ったギヤをあてに行くという言葉が近くなっていますね。


実はこの時点では、ECOスタートストップ機能(アイドリングストップ機能)は新開発となる350のみの採用でした。この後半年ほど遅れて、4気筒系にも拡大採用されることとなります。
賛否が分かれる機能ですが、費用対効果ではなく無駄の抑止の観点で私は積極的に使う方です。ただ止めるだけでなくよく考えられている機能で、今のところ弊害も感じられません。まだ初期なので、再始動時のショックはやや大き目とは言えそうです。


ボンネットは軽量化を目的としてアルミニウム製に変更されています。記載はされていませんが、フェンダーもアルミニウム製(磁石で確認・笑)。一説には、7G搭載による重量増対策ともされていますね。ボンネットを開閉する際に明らかに軽く感じるのはもちろん、旋回時にフロントの軽さを感じさせる要因の一つなのかもしれません。





安全装備に関してです。
メルセデスにとって安全は絶対に譲れない部分だけに、技術の進化に合わせて各種機能が追加されています。

アテンションアシストは各種パラメーターから疲労度を測る機能ですが、通常は静かに寄り添う存在です。自車で35,000kmほど使って、警告を発せられたのは一度のみ。高速のインターで進路を誤り少々ふらついた際に、蛇行と取られたようです。長時間の運転で若干意識レベルが低下していたような気もするので、万が一の時には役立つ機能です。


アドバンストライトは、上に書いたとおり、その多機能を買ってオプショナルで追加。自分的には追加して正解の機能でした。アダプティブハイビームアシストは、効果が認識されて日本車でも採用するところが増えましたが、この時点で採用済。
現在では、ビーム制御はマルチビームやマトリックスヘッドライトといった進化をする一方で、この機能の採用を宣伝している社もあるというのがクルマ業界の実態でもあります。


パークトロニックは付けず、付いているクルマを借りても使わずですので、省略。最新のものは並列駐車まで可能となっていて、進化が著しい分野です。


アダプティブブレーキは、何よりホールド機能を便利に使っています。ストップ&ゴーの多い都内では使う頻度も高く。慣れてしまうと、これがないクルマに乗った時には不便に感じます。その他にも、ドライブレーキやプライミング等の機能があったのは、初めて知りました。大々的に謳わないのは、同様の機能を備えたEクラス(W211)のSBCが大規模リコールに発展した背景があるのだろうと推測するところです。


リヤビューカメラも若干地味目の改良。リヤハイデッキのW204では必須に近い装備です。ここも進化の速い部分で、新型は大画面にもっと鮮やかな映像で表示できるようになっていますね。





メルセデスではCOMANDシステムと名付けられている、AV系の改良です。

何より、前期では格納式だったディスプレイを、インパネの形状変更と合わせて組み込み式とした点が大きいですね。前期のディスプレイの動きは実に巧みで一見の価値はありますが、経年による故障の心配も若干あり。その点、組み込みなら、というわけです。


機能面は、PC同様に最も進化の著しい分野と言えるでしょう。実際、この時にNTG4から4.5に進化していて、末期まで同様とされていますが、自車のナビゲーション画面は色使いが違っていますので、表に出ている以外にも時点変更されている可能性が高く。
4から4.5になって、コピー対策か地図更新の際にパスコードが必要となりました。

機能は増える一方ですが、使い勝手の部分は最新=最良とは限らないのが面白いところ。ナビゲーションのサプライヤーが変わったことで、自分的にはこの世代の方が使い易かったりしますし。



といったところで前編をお送りしてきました。
マイナーチェンジでもこれだけ力が入っていると、実に読み応えがあります。これに加えて、モデルイヤー毎の小変更がほぼ毎年あるのですから、買い時の判定は難しいところです。
その背景には統合制御システムの進化が著しいといった事情があるのでしょう。

もっとも、BMW3シリーズやアウディA4といった、強大な好敵手の存在があるからこそ、これだけ力の入った改良を加えることができるのだとも思います。ライバル車の存在はやはりとても重要なのです。

最初の見開きでお気付きかもしれませんが、前編は改良点を中心にお送りしました。
後編はもう少し深海の領域の解説となりますので、その種に期待される方はお楽しみに(笑)
Posted at 2017/01/23 20:57:43 | コメント(4) | トラックバック(0) | セールスマニュアル話 | 日記
2017年01月19日 イイね!

