• 車種別
  • パーツ
  • 整備手帳
  • ブログ
  • みんカラ+

ひでエリのブログ一覧

2016年12月06日 イイね!

日本一周2日目夜:広島宇品港

日本一周2日目夜:広島宇品港前回までのあらすじ
彼女に会うために広島に到着し邪な想いを持っていたが、あえなく潰えて真面目にデート。しかし夜の広島宇品港なら何かが起こるか…
=====
宇品港の波止場の突端にレンタカーの本田シティを停める。
心配していたが、宇品港には誰もいない。よくいそうなヤンキーなどいたらとっとと帰ろうと思っていたが、安心した。

座れるところ…を探したが、船の紐をかけておくところ、ビットというのか、1つしかないため、2人で座れない。
シティを海に向けてリアハッチを開け、そこに座ることにした。

広島に着いて会ったばかりの時はぎこちなくてなにも話せなかったが、別人の様に色んな話をした。
高校の時の思い出、共通の友達、お互いの大学での出来事、サークルの友人…話は終わりなく続いたが、家族の話になったときに、彼女の話が止まった。表情が暗い。
何か地雷でも踏んだかと、話した内容を反芻するが、思い当たるところがない。
恐る恐る聞いてみる…

どうしたの?

彼女はかぶりを振って笑顔を向けたが、明らかに引きつった笑顔である。
何かがあったのだ。しかしこの短い間に何があったのかは分からない。
話していたのは子供の頃、俺がどっちの親にも似てないね、色が白いのが父親似というくらいかな、という話である。

何かマズいこと言ったかな?

彼女は頭を振って、うつむき加減にユックリと話し始めた。

「実は…昔大ケガをしたことがあったの。目を強く打って、失明するかも、というくらいの大ケガを。」

そんなことがあったの?知らなかった。

お互い顔を合わせない。彼女は何か大事なことを話そうとしているようだが、私にはそれが何なのか分からない。

「うん…それでそのときに輸血する話になったんだけど、家族の血液型は合わないって話になったの…」

え?でもA型とB型の両親からO型は生まれることがあるから、そういう事じゃないの?

言っては見たものの、この後の展開に、なんとなく悪い予感がした。

「私もそれは知っとるよ。でも何か違和感を感じてズッと覚えちょったの。そして、中学生の頃やったかなぁ、市役所に行って自分で戸籍をとって調べたんよ。そしたら…養女って…なってたの…」

絶句した…。
それ、本当の話なの?と聞こうとしたが、このタイミングで彼女が私に嘘をつく理由などない。慎重に言葉を選んで問いかけなければ。

血液型が親と違う、物心ついた時から一緒、戸籍上は養女、両親からは何も話されていない、何を話せばいい?何を?
唯一絞り出せた言葉がこれだった。

それ…お父さんたちに話したの…?

情けなくて涙が出そうだ。それを聞いてどうするのか。

「ううん…言ってないよ……私の血の繋がってる両親って誰なんだろう…」

話の展開について行けない私はどう反応して良いのかオロオロするばかり。気の利いた言葉を搾り出すことができない。

彼女の両親に会ったことはない。
しかし彼女の性格からして、落ち着いた正しいご両親であることは想像に難くない。
いつ本当のことを言おうかと悩んでいる優しいご両親が眼に浮かぶ。
こんな時、彼女を慰めればいいのか、元気付ければいいのか…。
混乱しながら彼女のうつむいた顔をみると、両目から涙がこぼれ落ちていた。

「ゴメンね、こんな話をするつもりじゃなかったんじゃけど…この話、誰にも出来んで苦しかった…っ…」

こんなとき、包容力がある彼氏はどうすれば良いのだろう。余りに経験値が足りなさ過ぎる…。
でも彼女がここまで何年も1人で苦しんでいたのは本当だ。そして今、私に出来るのは…黙って頭を抱き寄せてあげることだけだった。

「うっ…うぅぅぅ…うっ…ゴメン、ゴメンね…うっ…うっ…。」

何だか若さに任せての夜の展開とかを考えていた不埒な自分自身が恥ずかしくなった。
脳内なので誰に何を言われるわけもないが、自分自身には嘘をつけない。

こんなに自分に弱みを晒してくれる人がいる。誰にも話せなくて1人で苦しんでいたことを打ちあけようと思ってくれる、つまりは俺のことを信用してくれている人がいる。それに俺は応えられているのか、深く反省した。
私は彼女に相応しい人間なのか…?

