
オールインワン・コンセプトというのは色々な分野の様々な製品で見かけます。リンスインシャンプーもそうですし、オフィスの複合機などもそうでしょう。クルマであればSUV、バイクであればアドベンチャーモデルがそれに近いでしょう。
複合機はオールインワンだからこそのデメリットはそれほど多くなさそうですが、アーミーナイフがそうであるように多くの機能を持つ代わり、性能や利便性など背反する要件の妥協の産物とも言えます。それ故にどの方面にも中途半端ということにもなりがちです。
ことバイクとなると、その重量や大きさを直接人間が身体を使ってコントロールするので、更に複雑です。例えばロングツーリングに向いたバイク、オフロードを走るバイク、サーキットでスポーツ走行するバイク…。これらには背反する要件があり、両立は難しい。結局オールインワンコンセプトなど成り立たない。我が家のGSを始めとしたアドベンチャーバイクは正にオールインワンコンセプトですが、街乗りにはデカいしスポーツ走行するには重いし、活きるのは旅のシーンだけ。だからこそ我が家にはコンパクトなスポーツバイクである890DUKE Rだったり街乗り用にADV150があったりします。
しかしここ数年、1日で700-800km、1回のツーリングで数千km走ることも珍しくなくなり、今更ながら気付いてしまったことがあるのです。
それは…
ロングツーリングでは、様々なシチュエーションをその1回のツーリングの中で経験することになる、ということ。
高速道路、街中、田舎道、路面の綺麗な高速ワインディング、苔、砂利、穴、木や葉っぱなどで荒れ放題の酷道。場合によっては大雨だったり濃霧だったりということも。
考えてみれば極めて当たり前なのですが、しかしそうなると、旅に適したアドベンチャーバイクだとしても、ツーリングの1日の中では例えば渋滞など大きさを持て余すシーンもそれなりにあるし、ワインディングではもっと軽量なバイクが良いな、と思うこともあるわけです。先日龍神スカイラインで友人のトレーサー9GTに乗って楽しさに驚いたのと同時に、R1200GSは旅バイクだからと諦めていたことがあったんだな、ということに気付き…今になって旅バイクに求めるモノが変わってきてしまった…のです。つまり
「例え長旅用だとしても、もっと楽しいバイクがイイ」
そりゃそうだ。楽しい方が良いに決まってます。だって楽しむために乗ってるんだから!でもオールラウンド性能を求めるあまり、楽しさを求めていなかった。どういうわけか楽しいバイク=疲れるというのが当たり前だと思っていたし、オールラウンドを求めるのなら楽しさは諦めるものだと思っていた・・・。だからこそGSを好んで14年も乗っていたのです。しかしこの14年の間にバイクは車体設計や電子制御が進化し、以前に比べれば楽しさと長距離快適性の両立レベルが上がっているように思います。そうとなれば、いよいよ買い替えたい。オールインワンコンセプトでありながら、走ることをもっと楽しめるバイクに。
思えばシン・旅バイク選びは本当に長いクエストでした。色々乗ってみては今の空冷GSと比較してああでもない、こうでもない…。どれも何か決め手に欠けると感じて、結局GSが究極の旅バイクなのか? もはや正解が分からなくなっていました。でもようやく評価軸の優先順位が固まった感があります。この2年の間に色々と試乗しました。KTMの1290 Super Adventure Sに始まり、Harley Davidson パン・アメリカ、ホンダ アフリカツイン、BMW R1250GS、そしてDucati ムルティストラーダ。試乗した時は主に快適性などを比較していたので、あらためて楽しさ基準で考えたらどうなるんだろう・・・。もちろん楽しければ他はどうでも良い、ということでもないので評価軸は色々あります。それを整理するために候補車をリストアップしてスコアリングしてみるとこんな感じになりました。
・デザイン:(説明するまでもないけど完全に主観です)
・走らせる楽しさ:走らせて理屈抜きで楽しいと思えるか。エンジン、シャシーを通じて一体感を感じるようなバイクか。
・長距離の快適性:エンジン、シャシーのキャラクター、空力、音や振動、ライポジ、シートの出来など総合的な快適性。
・タンデム適正:タンデムシートの出来、大きさ、空間、グラブバーの造り、エンジン特性、シャシー特性
・酷道適正:サスペンションの対応能力(主にストローク)、エンジン特性、ライポジ、車体の大きさ
・ハンドリング:一体感のある気持ちに沿った過渡特性。旋回力、敏捷性(切り返しの軽さ)など
・パワー&トルク:特にトルクはタンデムや酷道で重要。
