
MotoGPの'15シーズンが来週開幕(3/29決勝)します。私のブログの中ではダントツでページ・ビューの少ないMotoGPネタですがw、2輪レースの布教活動の一環として今シーズンのMotoGPについて書いてみたいと思います。MotoGPは基本的にはシンプルなスプリントレースで、給油やタイヤ交換などのピットストップもありません。単純な速い者勝ち・・・なのですが、実はMotoGPクラスは細かく言えばその中でクラス分けがされているので、まずはレースを楽しむために知っておいた方が良い車両レギュレーションとその経緯について書いてみようと思います。
現在のMotoGPは様々な経緯から実質的には同一クラスではなく、3クラスが混走することになっている。現在の車両規則(クラス)は経緯も含めて非常に複雑で、しかもイレギュラーケースを認めたために非常に分かりにくくなってしまった。
現在に至るまでのレギュレーションの変遷の、主な目的は以下の2点。
①ファクトリーのみならず、プライベーターが参加出来るレースとすること。
②各メーカー間での格差を減らし、レースを面白いものにすること。
2ストローク500ccで争われていたGP500に代わって2002年に4ストローク990ccでスタートしたMotoGPクラスは、ハイパワー化とタイヤグリップの飛躍的な向上に伴い、バンク角は60°を超え、最高速は340km/hを超えるまでになった。こういったマシンを速く走らせるには電子制御は欠かせず、必然的に電子制御は非常に先鋭化してしまった。本来はGP500クラスの構成=2ストローク500ccの方が市販車との関連性も薄く、技術的にも多くの2輪メーカーにとって参入障壁が高かったのだが、電子制御も含め複雑で高度な技術が必要となり、結果的にMotoGPは有力な大メーカーしか参加出来ないものとなっていた。その後、コストが増大したことやリーマンショックもあってスズキとカワサキが撤退。撤退に伴うエントリー台数の減少やレースの面白さが減ることへの対応として、2012年にCRT(クレーミング・ルール・チーム=買い取り規定あり)クラスが設定された。
MotoGPは基本的に4輪のF1のようにオリジナルのシャシーとオリジナルのエンジンで争われるレースで、そこに市販車改造による参入は許されていなかった。(実際は開始当初にヤマハのR1改という微妙なバイクはあり、議論の対象だった) しかしそれではプライベーターが参入することが難しいため、フレームビルダーによるシャシーと市販車改造のエンジンを使ったマシンのクラスを設定した。これは実際には市販車改造レースであるスーパーバイクのエンジンをビルダー製作のシャシーに載せるというのが一般的なパターンだが、アプリリアはART(Aprilia Racing Technology)という名前でシャシー+スーパーバイクエンジンを提供していた。
ところが、実際に'12シーズンのレースが始まると、ファクトリーチームとCRTとの差が大き過ぎ、レースは結局ファクトリー勢で争われてCRTはテレビに映ることも稀だったため、マシン格差を少なくすることが求められた。こうして、'14シーズンに向けてCRTを廃止し、代わってオープンカテゴリーというものが創設された。
従来のCRTとオープンカテゴリーで大きく異なるのは、市販車改造ではない純粋な市販レーサーの導入と、型落ちのファクトリーマシンが使えるようになったことだ。そのオープンカテゴリー向けマシンとしてホンダが開発したのがRCV1000Rで、要するに昔のTZやRSと同じような市販レーサー。対してヤマハは旧型のファクトリーマシンのシャシーとエンジンをプライベーターに提供するという形になった。
こうしてファクトリーチームとプライベーターのマシン格差は小さくなったが、オープンとファクトリーでレギュレーション上異なるのは主に以下の点。
ファクトリーは独自ハードウェアを動作させる(例えばシームレス・ミッションなど)ソフトウェアを自由に開発することが出来る点で有利だが、それ以外の点ではオープンの方が有利なルールだ。