泣き止まない彼女を連れて、シティに乗せアパートまで送った。

私は…、泊まるところがない。
今考えれば市内の格安ビジネスホテルにでも泊まれば良かったのだが、金もないし、23時過ぎから電話で宿を探すのも面倒だ。結局、宇品港に行ってシティの運転席を倒して寝ることにした。

明日は宮島の予定だが、どんな顔をして彼女を迎えに行けば良いのか…。
寝付けないのは、シティの硬いシートのせいだけではなかった。

(タイトル写真は宇品港の夜景ですが、拾い物です。昨今報道などされているように、問題多いようなのですが、ご指摘あれば消します…)
Posted at 2016/12/06 09:25:00 | コメント(4) | トラックバック(0) | 野宿日本一周 | 日記
2016年12月03日 イイね!

日本一周2日目:広島ナタリーへ

日本一周2日目:広島ナタリーへ前回までのあらすじ
野宿の秋吉台を出発し、広島に到着。今回の旅の目的の1つ、彼女と会うために市内某大学の学食前で待つ。

=====

暑い夏の日、いかにもバイクでツーリングをしていますっ、といった風情の私は、赤白のめでたい格好で彼女を待っていた。

程なくして彼女がやってくる。
高校でテニス部だった彼女は日焼けで真っ黒だったが、1年余り経過して少しだけ色が薄まっていた。
おかっぱの様なヘアスタイル、ボブというのか…変わっていない。

「よく来たね、遠いところをありがとう!暑いのに良くバイクで来るなぁ、スゴい!」

話している内容は元気良さげだが、明らかに伏し目がちではにかんでいる。私も同じく真っ直ぐ見ることができない。恥ずかしい…。でも会って話したいことは沢山あったはずなのだ。なのに会った瞬間、話したいことが吹っ飛んでしまって頭は真っ白だ…。

いや、そちらこそありがとう。
そろそろお昼だから、学食で昼飯でも食べながら明日明後日のことを考えよう。

そう、広島には2泊3日の予定なのだ。
レッドホライズンのオレンジのリュックと、デカいウエストバックを担いで、オフロードブーツでガコンガコン言わせながら学食を闊歩する私に、周囲は明らかに違和感を感じている様だった。

が、気にすることなく向かい合ってA定食を食べることにした。
遠距離恋愛なので、いわゆる彼氏的なことはやってあげたことはほぼ無いし、同郷なことから帰省時にデートらしきことをするくらいなので、いわゆる本格的なデート、は今回が初めてなのだ。

実際に遊べるのは今日の午後から明日一杯なんだね。明後日は…ダメなんだよね?

「ゴメンね、明後日からは学部のフィールドワークが始まるんで、遊べんくなるんよ。ホントにゴメン。せっかく来てくれたのに。」

だいぶ慣れてきて、お互い笑顔で顔を見て話せる様になってきた。
彼女は教育学部心理学科なのでフィールドワークとかがあるらしい。私のア法学部とは違う。

じゃあ仕方ない。限られた時間で目一杯楽しむことにしよう。
まず今日の午後はナタリーに行って遊ぶ。明日は宮島、で良いよね?

