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2021年06月19日

MotoGPレーサーのテクノロジー

MotoGPレーサーのテクノロジー 現在のMotoGPは、統一ECUの使用、ワンメイクのタイヤ、シーズン中のエンジン開発凍結などのレギュレーションのおかげで、昔であれば小排気量クラスでしか見られなかったような非常に拮抗したレースが毎戦行われている。昨日のドイツGPのFP2では、コース全長が短いとは言えトップのKTMミゲル・オリヴェイラから15位の同じくKTMブラッド・ビンダーまでは何とたったの0.736秒。前戦カタルーニャGPの決勝レースは、優勝したオリヴェイラから10位のDUCATIエネア・バスティアニーニまでは19秒あったが、8位のビンダーまでは8.378秒でしかなかった。TOPカテゴリーのモータースポーツとしては本当に驚異的な僅差だ。

こうなってくると、本当に極めて小さな差の積み重ねがレース結果に効いてくるレベルということになり、そのためテクノロジー面でもとても興味深い点がたくさんある。素人なりに見て分かる程度のことをいくつか並べてみたいと思う。

【エアロダイナミクス】
現在のMotoGPマシンでは例外なくフロントにウイングが付いている。当初の目的はウイリー抑制が第一だったが、その後ウイリー抑制に加えてブレーキングでの安定性、さらにコーナリングでのタイヤへのロードまで担うといった形で変遷してきている。



最近では市販車にもフィードバックされているのは周知の通りだ。バイクの場合難しいのは、ダウンフォースが効きすぎると左右へバンクさせる際にバイク自体が重くなってしまうことと、クルマと違ってコーナリング中にはバイクから見て斜め上方から風を受けることにあり、これとのバランスが取れないとアンダーステアなどハンドリング面で問題を抱えることになってしまう。もちろんドラッグは最小限に留めたい。レギュレーションではサイズが決まっている他、エアロパッケージ自体のシーズン中のアップグレードはライダー毎に1回までとなっている。今やハンドリングを決定する重要な要素のため、各社とも相当力を入れて開発を行っている。




さらにマシンによってはスイングアームにウイングが設けられている。(上の写真でぶら下がっているパーツ。通称スプーン)低いところでバネ下に直接ダウンフォースを生むという意味では理屈上非常に効果的なはずだが、メーカーによっては採用していなかったり、コースによっては装着しなかったり。スライドコントロールがピーキーになるから、など色々な説がある。同じくホイールカバー。当初はホイール全体をカバーするような形状だったが、最新のモデルでは下半分のみを覆うような形状に。当初はドラッグを減らす目的だったものがイマイチ効果がなく、一方で下半分を覆うことでフルバンク時にグラウンドエフェクトが生まれタイヤへロード出来るという驚きの考え。これはまだ他社は追随しておらず、DUCATIのみ。しかし決勝レースでずっと装着されており、DUCATI的には効果があると確認されているものと思われる。

因みにこの写真だけでもGPマシンのフィーチャーは面白く、スイングアームピボットの高さ変更幅の大きさ(アンチスクワットアングルの調整)とリアアクスルの調整幅からホイールベース長のセッティング幅広さも分かる。(この辺は最近に限らずレーサーならではのフィーチャー) また、ステップブラケットは肉抜きなどがされず、転倒時に再スタート出来るような強度を優先していることも見て取れる。

【シェイプシフター】
モトクロスでは、横一線でスタートすることやその長いサスストロークがスタート時にパワーをロスすることから、随分前から前後サスを縮めてロックアップするホールショットデバイスというのが使われていた。これは重心を下げると共に、サスペンションをロックしてスタート及び加速時のパワーロスを無くすというもので、これをDUCATIが2019年にMotoGPに採用したのが始まり。


<アクティベイトすると、下の走行時の写真に比べてかなり車高が低くなることが分かる。>



MotoGPでは電子制御のサスは禁止されているので、油圧(またはワイヤー)で機械的にアクティベイトさせている。


<マシンによって異なるがこういったダイヤルなりレバーが装着されている>

今のMotoGPは冒頭に書いた通りの僅差なので、スタート時にポジションを一つでも上げることは非常に重要で、そのためにシステムを装着していた。当初はリアのみで行っていたこれを、さらに効力を上げるため昨年辺りからフロントにも採用するようになった。最近ではそこから発展してコーナーからの立ち上がりにおいてリアサスを縮め、ウイリーを抑制し、さらにトラクションを得ようという発想でスタートに限らずこのデバイスが使われている。そのため最近ではホールショットデバイスからシェイプシフターへと呼び方が変わってきている。



