この分野ではカワサキが圧倒的な強者だったのですが、そこへ「量産市販車世界最速」という超シンプルな目標をコンセプトの一つに掲げて開発されたモデルでした。この世界最速というのは1999年にスズキGSX1300Rハヤブサがリリースされるまでの短期間でしたが、実は最速だけでなく上質さも狙ったのがCBR1100XXでした。このエンジンのスペックをクルマと比較しても当然意味がないのですが、164ps/9500rpm。ボアxストは79.0 x 58.0。レッドラインは10800rpmでした。最新のCBR1000RR-Rが1000ccで15000rpm近く回して217psも出すことを考えるとかなり大人しい感じがしますが、当時は最速でした。
このエンジンの特徴は、優等生とも言われるホンダらしい綺麗なトルクカーブ、直線的に伸びていきつつ最後に盛り上がるパワーカーブ、そして実は振動特性を最適化するためにバランスシャフトを組んでいる点です。基本コンセプトがサーキットを走るスーパースポーツではなく高速ツアラーであるため、速さだけでなく快適性にも配慮しているんですね。ライダーが振動を感じないようにするだけならスズキがハヤブサでやったようにハンドルやステップをラバーマウントしてしまうなどの方法もあるのですが、ホンダはそれによる操縦フィーリングの悪化を嫌い、ダイレクトマウントを前提にエンジン自体の振動を減らすようにしたんですね。(実際ハヤブサのハンドル・ラバーマウントはちょっと気持ち悪い)
83.0 x 92.0というロングストロークからC63では476ps 650Nmを出します。エンジン設計の一部はA45のM133を踏襲しておりボアxストも共通です。M133では8.6という低い圧縮比で1.8barという凄いブーストをかけていますが、M177では圧縮比を少し高めの10.5としてブーストは1.2barに抑えており、こういったこともあってA45のレッドライン6700rpmに対して排気量がより大きいこのV8の方が7200rpmと高回転型になっているのは興味深いところです。ちなみにC63ではシングルスクロールのツインターボですが、E63になるとツインスクロールのツインターボになります。基本となるクランクケースなどはかなり高強度な設計がされており、クランクケースはアルミ砂型鋳造でクローズド・デッキ。そこへさらにかなり念入りにビーム類が入れられおり、相当な強度耐性があることが分かります。ヘッドは放熱性を狙ってアルミ・ジルコニウム合金、ピストン、クランクシャフトとももちろん鍛造で、クランクシャフトはクロスプレーンです。YouTubeでアッセンブリーの光景を見ることが出来るのですが、組まれているパーツ一つ一つが何しろ高そうw。