2007年03月19日
「 II 」に続いて紹介するのは、歴史的名盤とも言える「 IV 」です。アーティスト名もタイトルも書かれていないジャケットには、思わせぶりな一枚の絵と、四つの奇妙な絵文字だけが描かれています。この如何にも奇を衒ったデザインのアルバムは、しかし現在でも新譜が相当数売れ続けているという怪物的作品でもあります。単にロックというジャンルだけでなく、人類音楽史上に残る真の傑作といっても過言ではないでしょう。特に4曲目の「STAIRWAY TO HEAVEN(天国への階段)」は、芸術的な完成度を誇る名曲として、今もなお世界中で愛聴されています。誰でも一度は聴いたことがあるはずの曲ですが、忘れた人にはもう一度静かな環境で聴き直して頂きたい曲ですね。
この「 IV 」を初めて聴いたとき、私は全体の構成に少し違和感を覚えました。それというのも、4曲目と5曲目の間が断絶しているように感じられたからです。しかし、暫く考えてみるとその原因がわかりました。つまり、この「 IV 」はLPへの収録を前提とした構成になっていて、A面(1~4曲目)とB面(5~8曲目)という収録形態の都合上、「天国への階段」と「MISTY MOUNTAIN HOP」の間で雰囲気の齟齬があっても仕方が無いのです。むしろ、このアルバムは意図的にA面とB面でイメージを変えているようにも見受けられます。CD一枚で約12曲編成が当たり前の時代に育った私としては、いささか想像力を必要とする解答でした。
ここでA面について考察してみると、実はA面だけで「起承転結」が完結していることがわかります。順に追っていくと…
(1)BLACK DOG
前作「 III 」で散々な批評を受けた後、全世界が固唾を飲んで見守る中で発表された「 IV 」のオープニングナンバーは、ボンゾのドラムが印象的なロック色の強い曲でした。ただし、これに与えられているのは決して「 III 」への反発、「 II 」への回帰といったメッセージではなく、まっさらな心で「 IV 」を聴いてもらうための「地均し」的な役割でした。A面だけでなく「 IV 」というアルバム全体の基盤・イメージ源になっているのが、この曲ではないかと思います。
(2)ROCK AND ROLL
「 II 」に収録されていればあまり違和感が無かったであろうものの、「 IV 」の中では異質なほど軽いノリの曲だと言えます。1曲目ではまだ半信半疑だった人達も、この曲まで聴けば「昔のツェッペリンが帰ってきた!」と思ったことでしょう。確かに、曲単体としては明るく爽快な典型的ロックナンバーでもあります。しかし、A面という枠で見れば飽くまでもバンドの音楽的嗜好の一端を提示しているに過ぎません。「天国への階段」をメインディッシュとするなら、こちらは「新鮮なオードブル」といったところですね。
(3)THE BATTLE OF EVERMORE
この曲こそは、前作「 III 」を批判した人達への強烈なカウンターパンチであるかと思います。しかも、「ROCK AND ROLL」で昔のスタイルに戻ったと思わせておきながらの、このコテコテのトラッドフォークぶりですから、効果は絶大だったことでしょう。「音楽のスタイルに関して、誰にも何も文句は言わせない」そういうバンド側のメッセージも読み取ることができます。これもまた、バンドの多様性を証明するためのナンバーですね。
(4)STAIRWAY TO HEAVEN
様々なテイストのオードブルが出た後、それらを纏め上げ昇華させるのがメインディッシュの役割であるとするなら、この「天国への階段」は正しく最高の料理だと言えるでしょう。最初のアルペジオを聴いていると「THE BATTLE OF EVERMORE」の延長であるとも思いがちになるのですが、徐々に曲が進むにつれ、これが単なるフォークではなく、哀愁に満ちたバラードであることがわかってきます。そして、段々と楽器の数・音の数が増えていき、やがてクライマックスの第三パートに至ると、幻惑的なギターの旋律と驚異のハイトーンボイスによって、殆ど宗教的な高揚感を味わうことが出来ます。この時点で、この曲のジャンルがロックであるかどうかなどは、最早気にならなくなっていることでしょう。技術や形式に対する独善的な拘りではなく、聴衆を感動させるための真摯な計算が、この「天国への階段」には込められています。結局、この曲があまりにも素晴らしかったため、世の評論家達は皆、あれだけ批判した「 III 」の存在価値をも認めざるをえなくなりました。そういった意味でも、この「 IV 」というアルバムのA面は、前期ツェッペリンを総括する内容・構成になっていると言えます。
私が「 IV 」を流すときは、大抵最後の「WHEN THE LEVEE BREAKS」まで聴くのですが、やはり「天国への階段」でアルバムが一旦完結しているという印象は変わることがありません。敢えて言うなら、ツェッペリンにとっても、ロックという音楽ジャンルにとっても、この曲が発表された時がピークだったのではないかと思います。ある漫画家が「天国への階段」をして「死ぬ間際に聴きたい曲」と言ってましたが、今のところ私も同じ気持ちですね。
Posted at 2007/04/09 04:19:57 | |
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