'13-'14のウインターテストでは、ヤマハのオープン(旧型ファクトリー)に乗ったアレイシ・エスパルガロがいきなりファクトリー勢に割って入る快走を見せた一方、Newマシン投入となったホンダのオープン勢、ニッキー・ヘイデンと青山博一はCRT時代よりは差が縮まったものの中段以下に留まっていた。さらに、長らく上位争いから遠ざかっていたDucatiもまた、上位に顔を出せずにいた。
こうした状況で'14シーズンの開幕直前、何とDucatiのファクトリーチームはオープンカテゴリーで参戦すると発表。レギュレーション上、ファクトリーの有利な点はソフトウェアのみでそれ以外は全てオープンの方が有利であり、そしてテストにおけるアレイシ・エスパルガロの快走がそれを裏付けていた。問題だったのは純粋なファクトリーがプライベーター対象のクラスへ参戦するということと、それによりホンダ、ヤマハ勢が大きく不利になるのではという危惧があったことだった。しかも、オープンカテゴリーが不利な点はECUソフトウェアだが、この統一ECUはマニエッティ・マレリ製で、マレリはDucatiファクトリーからクルマで5分の距離にある。Ducatiはマレリと組んで統一ソフトに組み込んでもらいたい内容を反映させ、事実上統一ソフトがDucati仕様になるのではないかとまで危惧されていたのだ。
様々な議論の末、長らく低迷が続いているDucatiへの救済措置として、オープンカテゴリーでの参戦が認められた。しかし、これには成績に応じた条件が付与され、簡単に言えば上位入賞したらファクトリーオプションへ変更しなければならない、というものだ。
そういった経緯で、現在は正式なクラスとしては2つ、そしてファクトリーチームがオープンカテゴリーへ参戦する場合は条件付で許可するという微妙なことになっている。ちなみに'15シーズン、オープンカテゴリーで参戦するファクトリーはDucati に加えて今シーズンから復帰するスズキ、アプリリアの3メーカーだ。
このような、レギュレーションの公平性よりも弱者救済を優先する発想は必ずしも良いこととは思えない。同じルールの下で競うから競技なのであり、しかも観ている側にとっては同じレースを走っていながら異なるレギュレーションで走っているマシンが混走するのは、見た目がほとんど同じだけに非常に分かりにくい。
左がオープンカテゴリーのマシンRC213V-RS、右がファクトリーオプションのRC213V
若干話が逸れるが、先日開幕戦が行われたF1では相変わらずパワーユニット間の格差=特にメルセデスとルノー間が大きかったためにレッドブルが戦力の均衡化を図るようFIAに求めているとか。一足先に戦力均衡化を狙ってDucatiを救済したMotoGPだが、実際のところ、Ducatiはシーズン中にエンジンが改良出来る点を活用して開発を進めたものの、以前からエンジンより問題が大きかったシャシーの問題 ・・・・アンダーステアと、他車より大きいタイヤ磨耗・・・・ が解決出来ず、結局'14シーズンも予選やレース序盤以外で上位に顔を出すことは稀だった。とは言え、それでも以前よりは確実に僅差になって面白くなってきたのは事実なのだ。
レギュレーションの公平性とレースの均衡化についてはモータースポーツにおいては永遠の課題だろう。SuperGTやDTMなどのツーリングカーでは重量ハンディ、インディやNASCARではレース中に入れなくても良いイエローコーションを入れたりしてレース自体を面白いものにしようとしている。
本質的には弱者救済は良いこととは思えないが、やっぱり観ていて面白いレースの方が良いに決まっている。それで観客が増え、スポンサーが増えればレースも盛り上がる。「あるべき」論だけではなく、レースやカテゴリーの将来を見据えて時には柔軟性を持つことも必要なのではないかと今は考えている。
Ducati ファクトリーは、'15シーズンもオープンカテゴリーで参戦する。
ちなみにMotoGPクラスは来年'16シーズンからクラス・ルールが完全に統一される。それまでについに5ファクトリーとなった各メーカーの戦闘力が均衡化すれば良いのだが・・・
次回は今シーズンのMotoGPクラスの展望について。
Posted at 2015/03/18 12:33:05 | |
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