「真田丸」~卑怯でないことの美しさ。
のつづきです。
2 女は自分が認めた女をリスペクトしつづけ、不当に評価されている女を許せない
きりは、真田家重臣、高梨内記の娘。
源次郎さまとは幼馴染で、小さい頃から恋心を抱いている。
でも、生来の跳ねっ返り、素直になれない性分によりいつも憎まれ口を叩き、突拍子もないことを言いだすから、呆れられ、冷たくされてしまう。
源次郎さまは、真田の郷の地侍・堀田作兵衛の妹、お梅ちゃんのことが好き。
お梅ちゃんは、親を亡くし、兄と共に畑仕事をしながらたくましく、慎ましく生きている女性。
物事を真っ直な目で見つめ、その裏側までも見抜き、誰をも優しく包んでくれる素敵な人。
源次郎さまは、お梅ちゃんに癒しを求め、大切なことを教わり、惹かれていきます。
きりにとって、お梅ちゃんは大事な友達であり、身分では自分が上だけど、彼女には敵わないと思っている。
源次郎さまからもらったお土産の櫛も、お梅ちゃんとは差をつけられていて・・・。
いただけたことは嬉しいけど、・・・でも、仕方ないかって。
だから、源次郎さまがお梅ちゃんを側室にすることを決めたときも、辛くて悲しかったけれど、懸命に祝福しようと頑張った。
祝言を暗殺の機会に使われてしまったことへの抗議は誰よりも激しくて、お梅ちゃんの悲しみを想って泣き叫んだ。
そして、源次郎さまの赤ちゃんを産んだお梅ちゃんが上田合戦で亡くなってしまったときには、かわりに赤ちゃんを立派に育てようと誓った。
はじめから、ウザさ満載、お節介で空気読めなくて、武家の娘らしからぬきりちゃん。
正直者だから、思ったことはなんでも言ってしまう。
正しいと思うことは、後先考えず、相手もかまわず言ってしまう。
計算できなくて、ついつい、余計なことをしてしまったり言ってしまったり、後悔ばかり・・・。
きりちゃんて、まったく、昔の自分。
悲しいくらい、素直じゃない、可愛げのない自分が、そこにいる。
だから、余計にウザい、やるせない、見ているとつらくなってくる。
お梅ちゃんの素直さ、可愛らしさを羨ましいと思っている。
そうなりたいと思っているけど、そうできない。
適わないと思う同性に対しては、潔く負けを認めて、さっぱりと付き合う。
自分の好きな人が、自分とは正反対の女の子を好きなことは悔しくて悲しいけど、負けは素直に認める。
だって、そういう女の子が好きな、女を見る目があるステキな男の人を好きになってしまうのだから。
仕方ないのよ。
でも、適わないタイプの女性に嫉妬して、イヤな女でいることには我慢できない。
そんなプライドは、ちゃんと持っている。
わかるよ。きりちゃん。
適齢期に一人でいても、好きな人が自分を好きになってくれなくても、大好きすぎるからそばにいる。
その人のためになることを、なんでもしようと思っている。
ブレないし、媚びないし、誰にも寄りかからない。
正しいと思うことをキッパリと云い、正しいと思うことを誰に対してもする。
そんなきりちゃんには、期せずして、大事な役割が回ってくる。
望まなくても、自然体のきりちゃんを必要とする人たちから、頼りにされる。
それを自然体で引き受けているうちに、いつの間にかいろんなスキルが身についていく。
相手がエライ人だから、有名人だからとか、肩書でひるむこともないし、差別することもない。
きりちゃんは、いつだって変わらない。
時代がどんどん変わっていっても、好きな人がどこへいっても、きりちゃんは源次郎さまを好きで、守りたいと思っている。
たとえ、自分のことは、なんとも思ってくれていなくても。
一番エライ人のそばに仕える源次郎さまが、正妻を迎えることになる。
源次郎さまが出世して、みんなから信頼される武士になっていくのを、嬉しくもさみしくも思っている。
遠い人になってしまうようで。
でも、きりちゃんはかわらない。
源次郎さまのピンチを切り抜けるために、身につけたスキルも人脈もいかす。
関ヶ原の合戦のあと、源次郎さまは九度山に蟄居させられる。
台所仕事から付届けまで、痒いところに手が届く有能な仕事っぷり。
北政所様付侍女を長くやってたきりちゃんには、次の展開も読めるから準備を怠らない。
対して、お姫様育ちで田舎暮らしなんて慣れていない、何のスキルも持たない正妻の春ちゃんは、サイコ妻にw
そんな中、一応形だけ側室にした豊臣秀次さまの娘・たかちゃんも来た。
海外生活に慣れて源次郎さまにハグなんかするから、春ちゃん、嫉妬心メラメラ~。
真田紐を編みながら、きりちゃんは言う。
「自分に正直にならないと損するわよ」
「みんなあなたに気を遣ってるのよ」
「あたしだってそりゃね、源次郎さまのお子がほしいときもありましたよ」
「子供三人も生まれた日にゃ、さすがにもう・・・」
「源二郎さまにとって、あなたが一番なんだから」
それで吹っ切れたのか春ちゃん。
「きりさん、どこにも行かないでください…私のために!」と、ものすごくいい笑顔になる!
