
先々回、先回とマニアックな?エンジン・ネタが続きましたが、ワタクシがエンジンのメカニズムに興味を持った切っ掛けの話をしたいと思います。
ワタクシが学生時代だった頃、車好きの青年にとって、TOYOTA 2000GTやソアラ2800GT,日産 スカイラインGT-Rやフェアレディ Z432,いすゞ 117クーペやジェミニ ZZなど、スポーツカーの象徴だった動弁機構がDOHC(Double OverHead Camshaft)構造のエンジンを搭載した車は憧れでもありました。
そんな憧れもあって、ワタクシが社会人になってから買った最初の車は
カローラレビンGT APEX(AE86)でした。
この車が搭載していた1気筒あたり4バルブのDOHCの吸排気弁機構をもつエンジンが
4A-GEUです。
4バルブエンジンは2バルブに比べ、動弁系の慣性質量を増大させることなく、バルブの有効開口面積を大きくして流入空気量を増やすことができ、点火プラグを燃焼室の天井中央部に配置できるので、燃焼効率がよいなどのメリットがあるといわれてます。
今でこそ、軽自動車からミニバンに至るまで4バルブのDOHCヘッドとなり、ありがたみがないですが、当時はレーシングカーのみが採用するような高性能なメカニズムで、国産車では過去にスカイラインGT-RとフェアレディZ432に搭載されていた
S20型2ℓ直6エンジンのみが採用。当時生産中のエンジンでは、新しくスカイライン2000RSに搭載された
FJ20E型エンジンが採用しているだけでした。
FJ20E型を含めて、それまでのDOHCエンジンはカムシャフト駆動にタイミングチェーン(ローラーチェーン)⛓を使ってましたが、4A-GEUはコスト・騒音・重量・潤滑・タイミング精度に有利といわれていたタイミングベルト(コグドベルト)を使っていた点が目新しいところでもありました。
(1981年発売の初代ソアラに搭載された直6・2バルブDOHCの5M-GEU型エンジンもタイミングベルトでした。)
タイミングベルトは1970年代から2000年頃まで、カムシャフト駆動の中心的役割を担っていましたが、タイミングチェーンの改良などにより、耐久性やエンジン全長のスリム化に有利なタイミングチェーンが見直され、今ではタイミングベルト式は殆んど採用されなくなりました。
実際にAE86レビンを所有しての感想は、それまで乗っていたセリカLB 2000STが搭載する
18R-U型エンジンと比べると、排気量が小さいので低速トルクはないものの、高回転まで一気に回るシャープな吹き上がりとレスポンスは段違いでした。👍
しかしながら、当時のワタクシはドリフトすることもなく、高回転まで回すことが殆んどなかったので、高回転高出力のDOHCエンジンに乗ることは見栄と自己満足以外に価値がなかったのですが。😅
その翌年の1984年、ホンダから対抗馬として登場したのが、通称「ワンダーシビック(AT型)」や「バラードCR-X(AS型)」の si グレードに搭載された
ZC型エンジンです。

ZC型エンジン
排気量が1.6ℓで、タイミングベルトで2本のカムシャフトを駆動する1気筒あたり4バルブのDOHCの吸排気弁機構をもつことも4A-GEUと同じです。
4A-GEUがグロス値
(現在使われているネット値の場合は、エンジンを車両搭載状態とほぼ同条件で測定した数値で、グロス値はエンジン単体で測定される為、ネット値より高い数値になります。)で最高出力:130ps/6,600rpm,最大トルク:15.2㎏m/5,200rpmだったのに対し、ZCは135ps/6,500rpm,15.5㎏m/5,000rpm❗。
3年後、通称「グランドシビック(EF3)」の si グレードに搭載されたZCでは、ネット値で130ps/6,800rpm,14.7㎏m/5,700rpmにパワーアップ。
ちなみに、4A-GEUはネット値で120ps/6,600rpm,14.5㎏m/5,200rpm。
後出しジャンケンなので、ZCの方が高出力なのは当然として、驚いたのはそのメカニズムでした。
それまでのDOHCエンジンといえば、高回転高出力とするために、カムがバルブリフター(タペット)を直接駆動する方式で、シリンダーはビッグボア・ショートストローク若しくはスクェア(ボアとストロークが同じ)のエンジンであることが常識でした。
