
前回、前々回と2回にわたり、マツダ767Bという四半世紀前のクラシックレーシングカーについて、マシンの素性や戦歴、そして、なぜこのマシンが私にとって特別な存在であるかをお話ししました。
そんな自称・767Bマニアの私が、今回のグッドウッドでのクラッシュを極めて冷静に受け止めているという意外な事実。
私にそんな反応をさせた2つの大きな理由とは・・・
1つ目は、ブログタイトルに表現した通りで、
「理想と現実との違い」とでもいいましょうか・・・
私の思い出の767Bとは、1989年当時、圧倒的多数を占める他メーカーのレシプロエンジン勢に伍して、孤高のロータリーサウンドを轟かせながら、FISCOやルマンの檜舞台を全力で駆け抜けていた現役時代の勇姿(#201/#202/#203)であって、その輝かしい姿をこの現代において100%正確に再現することなど、事実上不可能なわけです。
つまり、私の憧憬の767Bは常に自分自身の心の中だけに存在するもの。超個性的なそのアピアランス、突き抜けるようなそのサウンド、空気をも震わすその振動(波動?)、緊迫感や真剣さを伝えるその匂いや味わい・・・まさに五感を通じて得られる生々しい感触ととともに、等身大な記憶として刻み込まれているのです。
だから、数十年もの時を経て、今もなおデモ走行で爽快なサウンドを披露してくれる往年のワークスマシンたちも、現役当時の姿を知る私からすれば、「デモ」や「実演」という新たなステージで余生を謳歌している姿であり、心の中に秘めたリアルな感動の記憶を思い起こさせてくれる導火線、キッカケに過ぎないのです。
これはたとえ、2011年にマツダ本社の手によって入魂のフルレストアを受け、J.ハーバート選手のドライブで20年ぶりにサルテサーキットを駆け抜けた栄光の787Bであっても、私は基本的に同じ感覚で受け止めています。・・・たしかに、かのル・マン凱旋走行はかなりの本気モードでしたけど、787Bの個性を引き立ててくれるライバル勢の姿はそこになく、いわば単独演奏でしたものね(^^;)。
(とはいえ、ル・マン主催者のACOからのデモ走行オファーに対し、当時赤字に喘いでいたマツダが787Bのフルレストアを決意、100%の誠意をもって応えたことは大変誇らしいし、ファンとして後世に語り継がねばならないと思います)
もちろん、レーシングマシンは古かろうが新しかろうが、走ってこそナンボ。
かつてのグループC全盛時代を知らない方や若い世代のマツダファンに、孤高の4ローターサウンドを惜しみなく披露し、マツダのレースレジェンドを直接感じさせてくれる貴重な語り部として、ぜひこれからも元気なパフォーマンスを見せ続けて欲しいと願う純粋な気持ちは、当然ながらあります。
ただ、私個人にとってそれはあくまでも、心の中の思い出を呼び起こすスイッチのひとつに過ぎず、他にも冊子やVTRなど幾つもスイッチは隠し持っているので、「くれぐれも無理しないでいいからね・・・」と優しく声をかけてやりたいというのが正直な心境。
だから、とても身近な存在だった767Bの202号車が悲劇に見舞われ、少なくとも当面はその余生の活動がストップする事態になっても、私には「最後の砦を失った」喪失感はなく、大きなショックには発展しなかったのです。これが1つ目の理由。
そして、もう1つの理由は・・・
「感謝」と表現すべきもの。
先に述べた2011年以降、各地のファンイベントやサーキットイベントで、実際にマツダの4ローターサウンドの迫力を味わった方も多いと思います。
この4年間は、ル・マン優勝車の787B(#55)をはじめ、JSPC仕様の787B(#202)、そして、同じくJSPC仕様の767B(#202)の3台の動態マシンが、代わる代わる大勢のファンの前で元気にデモ走行を披露してくれているからです。
でも、これら3台のうち、2台の787Bと、残る767Bとの間に「大きな違い」があることは・・・あまり知られていないのかもしれません。
え? マシン型式が違うだけでしょ?
いいえ。そうではありません。
2台の787Bが何れもマツダ本社の所有マシンであるのに対し、なんと767Bは個人所有のマシンなのです。
つまり、767Bは毎回のデモ走行をオーナーさんの自費でこなされているわけで、これは実に驚くべきこと。
ご自身でショップを経営され、量産REに関するノウハウも豊富な方とはいえ、レーシングカーの世界は全く別物。元ワークスカーのモンスターマシンを動態維持することの困難さは、想像に難くありません。
普通であれば、貴重なマシンを入手してもせいぜいお店のディスプレイとして飾られるのが関の山で、ともすればその大きな図体を完全に持て余され、ずっと倉庫に仕舞い込まれたり、下手をすれば野晒しにされても全く不思議ではないのに、スペシャルマシンを走行可能な状態にメンテし続ける心意気たるや、並大抵のものではありません。
しかも、787B(#55)が2005年秋のルマンクラシック(美祢)を最後に暫く休眠状態に入って以降、JSPC仕様の787B(#202)が動態レストアを受けて復活する2008年秋までの間、かの4ローターサウンドをファンに披露できるマシンはこの個人所有の767Bしかいなかったわけで、もし動態維持にかけるオーナーさんの心意気がなかったら、マツダのロータリーレジェンドは極めて危機的な状況に陥っていたのです!
・・・もうね、もし私がマツダの社長だったら、自ブランドへの多大な貢献に感激し、このオーナーさんに感謝状を何枚も乱発してたでしょうよ(爆)
(ま、それ以前に、787Bを休眠状態にはさせないと思いますが)
だから、こうしてデモ走行継続が困難な状況に陥ってしまったオーナーさんには、不幸なクラッシュに対する慰めの言葉とともに
、「今まで本当に有難う」との感謝の言葉しか浮かんでこないのです。
何よりも、今回のグッドウッド出場で四半世紀ぶりに欧州の地を踏み、ヒストリックレーシングカーの祭典で満場の観衆から注目を浴びたことは、当の767Bも大いに栄誉に感じているに違いありません。
だからこそ、767Bの今後に関しては、オーナーさんご自身の意向が最大限に尊重されるべき。
暫く休眠するにせよ、復元に向けて動き出すにせよ、その他の選択肢を選ぶにせよ、無責任な外野がああすべきだこうすべきだなどと言う筋合いではないし、ましてや、クラッシュを叱責するだなんて言語道断。そんな無礼でお門違いな輩には
アナタ、これまでオーナーさんがどれだけ苦労されてこられたか判ってますか?
と私は問い質してやりたいですよ。
もちろん、もし仮にオーナーさんが復活の意志表示をされたとして、本家マツダをはじめ世界中のファン、良き理解者たちが力を集結させ、レジェンドカー復活に向けて大きな一歩を踏み出すようなムーブメントに発展すれば、とても素敵なシナリオだと思いますけどね(^^)。
でも・・・
今はそっとしておいてあげましょうよ。
これまで、767Bの202号車が魅せてくれたデモランの勇姿をしっかり記憶に刻み込みながら。
(おわり)
Posted at 2015/07/08 23:28:42 | |
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