「日産・プリンス合併50年」特別展示&スカイラインヘリテージ展示

「日産・プリンス合併50年」特別展示&スカイラインヘリテージ展示今回は前編に続く後編です。
メルセデスコネクションでのW213試乗の後は、湾岸線を使って一路横浜へ。

日産 グローバル本社ギャラリーにて、昨年8月以来のロングラン企画となる「日産・プリンス合併50年」特別展示も今月末が最終ということで、見納めておこうと思いまして。

ところが、特別展示に加え、スカイライン60周年ということで、こちらもヘリテージ展示(2月4日まで)されているという嬉しい誤算がありました。

両方を合わせると、歴代スカイラインが3台揃う構図。
古い順に列挙します。


○1973年(昭和48年)スカイライン セダン 2000GT-X


全長:4,460mm
全幅:1,620mm
全高:1,395mm
ホイールベース:2,610mm
車両重量:1,140kg
最高出力:125PS/6,000rpm
最大トルク:17.0kg・m/4,400rpm
東京地区標準価格:998,500円




これヘリテージコレクションにあったかな?、と思ったら、販社での保存車両という記載がありました。

歴代最多の販売台数を誇る4代目、通称「ケンメリ」の初期型となります。4ドアGT-Xは最豪華仕様となりますので、シリーズの中では旦那仕様風味でもあります。

新車当時は大人気車の筆頭で、その人気はライバル車も羨む存在でした。
人気車らしく、親戚や父の知人関係で乗られている方も多かったクルマです。
父はちょうどライバル車にあたる2代目マークII(こちらは不人気車の筆頭・笑)に乗っていましたから、やや複雑な目でその人気を見ていた感もあります。

当時は結構大きな車に映っていましたが、今視点ではそのサイズに隔世の感を覚えたりです。それもそのはず、全長4,460mmは現在だとカローラ同等で、全幅1,620mmはコンパクトカーでも5枠いっぱいの多い中ではソリオぐらいでしょうか。
そこに6気筒の2000を積めば走りがいいのも自然。同時代では希少な4独の足回りもよかったですけれどね。

年数が経つにつれ、改造のベースとされることも多くて、こうしたフルノーマルの佇まいは希少に思います。

以前に簡易カタログを取り上げていますので、リンクを貼っておきます。



○1983年(昭和58年)スカイライン ハードトップ 2000RSターボ


全長:4,595mm
全幅:1,665mm
全高:1,360mm
ホイールベース:2,615mm
車両重量:1,175kg
最高出力:190PS/6,400rpm
最大トルク:23.0kg・m/4,800rpm
東京地区標準価格:2,356,000円



GT-Rの生産中止以降、久方ぶりの4バルブDOHCを搭載したRSが大きな話題となった6代目。形式名はR30となります。そんなRSも、わずか1年余りでターボ版が追加されています。

当時は、排ガス対策も一段落した後に訪れたパワーウォーズの真っただ中。当然スカイラインもその渦中にあったというのが、そんな追加の理由です。
190馬力は、当時の日本車・歴代全てのどちらと比べても図抜けたハイパワーであり、「史上最強」という謳い文句も素直に肯けるものがありました。

赤黒ツートンは、先に910ブルーバードに設定があったものの、RS登場時点では設定がなく、西部警察の劇用車やシルエットフォーミュラの影響からか、後から設定された色と記憶しています。経緯はともかく、よく似合う色であり、R30、特にRSだと真っ先に思い浮かびます。

登場後、僅か半年でマイナーチェンジが行われているため、この(前期)RSターボの生産は、短期間に留まります。マイナーチェンジでは、通常の変更に加えて、豪華仕様のRS・Xが追加されているということで、GT-BやGT-Rを系譜とする、走りの機能に関する以外の装備は簡素というモデル展開は、ここが一つの終焉と見ることができそうです。
そのことは、ライバル車となるソアラやマークIIを意識しないわけにはいかない状況となっていたという言い方となるのかもしれません。



○1993年(平成5年)スカイライン 4ドア GTS25 Type X・G


全長:4,580mm
全幅:1,695mm
全高:1,340mm
ホイールベース:2,615mm
車両重量:1,340kg
最高出力:180PS/6,000rpm
最大トルク:23.0kg・m/5,200rpm
東京地区標準価格:2,418,000円



ついにGT-Rが復活ということが話題となった8代目です。形式名のR32の方が有名ですね。CMは「超感覚」で、私的には「伊藤さんのスカイライン」。

こちらは、後期で追加された2500の4ドア上級版となります。
登場以来続いてきたセダンを廃して、4ドアもスポーツを前面に出したR32でしたが、後期ではややマイルドな仕様も追加されて、その頂点となるグレードですね。

