2012年05月15日
半年以上も当ブログを放置しておいて誠に申し訳ございません。突然の復帰ではありますが、先月にスバル・BRZの試乗に行ってきたので、今回はその感想を述べてみたいと思います。
まずエクステリアについてですが、事前の情報通りボンネットの位置が低く、ルーフ高も想像以上に低いものでした。また、写真ではモッサリしている感じのリヤセクションも、実物は割とシンプルに見えたりします。下手な喩をするなら、かつてのトヨタ・サイノスβを、全高を変えずに前後左右に引き伸ばしたような感じでしょうか。マツダ・ロードスターを除けば、現在の国産車としては外観上の無駄が少ない、かなりシャープなデザインのモデルであると言えます。トヨタ・86とはフロントフェンダー上端のパーツと、バンパーの形状において差異があるのですが、私としてはBRZの方がスッキリしていて好きですね。ちなみにボンネットを開けてみたところ、エンジンルーム内にはまだ若干の余裕が残されており、何かしらのパーツを追加で搭載することは可能なようでした。しかし、噂になっているターボ化については、補機類の配置的に難しいのではないかと思われます。エンジンルーム内でもう一つ目につくのはハの字に取り付けられた補強バーで、営業さん曰く、これが無いとフロントの剛性がかなり落ちるそうです。あと面白いのが、エンジンカバーに「D-4S」というオーナメントがデカデカと、それも「BOXER」のバッジより上部に貼られていることです。「おいおい、お前さんのところは今回そんなに偉そうにできるほど頑張ってないだろう」と、初めは私も思いました。しかし、そういうシニカルな気分は後に良い意味で裏切られることになります。この辺についてはドライブフィールの段で触れることにしましょう。
次に車内についてですが、運転席は頭上も足元も特に窮屈ということはなく、適度にタイトで心地良いです。意外だったのは着座位置で、外観から予想されるほど低くありません。それというのも、イメージキャラクターに黒木メイサを採用しているように、スバルとしては割と本気で女性客の獲得を考えているらしく、その座高に合わせて(つまり男からしてみたら若干高いアイポイントで)着座位置を設定しているからです。ボンネットが低いせいもあって見晴らしが良いのは助かるとしても、コスモのような「尻で路面をなぞる感覚」が希薄なのは少し残念でした。もっとも、それ以上に気になったのがインテリアの質感です。同日の夕刻に訳あってダイハツ・ムーヴカスタムのターボ版に試乗したのですが、メーターパネルに関しては間違いなくあちらの方が上質でした。BRZはダッシュボードのパネルやエアコンダイヤルなどのパーツも、メッキ処理もクリアコーティングもされていないので、露骨にチープに見えてしまいます。本当のスポーツカー乗りからすれば、内装など重要でないのかもしれません。ただ、アウディ・TTのようなスポーティクーペが好きな身としては、多少価格が上がってもインテリアにもコストをかけてほしかったというのが正直なところです。いずれ各社からアフターパーツが数多く出るでしょうから、そこに期待するしかないですね。
次は実際に運転してみた感触についてです。高速域での限界性能については評論家や他のみんカラユーザーさんにお任せするとして、ここでは街中を流したりワインディングを楽しんだりする程度の観点から語ることにします。BRZの特徴として最も気に入ったのは、FR車らしからぬ安定性の高さでした。重心高を下げることに拘ったという開発陣の弁に偽りはなく、直進時でも旋回時でもこの車はまさしく路面に吸い付くように走ってくれます。足回りのセッティングに関して、86が前柔後硬、BRZが前硬後柔であることは周知の通り(営業さん曰く、そういう味付けの違いを指示したのはトヨタの章男社長であるらしい)ですが、それを差し引いてもBRZのスマートな身のこなしには純粋な驚きがありました。この「安定性」という点については、もう少し説明を加えたいと思います。実は去年の秋頃、デビュー直後のBMW ・1シリーズの試乗に行ってきたのですが、これがあまりにも期待にそぐわない代物であったため、当ブログに試乗記をアップするのをやめました。それというのも、新型1シリーズは普通に走行している状態ではリヤを引きずっていると表現できるほど挙動が落ち着いているため、何の面白味も感じられなかったからです。電子制御の介入によって強制的に滑らなくしているようなフィーリングが顕著過ぎるのです。超フロントヘビーで強アンダーなコテコテのFF車に毎日乗っていると、たまに乗るFR車に対してニュートラルで軽妙なハンドリングを期待してしまうのですが、新型1シリーズからその喜びを得ることは困難であると言えます。それに対し、BRZが示す安定性とは重心の低さや足回りのセッティングを含めたシャシーのキャパシティに由来するものであり、「もっと前に進める」「もっとアクセルを踏んでも良い」とドライバーのヤル気を喚起してくれます。同時に、車を自在に振り回す技術が無い私としては、皮肉にも「これは限界を追及するのが厳しそうだ」と痛感した次第でもありました。接地感についても、インプレッサやレガシィのようにタイヤ4本で路面を掴む、もしくは路面を引っ掻くという感じではなく、ボディとエンジンの重量が4輪に綺麗に分散されて、その自重のみで路面に貼り付いているといった感じなので、スバル製のスポーツカーにしてはステアフィールが爽やかであるだけでなく、乗り心地も意外に良かったりします。BRZがポルシェ・ケイマンを一つの指標として開発されたらしいのですが、仮にポルシェが300万で買えるスポーツカーを造ったとしても、やはり同じような物が出来上がるのではないかと思えるほど、BRZの基本的な走りの質感は高いと言えます。街乗りやワインディングを楽しむ分には、もうこれで充分でしょう。あとは限界走行時のポテンシャルが如何なるものなのか、各雑誌やユーザーさんの情報・評価に注目したいところですね。
