
大型バスが防護壁に串刺し状に突っ込んだ事故はあまりに衝撃的で言葉になりません。金沢から東京ディスニーランドまでの料金がたった3500円というのにも驚きです。これで利益を出そうとしたら、人件費を抑制する以外にも、きっと何か重要なものがカットされていたのでしょう。それが”安全”だとしたらこれは、殺人的行為と評価されても仕方ありません。
なんでもかんでも法制化によって安全装置を義務付けするのは好ましいこととは思わないけれど、安全を軽視するバス事業者が少なからず存在することを否定できない以上、安全対策は急務です。
総務省が貸し切りバスの運転手にアンケートしたところ、78%が基準を超える長時間運転をするなど厳しい勤務状況にあり、90%の運転手が居眠り運転や事故につながるおそれを感じる「ヒヤリ・ハット」を経験していたとのこと。規制緩和により全国に4000以上ともいわれる長距離バス事業者をきちんと把握もせず、また監督できていないことにも問題があります。
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居眠り運転防止装置というと、最も古い装置ではU11ブルーバード(1983-)に搭載されたセーフティードライブアドバイザー。 実験ドライバーに徹夜で麻雀させて意図的に睡魔に襲われるような状態にしてテストコースの周回路を長時間走らせ居眠り運転固有の操舵パターンを発見したのです(今ではこんな無謀な実験はどこの自動車メーカーでも許可しないでしょう)。居眠り運転状態になると特定の脳波(α波)と操舵パターンの周期が同期することに目を付け、操舵周期がα波のパターンに一致したときに警報を出す仕組みでした。その他にも連続走行時間、ライトの点灯の有無、ワイパー作動の有無などで疲労度を総合的に判定しブザーや警告灯点灯で注意を促すという、よく考えられた装備でした。
この日産のシステムの特許が切れるのを待っていたかのように2011年にメルセデスが”
アテンションアシスト”をEクラスに標準装備、VWが”
ドライバー疲労検知システム”を7代目パサートに標準装備してきました。どれも舵角センサーから得られる操舵パターンを居眠り運転の検知に使っているので、基本的には同じ発想で作られたものと判断できます。これ以外では
ドライバーの瞼の開き具合をカメラ画像で判定(デンソー)するものや、
クビの角度を耳につけた傾きセンサーで検出する(ゼロワン)ものが存在しますが、コストや確実性、体へのわずらわしさがない点などから舵角センサーを使ったものがベストでしょう。
今回の事故の搭乗者の証言の一つに、事故直前にバスが横揺れ(蛇行)していたというのがありましたので、舵角による検出は可能だったと推定します。検出後ただちにドライバーに警報すると同時に、新幹線のように自動ブレーキをかけ、携帯電話回線を使ってしかるべき監視センターに自動通報など、今の技術をもってすれば、かなりの多重安全システムを構築できるはず。
日産のシステムは残念ながらU11一代限りで消滅してしまいましたが、約30年の時間を超えて安全な長距離バスの運行のためにぜひ復活させて欲しいと思います。
また300km以上走行する長距離バスは複数のドライバーか、バスガイドの搭乗も義務化して欲しい。そのくらいのコストアップは安全性確保に必須だと思うのです。人件費が1万円アップしたとしても25名の乗車であれば、乗客ひとりあたりたった400円の負担ですむのですから。
Posted at 2012/04/30 16:48:05 | |
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