前にも書いていますが、明確なキャラクターが実に魅力的で、歴代スカイラインから一台挙げるなら、迷わずこれを選びます。新車で買えたはずなのですが、その時には後席の広さを考慮してマークIIを選んだというのが、親子の血統(笑)
こうしてスペックを拾って、調べるまでもなく数字が浮かぶ(笑)マークIIのスペックと比べるとコンパクトなのはもちろん、軽くもあったのですね。90が32に影響されたというのも納得。

当時は、選ぶならこのグレードと思っていました。色はガングレーが好きで、先輩がR32を買う際にもお勧めもしていたりですが、今視点だとカタログカラーとなるこのグレイッシュブルーもいい感じですね。

既にATを選ぶのが一般的となっていて、スカイラインも特に4ドアではATが当時の主流でしたが、展示車は5速MTでした。何気に希少な気がします。
この世代、排気量は先にオーバーしたものの、最後の5ナンバーサイズとなりまして、今視点ではきゅっと引き締まったデザインも魅力的なのです。

この型も以前にカタログを取り上げていますので、リンクを貼っておきます。



○2016年(平成28年)スカイライン 60th Limited 350GT HYBRID Type SP


全長:4,800mm
全幅:1,820mm
全高:1,440mm
ホイールベース:2,850mm
車両重量:1,800kg
最高出力:306PS/6,800rpm
最大トルク:35.7kg・m/5,000rpm
 (外68psのモーター付)
東京地区標準価格:5,810,400円



こうしてスペックを並べると、現行は横幅を中心に随分大きくなったなと改めて思います。展示は、ケンメリと並んでいましたから、その感一際でした。

登場時の想定ユーザーやメーカーの姿勢やらが絡んで、純粋なクルマの評価とは別の評価が独り歩きしている感もありまして、それもスカイラインという名車ならではなのかなとも。
それぐらい歴代で構築された名車の名は重いのです。

賛否両論あるのは承知の上で、私的にはこのセグメントのセダンとして意外に(?)評価している一台だったりしますが。
R世代からV世代に進む際に、マーケットを国内から世界規模に広げたこともあって、キャラクターを変えたことが賛否が分かれる最大の理由でしょうね。
想定するライバルもマークXではなく、レクサスISやジャーマン3のDセグメント級なのです。

こうした変わり方をするぐらいなら名前を消すべきだった、という主張にも一理はありますが、その一方で続いているからこそ、こうした企画展が成立するのも、もう一つの真実ではあります。
長年のライバルだったマークIIも商品企画としては大いに成功したクルマのはずですが、名前を消したことで、こうした企画展というのはなかなか成立しにくくなっているのとは対照的です。(この件、このままいくらでも書けそうですが、主題外なのは明確なのでここまでにて)



展示車だけでなく、展示物の方もやや大き目の画像でご紹介。



こちらは、「日産・プリンス合併50年」のボード。1枚目と2枚目は掲載済でしたが、3枚目はこれが初だったりします。

合併後の作品として、チェリーとプレーリーが挙げられています。共に意欲的な作でしたが、やや早過ぎたのか販売・評価共に今一つでした。現在は再評価されてもいますね。





こちらはスカイラインのボード。
歴代が当時の出来事を添えて並べられています。
これだけの歴史となると、壮観でもあり、また伝統の重さも感じたりします。

スカイラインが日本を代表する名車の一台であることは間違いありません。
その歴史の長さを考慮しても、日本のセダンとしてはクラウンと双璧だと思っています。
両車共、そんな想いとは裏腹に、なかなか縁が繋がらないんですけれどね。
Posted at 2017/01/19 21:56:53 | コメント(5) | トラックバック(0) | お出かけ日記 | クルマ
2017年01月17日 イイね!

W213を運転してみた話

久方ぶりのショールーム巡りをしましたので、前後編のブログとします。

前編はメルセデスコネクションです。
きっかけは、メルセデス.コネクテッドカードの会員サービスの終了(詳細はこちら)に伴うポイント交換期限が近付いたためでありまして、思い返すと2年ぶりの訪問となります。

ここに来た以上は、「TRIAL CRUISE」に参加したくなるのが自然でありまして(?)、多くのきら星達(縁遠いともいう・笑)の中から選んだのは、E220d AVANTGARDE。売り手的にはSports推しのようですから、非Sportsというのは希少かもしれません。