石田治部少輔がかつて称した「あれは、めんどうなおなご」春ちゃんも、きりちゃんを認め、頼るようになりました。
女は、自分よりデキル女の人に対してはリスペクトし、犬のようになつくのですが、反対に不当に高く評価されている同性に対しては、敵意を抱きます。
その昔、太古の昔。
村の女性が集団で子育てをし、家事をし、村を守っていたときのコミュニケーションの形態が、私たちのDNAに引き継がれているからだと思うのです。
強くたくましく賢い女性に対しては、素直に心を開き、素直に学ぶ。
そうやって、いろいろなスキルを身につけて、いつかは教え諭す立場になる。
自分の弱さ、至らないところは、素直に認めて克服する術を身につければ、集団の中で生きていける。
それを知っていれば、女性は強くたくましく、自信を持って生きていけると思うのです。
そう。
気がつけばきりちゃんは、菩薩の境地に達していたのでした。
この言葉がさらっと言えるようになるまで、どれだけの年月が過ぎていたのでしょう。
自分の愛する人のため、自分の気持ちは抑えて、自分にできることをする。
愛する人が迷っているときには、ズバリ、言ってほしいと思っている言葉で背中を押し、明るく励ます。
振り向いてもらえなくても、さみしくても、抱きしめてもくれなくても、無償の愛で包みこみます。
大阪冬の陣のあと、女性たちによる和平交渉にも同行し、プチ活躍します。
「大蔵卿のBBA」の逆向きベクトルのパワーは如何ともしがたく、結局お堀を埋められてしまいますが。
そして、いよいよ、決戦の前夜。
「源次郎さまがいない世にいてもつまらないから」
なんという殺し文句。 なんという愛の言葉。
これよりも深くて強くて真っ直ぐな愛情の言葉を、私は知らない。
こんな言葉を、真顔でさらりと言うきりちゃん。
もう、私の涙腺、崩壊・・・。
そして、唐突に・・・。
大河ドラマ史上に残るキスシーン(私内)。
「遅い!」
「すまぬ」
「せめて10年前にフガフガ・・・あのころが私、一番綺麗だったんですから!」
きりちゃん・・・。
よかったね。よかったね。
はじめはウザいと思ったきりちゃんが、気づいたらきりちゃんのままで、やっぱりきりちゃんがヒロインだったんだって、やっとわかった。
『信繁に関わった女性の中で、最も長くそばにいたのは彼女だ』ってナレーションで言ってたけど、
『信繁に関わった人間の中で、最も信繁が自分を飾らずに自分のままでいられた人間』でもある。
男女の愛情を飛び越えて、恋愛感情とか関係なくても、長い時間、お互いが自分のままでいられて、何でも話せて相談できて、本音で向き合えて、助け合える同志。
そんな関係って、ちょっとスゴイ。
お互いが好き合って求めあっていることが確認できる瞬間。
それを「幸せ」と云わずに、何といえばいいの?
一年間という長い時間をかけて、「極上の人間関係」「究極の男女の信頼関係」を見せてもらいました。
・…………………・・
転じて、自分のことを振り返ってみると・・・。
若い頃は、「自分のようなタイプの女の子が好きではない人」ばかりを好きになっていました。
私とは違う、大人しくて優しくて素直な女の子。小さくてカワイイ子を好きな人ばかり。
素直になりたいけど、素直になれない。
思ったことは何でも言ってしまうから、かわいくない。
好きなのに、他の人を好きなフリをして後悔したり。
でも、恋愛するのと同じくらい、仕事が楽しくて夢中になっていると。
自分自身を変えて好きになってもらうよりも、自分のままでお互いが居心地のいいと思える人と、一緒にいられればいいと思うようになった。
私がいい、今の私でもいいって言ってくれる人と。
でも、何故かそう言ってくれる地元の人や関東、関西の人は苦手で、九州の人や東北の人にばかり惹かれた。
偶然だとは思うのだけど、私の中のDNAがそうさせていたのかもしれない。
ほら、遺伝子の型がちがう、離れている人に人は惹かれる、特に匂いで嗅ぎわけるっていうでしょ。
そう思うと、主人とは子供を産むまでは恋愛感情があっても、その後は子育てや世の中をよくするためにつながっている同志のような関係かもしれない。
主人は変わらずに好きでいてくれるようだけど。
「真田丸」から、いろんなものをいただきました。
家族団欒の楽しい時間。
子供たちにとっての、潔い男の生き方の究極のお手本。
この世に生れて、自分は何のために、どう生きるのか。
史実に創作を加えたドラマなのだけど、楽しむだけではなくて、大切なことをたくさん教えていただきました。
これまで「真田丸」のことをいろいろ振り返って書いてきましたが、最後に、脚本家の三谷幸喜さんの言葉をご紹介して終わりにします。
『新選組!』に引き続き、僕にとって二度目の大河ドラマです。
真田信繁も新選組も、歴史を築いた人物ではありません。
言ってみれば歴史に取り残された「敗者」です。
だからこそ僕は彼らに惹かれ、彼らのドラマを書いてみたいと思いました。
NHKの「大河ドラマ」で、僕は歴史の面白さを知り、そしてテレビドラマの面白さを知りました。
毎週、次がどうなるか楽しみで楽しみで、それだけを考えて一週間を過ごしていた、あの頃。
毎年、大河の主人公に完全に同化して、年明けから年末まで生き抜いていた、あの頃。
村田蔵六も呂宋助左衛門も平沼銑次も、みんな、僕でした。
一年掛けて、主人公の人生を追体験出来るドラマなんて、「大河ドラマ」しかありません。
あの時、僕が感じた「わくわく」を、今の視聴者にも感じてもらいたい。
真田信繁と共に、2016年を生き抜いてもらいたい。
そのために、僕は今、ひたすらホンを書いています。
総集編が、12月30日に放送されます。
<放送予定>
2016年12月30日(金) [総合]
第1章 午後0時15分~午後1時00分
第2章 午後1時05分~午後2時00分
第3章 午後2時00分~午後2時58分
最終章 午後3時05分~午後4時33分