
さて、今シーズンのMotoGPは、レースに関わるいくつかの変更点がある。大きな点では以下の2点
1. タイヤがブリヂストンからミシュランへ変更
2. ECUのソフトウェアが統一される
タイヤの変更は、ブリジストンの撤退に伴うもので今シーズンからはミシュランの1社供給となる。また、従来16.5インチだったタイヤが前後17インチとなり、市販車と同じホイールサイズとなるのも変更点だ。ミシュランの特徴は、意外なことに昔と変わっていないようだ。リアタイヤのグリップが高い一方、フロントのグリップが全体的に低め。ケース剛性のしなやかさでグリップさせるというのがミシュランの特徴なのだが、結果的にケース剛性の高いブリヂストンと比較してフロントグリップが低いというのが現状のようだ。
ブリヂストンがブレーキを握ったままよりコーナー奥へ入っていけるのに対し、ミシュランは早めのリリース、もしくは荷重をかけ過ぎずにターンインする必要がある。これは絶対的な性能うんぬんというよりはコンセプトの違いに近い話。しかしブリヂストンに慣れたライダー、特に目一杯フロント荷重をかけるライディングのライダーにとってはライディングを変える必要も出てくるだろうし、マシン作りも変わってくるだろう。タイプ的にはロレンゾ、ペドロサ、スミス、ヴィニャーレス等には合うものの、マルケス、ロッシ、イアンノーネ、エスパルガロ兄弟は苦労するかもしれない。
17インチ化についてはタイヤのラウンドプロファイルが変わることになるので本来は大きな変更だが、ミシュランへの変更=コンセプトの変更が大きいので各ライダーとも今のところ言及していないようだ。
ECUソフトウェアの統一については、ヤマハ、ホンダにとっては大きな違いとなる。従来は統一ECUハードウェアに対してホンダとヤマハワークスはソフトウェアを自社開発していた。これによって、レース中に起こる様々な状況の変化によりセッティングをある程度マシン側が自動的に調整していた。例えば燃料が少なくなるとパワーを絞り、タイヤグリップの低下に合わせてまたセッティングを変更して・・・など。さらに各コーナー毎に個別のセッティングを行うことまでを実現していたのだが、実はGPSの使用は禁止されている。従って、各メーカーともコース上のセクターの区切り、ホイールの回転数、リーンアングルなどから自車の場所を特定してそれに合わせたセッティングで走らせていた。
統一ソフトウェアではこれらの自動調整機能がなくなるため、例えば燃料が足りなくなりそうな時はライダーがスイッチしてマップを切り替えたり、コーナー毎のセッティングは可能であるが、何らかの理由で別の場所と認識してしまった場合は補正がされない状況で(つまり合わないセットで)走ることを余儀なくされる。例えば必要以上にウイリーコントロールが効いて加速が鈍ったり、逆に盛大にウイリーしてしまったり・・・。(バイクが「迷子」になるらしいw)
なお、これら大きな変更点の他にも燃料が全車22リッターとなるのも違うポイント。昨年まではホンダとヤマハは20リッターで走っていたので、よりパワーを出せるかも?という期待もあるが、実態としては独自ソフトウェアで上手く燃料を絞るようなことがやりにくくなるため、それほど単純な話ではないと思われる。
さて、そういったレギュレーションの変更から今シーズンは昨シーズンと異なった勢力図が期待されるところ。しかしながら、プレシーズンテストを見る限りでは結局のところ強いチームは強く、苦労するチームは苦労するという図式が継続しそうな雰囲気。今回のプレシーズンテストではタイヤやエレクトロニクスのテストが非常に多かったため、タイヤだけでもソフト、ハード、ユーズドなどライダーによってまちまちで、タイムの比較はあまり意味を成さないと思われるが、コンスタントに良いラップを刻めているのは限られたライダーで、その筆頭はホルヘ・ロレンゾ。
ヤマハは昨年最終戦までチャンピオン争いをしていたために今年型のマシンの開発が遅れていたという噂もあったが、ミシュランにフィットするライディングのロレンゾは順当に仕上げてきていて1ラップのタイムもレースシミュレーションも速いという文句ない仕上がり。
一方のヴァレンティーノ・ロッシは、若干タイヤに苦戦している雰囲気。ブレーキングでフロントへ大きく負荷をかけることの出来るブリヂストンのライディングからミシュランへライディングを合わせるのに時間がかかっているように思う。
昨年苦戦したホンダは、マルケス、ペドロサともにかなり苦労している。オーストラリアのテストではトップタイムをマークしたが、高速コースのフィリップ・アイランドはそもそも低速からの全開加速が少なく、ホンダのウイークポイントが目立たないコースだった。
ファクトリーで唯一、等間隔爆発のスクリーマーエンジンを使い続けるホンダ。甲高い音は綺麗で良い音がするが、ピーキーな特性がライダーを悩ませている。
セパン、カタールでタイムが出ているのはソフトのNewタイヤ、アベレージでは下位に留まっているのは問題が解決出来ていないことを物語る。
今シーズン、最多の8台を走らせるドゥカティは、統一ソフトウェアを以前より使用しておりエレクトロニクスのセッティングで一日の長があると言われているが、最初のテストでは速かったもののテストが進むにつれ他のファクトリーとの差が縮まっているように見える。
ウイングレットが増えるばかりのドゥカティ。コーナリング中のバイクは斜め上方から風が当たるため、ウイングレットはアンダーステアを誘発するように思えるが、それよりもウイリー抑止の方がタイムが出るという判断だろうか・・・
そうは言ってもヤマハ、ホンダが確実に去年よりレベルが落ちる今年、少なくとも前半はGP16+イアンノーネがかなり活躍すると期待している。ちなみにケイシー・ストーナーは今年からドゥカティのテストチーム入りしたが、最初のテストでいきなりファクトリーライダーの2人より速く、周りを驚かせた。
さて、今シーズン一番楽しみなのはスズキだ。ついにアップ・ダウンともシームレスミッションが投入され、改良されたエンジンはようやく他と比較出来るだけのパワーを得たらしい。昨年後半から才能を爆発させているマーヴェリック・ヴィニャーレスは、オーストラリアで3日間トータルトップタイム、カタールでも3番手と好調。
マルケスに次ぐ才能と言われるヴィニャーレス。今年はその才能を開花させるか。
レースシミュレーションでもベストラップからコンマ数秒落ちでコンスタントに走っており、コース特性の異なる2つのコースで良いペースを刻めているのはかなり期待出来る。ライダー的には今年の一押し。心配なのはアレイシ・エスパルガロ。おそらくライディング・スタイルがミシュランに合っていないものと思われるが、ヴィニャーレスから離されてしまっているのが気がかり。
今年からブランニューとなるマシンを投入するアプリリア、シェイクダウンが遅れマシンはデビューしたばかり。少なくともシーズン前半は去年同様、下位に沈むと思われる。
全体的なデザインはヤマハに似ているが、エンジンはV4。今年は熟成の年か。
この他、サテライト勢での注目は、LCRホンダからプラマック・ドゥカティへ移籍したスコット・レディング。ホンダのライディングに苦労していたが、ドゥカティで快走を見せている。一方でテック3の2人は今ひとつ元気がないのが気になる。
今年はさらに拮抗したバトルが見られるのか、開発力の違いで差が開いてしまうのか、占うのが難しいシーズンであるのは間違いないが、まずは今週末のレースを楽しみにしよう。
Posted at 2016/03/15 23:21:40 | |
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