日本一周の話が出て、何度か電話で話して決めておいたルートだ。彼女にも異論はない。
ナタリーというのは広島にある遊園地である。九州でいえば城島高原、関東地区では花やしきの倍?もっと大きいか…。ともかく広島の若者の王道デートコースの1つである。

「うん、ほじゃけど、荷物があんなに載っとるバイクで2人乗りで回れるん?」

大分人のはずだが、広島の影響度はスゴい。1年半の間に彼女は完全に広島県人になっていた。電話では広島県人度をそこまで感じなかったのだが、実際に会うと違和感を通り越して感動すら感じた。バッチリ広島弁だ。

そこは任せてくれ。君を暑い中バイクで連れまわすなんてしないよ。レンタカーを借りよう。荷物もおいて置くところがないから、レンタカーがちょうど良いんだ。
今から2泊3日でレンタカーを借りておいてソレを起点にしよう。

「なるほど、それはアタマええね」

君のアパートにはクルマ停めておけるようなスペースが近所にあるかい?

「うーん、クルマは無理だなあ。でもバイクなら大丈夫だよ。」

ドキドキする…いま私は彼女の部屋に行くよ、と言っている訳だ。妹、従姉妹以外の同世代の女の子の部屋には行ったことはない。初めての経験なのだ。

じゃ、じゃあ、クルマを借りる前に君の部屋に行こう…。

顔を赤らめながら言い放ったが、彼女には気付かれなかったろうか。

「いいよ!でも…ま、いいか。行ってから話すね。」

そうと決まれば心ははやる。一応、学内生協の窓口でレンタカーが借りられることを確認し、大荷物を持ったまま、彼女は自転車、私はバイクで彼女の部屋に行くことにした。
大学からほど近い場所に彼女のアパートには直ぐに着いた。
アパートの前にバイクを停めると、先ず彼女に言われたのは静かにすること。



ともかく静かに階段を上がる。オフロードブーツで音を立てずに鉄製の階段を上がるのは骨が折れた。彼女は周りを伺いながらサッと2階の自分の部屋の扉を開けて、手招きをした。
不思議に思いつつ、スルリと中に入るとカーテンを閉め切っている部屋は少し薄暗くていいにおいがした。

「お茶いれるけん、そこに座っとって。紅茶と緑茶、どっちがいい?」

あ、じゃあ緑茶で。
暑いってのにホットかよ、と今の私ならツッコメるがその時の私は、初めて彼女の部屋に入ったことで舞い上がってしまっていた。しかし…

「あのね、さっき言わんかった事なんじゃけど…実はこのアパート、男子禁制なんよ。」

ええぇっ!じゃ、じゃあ今これ入っちゃいけないところに入ってるってこと?

「まあそうなるね、隣のお姉さんとか彼氏を夜に連れてきて泊めよったりしたんじゃけど、アパート住人から苦情がきて大家さんに追い出されてた。
でもまあ夜じゃなくて、短時間なら大目にみてもらえるみたい。だから長居は出来んのんじゃけどゴメンね。」

がーん…話を上手く持って行って彼女の部屋に泊めてもらえたりしたら、今後のムニャムニャムニャな展開が…とか実は不純なことを考えていた私のココロはポッキリと折れた。
その後は部屋で何を話したか覚えていない。大学2年生のオトコの子のココロはガラスでできている。

30分ほどいただろうか。長居はできないと最初にクギを刺されているので、早々に退散することに。ああ…何だかココロにポッカリと穴があいた様だ。
いや。まだ始まったばかり、挽回のチャンスは必ずくる!そう自分に言い聞かせて大学生協に向かった。

自転車とバイクは大学の駐輪場に置いたまま、レンタカーの本田シティに乗り込む。理由はレンタカーで1番安かっただけだが、通常、地元の大学でのマイカーが本田トゥデイの私としては格上なクルマな上、普通車でエアコンがちゃんと効くのがありがたかった。
バイクで見れば大量の荷物も、普通車の荷室には楽勝で収まるサイズだった。