試乗車の撮影を失念したため、メーカーサイトより引用

現行Cクラスは代車等含めて複数台乗りましたが、Eクラスはこれが初体験であること、同じくこれまで乗ったことがない最新ディーゼルを体験したくなったというのが選抜理由。


運転席に座っての第一印象は、やはり大きいというもの。自車と比べると、縦方向はもちろん、横方向も一回り余裕があります。
ボディサイズとしては、長さと幅がちょうどアルファード/ヴェルファイアと同等というところとなりまして、このサイズともなりますと、さすがに狭いところでは持て余す感があります。
標準で備わる360°カメラやパーキングパイロットはその一助となりますが、(試乗後のオプションとして、パーキングパイロットを体験しましたが、駐車スペース検知はもちろん、切り返しまでやってのけるその機能に驚かされた次第)物理的な限界は確実に存在しますからね。

シートやミラーの調整が一段落すると、目の前には12.3インチのワイドディスプレイが2枚。
メーターは右側のモニターに表示される形でありまして、一番馴染みのあるアナログ表示も可能ですが、それでも立体感のない表示は、箱絵を見ているようで何とも違和感が拭えません。何せ、長い間、遠視点が正と提示されてきたのに、それとは正反対なのです。
試乗車は、左側にナビゲーションが表示されていましたが、サイズを利した大きい表示でありまして、こちらは地図帳を広げて置いたことを想像させます。最新技術も、オールドタイプに例えさせると、こんな表現となるのです(笑)。

この両画面は、ステアリングスポークの両側に配置されたスイッチで操作となるのですが、機能が増えた反面、難解さも増えた気もします。この域になるとマニュアルによる事前学習が必須であって、それを省くと全機能は使いこなせないでしょうね。

レザーパッケージが追加された内装の質感は、お値段を反映した高級感溢れるものですが、一点AVANTGARDEのブライトアルミニウムのインテリアパネルだけは黒の周辺パネルからは浮いて見えて、個人的好みから外れます。この部分は、後で確認できたSportsのブラックアッシュウッドの方が好みです。
多くの国ではこの部位の選択ができるわけで、高級車である以上、内装色含めて選択肢が絞られるのは残念であります。


期待の最新ディーゼルは、カロカロというディーゼル音が意外と残っているなというのが第一印象。それも都内では、周囲の音で消されてしまうレベルではありますが。
車重1,800kgという重量級にも関わらず、1,600~2,800rpmという広い範囲で発揮される400N・mという図太いトルクはさすがでありまして、然したるターボラグを感じることもないまま、右足の力をさほどこめる必要もなく、流れに乗っていけます。このパワーユニットに組み合わされるATは9速で、この段数ともなりますと、〇速で引っ張るというより、〇速をエンジン回転に充てにいくという表現を使いたくなります。
ダウンサイジングターボでは気になるエンジンブレーキもディーゼルらしく強力で、早めのダウンシフトと相まって、街中ではアクセルペダルでの速度調整が容易に可能です。
お聞きした燃費数値も、街中でも10km/L前後、高速では20km/Lに届くそうで、燃料代の安さも加味すれば、ランニングコストはかなり低く抑えることができそうです。


使い勝手の面で感心したのは、ブレーキホールド機能が容易に動作させられることで、便利な機能ながらも、使う際にはブレーキをさらによいしょと踏み込んで動作させる自車とは、洗練度で大きな差を感じました。洗練といえば、ディーゼルの割に再始動時の振動が少ないアイドリングストップ機能も同様。
こうした機能は、ちょっとでも気になることがあると結局使わなくなってしまうこととなりそうで、自然な使い勝手というのは大事ですね。またこうした積み重ねが、クルマ全体の印象に好感を持たせる基でもあり。


乗り味の方は、17インチ&非ランフラットの組み合わせがもたらす、ゆったりとした感覚に魅力を感じました。Sportsは未経験のため断言は避けますが、おそらく19インチ&ランフラットではこの乗り味とは異なるであろうことが想像できまして、これだけでも、こちらに一票を投じたくなります。
興味深かったのは、ディーゼルはエンジンが重いということで、4気筒ながらも、どことなく6気筒搭載車っぽいノーズヘビーを彷彿させることでした。Cクラスの印象を横引きすれば、ガソリンの方は4気筒らしいフロントの軽さがあるはずなので、この辺りは音と合わせてガソリンとディーゼルの選択の分かれ目となる気がします。共に一長一短があって難しいところではありますが、自分的には俯瞰視点で考えるとディーゼルに一票でしょうか。