一般論としてビッグボア・ショートストロークのメリットとしては、
- ◾バルブ面積を大きく取れるので、たくさんの空気を取り入れて、スムーズに排出させることが可能になる。
- ◾長い距離をピストンが往復しなくてすむのでピストン速度が低く、したがって機械損失が小さい。
よって、高回転高出力にしやすい。
反対にデメリットとしては、
- ◾点火プラグから燃焼室の端までの火炎伝播距離が長いため、燃焼が完了するまでの時間が長く、良い燃焼状態を得にくい。
- ◾燃焼室の表面積が大きくなるため、冷却損失も大きくなる。
- ◾ノッキングを起こしやすく、したがって圧縮比を高くしにくい。
といった傾向があるといわれてます。
(余談ですが、86/BRZの「FA20」型エンジンが、ベースとなったスバルのボア×ストロークがφ84.0×90.0㎜の「FB20」型からφ86.0×86.0㎜のボア×ストロークに変更された理由は、リッター100馬力を達成するためには、バルブ面積の拡大と高回転化するのに必要だったということらしいです。)
| カローラレビン GT (AE86) | シビックSi (EF3) | カローラフィールダー (NRE161G) |
エンジン型式 | 4A-GEU | ZC | 2NR-FKE |
エンジン種類 | 直列4気筒 DOHC | 直列4気筒 DOHC | 直列4気筒 DOHC |
カムシャフト駆動方式 | コグドベルト | コグドベルト | チェーン |
バルブ駆動方式 | 直打式 | ロッカーアーム | ローラーロッカーアーム |
バルブ径 吸気/排気 | 30.5㎜/25.5㎜ | 30㎜/27㎜ | |
バルブリフト量 吸気/排気 | 7.56㎜/7.56㎜ | 10.3㎜/9.0㎜ | |
バルブ挟み角 | 50° | | |
VVT / VVL | ✖ / ✖ | ✖ / ✖ | In-Ex / ✖ |
総排気量(㏄) | 1,587 | 1,590 | 1,496 |
内径×行程(㎜) | 81.0×77.0 | 75.0×90.0 | 72.5×90.6 |
ストローク/ボア比 | 0.95 | 1.20 | 1.25 |
圧縮比 | 9.4:1 | 9.5:1 | 13.5:1 |
燃料噴射方式 | ポート噴射 | ポート噴射 | ポート噴射 |
最高出力(PS/rpm) | 120/6,600rpm | 130/6,800rpm | 109 /6,000rpm |
最大トルク(㎏・m/rpm) | 14.5/5,200rpm | 14.7/5,700rpm | 13.9 /4,400rpm |
シリンダーブロック | 鋳鉄製 クローズドデッキ | アルミ合金製 オープンデッキ 鋳鉄製シリンダーライナー | アルミ合金製 オープン゙デッキ |
ボアピッチ | 87.5㎜ | ?㎜ | ㎜ |
平均ピストンスピード(最高出力時) | 16.9m/秒 | 20.40m/秒 | 18.12m/秒 |
平均ピストンスピート(レブリミット) | 19.76m/秒(7,700rpm) | 21.00m/秒(7,000rpm) | m/秒(rpm) |
エンジン重量 | 123㎏ | 102㎏ | |
| | | |
発売日 | 1983年5月 | 1987年9月 | 2015年3月 |
ところが、ZC型エンジンはボア・ストローク比が1.2と極端なロングストロークでした。
4A-GEUは、1.5ℓSOHCの3A-U型エンジン(ボア・ストローク:φ77.5×77.0㎜)のボアだけ3.5㎜拡大して1.6ℓ化できたのに対し、このエンジンのベースは、元々ロングストロークだったシビック/バラード用の1.5ℓSOHCのEW型エンジン(ボア・ストローク:φ74.0×86.5㎜)で、これを1.6ℓにするためにボアで1㎜、ストロークで3.5㎜拡大しています。
EW型をベースとしたのは、新規でゼロからエンジンを開発するには時間とコストが掛かるので、軽量・コンパクトなEW型を元に1.6ℓ化、ボアピッチに余裕がないためにストロークアップせざるを得なかったのが実情?のようです。