気持ちを切り替えて、彼女と一緒に遊園地、ナタリーでデートを楽しむことにする。通常は1日で使って良い金額をガソリン別で1000円までと決めていたが、今日は散財していいとリミッターを外す。
外したからにはジェットコースターに乗るのに500円という金額を、鶏肉のグラム数やカルちゃん餃子のパック数で換算してはならない。

彼女はとても楽しそうだ。私は遊園地が楽しい、というよりは楽しそうにしている彼女を見るのが楽しい。一緒に来て良かった。
ジェットコースター、カップソーサー、ソフトクリーム…王道を次々とこなしていく。いつまででもいれるような気がしたが、閉園の時間となってしまった。

夕飯はロードサイドのロイヤルホストで食べた。学生には過ぎた高級レストランだが、今日はそういうことは考えない。
1年に一度あるかないかの日なのだ。

夕飯を食べるとやることがなくなった。
でもまだ帰りたくはない。
彼女の部屋には…泊まれない。
貧乏学生がそんな時に行くところは決まって空港か港である。理由はたいてい夜景がキレイだから。
広島市内には宇品という港がある。路面電車も通っているので名前は知っている。夜来たことがなく、夜景や治安など事前の情報を持っていない。
彼女に聞いても夜に港に行ったことはないという。不都合があれば別のところに行けばいいと決め、宇品港に向かった…。

(タイトル写真は往時の広島ナタリー、ネットでの拾いもの写真である。2016年のいまはもう存在しない)
Posted at 2016/12/03 15:00:40 | コメント(3) | トラックバック(0) | 野宿日本一周 | 日記
2016年11月19日 イイね!

日本一周2日目朝

日本一周2日目朝前回までのあらすじ
初日は秋吉台の野原で野宿。一人ぼっちで充実した夜を過ごした。

=====

暑い…テントの中の気温が上がって寝ていられない。時計を見ると朝6時だ。
前室のチャックを上げて、野原に出ると朝がたの爽やかな風が吹いていた。テントから出て最初に見る景色が青空で地面が乾燥していることに感謝する。
ベンチの隣にある水道を使って顔を洗う。きれいな水がふんだんに使えるということに感謝する。
普段のアパート生活ではこんな事に感謝はしない。本当にありがたい。

ラジオをつけてNHKを聞く。NHKだけは大概のところで良好な受信状態だし、定時に必ずニュースがあることに安心する。朝のニュースには天気予報もついていることが多い。これまた重要な情報源だ。

夏休みの朝といえばラジオ体操だ。
ちょうどこの時間に始まるので、健康的に身体を動かす。同時に身体のどこかに変調がないかも確かめる。痛いところおかしいところ。一日中座ったままで移動している訳なので、同じ姿勢を強要される。
立ったり座ったりもするが、基本的に座りっぱなしなので、コリもでる。
まんべんなく身体を動かすことは大事なことなのだ。

朝食はちゃんと食べる。ストーブを点けてお湯を沸かす。昨夜の飯盒の中のご飯の残りに昨日仕入れた味噌汁の元を入れてお湯をいれると、味噌雑炊の出来上がりだ。断じて猫まんまではない。もう一度言う、断じて猫まんまではないのだ。
野宿では本来、きれいな水は貴重なので使用は最小限にとどめたい。こうやって飯盒に味噌汁を加えるとご飯粒まで綺麗に食べられるのだ。下洗いレベルまでイケる。
自宅から卵ケースに入れて卵を6つほどチョロまかしてきた。これを使って折りたたみのフライパンを開いて、今朝は豪華に目玉焼きを作る。塩胡椒も小分けにして持ってきた。これをパパッと振って、醤油をかければ他にはもう何も要らない。
野宿の調味料は醤油と塩胡椒だけで良いと俺は強く思うのだ。
ここまでで起きてから約1時間。食べ終わって残りのお湯でインスタントコーヒーまで作って飲んでいる。アパートの自宅の朝よりも充実している。

食事が終わればパッキングにかかる。どこに何を入れるかはもう決まっているので、無駄なく手際よく進めていく。
とはいえ、すべての準備が整うと既に日は高くなり、9時前頃になる。今日も暑い。