【マスダンパー】
これはちょっと古い話でF1ではルノーが2000年代前半に導入し、その後レギュレーションで禁止されたもので、しかしMotoGPでは許可されている。今や全メーカーが採用・装着しているシステムで、DUCATIが2017年くらいから導入。マスダンパーには大きく分けて2タイプあり、重りが上下(または前後)に可動するリニアタイプと、軸を中心に重りが回転するタイプ。リニアタイプはなるべく重心から遠いところから安定させるのが必要なのでテールカウル内に組み込まれていて、回転タイプは逆に重心近くに設置されるためエンジン付近。



いずれも振動を吸収し、チャタリングの発生を抑えつつ、挙動の安定化を狙っていると言われている。マスダンパーは市販車用にもスイングアームに装着するリニアタイプが販売されていて、これと同様のものが一時期Moto2の一部チームにも採用されていた。



当初の目的はチャタリングを減らすことで、Moto2のSAGチームでは17Hzと20Hzの振動がチャタリングを生んでいるため12Hzと24Hzをダンピングするように製作したが、なんとダンピングされ過ぎて却ってグリップ状態を掴みにくくなるらしい。一方でタイヤライフやグリップの面では効果があったらしく、重さ(振動数)や場所などのセッティングを試行錯誤しているという。シャシーエンジニアによればバネ下を重くするこの方式は望ましくなく、同様の効果を生むシャシー上に設置すべきとのこと。(つまりMotoGPでやっているようなこと)今やこの市販品を8耐のプライベーターがスイングアームに装着しているが、果たして・・・

【ブレーキ】
トップスピードは何と360kmを超えている今のMotoGPは、ブレーキがより問題になってきている。システム自体は昔から変わらない油圧で作動するコンベンショナルなもので、ABSも前後連動もない。カーボンディスクにレーシングキャリパーでもトラブルが起きており、昨年のスティリアGP(オーストリア)ではブレーキトラブルでマーヴェリック・ヴィニャーレスが1コーナーで止まれず、220kmのマシンから飛び降りる事態になる大クラッシュ。熱によるレバーストロークの調整用にノブは装着されているがそれでも調整しきれず、しかも最後にはカーボンローターが最高動作温度の1000℃を大きく超えたため、酸化して急激に摩耗が進み素材自体が分解、パッドが脱落したと言われている。そのためまずはブレーキの冷却が求められており、最新のキャリパーは空冷フィンが設けられていて、さらにコースレイアウトによってはダクトを装着している。





ブレンボによれば、トップスピードが上がっていることに加えてエアロの向上でフロントのグリップが上がりブレーキへの負荷が高まっていることから、将来的には360mmローターの導入も検討されているとのこと。

他にも当たり前のように全メーカーで採用されているシームレストランスミッションだったり、バルブ駆動はニュウマチックだったり色々あるが、今回はこの辺で・・・
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Posted at 2021/06/19 15:05:08

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この記事へのコメント

2021年6月19日 15:30
いやー!
とても面白い記事をありがとうございます\(^o^)/
こういうテクノロジーに関する記事は萌えますね!

ロードバイクの世界でもブレーキ問題は発生しております。
最大でも160㎜しかないローターでプロの世界では100km/hオーバーの世界でダウンヒルが敢行され、タイトなコーナー手前ではあっという間に限界に近い温度まで上がってしまうからです。
また、それだけ自転車の割に高速域で安定して走れる世界まで来ちゃった…というのも問題があるんだと思います。
UCIが取った手段はエアロフォームの禁止と、ダウンヒル時のライディング姿勢の禁止を決定。
トップスピードの抑制と、それに至るまでの加速時間が少しでも長くかかるように安全性を重視してそういう決定がなされました。

私のような素人の場合は、六甲山のような長いダウンヒルの場合に財布に直撃な被害が現れますw
ブレーキパッドの摩耗が鬼のように促進されますw
なので、我々素人の知れた走りでも最近のエアロ化が進んだロードバイクパッケージとホイールの回転性能(とエアロ効果)が凄まじく、エアロポジションを取らずとも短い直線区間でコーナー立上り時に30km/h程度の速度でも簡単にアカン速度域まで達する為、普通に乗っているとブレーキかけっぱなしになるんですね。
わずか一か月でブレーキパッドが無くなりますw
ロード用のパッドは3000円程度で買えるとは言え、一か月毎に3000円は痛いんでブレーキ全体が冷えるようにブレーキ操作自体を工夫して乗っています。(そうする事で平均速度はびっくりするほど上がっちゃうんですけれど。)
自転車とMotoGPじゃ比較にもならない話しですが、最近の乗り物は速くなりすぎちゃって、20年前などに感じられた速いけどどことなく平和的というか人間臭さが感じられるマシン(乗り物)が減ってきたような気もして、読んでいて面白いですが少し寂しさと危険性を感じますw

