
当初の予定ではオリンピックの開催日だったということで、4連休を迎えています。昨今のコロナ禍の影響により、オリンピックは1年延期となり、東京都に至っては外出自粛要請が出されるまでに。
折角の連休なのに…と恨み言の一つも言いたくなるところですが、そこは口に出さず、自宅でやれそうなことを楽しむのが大人の作法なのです、きっと(笑)
そんなこんなでブログの更新ということで。
今回は、1984年にモデルチェンジをしたローレル、形式名:C32型について、前後編に分けつつで取り上げることにします。
掲載するカタログは、売れ筋に特化した登場当初の簡易版となります。
最初の見開きでは、この世代のキャッチコピーである「ビバリーヒルズの共感」が掲げられています。
先代のC31型では、「アウトバーンの旋風(かぜ)」をキャッチコピーにして、空力的なスタイリング(空気抵抗係数:CD値が注目を集めていますね)を筆頭に、走りの良さを謳っていましたが、この世代では一転して北米の西海岸にポイントを移しています。
恐らく背景には、80年代初頭にカルチャーブームとなったアメリカ西海岸のムーブメントからの影響があったはずです。西海岸の中でも全米有数の高級住宅街である当地にイメージを重ねることで、高級感を訴えるというのは、上手いアピールではありました。
ツッコミを入れると、そもそもC32は北米輸出はされていない、ましてやハードトップの輸出は中近東のみでしょ、となるのですが、そこはマニア視点の野暮な話ということで(笑)。当時のアメリカ車風味も感じられるデザインからすると、セダンにVG30Eを積んで北米に出しても一定数は売れた気もしますが、ブルーバードマキシマとの競合を避けたのでしょうね。
そんなビバリーヒルズですが、比較的短期間でキャッチコピーは変えられ、新たに「グレードの薫り」を謳うようになります。
イメージリーダーとなる、4ドアハードトップV20ターボメダリストが特別塗装色プレステージホワイトツートンで掲載されています。
グレード設定としては、この上の最上級としてメダリストエミネンスが存在していたのですが、こちらの想定は「セドリックだと対外的にまずいのでローレルの一番高いのが欲しい」だった筈で、あくまでもメダリストが販売の主力にありました。
このツートンは、後掲するホワイトと異なり、サイドモールがカラードとなることで見栄えが向上。実際ホワイト以上に見かけたように思います。ホワイトのツートンではもう一色、下半分をライトグリーンに塗ったものも設定されていたのですが、こちらは見かけることも少なく、カラー設定としても前期の途中で落とされているようです。
今視点で振り返ると、上半分にホワイト、下半分にベージュ/ライトグリーンの塗分けって、カラードモールも含めて、X80系マークII3兄弟のツートンの設定と同じなんですよね。後で掲載するブラックツートンといい、明らかに
真似て影響されているよな、としみじみ。
明らかに派手、いや今風の言い方だと存在感のある、このフロントマスクについては、「当初中近東向けのみの想定で、社内で好評だったことから国内用にも共用した」という記述が1985年版間違いだらけのクルマ選びにあったりします。
GULFクレシーダにも通ずる装いであり、納得させられるものがありますね。
RB20の方でしたけれど、この色のハードトップは中学校の体育の先生が買われていて、当時学校の中では屈指のいいクルマだったんじゃないかな。校長先生がGX71のセダンLGだったことも記憶にあり。「最初はソアラを検討したけれど、派手かなと思ったからこっちにした。」とか話されていたのを聞いた記憶があります。
前ページで掲載したグレードの内装が、電動格納式ミラーと共に掲載されています。
マルーン色のインテリアカラーは、この時期らしいもの。
シートは、エグゼクティブ・ルースクッションを謳っていますが、デザイン自体は上級車となるセドリック/グロリアや、マークII3兄弟のボタン引きと比較すると比較的大人しいものに感じられます。その分、ドアトリムの造形は結構派手かな、ですけれど。
インパネは、先代でも内部構造を一新していますが、再びの一新。
先代では、横幅150mmのオーディオを横に並べると共に、空調スイッチも横に広げることで、インパネの高さを抑え、フロアコンソールと分離していました。このレイアウトは開放感のあるものでしたが、豪華さに欠けると評されたのでしょうね。
この代では一転して、オーディオは横幅180mmのオーディオを縦に2.5段配置、その他スイッチ類も高さ方向に展開して、重厚な高級感を感じさせるものとなりました。R31スカイライン・F31レパード前期にも内部構造は共用で展開されるレイアウトですね。絶壁インパネとも評される、このデザインは、X60系マークIIにスイッチや計器類の配置を含めて影響されたと思っています。