2日目は彼女の待つ広島だ。
山口と広島は隣であり、広島市内にある彼女の大学まではせいぜい3時間も走れば着いてしまう。
実は少し気にしているのは格好だ。
今のいでたちはラフ&ロードの赤いジャケットに、クシタニの白赤オフロードパンツと赤いオフロードブーツだ。どう見ても彼女をデートに誘う男の格好ではない。小汚い格好ではあるが、これが野宿ライダーの正装でもある。
実はコレ以外の替えはGパンにスニーカーくらいしかないので、大して変わりはしない。何よりこの格好は交差点でガラスのショーケースがある店先などで止まると、アライのオフロード用ヘルメット、赤白に塗ったMX-2とSWANSの白ゴーグルと相まって、我ながら惚れ惚れする程、キマッているのだ。

今更気にしても始まらないだろう?自分で自分に言い聞かせ、一夜を過ごした展望台に別れを告げ、砂利道をトコトコと走り出す。

この様な田舎の道は交差点が少なく、タンクバック上のクリアカバーからみえる地図では迷うこともない。
しかし都会になっていくとドンドン道が複雑になっていく。
地図の縮尺から次の交差点まで大体の当たりをつけ、何ステップかを記憶して、トリップメーターと見比べて進むやり方は田舎道ではバッチリだが、都会に入ると役に立たない。
初見の道を地図を頼りに複雑な街の中の道を走るのは結構骨の折れる作業だ。

しかしそんな苦労は何とも思わないくらい、俺の心はアガッていた。なにせ数ヶ月ぶりに彼女に会えるのだし、行ったことのない一人暮らしの彼女の家に来てもいいと言われているのだ。アガらない方がおかしいだろう?

しかし秋吉台や阿蘇の林道と比べると迷路の様な広島の街だ。更に広島市内には熊本と同じ様に路面電車が走っていた。
初めて走る街の道に路面電車は些かハードルが高い。路面のミューが舗装路、石畳、線路と激しく変わるし、普通の道路ならありえないレベルの溝が当たり前の様に道のど真ん中にあるのだ。クルマと違い、タイヤの細いバイクには難敵だ。しかも荷物を山の様に積んでいる。交差点で停まる度、奇異の目で見られている気がした。ま、気にしないが。

実は行き先は市内でもシンボリックな大学なので、手持ちの地図を使い、各所に案内もあったので実際には迷うことはなかった。
大学の学食に着いたら電話することになっていた。市外局番から回さなくて済むという事実に、本当に彼女が住んでいる街まで来たのだと実感する。

学食の駐輪場に大荷物を持った、目立つ赤白の格好をしたヤツがいるから、それが俺だと彼女に告げ、自転車でくる彼女を待つことにした…。

====
タイトル写真は野宿ライダーの中で聖書として名高い寺崎勉氏の本。中古なのに2700円もする。
Posted at 2016/11/19 21:33:36 | コメント(1) | トラックバック(0) | 野宿日本一周 | 日記
2016年11月13日 イイね!

日本一周1日目夜

日本一周1日目夜(前回までのあらすじ)
親を説得し日本一周旅行に出発した。記念すべき野宿第一夜は山口県秋吉台。

====

野宿場所と決めた秋吉台は山口県でも有数な観光名所だ。
秋芳洞という鍾乳洞もあり、子供の頃連れてきてもらった想い出がある。
目の前に並ぶ、ツルリヌルリとした乳白色の鐘乳石が何億年もの年月で出来ていると聞き、子供心に感心した記憶がある。

この様な石灰石で出来たカルスト台地には、ところどころ自然の落とし穴みたいなところがあり、踏み抜いた薄い地面から落ちると、下が空洞になっていて、落ちた穴の淵がすぼんでいるため、叫んでも聞こえず、穴も小さく見つかることはほぼ無い、という恐ろしい話を聞いたことがある。
トコトコと砂利道を走りながらそんなことを考えていた。

