2009年09月29日
ハイジのブランコ
アルプスの少女ハイジのブランコを覚えているか、とヨメに尋ねられた。 オープニングの歌に合わせて、ハイジが異様に長いブランコをこいでいたというのだ。 言われてみれば、そんな気も・・・。
そこで私はビデオ屋に走った。確かに長いブランコだ。画面で測定したところ、前方の空中で一瞬停止してから後方で止まるまで、6秒もかかっている。通常の振り子運動では、ロープの重さを無視して計算するが、それに当てはめると、長さは36m。これは長い! 身長40mのウルトラマンに迫らんとする勢いだ。
だがこの場合、ロープの重さを無視していいのだろうか?
そこで今度はカインズホームに走った。買ってきたのは、直径16mmの麻ロープ。ブランコとしては手頃な太さだ。1mの重さは170g。片方36mなら、結び目を入れても13kgだ。
これに対して、10歳の日本人女子の平均体重は37kg。やや太めのヨーロッパ人であることを考えて、ハイジの体重は40kg前後と見られる。13kgのロープの端に40kgのオモリをつけた振り子の周期は14秒。画面上の周期12秒に合わせて計算すると、ハイジのブランコの長さは27mとなる。それでもブランコとしては異例の長さであり、落差も大きい。最も低い地点では相当のスピードが出るはずだ。 画面を静止させて測ってみたら、最も高く上がった地点で垂直方向からの角度は70度もあった。
こぎ過ぎである。
落差18m。最高速度は、6階の窓から飛び降りたのと同じ、時速68kmに達する。
これはコワイ! ディズニーランドのジェットコースター・スペースマウンテンでさえ最高時速50kmだ。しかもシートベルトもなんにもなく、頼りになるのはシリの下の狭い横板と両腕だけ。シャトルループなどでもそうだが、特に後ろ向きに振られるときは、心臓が点になるほどオソロしいはずだ。
さらによく見ると、足もとのはるか下界を教会の尖塔が行ったり来たりしている。どうやら100mぐらい上空で遊んでいるようなのだ。歌の中で「口笛はなぜー遠くまで聞こえるの」などという素朴な疑問を漏らしているが、そりゃアンタがそんなに高いところにいるからだ!音は全方位ドーム状に広がっていく。ヒバリやトンビの声がよく聞こえるように、障害物のない上空では、地上より音が伝わりやすいのである。
上空100mにおける時速68kmの振り子運動。常人ならとても耐えられないが、ハイジは天真爛漫に笑っている。恐るべき精神力だが、それより気になるのは、いったいどうやってこんなブランコに乗ったのかということだ。歌に「教えてー、アルムのモミの木よ」という一節がある。ハイジの生活圏内に、有名な大木があるらしい。ブランコの設置場所として考えられるのはここだけだ。
現在、世界最大とされているカリフォルニアのセコイアスギでさえ高さは110m。ハイジのブランコの木は地上127mに横枝を張っているのだから、楽勝で世界一だ。
ブランコに乗りたくなると、ハイジはこの世界遺産級の巨木にアタックをかける。
127mの垂直登攀を達成し、間をおかずロープ伝いに27m降りる。続いて全身を躍動させ、ジェットコースターなみのスピードを満喫するのだ。遊びあきたら、むろん同じルートをたどって降りてこなければならない。
往復308mの垂直昇降。10歳前後の小ムスメが、いつここまで体を鍛えたのだろうか?