いくつかの特徴を持つC32ローレルですが、最大の功績は、ここに取り上げられている電動格納式ドアミラーの採用であることは揺らがないでしょう。その後の展開は言うまでもなく、自社のみに留まらず、瞬く間に他社も採用、国内だけでなく海外ブランドも取り入れる装備となりました。今では標準アイテムの一つと言っても過言ではないかと認識します。その全ての端緒がここに存在します。
当初は、「こんなもの不要」やら「なくても困らないが、あると便利」といった評価でありまして、ギミックの一つと思われたのでしょうね。
販売のメイングレードとなる、4ドアハードトップRB20メダリストがホワイトのボディカラーで掲載されています。
こちらのホワイトは、初期は後の主流となるクリスタルホワイトではないこと(前期の途中で色変更が入っています)、モールが黒となることから、上で書いた通り、ツートンよりも少なかったように思います。もっとも、当時はホワイトシンドロームの渦中ということで、初期の販売動向では、ツートン系を含むホワイトだけで、実に84%を占めていたようです。
先代からの継承となる6ライトキャビンを採用したスタイリングは、直線基調で平面絞りも少なく、寸法以上の大きさを感じさせるものでした。先代は空気抵抗係数の小ささを謳う通り、どちらかというとシンプルかつスリークな印象を受けるものでしたが、ここも豪華さに欠けると評される要因とされたようで、マイナーチェンジで軌道修正を図りつつ、ここで濃厚長大路線に舵を切ることになります。
6ライトのピラーレスハードトップは、この時期の日産の特徴で、恐らくグラッシーなキャビンを狙ってのものと推測しますが、ここも大きく見せる要因かなと。
先代では、マイナーチェンジ時点でリヤのナンバープレートをテールランプの位置からバンパー下に移す変更をしていますが、再びナンバープレートの位置は戻されていたりします。
マークII3兄弟は、同じグレード名ながらも、ツインカム24のみ内装の仕立てが上級となっていましたが、ローレルは歴代エンジン間での仕立ての差は少なく、それはこの世代でも共通でした。
RB20が見劣りしない反面、V20ターボに注目が集まらなかった理由の一つでしょうね。日産としては、RB20に注目してほしかった節がありますので、この設定で正解だったのでしょう。初期受注こそ、RB20が42%、VG20が30%だったようですが、後にはVGが減り、その分RBが増えていたのは間違いなく。
もう一つのボディ形状となる、4ドアセダンRB20メダリストです。
マークIIと同様に、販売の主力はセダンからハードトップに移っていた時期で、同じく初期受注では、ハードトップが76%、セダンが24%という状況だったようです。これは営業車等も含めての数字でしょうから、次世代でハードトップに絞るという選択も仕方ないように思います。
ボディの形状としては、いつもの如くセンターピラーを有するセダンに一票を投じますが、純粋にスタイリングとしてはハードトップの方が良い出来に感じます。
このC32、意外とAピラーが寝かされていて、Cピラーを寝かせつつで下端を後ろ側に置いたハードトップの方が収まりが良いように映るのです。セダンは6ライトの部分もやや窮屈かな。セダンにはトランクの開口要件があったのかな、というのは推測。
掲載されているボディカラーは、これまた初期型のみの設定となるインペリアルブラックツートン。威風堂々を狙っての設定かと思いますが、ホワイト全盛期にあっては意図が受け入れられたとは言えず、後にディープシルバーツートンに差し替えられます。
このツートン、スポーティのアピールには効果的で、後にレパードやスカイラインで受け入れられていますね。
またまた私事で恐縮ですが、これと全く同じ仕様が通学途中の事務所に置いてあったことが記憶に残っています。当時としても珍しい仕様で、中々立派だなというのが印象として残り。前車は記憶失念ですが、次車はC33のダークグリーンをやはりモデルチェンジ直後に買われていて、ローレル党だったのでしょうね。
続いては、4ドアハードトップCA18グランドエクストラです。
歴史を遡ると、C231で1800にSGLを設定して、エンジンで贅沢をせず見た目や装備で贅沢をする、という市場を開拓したのがローレルでした。
先代末期では半ば特別仕様の扱いでしたが、この代で正式にSGLの後を継いでいます。
先代のグランドエクストラでは、ベースはSGLながらもメダリストに近づけた装いでしたが、再び外観での差別化が行われています。実は、個人的にはバンパーの形状、ホイールキャップのデザイン等、メダリストよりもシンプルなこちらが好み。これまた豪華さに欠けるという評価だったのか、途中でホイールキャップはメダリスト用が共用されるようになりますし、さらに1800版のメダリストとなる、グランドエクストラリミテッドが追加されることとなるのですけれど。
チェイサーやスカイラインほどではないにせよ、1800が販路の一つだったことは間違いないようで、上記の通り結構力の入った設定でありました。
ボディカラーのディープワインは、さすがに当時も見かけた記憶はあまりなく。
前編の最後に掲載するのは、4ドアセダンCA18グランドエクストラです。