キャンプ場もあるのだが、記念すべき第一夜はお勝手野宿と決めていた。
案の定、電話などない。
さてどうするか…。
小倉あたりのガソリンスタンドで満タンにしてゼロリセットしたトリップメーターは200キロあたりを指していた。
XLRは8リッタータンクでリッター35キロくらい走る。レスキュータンクも合わせてあと80キロくらいは走るが、そろそろ心もとなくなってくる。

見晴らしのよい草地にベンチと水道が設置されている展望台らしき場所を見つけた。
砂利道の脇にあるが、こんなところに人が来るのだろうか。
ただ今日の俺には素晴らしいシチュエーションに映る。キレイな水さえあれば、色んなことが可能になるのだ。

ココを本日の宿と決め、一旦山を降りることとした。地図をみて最寄りの集落を探す。
暗くなる前にテントなど展開してゆっくりと夜を迎えたい。
運良く5キロ圏内に小さな集落があった。雑貨屋くらいあるだろう。こういう山の中の雑貨屋にはガソリンを売っているところもある。もしあれば全て揃うな、と思いつつ集落に向かった。

舗装路に出てしばらく走ると、雑貨屋と小さなガソリンスタンドが併設されていた。
ドンピシャである。
野菜的なものを仕入れようと思ったのだが、あいにく手に入らず、代わりに明日朝飲むための半生味噌汁の元を手に入れた。あとビールを2本ほど。酒を忘れてはならない。
ここで自宅にも電話する。祖母が電話に出て無事であることを告げた。

ガソリンを満タンにして宿営地に戻る。ガソリンが満タンになると何故か何でもできる様な気になるのが不思議だ。
山積みの荷物を解いて、1日一緒に走ってくれたトンボくんに感謝しつつ、ポンポンとタンクを叩く。
慣れた手つきでテントを張っていく。野宿自体は熊本や宮崎で何度も予習してあり、今回が初めてではない。
少し暗くなり始めた。今日の段取りは失敗だ。山に入る前に買い物や電話を済ませておかないと二度手間になってしまう。

愛用のテントはダンロップ製の1人用テント。三角形が3つ合わさった構造だ。かなり小さく折りたためるので、バイクで持ち運びしやすい。見慣れた深緑色のテントをパタパタと組み立て、自立させる。
小さいが前室があるので、雨の日にも目の前が濡れないという利点がある。前室に入れておけば靴の類も濡れない。

テントが風で飛ばない様に直ぐに中にポンポンと道具を投げ込んでいく。
工具や着替えを入れたボストンバックが入ればテントはまず飛ぶことはない。
その後、ゆっくりとペグを打てば良いのだ。

野宿の師と仰ぐ寺崎勉氏によれば、北枕はマズイらしい。変な気を取り込んでしまうとか。キーホルダーに小さな方位磁針を付けているのは北を知るためだ。
あと頭が下がると非常に不快になるので、頭の方向、テントの前室を北ではなく下がっていない方向に向け、出来れば下がゴツゴツしていない平らなところで設置するよう心掛けた。
今回は草地で柔らかな地面なので、きっと寝心地は最高だろう。北枕だけ気をつけた。

今日の夕飯はレトルトのカレーにすることにした。雑貨屋にマトモな食材がなかったため、手持ちの食料を消費することに。その前に飯盒でメシを炊く。
水は2リットルタンクと1リットルタンクの2つを持っている。料理に使うのは2リットル、その他の用途は1リットルで足りる。
米は明日の朝分も含め2合炊くのが流儀だ。
今夜は水道が側にあるので、米とぎで水を節約しなくてもいい。安心して水が使えるというのは本当にありがたい。