・・・とここで、この話は空気抵抗を全く無視しているので、それも考慮してみる。
延長27m、径16mmロープの空気抵抗面積は・・・
0.016m×3.14÷2×27m×2本 = 1.4m2
ハイジ(身長1.4m、体幅0.4mとして)の空気抵抗面積は・・
0.4×3.14÷2×1.4 = 0.88m2
うーむ。
ロープの空気抵抗がでかい。
27m垂直にぶら下がった状態から足こぎだけで70度まで達するのは不可能と思われる。計算するまでもなく初速が足りないのだ。
つまり、
(1) (2) (3)
枝 枝 枝
\ │ /
\ │ /
\ │ /
\ │ /
人 人 人
といった標準的な振り子運動はできないはずで、
(1) (2) (3)
枝 枝 枝
│ │ │
│ │ │
\ │ /
\ │ /
人 人 人
と、なってしまうのだ。
つまり、体重40Kgのハイジが70度の高さにまであがるには、
(1)シートの座席に座りロープを張りつめた状態で
(2)ロープと枝の結び目とほぼ同じ高さの、
(3)他の枝から飛び降りるしかない。
127mの高さから・・・。
シャトルループ+フリーフォールですな。
不可能といってしまえば話は終わり。
無理矢理こじつけてみる。
>ブランコに乗りたくなると、ハイジはこの世界遺産級の巨木にアタックをかける。
>127mの垂直登攀を達成し、間をおかずロープ伝いに
>27m降りる。続いて全身を躍動させ、
>ジェットコースターなみのスピードを満喫するのだ。
>遊びあきたら、むろん同じルートをたどって降りてこなければならない。
これを訂正してみると・・・。
風もなく天気の良い日を選び、ハイジはヨーゼフと共にアルムの巨木を訪れる。この巨木は山の斜面のお花畑に忽然とそびえ立っている。どうやって登るのか?飛び降りる場所の枝に滑車とロープが取り付けられており、昇降台が下がっているのだ。
<概念図>
(飛び降りる枝)←この間約90度→(ブランコの枝)
滑車↓ ↓固定端
■■■■■■■■■■■■ ■■■■■■■■■■■■
@ |■ ア ■ | |
引 /| |■ ル ■ | |
張 / | |■ ム ■ └━┘
端 / \/ ■ の ■ ↑シートは幹にあるたぐり寄せ用
↓ / □ ■ 幹 ■ ロープに通常取り付けられている
犬 昇降台↑ ■ ■
ロープに取り付けられた布製の昇降台に乗ると、引っ張り端をヨーゼフに取り付けて200m近く斜面の下方向へ転がるがごとく走らせる。体重が40Kgあるハイジでも、滑車により重量50%。体重30Kgくらいある大型犬ならなんとか可能である。まして彼はハイジより大きくなかったか。(フランダースの犬と混同しているかも?)
飛び降りる枝にたどり着いたら、ブランコのシートをたぐり寄せる。前回乗ったとき、最後は降りたところの幹にシートを取り付けるようになっている。取り付けは、枝からのびているロープにするので、上からたぐり寄せることができる。シートをたぐり寄せたら、今度は昇降台をさっきシートを取り付けたところまで下げるのを忘れないようにする。ステップはあるのだが、27mも垂直に登るのは面倒なので横着するのだ。
次に、枝の先端近くまで移る。じつはこの枝、大昔おじいさんの遊び場だったので、足場は整備されている。
シートを尻に敷いてロープの緊張を確認すると、勢いよく飛び降りる。遙か下に町並みが見えて気分爽快である。
だが悲しいかな、空気抵抗により振り子運動は終了し、ついには宙づりになってしまう。するとハイジはポケットから5m程の細縄をとりだし、投げ縄の要領で幹のステップになげつけて巻き付かせ、自分を幹に引き寄せる。おじいさんはむかし、間違って縄を落としてしまい必死になってブランコをふって幹に飛びついたことがある。耳にたこができるぐらい聞かされているハイジは、まず手首に縄末端をくくりつける事を忘れない。
もう一度乗りたいときは、シートをかかえて幹につかまったまま昇降台にのり、ヨーゼフに口笛で合図する。遠くまで聞こえるもんだ、とハイジはこのとき歌うのだったが、実は相手が聴力の良い犬だからできる芸当だったりする。
もう降りたいときは、たぐり寄せ用ロープにシートを取り付けておく。実は昇降台の滑車には安全装置を兼ねた仕掛けがあり、ロープ抵抗を調整するヒモが下がっているのだ。抵抗を最大にし昇降台に乗ると、ゆっくりと地上に降り立つのだった。
あー、長ったらしい。
そう、テレビの画面にはこういった複雑な仕掛けはいっさい映らない。
>往復308mの垂直昇降。10歳前後の小ムスメが、いつここまで体を鍛えたのだろうか?
体を鍛えたのは、世界遺産指定を受ける前のアルムの木に滑車を取り付けたおじいさんとヨーゼフだ。ハイジが鍛えたのはちょっとの握力と、度胸である。日に日に重くなるくせにこの遊びがますます好きになるハイジに、ご老体のヨーゼフは辟易しているはずだろうな・・・。
というネタ。
・・・え?みんな読んだの!?
ブログ一覧 |
ワタクシ事 | 日記
Posted at
2009/09/29 23:39:08
今、あなたにおすすめ