興味深い記事をありがとうございましたm(__)m
コメントへの返答
2021年6月19日 22:39
MotoGPに限らず、レースのTOPカテゴリーのテクノロジーは本当に面白いです。NASCARもかなり面白いです。

ロードバイクでもブレーキの問題あるんですか・・・。自転車の場合、トップスピードを下げるならタイヤの幅を制限(太く)するのが手っ取り早い気がしますけど、それはフレームから何から影響大き過ぎるってことなんですかね・・・。あと、昔確かSCOTTかどこかが出したDHバーがbanされたような記憶が蘇りました。

それにしても1ヶ月でなくなるパッドというのも凄いですね。
2021年6月19日 18:04
MotoGPのブレーキがここまでシビアになっているとは、、、確かにトップスビード半端なしですもんね。 こうなるとホイールと一体デザインされた、マルチプレートのPCCBとか、いっそ湿式で、、となると重いか。

Fインホイールモータ内蔵で回生とアシストするHVマシンにする手が有るかも。 まぁ新時代用レギュレーションが必要ですね。
コメントへの返答
2021年6月19日 22:54
凄いことになっています。ブレンボに言わせるとF1より厳しいんだそうですよ。F1は4輪で分担出来るのに対して2輪はほとんどがフロント1輪、(実際は今はリアブレーキの使い方がブレーキングの強さ・上手さを決めています)それもあってブレーキングの時間自体がF1より遥かに長く、コース全体で見るとクーリングの時間がF1より取れないということのようです。

ブレンボの英語サイトは色々と面白いですよ。(日本語は更新があまりされないです)
https://www.brembo.com/en/company/news

湿式・・・確かキャリパーを水冷化するというアイディアがあったような気がします。。。ボツったと思うので問題あったんでしょうね。(レギュかもしれませんが)


2021年6月19日 18:39
自分は一応GP関係者なんですが、部品加工をしているだけなので知らないことも多く大変勉強になりました。
有益な記事をどうもありがとうございました。(^ω^)

私が自分のNSR250Rでカナードをテストした時は、ステアリングダンパーを付けたフィーリングにかなり近いと感じましたよ。(゜▽゜)
https://minkara.carview.co.jp/userid/687338/blog/38528419/
コメントへの返答
2021年6月19日 22:58
セブンのエアロも含め、以前から興味深く拝見させて頂いてました。(^^

そんなプロの方から勉強になんて言われると嬉しい反面、ちょっとビビります・・・w まぁ私の妄想じゃなくて海外のF1エアロデザイナーとか、エンジニアの情報なので、そういう意味ではある程度信頼出来る情報ですが・・・

ウイングやディフューザーなど、バイクでもクルマでも色々試して体感する、というのは素晴らしいことですよね。やってみようかな・・・
2021年6月19日 21:17
非常に興味深く読ませていただきました。
また文章、表現がお上手ですね。
長い文章を全く感じさせない、ストレス皆無でグイグイ引き込まれました。

DUCATIが繰り出す新アイデアは面白いし、そのDUCATIが捨てたパイプフレームで優勝して見せたKTM。同じものを作らせたら、日本人の作るものの品質は世界一ですが、新しいアイデアを生むのは得意ではないですね。

第二弾、ありますか?(笑)
コメントへの返答
2021年6月19日 23:18
ありがとうございます。お褒め頂き光栄です。

ジジ・ダッリーニャの加入以来、DUCATIは面白いですねぇ。今回挙げた内容でブレーキ以外は全てダッリーニャがDUCATIに導入したものですからねぇ。日本でも例えばMotoGP初期ならホンダがV型5気筒を走らせたり、ヤマハはキャブ(+追加インジェクター)でM1を走らせたり色々あったと思いますが、カテゴリーが熟成されて収斂していくとコンサバになっていくんですよね・・・。そこを打開するDUCATIは凄いです。

第二弾は・・・ネタが集まったらやってみますw フレームの造りとか電子制御とか色々興味あることは多いんですが、機密が多くて文献とか記事が少ないんですよね・・・

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「今日土砂降りの高速をずっと走ったけど、やっぱりフロントの駆動は常時入ってる方が良い。 C43の方が安心感あった。途中からスノーモードにしてフロント駆動入れたけど、機械的な直結フルタイム四駆とはやっぱり違う…」
何シテル?   05/31 21:40
10年以上続けていた2輪レース活動を休止し、のんびりとバイク/クルマ生活を楽しんでます。今はやる方ではなく観る方に変わりましたが、モータースポーツは2輪・4輪問...
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