次はエンジンとトランスミッションについてです。先にトランスミッションについて述べると、スポーツカーに載せる6段ATとしては可もなく不可もなくといった感じでしょうか。マニュアルミッションの旨味を再現してくれるAT(シフトチェンジがスムーズかつ一瞬というだけなく、それなりにダイレクト感が味わえる)という意味では、VWグループのDSGがベストであると私は考えているので、この辺については最初から他社の車に期待していません。それでも運転していて特別痛痒を感じることはなかったので、BRZのATもなかなか出来が良いのかな、と思います。マニュアルモード時のシフト操作が「引いてアップ、押してダウン」であるなら、もう少し評価が上がります。が、そもそもマニュアルで乗るべき車なので、そういう部分はどうでもいいような気もします。とりあえずAT派の人でも走りを楽しめることは間違いないですね。それより大事なのは、エンジンの性能に関することです。我が白兎の直4ターボが同じ200psながら最大トルク28.6kgmを1800~5000rpmの間で発揮するのに対し、BRZの水平対向NAはトルクの盛り上がりが3000rpm辺りで一回(およそ20kgm)、6000rpm辺りでもう一回(ここで最大20.9kgmに達する)というふうにM字曲線になっており、少々中弛みする傾向があります。つまり、BRZはGTI ほどの中間加速が得られないのです。私はマイカー選びの条件として、いつでも前車を抜き去れるくらいのダッシュ力を求めるのですが、BRZでそれを試してみたところ、やはりイメージ通りに加速しないもどかしさを覚えました。ちなみに、先に挙げたトヨタの「D-4S」はエンジンの全回転域でレスポンスを良くするための燃料噴射システムであり、トルクの中弛みを抑える働きもしています。この技術がなければもっとダルイ加速しかしないのだということを考えると、今回ばかりはトヨタも的確に貢献していると言えます。もしこの点を改善するなら、排気量を上げるかターボ化するしかありません。個人的にはターボ化にもスーチャ装着にも抵抗はないのですが、エンジンルームの制約とコンセプト的な問題により、実現する可能性はかなり低いのではないかと予想されます。やはり、シフトをマニュアルで操作してエンジンの美味しいところを使うというのが、この車の正しい乗り方なのかもしれませんね。
最後に明らかに不満な点を一つ挙げます。それは、サウンドクリエーターというエンジンの音をドライバーに聞かせる装置です。マツダ・ロードスターにもサウンドエンハンサーというものがありますが、あちらは前から後ろへ音が流れていくのに対し、BRZの場合はほぼ真横からドライバーの顔めがけて音がぶつかってくるような感じになります。しかも、ボクサーエンジン自体が低い音しか出さないため、どれだけ回しても高揚感が得られません。インプレッサのようにタービンの回る音が混じっていればまた違う雰囲気にもなるのかもしれませんが、基本的には不要な装置であると言えるでしょう。こういう下らないことにコストをかけずに、もっと真面目に内装の質感向上に取り組んでもらいたいものです。
総合的な結論を述べると、スバル・BRZは「買い」なモデルだと思います。車に興味の無い若者や女性を振り向かせるほどの魅力はありませんが、車好きな中年男性が再び走り屋を始めるためのベース車両としては優れた資質を備えています。お金をかけてチューニングすることを厭わないのであれば、この車はかなり高いレベルでの「リターン」をもたらしてくれるはずです。周囲でスポーツカーに乗りたいという人がいたら、積極的に勧めてみても良い一台ですね。今後しばらくの間、日本のスポーツカーに関する話題はBRZと86を中心として展開されることになるでしょう。そして、その流れで他社からも新たなモデルが続々と出てくるのだとしたら、BRZと86は日本スポーツカー史上の中興の祖として歴史に刻まれるかもしれません。両車にそれだけのポテンシャルがあるのは事実ですし、そういった意味では今回はトヨタとスバルの仕事ぶりを素直に称賛したいと思います。
ただし個人的な意見を述べると、現行のBRZが購入対象の第一候補に上ることはありません。この先STI が250ps/30kgmくらいの出力で低速域からトルクが沸いてくるモデルを造ってくれるなら話が別ですが、内装にそれなりの質感を求めつつ楽に速く走りたいという本物のスポーツカー乗りではない私としては、依然として次期ゴルフGTI や次期A3、まだ見ぬビートルRやポロR、あるいはBMWの新型3シリーズやTAKERI をデザインベースとしたマツダの次期アテンザの方が魅力的に思えるのです。以前から予測していたとおり、今年は面白そうな新型車が数多く発表されそうなので、それらを楽しみに待ちたいですね。
Posted at 2012/05/15 21:31:34 | |
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車 | 日記