全体的にはCクラスに一回り余裕を持たせたクルマでありまして、自分の好みともマッチするいいクルマであることは疑いようもありません。
軽く乗って感じる基本性能だけでも十二分以上なのに、それに加えて、最新の安全性能や付加価値含めた新機能も備わっているのですから、どうにも厳しい評価のしにくいクルマではあります。

さすがにそのサイズやお値段は、自分にとって不相応であり、縁が全くないのも間違いないとやや寂しくもなるのですけれども。それでも、こういうクルマがあるとまだまだ夢を見られそうな気がするのも事実なのです。


最後に夢の前提で、些細な(?)注文を一つ。
この最新型ディーゼルを搭載したE220d、クルマとしては大変高く評価するのですが、その一方で自分的理想形はこちらかなと。



画像は南アフリカのメーカーサイトで見つけた、Eクラスのベーシック仕様。
Cクラスのベーシック仕様はそれまでのフードスターに変えて現行よりグリルスターに変更されましたが、Eクラスはフードスターのままとされているようです。
上級グレードと比べると装飾の少ない内外装の仕立ては、まだミディアムクラスと呼ばれていた往年の姿を連想させて、心惹かれるものがあります。

今日日、さすがに205/65R16というタイヤサイズとハロゲンライトは自分で選択するのでも逡巡するものがあったりしますが、二段目左の17インチアルミとライト類のLED化だけ選択させてもらえれば、これでよろしいのではないかと。
こうしたベーシック仕様は、今の主要ユーザー層視点だと、簡素とか高級感に欠けるという評価となるからこそ、AVANTGARDE以上が導入されているということなのでしょうけれどね。
Posted at 2017/01/17 21:57:14 | コメント(6) | トラックバック(0) | 試乗記 | クルマ
2017年01月15日 イイね!

古の設計者の想いとは(初代アルシオーネ・後編)

古の設計者の想い、初代アルシオーネの後編となります。
前編は、コンセプトやスタイリングの話が主となり、最後に「日常使うクルマとしてどこまで完成度を高められるかがテーマ」だったことが語られていました。

インタビューはその続きとしてエンジンの話に入っていきます。(元は一本ものですので、これまた区切りが悪いのはご容赦くださいませ)

引用ここから----------------------------------------------------------

馬場 その意味ではエンジンの特性も、若年層から熟年層まで乗りこなせる、高速走行にも興味のある方にも満足感を与えながら低速も味わえる、という非常にワイドなセッティングになっています。

高原 水平対向4気筒も1.8Lで限界に近づいて、6気筒もそろそろ登場するというウワサもありますが・・・。

馬場 今の時点で考える限り、ほぼ狙い通りの特性に仕上げることができた、アルシオーネのボディに載せたパワープラントで十分であると確信を持っています。

高原 十分であると言われると、何も申し上げることはなくなるんですが(笑)、技術的な問題としてアルシオーネに果たして水平対向6気筒は搭載可能だろうか。ファンとしては興味深いところです。

馬場 これからそういう要望が非常に強ければ商品計画の時点で考える対象になってくるだろうと思います。少なくても今はアルシオーネの総合的な性能、振動、騒音、走りから言って、その必要性はないだろうと判断しています。

----------------------------------------------------------引用ここまで

アルシオーネに搭載された水平対向4気筒は、2代目レオーネで初登場したエンジンにターボの追加等の改良を加えたものとなります。登場時点で、ボアアップが限界に達したことでストロークを伸ばした水平対向4気筒(ボア×ストローク:92mm×67mm)は、これ以上の排気量アップは無理と見られていて、当時のパワーウォーズに対応するためにも、次なる展開は水平対向6気筒だろうと噂されていました。当然アルシオーネが搭載の第一候補に目されるわけで、そんな背景もあっての質問となっています。

そんな水平対向6気筒は、同年秋に開催された東京モーターショーに、アルシオーネをベースとしたコンセプトカーACX-IIとして、お披露目されることとなります。



コンセプトカーACX-II(同車に関する詳細はこちらにあります)


ACX-IIに搭載されて発表された後、1987年にはアルシオーネにも追加されることとなる水平対向6気筒は、4気筒1.8Lとボア×ストロークを変えず、そのまま2気筒を追加した形となっていました。だとしても、インタビューの時には裏で開発が進んでいたのは間違いなく、大人の事情がこういう答えとなったというところなのでしょう。好意的に見ると、搭載時期未定のままで、まだ整理できていなかったでしょうから、話をしようもなかったのかもしれません。