・振動:快適性とパトカー/白バイ発見に重要
・航続距離(燃費xタンク容量):特に地方ではガソリンスタンドが減っており、週末は休みのことも多いので意外に重要。
・エルゴノミクス:ハンドルバー、シート、ステップのポジション、シートの出来、スイッチ類の使いやすさ
・装備:パニアケース、トップケースや、電子制御、サスペンション
傾向としてはフロント17インチのモデルはハンドリングが良く楽しいモデルが多く、アドベンチャー色が濃くなるフロント19インチのモデルはサスストロークが長くなるので酷道適正が良くなる感じ。一方、スコアリングすると点数は出るものの、それぞれの項目の重み付け=優先順位もあるので、単純に点数だけの比較も出来ません。例えばSuper Adventure SとSuperDukeGTは同じ点数ですが、GTはタンデム適正の点数が低く、旅バイクはタンデムも重要なのでこの時点で選外になります。
【Honda CRF1100L AfricaTwin】=Avg.3.3
オフロードと低中速を重視したバイク。エンジンはトルクは充分あるが上はパワーが頭打ち、全く面白くない。シャシーはフロントが21インチということもあってフロントが大回りする感覚で一体感に欠ける。オンロードの快速ツアラーを考えてるのでちょっと方向性が違う。
【BMW S1000XR】= Avg.3.8
エンジンは中高回転が気持ち良いし全体的にスポーツツアラーとして良い出来だけど、低速トルクの細さがタンデム適正と酷道適正に決定的に影響。個性的なシート形状もどうにも合わない。
【YAMAHA Tracer 9 GT】= Avg.3.9
サスストロークの短さが酷道適正とタンデム適正を下げる。装備はプリロード調整がこのリストの中で唯一手動。しかし軽いしシャシーセットアップ良いので、楽しさとハンドリングの点数が高い。
【BMW R1250RS】= Avg.4.0
全体として悪くはないものの、リーディングアクスルを採用したフロントのジオメトリーにより、期待していたスポーツ性がイマイチ。GSより足付きが良い以外はGSの方が良い。何故R1250Rと同じフォークにしなかったんだろう。。。
【Ducati Multistrada V4S】 = Avg.4.0
素晴らしいエンジンとハンドリング、19インチと思えない旋回性を持つ。しかしハンドルバーからタンク付近全体にかなり大きなマスを感じてバイク全体を重く感じる。燃費が悪く航続距離が短い。
【BMW R1250GS】= Avg.4.1
ハードウェアの出来を旅の道具として評価すればおそらく最良。でも走らせて楽しくないというのはGSの伝統か。人気車種なだけにシートやハンドルバーなど社外品も多く、自分に合わせて色々選べるのでエルゴノミクスは改善出来る。
【KTM 1290SuperDuke GT】= Avg.4.3
かなりの不人気車だけど、乗ると実に素晴らしいスポーツツアラー。ただタンデムをあまり考慮していない設計に思える。サスストロークも長くないので酷道適正も下げた。しかしタンデムをしない方には結構お勧めしたいモデル。
【KTM 1290SuperAdventure S】= Avg.4.3
このクラスでは例外的なほど軽快コンパクトで、フロント19インチのアドベンチャーモデルながら走る楽しさがあるバイク。ただデザインが好みではなくw、Duke GTと同じエンジンと思えないほど振動が大きいのはマイナス。
【Ducati Multistrada V4 Pikes Peak】= Avg.4.4
これは乗ったことがないので半分推測のスコア。しかし何しろカッコいいw。フロント17インチ化により、どうやらV4Sよりかなりハンドリングが軽くなったとのこと。エンジンは素晴らしいので、燃費と価格(400万超)を考えなければ最良の選択か。
そして、最終的にKTM Super Adventure Sを選びました。デザイン的にはイマイチなのですが、しかし走らせて楽しいこと、しかもタンデムや酷道でさえも楽しめそうなところが魅力でした。Multistrada Pikes Peakは最後まで悩みましたが、価格が高過ぎ。150万以上差があるとなると軽トラが買えますw。R1250GSはもうすぐモデルチェンジしてR1300GSになるのですが、リーク情報では重量や大きさは変わらない上に、突然楽しいバイクに変貌するということもないでしょうから選外にしました。
そんなわけでちょうど14年乗ったR1200GSは、北海道から鹿児島まで沖縄以外の46都道府県全てを61,000km走って次のオーナーへ託すことになりました。もっと歳を取ったらまたGSに帰ってくるかもしれませんが…