
EV/PHEVのバッテリーが溶損したというニュースがありましたが、バッテリー開発経験者であれば、”ありうる事故ではあるけれど実際に発生したことが信じられない事故”なのではないでしょうか?
【疑問1 ~ 釘刺し試験を実施したのか?】
高密度・高容量のリチウムイオンバッテリーはちょっとしたことが原因となって異常発熱、爆発する可能性があるので、そうならないよう徹底的に対策を施したものを市場に投入するのがバッテリー業界の常識です。 具体的には釘刺し試験といって、バッテリーのセルに釘を打ち込んで意図的にショートさせ、それでも異常発熱や爆発に至らないことを確認しているはずです。 GSユアサのバッテリーは、三菱自工の指示によって釘刺し試験を省略しているのではないか? という疑問が浮かびます。 もし釘刺し試験をしていれば万が一セル内の金属物質によりショートした場合でも、隣接のセルにまで影響が及ぶ前に、温度センサーや電流センサーが異常を検知して充放電を停止させているはずです。 バッテリーモジュールごとに温度センサーが配置されているにも関わらず、なぜ溶け出す前に検知できなかったのかという二次的な疑問も当然沸いてきますが、それ以前の安全設計に問題がありそうです。
【疑問2 ~ なぜ工程変更をしたのか?】
自動車部品は製品の初期品質を把握するため、”発売後3か月程度は工程を変更しない”という重要なルールがあります。三菱自工の発表によると、サプライヤーがバッテリーの製造工程を変更したことが原因であると推定していますが、それは通常では考えられません。 サプライヤーが勝手にやったこととは思えないので、何らかの不具合対策か改善の指示が自動車メーカーからあったはずです。 もしサプライヤーが勝手にやったとしてもそれは三菱自工の品質管理に対する取り組みの甘さを露呈するだけで三菱自工の責任は免れないでしょう。 あたかもGSユアサだけの責任のような発表の仕方に違和感を感じます。この自動車メーカーには業界の常識が通じないのか??
【疑問3 ~ 販売してしまった製品への対応は正しいのか?】
隣接するバッテリーセルが溶損するということは、問題のバッテリーセルの温度が200度C以上になったことが推測されます。これはバッテリーシステム全体が燃焼/爆発する寸前だったことを意味します。それなのに三菱自工は問題のクルマの運行を停止させずに、「原因究明が終わるまでは、外部充電及びチャージモードによるご利用はお控え下さい。」という使い方の制約だけで済まそうとしています。 走行中、回生発電により4~50Aもの電流がバッテリーシステムに流れ込むことのは問題なくて、外部充電さえしなければOKという論理が理解できません。あるいは空を飛ぶボーイング787は運行停止したけれど、陸上での車両火災くらいなら大した問題にならない・・・とでも考えているのでしょうか? トンネル走行中に電池が爆発したら、とっても怖いですよ!
全社をあげて品質向上の取り組みを行っているはずの自動車メーカーにしては、あまりにもお粗末な事故とそれへの対応で呆れるばかりです。リストラによる人材流出と開発費の削減が、この問題の根底にあるということを否定できませんね。
リチウムイオンバッテリーは発熱→燃焼→爆発 という非常に怖い異常モードを有しているので、クルマに爆弾を積んで走っているようなものです。そういった異常モードに絶対に陥らないような設計をしてあるからこそ安心してEV/PHEVに乗ることができるのではないでしょうか?
同じリチウムイオン電池といえども、携帯電話やパソコンの小さな電池とは危険度がまったく異なるということを認識していないと見受けられ、お粗末な事故対応と言わざるをえません。
今回の件は、サプライヤー1社の責任ではないということだけは明らかで、三菱自工の復活&再生はまだまだ道半ばということを露呈してしまいました。 頑張れ三菱自工さん
Posted at 2013/03/28 20:49:08 | |
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