先にデビューしたレオーネとコンポーネンツは同じものと言うことで、エンジンの話はこれぐらいですし、走りの方も次のように軽い記載となっています。

引用ここから----------------------------------------------------------

高原 走りでは、乗り心地や静かさも含めてレオーネに似た味を多く持っているんですが・・・。

高橋 同じ部門でつくって、乗り心地や操縦性の設定も同じメンバー、基本システムもフロントストラット、リヤがセミトレですから、持ち味は似ているかもしれない。しかし味付けの面ではかなり変えたつもりではあります。例えばレオーネのキャスターは2度半ですが4度のキャスターをつけている。ステアリングのギヤ比の設定をやり直して17対1というあのクルマの専用ギヤ比になっている。EP-Sのユニットは一見同じでも特性が全く変えてある。音もセダン・レオーネよりよくなっている。乗り心地はやや固めの設定ですが、悪くはなっていない。操縦性の限界性能もかなり上げている。


----------------------------------------------------------引用ここまで

基本は同じ前提で、どう変えたかという話が主眼となります。
キャスター角を強めたのは、直進性の向上が主眼であり、当時の日本車の多くもこの方向性にありました。先に書かれている、アルシオーネのコンセプトからしても正しい選択だったと言えそうです。

もう少し俯瞰的に見ると、ボディ剛性や足回りのアライメントに着目され始めたのが、この時期という印象もあります。技術や開発の面ではもっと前から入り込んでいたのでしょうが、自動車雑誌の記載として表に出始めたのは、この辺りではないでしょうか。この時期の自動車雑誌は、こういった技術を解説する参考書的存在でもありました。



ここからは使い勝手の部分に入っていきます。個人的な心象ですが、高原氏の真骨頂はこの辺りにあって、日常使う上での気になる点を指摘し、そこから発展的な回答を得たりとか面白い話を引き出すというのは、他の回でも多く読むことができます。

アルシオーネは、レオーネまでの積み重ねから離れたチャレンジをしている部分がありますから、なかなか面白い話となっていきます。

引用ここから----------------------------------------------------------

高原 スペアタイヤがついに後ろにいきましたね(笑)。どう見ても余り実用的な格納方法じゃなかった。

高橋 最近、タイヤの交換なんてあるんですか?


 運の悪い人でしょう(笑)

高原 パンクしないですからね。

馬場 状況が変わっていますから、それなりの時代に即応した艤装は当然考えなきゃいけないでしょう。

高橋 車両として積載能力が高いので、これだけ積めるスペースがあればいいだろうと割り切りました。いろいろトライした結果、スペアタイヤが1個そこに入ることでトランク室のボリュームを減らしてしまう犠牲はどうしても避けられない、それなら一般の荷物を出し入れしやすいように、ということで決めた位置です。例えばサブトランクへ落とし込めば、少し出っ張るだけでトランクの床面はフリーに使える。トランク室の犠牲になっている部分はトランクスルーで十分に補える。手荷物は後席にかなり収容できる。あれが2勝1敗になっていないんだね(笑)。要改良項目です。

----------------------------------------------------------引用ここまで

文面だけだと何が何やらだと思いますので、先ずはアルシオーネのスペアタイヤの収納方法を車種別総合研究の画像から引用します。



レオーネまでは、背の低い水平対向エンジンのメリットを生かして、スペアタイヤをエンジンルームに積んでいて、そのメリットをアピールしていたのですが、アルシオーネではボンネットを低くしたため、他車同様にトランクルームに移設しています。ただ、その積載方法は、床置きではなく、リヤボードから吊り下げる方法だったことから、議論となりました。

応急用タイヤが使えるようになってコンパクトになったとはいえ、スペアタイヤの収納方法というのはまだまだ悩ましい点だったのでしょうね。



引用ここから----------------------------------------------------------

高原 もう一つ気になったのはドアハンドルです。開けるたびに指を突っ込んで塗装部分に爪を引っかける形になる。長い間には傷がつくんじゃないか。ユーザー側にしてみれば気になるところです。


高橋 私どもでも爪の硬さと塗膜の強さをよく調べて、一応のバランスをとった処理にはしてあります。


----------------------------------------------------------引用ここまで

続いての指摘はドアハンドルです。



フラッシュサーフェスを求めたことで、通常は窪みとなっている、ドアハンドルの下側にフラップが設けられています。確か、使用時には下側のフラップを押し込んだうえで上側のドアハンドルを持ち上げる形だったと記憶しています。