2.8ℓSOHCのL28E型を搭載する日産フェアレディZ280Z(S130)に対抗するため?に、2.0ℓ(ボア・ストローク:φ75.0×75.0㎜)のM型エンジンを2.8ℓDOHCにした初代ソアラの5M-GEU型もボア・ストローク:φ83.0×85.0㎜と、ボアφ83㎜で限界だったのか若干ロングストロークでした。
ストローク90㎜のエンジンをレッドゾーンの7,000回転まで回すと、平均ピストンスピードは秒速21mに達することになります。当時はレシプロエンジンのピストンスピード限界は20m/秒だと言われており、これには驚きました。
1988年のF1世界選手権で16戦中15勝したMcLaren Honda MP4/4に搭載されたRA168E型エンジンでさえ、レブリミット12,800rpmでの平均ピストンスピードは21.67m/秒だった事実を考えると驚異的です。
【1988年ホンダ F1 V6 1.5ℓターボエンジン】
| McLaren Honda MP4/4 |
エンジン型式 | RA168E |
エンジン種類 | 80°V型6気筒 DOHC |
過給機 | セラミックタービン翼車 ボールベアリングターボ |
過給圧(レギュレーションで規定) | 2.5Bar |
バルブ駆動方式 | ロッカーアーム |
バルブ挟み角 | 32° |
総排気量(㏄) | 1,494 |
内径×行程(㎜) | 79.0×50.8 |
ストローク/ボア比 | 0.643 |
圧縮比 | 9.4 : 1 |
最高出力 | 685PS/12,500rpm |
平均ピストンスピート(最高出力時) | 21.17m/秒 |
許容回転数 | 12,800rpm |
シリンダーブロック | ダクタイル鋳鉄製 |
重量 | 146㎏ |
燃料タンク(レギュレーションで規定) | 150ℓ |
1985年までのホンダ・ターボF1エンジンは、F2用の2ℓ・V6エンジンをベースにしてボアをそのまま流用し、ストロークだけ短縮して1.5ℓに仕立て直したものだったので、ボア・ストローク比でいうと極端なオーバースクェア(φ90.0×39.0㎜)になっていました。
1984年からレース中に使える燃料の量が段階的に制限されるようになり、出力だけでなく、燃費性能の改善も重要になるようになりました。
高い熱効率を得るためには、コンパクトな燃焼室が得られる諸元選定を行う必要があります。
この仕様に対し、’85年シーズンの途中からボアを少し縮小した(φ82.0×47.2㎜)エンジンが投入されており、翌’86年シーズンのRA166Eからはさらにボアを縮小したタイプになり、結局このボアストロークがターボ時代の最後(1988年)まで使わられたそうです。
RA168Eはボア・ストローク比0.643であり、それでも通常のレース用エンジンと比較すると、やや長いストロークだったらしいです。
1985年のRA165E型エンジンは許容回転数が11,000rpmだったらしいので、平均ピストンスピードは17.31m/秒でしたが、1.5ℓV6ターボ最後の’88年には12,800rpmまで伸び21.67m/秒になっていました。
2008年の2.4ℓ V型8気筒でレブリミット19,000rpm時代のホンダF1エンジンRA808E型(φ97.0×40.52㎜)の平均ピストンスピードは25.66m/秒になっていましたが、それより20年以上前に、JTC(全日本ツーリングカー選手権)グループAに参戦していたMOTUL 無限 CIVICのZC型エンジンは180ps/7,500rpmでレッドゾーンは8,500rpmからといいますから、平均ピストンスピードは25.50m/秒以上となり、凄い❗といか言えないです。😱
最近のエンジンのトレンドをみると、ロングストロークのエンジンが多くなったような気がします。昔はZC型や5M-GEU型のようにベースエンジンから排気量アップするためにロングストロークになったケースや、エンジン全長を抑えるためにロングストロークに設計したと思いますが、最近では年々厳しくなる燃費や環境性能規制に対応するために敢えてロングストロークに設計しているように思われます。
ホンダの軽自動車に搭載されているS07型エンジンやスズキの軽自動車に搭載されているR06型エンジンは、興味深いことに、元々ロングストロークだったのを更にストロークアップさせています。これは明らかに小型化や排気量アップのためでなく、燃焼効率を改善させるためですね。