米の炊き方は「はじめチョロチョロ中ぱっぱ」と言うが正に鉄則だ。炊き方を失敗すると本当にヒドい食べ物になってしまうので気をつけねば。頃合いをみて強火にする。最後少しだけ焦げ臭くなったところで火から下ろして逆さにして蒸らすのだ。
この焦げ臭さを見逃してはならない。

コンロはコールマンのシングルストーブを持っている。基本的に不純物のない白ガソリンが燃料なのだが、荷物を増やすのが嫌だったので、赤ガソリンも使える仕様のモノを買った。バイク旅はともかく小さく軽いもので荷物は最小限にしたいのだ。

ストーブにポンピングをして与圧し、ツマミを回すと気化したガソリンが吹き出し、ライターで点火すると火が付く。ツマミを絞り小さめの火を点けて、飯盒を置けばやっと一息つける。

今日はテント設営が遅れたので、ココまでですっかり暗くなってしまった。
少しぬるくなってしまったビールを呑みながら、草の上で大の字になって夜空を見る。寝ながら夜空を見ると首を上に上げなくても良いので楽だ。ランタンを消すと月と星、そしてストーブの明かりしかない夜がやってくる。ラジオをつけると広島対巨人戦をやっていた。ビールを呑みながら、飯盒で飯を炊き、ラジオを聴きながら今日のことを振り返る、この時間が最も好きだ。

周囲2キロくらいには誰もいないだろう。
虫の声、風の音、ストーブが気化したガソリンを吹き出すシューという音、それだけだ。

とても贅沢な夜を独り占めしつつ、夜は更けていった。
Posted at 2016/11/13 20:06:46 | コメント(3) | トラックバック(0) | 野宿日本一周 | 日記
2016年11月12日 イイね!

日本一周1日目

日本一周1日目(前回までのあらすじ)
若い時の苦労は買ってでもしろ。その苦労に日本一周野宿旅行を選んだ彼=俺。
在学中の熊本から大分の自宅へ移動した。

=======

親は心配するのが仕事?ホントかそれ?
そんな仕事いらないので、早く子離れして欲しい。

熊本からそのまま日本一周に出発しようと思ったが、熊本から本州方面に向かうには途中に実家の大分がある。
ココで何も言わずに旅行に出たまま連絡しないと、これまた後で面倒そうだ。
実家に一泊してから本格的に出発することにした。

父親曰く…
「基本的に反対だ。しかしどうしても行きたいなら毎日必ず電話しろ!もし電話がなかったら警察に連絡して見つかったら連れて帰る。」

は?いやいや、俺は野宿に行くんだし、それも林道などの山の中で泊まることもあるので、毎日電話は無理。電話がないところだってあるんだ。

「お爺ちゃんやお婆ちゃん、お母さんがどれだけ心配しているか分かってるのか?たったそれくらいのことが出来ないのなら、最初から行くな!」

熊本で一人暮らしさせといて、毎日連絡求めないのに何だそれ。

こういうことは昔にもあった。
友人から自転車で遠出を誘われ、言わなきゃいいのに、夕飯の時間にポロっと話してしまった。その時の父親の反応が

「そんなことしてる暇あったら勉強しろ、遠出などダメだ」

しかし翌日、祖母にはちょっと街に行ってくると嘘をついて輪行を強行。結果、途中脱水症状になり、距離が稼げず思った以上に時間がかかり帰宅は夜半、途中の山の下りで派手にすっ転んで太ももを全面的に擦りむきズタボロになってしまったため嘘が露呈。

当然の如く父親からはこっ酷く説教をくらったが、疲れから意識は朦朧としており、何を言われたのか全く覚えていない。覚えているのは
「あそこから反抗するなんて、中々ホネがあるじゃん、見直したよ。」
という母親の言葉だけ。
笑顔で太ももを治療してくれた。

