
林道、それは最後のフロンティア。そこには原人の想像を絶する新しい文明、新しい生命が待ち受けているに違いない。これは原人最初の試みとして、調査旅行に飛び出した中古車 ジムニさん号の驚異に満ちた物語である。
これまで報告した「
クマ出没記」と「
続クマ出没記」のデータをGoogle Earth上に落とし込んで、クマさんの分布が一目でわかる「南留萌KUMAP」を作成しましたので報告します。
【緒言】
「机の上にクマはいない」(アイヌ最後の狩人:姉崎 等)の言葉に感銘を受け、文献・伝聞情報に頼ることなく、2016年から2020年の4年間、単独で留萌南部の林道を逍遥し、留萌南部地域で個体数が減少しているヒグマの生息の証拠を自分の目で集めてきた。調査は断片的で不完全であるものの、一度生息の地理的分布を地図に描いてみることにより、今後の調査の肝要を得ようと「南留萌KUMAP」の作成を思い立った。
【材料と方法】
原人がこれまで南留萌の林道を走り回り、集積したクマさんのフン、足跡、食痕、爪痕、個体目撃などの位置情報に、若干の他者による確実な目撃情報を加え、
Google Earth Pro上に「目印」として位置情報を記録した。それに不随する林道および行動範囲と思われる国有林・道有林・民有林のGIS林班情報を加え地図を作製した。関連する個体(群)と思われる地帯に「小平寧楽大椴個体(群)」のように名称をつけた。なお、データの少ない苫前町は南留萌KUMAP作成から除外した。
1) 林道GISデータ: 国土地理院GIS Maps上で利用可能な林道情報は付属の作図ツールにて林道をトレースし、
KMLファイルとして保存した。それをGoogle Earth Proに読み込んで衛星写真上林道として認識できる部分をさらに追加した。国有林については留萌南部森林管理署(北海道森林管理局)からの
銃猟立入禁止区域図、林道工事入札添付資料としての林班図にて修正・追加した。道有林については留萌振興局森林室から提供を受けた
留萌管理区林相図にて修正・追加した。さらに実際に林道を走行し
GeographicaにてTrack recordを残し、修正して留萌南部(
増毛町・
留萌市・
小平町・
苫前町)のほぼ完全な国有・道有・民有林道のGISデータをKMLファイルとして作成した。
2)林班GISデータ: 道有林については
道有林森林資源情報資料ダウンロードページ、民有林については
森林計画関係資料ダウンロードページからKMZファイルをダウンロード、Google Earth Proに読み込んで必要な部分をKMLファイルとして保存した。国有林については北海道森林管理局保全課のご厚意により
林班GISデータをダウンロードさせていただき、shapeファイルを
QGISにて
KMLに変換し、Google Earth上でラベル情報を加えて保存した。
3)ヒグマ痕跡・目撃位置情報: ヒグマ活動の痕跡の位置情報は優秀なGPS定位性能を持つiPad MINI 4上での
Geographica表示のスクリーンショットを残すことで半径5m以内の誤差で記録した。
4)南留萌KUMAPの作成: 痕跡・目撃位置情報をGoogle Earth Pro上で「目印」として加え、その位置に関連する林道を全林道KMLデータから抜粋して加え、さらに尾根や河川などの地形を考慮して、ヒグマの最低活動範囲を推定し、それに相当する林班をポリゴンの線や塗りつぶしの色を赤色に統一して加えた。
【結果】
1.南留萌 KUMAPの概観
増毛町、留萌市、小平町の3市町にまたがるヒグマ分布KUMAPを下
図1に示す。分布は不連続であり、森林とくに広葉樹林が豊富に残されている地帯に集中している。分布は国有林>民有林>道有林の順に多い。
図1.