こうした傾向は大衆車だけでなく、最近のBMW,メルセデス,アウディなどのモジュラーエンジン(エンジンのもっとも基本となる諸元を共通化し、3,4,5,6,8,10気筒エンジンを容易に実現するようにしたシリーズ的なエンジン。)もロングストロークが多いですし、BMW M4,AMG A45やLamborghini Huracánのようなハイパフォーマンス・カーやスープラやGR ヤリスもロングストロークですね。
ZC型エンジンがDOHCなのに超ロングストロークであることに驚きましたが、DOHCなのにバルブ駆動方式が直打式ではなく、ロッカーアーム式というのにも驚きました。それまでの一般常識としては、ロッカーアームはアームの剛性不足によるたわみや、その慣性質量により、高回転域でのカムへの追従性が悪くなると言われていて、直打式の方が、高回転高出力に向いていると言われてました。
ZC型エンジンはショートボアなのでバルブ面積拡大に限りがあり、ハイリフト化で有効開口面積を稼ごうと考えたのか?、内側支点のロッカーアーム(中間に支点がくるシーソー式と区別するためなのか、ホンダはスイングアームと呼んでました)のレバー比を利用してハイリフトを実現させました。
これは、カムシャフトをバルブの内側に配置し、ピボットを支点にしたロッカーアームがバルブを作動させるもので、市販乗用車で世界初の4バルブ内側支点スイングアーム方式のシリンダーヘッドということでした。
これもホンダのF1エンジン技術を応用したと聞き、興味を持ちました。
(図面を見ると、ホンダのF1エンジンRA168Eはピボットを支点にしたスイングアーム方式ではなく、ロッカーシャフトを支点としているようです。ピボットを支点にしたスイングアーム方式のDOHCシリンダーヘッドを最初に市販乗用車に採用したのは初代ソアラの5M-GEU型エンジンだったみたいです。この衝撃の事実を知った時、ホンダの嘘つき!と思ったのですが、5M-GEUは2バルブなので、4バルブDOHCではZC型が最初ということになり、嘘ではなかったようですが。)
小型軽量なアルミ合金製シリンダーブロック・等長インテークマニホールドや4-2-1-2のエキゾーストシステムの採用・カム形状に沿って内部を肉抜きした、異形中空カムシャフトなどの技術を投入している点も4A-GEUとの違いでした。
そして何より驚いたのは、このエンジンはトップギア5速のまま、時速30㎞からでも普通に加速出来るほどの柔軟性を持ち合わせているということでした。
それでいて、高回転まで回せば4A-GEUよりパワフルというのですから、4A-GEU乗りとしては心中穏やかではありませんでした。😢

HONDA PRELUDE 2.0si 4WS (BA5)
結局、AE86レビンは5年乗って買い替えましたが、次の車は、ZC型エンジンの流れをくんだ直列4気筒ロングストロークDOHCスイングアーム駆動16バルブ・アルミ製シリンダーブロックのB20A型エンジンを搭載したホンダプレリュード2.0si 4WSになりました。😄
B20A型はアルミ合金製シリンダーブロックなのに、クローズドデッキ構造だった点でも進化してました。
今あらためてZC型エンジンのスペックを見てみると、タイミングベルト駆動だったり、ローラーロッカーアームでなく、スリッパー式ロッカーアームであること、可変バルブタイミング機構がないこと、ダイレクト・インジェクションコイルではないこと、燃料噴射方式がポート噴射のみなど、古さを感じる点もありますが、現在のエンジンのトレンドとなっている要素(ロッカーアーム駆動・4バルブ・DOHCヘッド,ロングストローク・アルミシリンダーブロック,4-2-1のエキゾーストシステムなど)をもった歴史的に見ても銘エンジンだったことが分かります。
このように、エンジンスペックを見ていても、かつての常識や一般的だった物が時代の流れや技術革新によって変わって行く様子を見ることができるので面白く思っています。
- 関連情報ホームページ:
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Posted at
2020/05/22 13:48:06