今回は母親はどんな顔をしているのか。
父親の向こうにいる母親を盗み見る。
なんだかニヤニヤしながらコッチを見ている。ま、コレなら大丈夫かな。

不承不承、毎日電話連絡をすることに同意した。相当面倒だと思ったが、結果として野宿日本一周の企画を潰されなかったことには安堵した。以前の例もあり、ダメだと言ってもどうせ勝手にやるのだろう、それなら管理下においてやらせた方が得策だという、父親の諦めの気持ちもあったと思うが、これで親への仁義も通して正々堂々、出発できることになったのだ。

そんなこんなで、7月も終わりかけのよく晴れた暑い日に、大分の自宅を朝早く出発した。

相棒のXLR250BAJAトンボくんは、キック1発で目覚め、とても快調である。
400ccクラスのビッグシングルになるとキックも重くなり、キック1発では始動のきっかけ、つまりピストンが上死点にきてプラグが発火するタイミングが1、2度くらいしかないので、キックレバーを踏みつつ、圧縮のかかり具合などを探りながらキックするテクニックも必要だが、トンボくんの250ccでは困ったことがない。オートデコンプが付いているからか、単に新しくて調子が良いからかは不明だが、何れにしても始動で困ったことはない。

自宅は大分の北の端にあるため、九州脱出は造作もない。関門海峡までは100キロもないのだ。せいぜい3時間である。
絵になるのは橋での海峡越えだが、関門橋は高速道路であり、今回の自分ルールでは走れない。下道である関門トンネルを使って山口県下関市に渡った。

実は山口県は道路の舗装率が非常に高い。幕末薩長の流れから多く生まれた山口県出身の政治家が、土建政策を重ねた結果こうなったと聞いたことがあるが正しいところは知らない。
そんなことはどちらでもいいのだが、問題は未舗装の林道が少ないことである。未舗装路走行は今回の目的の1つである。電線のない夜空を見ながら独りで過ごす時間は素晴らしい。

少しだけ未舗装が残っているらしい秋吉台の辺りを今夜の宿と決めて、山の方に向かった…。
Posted at 2016/11/13 09:58:12 | コメント(2) | トラックバック(0) | 野宿日本一周 | 日記

プロフィール

「県税事務所からの問い合わせは個人事業主課税の対象かどうかだった。東京と千葉から売上上がってるのになんで大分に住んでんの?飛ばし?とかいう疑惑であった。」
何シテル?   06/17 09:35
ひでエリ です。よろしくお願いします。 エリーゼを愛し、ナナちゃんを愛し、ロッテを愛し、酒、マンガを愛しています。 サーキットも走っていましたw 袖ヶ浦フ...
みんカラ新規会員登録

ユーザー内検索

<< 2025/6 >>

1 2 3 45 67
8 910 11121314
15161718192021
22232425262728
2930     

リンク・クリップ

燃料フィルター交換 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2024/09/14 16:17:00
消耗部品 (2ZZ-GE NA 機械式スロットル) 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2024/08/19 12:09:39
FD3S 高圧側 燃料フィルタ交換(220780km) 
カテゴリ:その他(カテゴリ未設定)
2024/08/17 10:21:38

愛車一覧

ロータス エリーゼ 蓮沼エリちゃん (ロータス エリーゼ)
乗ってて素晴らしく楽しいクルマ。雨に弱いバイクのような車(笑)! 普段乗りでも充分異次元 ...
メルセデス・ベンツ Cクラス ステーションワゴン 黒メルちゃん (メルセデス・ベンツ Cクラス ステーションワゴン)
白猫のはずが黒メルに。 さらに英国かと思いきや独国。 一生に1度は乗ってみたかったメルセ ...
ヤマハ TZR250R 山葉チズルくん (ヤマハ TZR250R)
ヤフオク落札品。 3速以上に入らず、タコは動かず、リアブレーキホースはぶった切られてキャ ...
マツダ RX-7 おむすび沼ナナちゃん (マツダ RX-7)
FD3S 1型増車。俺もキイロの仲間入りだぁ! 息子が大学生になるのを見越して、数年前に ...
ヘルプ利用規約サイトマップ
© LY Corporation