日常の使い勝手的には難となる形状ですが、これも一つの主張ではあります。今ならまた別の構造とするのでしょうけれども。



引用ここから----------------------------------------------------------

高原 室内環境は、マルチアジャストステアリングのテレスコピック機構&メーターパネル一体可動チルト機構になって、シートもレオーネとは明らかに座り心地が違う。リヤシートは”おまけですね”という感じですが・・・。

 もともと2プラス2で、前の2に相当重きがある、後ろはプラス・アルファーの2だから、短時間乗れればいい、前席優先をクルマの中に表現しようと。それから、大きな部屋の中に前席がポコッとあると考えて、インパネからドアの内張り、後席のバッククロス、みんな同じビニールレザーで包んだ。その中に前席優先の考えを入れ込んだわけです。

高原
 プラス2なら、普通はスーツケースか手回りの品の置き場だ、荷物を置くときに抵抗がないと考えて、あえてビニールレザーに?


高橋 基本的にはそういう考えです。初期のアイデアでは、荷物を置いて下さい、ただし、人も座れます、という非常に明快なコンセプトだったんです。それにしては狭すぎる、足がくたびれちゃって、ほんの短時間しか乗れない。リヤシートは、シートとしてつくってありません、というのを明確に出しておこうと。

----------------------------------------------------------引用ここまで

ここからは内装の話となりますので、先に画像を掲載。





インパネ・ステアリングをはじめとする各所には、明らかに当時の主流から離れた未来志向のデザインがされていました。「まるでコンセプトカーのような」という形容詞でも可だと思います。



フロントシートのクロスデザインも特徴的ですが、その一方で(画像ではやや判りにくいですが)リヤシートをビニールレザーにするというのが一つの主張でした。

自動車雑誌の評価では、その主張を含めて好意的に書かれていましたが、市場の声は別の所にあったようで、あまり時間を置かずでクロス張りに変更されたようです。



引用ここから----------------------------------------------------------

高原 パワーウィンドウのスイッチパネルがアーム横に付いているので操作しにくい、エアコンやりサーキュレーターのスイッチが手元の後ろにあるので操作しづらい。

高橋 パワーウィンドウのスイッチはアームレスト上面に置くのが一番使いやすいんですが、小さい子供さんが中で遊んでいて踏んずけて首や手をはさんだという騒ぎが新聞にだいぶ出まして、サイドにしたんです。それにしてはいささか使いにくいという問題が残り、率直に言ってあれは反省点です。

 チルトは、いろんなチルトステアリングを調べてみましたら、意外にストロークがない。25ミリかせいぜい30ミリぐらいしか動かない。それ以上動かすと、上げた時はメーターにつっかえる、下げた時にメーターが見えなくなる。なるほど、それでこれぐらいの領域しか動かさないんだなと。デザイナーのほうが、なら一緒に動かしてよ、と(笑)


高原 随分簡単に決まった。


高橋 それであれは舞台装置みたいに動く。チルト量が50ミリとってあり、出入りのときに中立位置から65ミリはね上がる。はね上がりまで入れると85ミリ動く。そんなに動くチルトはないと思う。


 高橋のほうが1勝2敗の哲学でずっときていたでしょう。デザインのほうは、これは2勝のほうだ、やろう!と主張してね(笑)

高橋 メーターに対してバイザーの一部から屋根がついていますね。メーターと屋根の間が屈折するようになって、上げても下げてもバイザーに屋根裏がくっついてくる。これはいいアイデアが出ました。

----------------------------------------------------------引用ここまで



先に、高原氏の指摘となっている、アームレスト部分と空調レバーを画像で掲載します。

パワーウィンドウに関しては、インタビュー中にあるとおり、誤操作による挟み込みが問題となっていました。アームレストの形状からしても、当初はドアハンドルと同じ面に置いていたものを急遽、サイドに移したことを想像させます。この配置、誤操作の防止とはなりますが、さすがに使い勝手の面では難がありますね。

各社様々な方法でその対策を検討中でしたが、やがてはマツダが最初に取り入れたプッシュプルスイッチに収束することとなり、さらに根源的な対策として挟み込み防止機能も開発されることとなります。



アルシオーネの目玉装備の一つに、チルトステアリングがありました。



チルトステアリング自体は、既に日本車で広く普及していましたが、左画像のように、左右のウィングスイッチも一体であり、さらにメーターパネルも動かすという大胆な発想が製品化に至っています。発想が飛行機屋さんらしいというだけでなく、困難を超えてそれを実現してしまったというのがポイントですね。これは2勝という、開発者の自信も納得できるところです。