2.増毛町のヒグマ個体(群)
増毛町のヒグマ分布KUMAPを下
図2に示す。増毛町には暑寒沢林道・別苅線に痕跡が発見され、また道道546号暑寒別公園線を横切るクマが目撃されることが多く原人も別苅線で若い個体を目撃したことがある。この区域に棲む個体群を
暑寒・別苅個体(群)と呼ぶ。この区域の暑寒別公園線の南側には果樹園があり、ヒグマはそれを目当てに道路を横断しているものと推定される。一方、道道94号増毛稲田線でも道路を渡るヒグマがよく目撃されるところであり、その西側山林の43林班林道、東暑寒林道に痕跡が発見される。また東側の茶々の沢林道(御料)にも多くの糞が発見される。この地域の個体を
東暑寒・御料個体(群)と名付ける。なお、茶々の沢(御料)は留萌市留萌ダム奥の個体群と行き来がある可能性が高い。
図2.
3.留萌市のヒグマ個体(群)
留萌市のヒグマ分布KUMAPを下
図3に示す。留萌市には少なくとも4つの個体群が識別される。
① 留萌ダム奥個体群:チバベリ右沢の奥、南部坂林道も左沢の104・105林班も留萌市ゲートと国有林ゲートで施錠された場所であり原生林が残されている地域である。ここに棲む個体群は増毛町の東暑寒・御料個体群と共通個体である可能性はある。
② 藤山個体(群):秋などに藤山の農村地帯に堆肥や作物を求めて出没する個体であるが、南には広い森林、北には鳥獣保護区がある。
③ 樽真布個体(群): 留萌川の支流であるタルマップ川(道道801号)と中幌糠川(道道550号)にはさまれる逆三角形の森林地帯に棲む個体(群)と思われ、樽真布の農家の南瓜を食べに来ることで有名である。
④ 東幌糠個体(群): ポンルルモッペ川沿いには美沢通り・ポンルルモッペ林道、留萌川源流には道道613号があり、その一帯に生息していると考えられる。峠下地区で目撃されるヒグマはこの個体群由来であろう。
図3.
4.小平町のヒグマ個体(群)
小平町のヒグマ分布KUMAPを下
図4に示す。小平町には少なくとも3つの個体群が識別される。
① 沖内・裏沖内個体(群): ポン沖内林道、幌沖内林道、裏沖内林道は近接した区域にあり、この個体群は同一と考えられる。ヒグマ生息数も小平町では最多と思われる。
② 寧楽・大椴個体(群): この地域は林業がさかんに行われる道有林があるが、同時に広葉樹林も多く残されている地帯である。
③ 上記念別個体(群): 道道126号線は佐藤の沢林道の手前で施錠されており、一般人は徒歩でしか入れない。この区域は現在は林業も行われておらず、手付かずの自然が多く残されている。佐藤の沢林道周辺に大型個体が生息するが、近辺にも複数個体がいると推定される。
図4.
【考察】
南留萌は近年までヒグマの絶滅が危惧されていた地域であり、最近は個体数が増加し絶滅の危機は免れたといっていいが、それでも分布は不連続である。その分布をみると、広葉樹林(原生林)が多く残されている国有林地域に多く、針葉樹林として植林が進んだ道有林・民有林には少なく、食餌を維持できる森林の有無がヒグマ個体群の存続に重要であるのが確認できる。林道のない、深山でのヒグマ生息は確認が困難だが、留萌南部は歴史的に林業がさかんであった地域であり、数多くの林道があり、生息調査には適した地域であるといえる。ヒグマの生息は人里から10km以上離れた地帯にはまれであり、今回識別された個体群は、人里から数km以内の所にあることが多い。これはヒグマが人の生活圏内にあることが多いミズナラなどの堅果類のほか、農作物・果実、堆肥、遡上するサケ、ハンターの残したシカ死体を目当てに人里近くにひっそりと棲んでいる可能性を示唆する。原人はこの「となりのヒグマ」の生息状況をさらに詳しく調査して、人間の側からsocial distanceを保つための情報を市民に提供し、この愛すべき隣人を守る活動を行っていきたいと考えている。
(ポスターはヒグマの会からお借りしました)
南留萌林道概説目次
南留萌林道概説はクロカン・ドライブ・登山・自然観察・野鳥観察・化石採集・渓流釣り・昆虫採集など様々な目的のため山に入るひとたちのために作成しています。原人の実地探査などにより訂正・補遺が必要な場合、予告なくその都度改訂していき、最善のガイドとなるよう心掛けていきます。
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Posted at
2020/06/24 19:45:48