前言を翻すかのようですが、リヤからの眺めだとセダンもいいかなと。起こされたCピラーの造形等、同時代のボルボ740/760に重なるものを感じたりします。
ボディカラーのシルバー、グレーの内装と相まって、地味ながらも上質という私の好みにはズバリ。
半ば余談となりますが、ヨーロッパへの輸出仕様は、こちらのバンパー等をベースにメッキの替わりにカラードのディテールを増やした仕様と記憶していて(残念ながら画像は発掘できず)、結構カッコよく映った記憶があります。欧州向けの搭載エンジンは、当初CA20S・L24E・LD28で、後にVG30Eの追加とLD28からRD28への変更が行われているようです。
話を元に戻して、この種の1800が売れ筋の一つだった理由については、価格設定が要因の一つにありました。
当時の東京地区の新車価格を確認してみたところ、1800の代表車種であるコロナ1800EXサルーンが154.6万円(AT車、以下同)、ブルーバードセダン1800SLX-Gが154.3万円のところ、このローレルは158.5万円だったようで、ちょっと背伸びという感覚は理解できるものがあります。
こうした価格設定は、FF化での多大な投資の反映が見られた一クラス下に対して、従前からのFRでの継続というのが可能にしていたのでしょう。事実、80年代初頭よりも価格差は縮まってもいます。
チェイサー、スカイライン、ローレルはいずれも販売系列にミドルクラスを持たないというハンデがありましたから、こうした1800というのはミドルクラスを希望するお客様へのアプローチ手段でもあったのです。1800で入門してもらって、次には2000に繋げるというのも当時の重要な戦略ではあり。
続いて、当時の月刊自家用車誌に掲載されていた車種別総合研究、C32ローレルの回における対談記事から、スタイリングに関する部分を抜粋してみます。
対談されているのは、当時、高原誠のペンネームを使われていたモータージャーナリストの川島茂夫氏と当時、商品開発室の主任担当役員をされていた西岡興洋氏のお二方となります。
抜粋ここから*****
高原 スタイリングは全体的にウエッジで、部分的には絞り込んだり曲面的な処理をしたりが主流だと思うんですが、その点、先代のローレルやレパードを見る限りでは、日産さんは積極的にアプローチなさってましたね。今回のローレルは直線的でボクシーなんで驚かされたんですが?
西岡 C31の時と日本の市場が違ってまして、ローレルのお客様はオーソドックスな感じを好まれますので、斬新的なものより後からついてという感じがローレルなんですね。今までのスタイルに関しての行き過ぎた面を戻してみました。フラッシュサーフェス化をやりながら、近代化のあるようなダイナミックさを表現しました。
高原 細かい配慮があるようですが、あのスタイリングから空気抵抗係数がとても想像できない値なんで驚いてますが、やはりこれはフラッシュサーフェス化によるものですか。
西岡 ええ、もう一つはフロントフードの先端をめくってみますと0.01くらい変わるんですね。リヤのトランクとか、アンダーカバー等への配慮の積み重ねで値が変わります。
高原 平面上はあまり絞り込んでないようですが、見た目に大きく見えますね。
西岡 今回はローレルの外観を変えずに、大きく見せることに努力しました。
高原 旧型よりだいぶセドリック/グロリアに近づいた感じがしますが・・・。
西岡 豪華に大きく格調高い表現を目指しました。
*****抜粋ここまで
要約すると、先代で新たなアプローチをしたものの受け入れられなかったため、(C231以前の路線に)戻したとなるかと思います。今も風潮は残っているように思うのですが、当時のこのクラスにおいては小さく見えるというのは、販売上の結構なハンデだったのです。ミドルクラスの横幅が広がってきて、クラスの違いを表現する必要が増したというのも、もう一つの背景ですね。5枠の上限が窮屈になり始めた頃でもありました。
ちょうど画像がありましたので、ここで歴代の画像を、C231、C31前期、C31後期、C32の順で並べてみます。インタビュー記事との対比やモデル間の表現方法の違い等を感じ取ってもらえれば幸いです。
先ずはセダンです
続いてはハードトップ
この中ではC31前期のセダンが一番のグッドルッキンと高く評価する一方、C231セダンの重厚感やバランスの良さにも魅かれるものがあります。
スタイリングは好みもあるので、それ以下の順位付けは避けておくということで。
前編の割に、すっかり長くなってしまいました。
C32については、ご存じの通りメカニズムについても取り上げるべき内容があるのですが、その辺りは後編に送ることにいたします。
文中の引用
販売比率:CARandDRIVER誌、1985年2月10日号のロードテスト第19回より
新車価格:月刊自家用車誌、1985年7月号掲載の東京地区新車販売価格より
対談記事:月刊自家用車誌、1985年1月号掲載の車種別総合研究より
歴代の画像:FavCars.comより