最後は、パートタイム4WDということで、そのスイッチをどうするのかという話をして、設計陣の最後のアピールとなっています。

引用ここから----------------------------------------------------------

高原 トランスファーのレバーが、レオーネの1800及びターボはロー付きのレバー式、アルシオーネはレオーネの1600と同じようにノブにスイッチ。たしかレオーネの時はレバー式のロー付きが機能としてはいいんだという説明を受けたと思うんですが・・・。

馬場 クルマによって使い方の思想をはっきり分けたわけです。

高原 逆にいえば、アルシオーネのやり方は、うん、これでいいだろう、と僕は思っているんです。

馬場 レオーネのデュアルレンジにローを付けたのは、どちらかというとダートを意識した発想です。アルシオーネはダート対象外でむしろオン・ロードに徹している。自宅から公道へ雪の上を出るぐらいがせいぜいという考えですから、デュアルレンジを排除して、ボタンにしているわけです。

高原
 最後に設計者の方々から、ユーザーに特にアピールしたいことを一言・・・。


高橋 2勝1敗だとかいろいろカッコいいことを言ったんですが、ボギーの点もいくつか指摘されました。細かい改良はこれからもいたしますが、今の状態で我々としては自信作と思っていますので、スバルもここまでやるようになったかとご了解いただきたい。


----------------------------------------------------------引用ここまで

4駆のデュアルレンジというのは、元々クロカン由来ですから、機能としては重宝することもありそうですが、アルシオーネの狙いからして、それを外したというのは正しい選択だったと私も思います。本来はフルタイム4WD想定だったのでは、とも思いますが、きっとタイミングが関係して、パートタイムの選択となったのでしょうね。



といったところで、いかがだったでしょうか。
アルシオーネは、このインタビューの最初と最後の言葉が何よりの総括となるのだと思います。ずっとやりたかったことを、ようやくここまでやれたということですね。

ただ、その志がきちんと評価され、販売台数に反映したかとなると、否という結論となってしまいます。


こと国内では、前編で書いた販売台数の制約からくる仕様の少なさが、どうしても敷居を上げてしまった印象が否めません。台数が伸びないので、仕様が増やせないという循環に、このアルシオーネも該当していました。

当時のこのクラスのクーペは、ちょうど今のコンパクトSUVと同じように注目を集めていた市場で、決して多くはないパイを狙って多くのメーカーが力作を投入する激戦区にありましたから、その中でライバルをなぎ倒していくというのは難しかったとも言えます。結局、国内ではプレリュード → シルビアという形で一車種に集中する結果となっていきます。


その点、多くの台数を売る予定だった北米輸出は、ターボだけでなくノンターボに廉価仕様も加えた形で、特に初期は比較的好調だったようですが、こちらも想定外の波が襲うこととなります。プラザ合意に基づく円高のため、相次ぐ値上げを余儀なくされることとなるのです。軽く調べたところでは、当初1万ドル弱だった中間グレードは、毎年1千ドル程度値上げされて、末期には約1万3千ドルという価格となっていました。こうなると、価格競争力としては厳しくなってきてしまいます。1987年に水平対向6気筒を追加して、軌道修正を図ったとされていますが、こちらは約1万8千ドルという価格に至っていました。

こうした内外の状況により、改良は進んだものの、大きな手入れと言えるのは、水平対向6気筒を搭載した2.7VXの追加(VXの詳細はこちらにあります)ぐらいで、次作となるSVXの登場を待つこととなります。


この種の最初の作であることから、手慣れていない部分というのが多少なりともあり、登場後は内外の状況に翻弄されたクルマということから、同時代のクルマ達の中では評価として高いものがあるとは言えません。それでも、各所に見られる意欲的な取り組みであるとか、何より志の部分は決して色褪せるものではないとも言えます。スバルのクーペとしては次のSVXに続いたものの、以降は途切れているという事実もあります。

実はメーカー関係の方が乗られていると思われる複数の個体を、今でも時折見受けていまして、同じように貴重な価値を感じている方がいるのだなと思う次第なのです。



(参考文献)
・月刊自家用車誌 車種別総合研究

(カラー画像の引用元)
FavCars.com

プロフィール

「帰還後の近況 http://cvw.jp/b/1984303/48316556/
何シテル?   03/16 21:58
3台計で20年以上の長きに渡って乗り続けたX80系からW204への代替がみんカラを始める動機となりました。 最初はW204関連を主とするはずだったのですが...
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