
私が以前レースをやっていたのはメインではツインリンクもてぎでした。
ツインリンクもてぎというのは所謂ストップ&ゴータイプのサーキットで、短い直線とタイトターンの組合せが多いコースです。結果的に他のコースと比べて全開の時間が非常に長く、スロットルを開けられるかどうか・・・つまり開けているつもりで開いていない、で大きな差が付くコースと言えます。まぁこの部分で差が生まれるようではレベルは高くないのですが、1000ccのバイクというのは非常に速いので、実際に走らせていてもストッパーに当たるまで開けられていないことというのはビギナーの頃は良くある話なんですね。もちろん後でロガーで見ると100%まで開いていないことは明白で。
そのもてぎでもう一つのポイントはブレーキングです。
ブレーキングの厳しさは実は世界屈指のレベルで、MotoGPでは数年前までレギュレーションで320mmのローターとされているところ、年間18戦の内でもてぎだけ340mmが強制装着(必須)とされていた位なのです。(今はどのコースでも340mm)
なので、私もブレーキについては様々なことをトライしていました。パッドの選択はもちろん、ブレーキローターの直径、ブレーキローターの厚み、フルードの選択、マスターシリンダーのサイズ、ブレーキレバー・・・。キャリパーまではセッティングの範囲にはしませんでしたが、それでもこれだけあります。極めて単純なメカニズムの油圧ブレーキですが、考えるべき点は実は結構あると思っています。
何が重要だったかというと、
1. ストッピングパワー
2. 熱容量
3. コントロール性
4. トラブル対策
こんなところでしょうか。
絶対的なストッピングパワーを上げるのに効果的なのはまずはパッドの変更で、その次がローターの大径化。これは皆さんご存知のことだと思います。もちろんローターとパッドは単体だけでなく特性としての組合せも重要です。パッドは比較的交換しやすいので、コースや自分のライディングスタイルに合わせて特性を変えることが簡単に出来ます。本当はパッドの絶対的な効きではなく、入力に対してどのように変化するかという特性が重要なんですが、一般的にはパッドのメーカーサイトですら温度域とか「コントロール性が高い」とか、実際にどんな特性かが全く分からない情報しか載ってません。
某社ブレーキパッドのレーダーチャート・・・これで何か分かるかね・・・?
HRCのブレーキパッド特性グラフ。こういう情報があればパッドも選びやすい。
熱容量についてはバイクのレースで言えばもてぎならではの特殊事情と言えると思いますが、要するにフェードです。クルマのチューニングにおいてはパッドやフルードを想像すると思いますが、それ以外にはローター自体の熱容量、つまり厚みです。基本的な熱容量をローターで確保した上で、高温に耐えるパッドとフルード。フルードは非常に重要で、熱が入るとレバーのタッチが変わるのはもちろん、同じ制動力をかけるために握ってもどんどんレバーの位置が手前に来てしまい、そのためにブレーキレバーに対して走行中に位置を調整出来るようワイヤーアジャスターを設けることもありました。これはフルードで良いのが見つかったので不要になりましたが・・・。ちなみに、某社のキャリパーではフルードが漏れるというトラブルがありました。最初はブレーキホースのカシメ部分やバンジョーボルトを疑いましたが、しっかり締められています。どこから漏れているのかさっぱり分からなかったのですが、よく見るとキャリパー本体から漏れていたのです。というのも、そのキャリパーはモノブロックではなくツーピースだったのですが、そのキャリパーボディーの合わせ目から漏れているのです。つまり、強い入力の連続によりキャリパーが「開いて」しまっていた・・・のです。もちろん締結ボルトはしっかり締まっていますが、まぁ設計時の想定限界を超えているということだったんでしょうね。
さて、私が重要視していたのはコントロール性です。一口に言うと非常に幅広いですが、その中でもリリース時のフィーリングが掴みやすくコントロールしやすいことは、ターンインの荷重コントロール=曲げやすさに非常に重要ですし、ギリギリのパッシングを行う時ももちろん非常に重要です。このコントロール性にはパッドの影響も大きいのですが、実はローターの直径の影響が非常に大きいのです。直径が大きくなればなるほど、ストッピングパワーが上がるわけですが、同時に初期の制動力が強まります。従ってピーキーな特性になりやすいのです。つまり、小径の方がコントロールしやすい。
MotoGPにおいては、ドライ用だけで4種類も設定されている。ローターの径や特性が重要なことが分かる。
ローターは大きくなれば重くもなりますし、厚みを増やしても当然重くなります。私の場合、ドライのレースでは大径ローターを使用しましたが、ウェットのレースでは小径の薄いローターを使用していました。それくらいコントロール性に差があったからです。
非常~に長い前振りですがw、そこでボクスターのブレーキです。
ポルシェは同じ車種でもグレード毎に異なるブレーキを設定することが多いですね。981ボクスターで言えばローターは2.7で315mm、SとGTSでは330mm、スパイダーで340mm。ハイパワーなモデルには制動力を上げたセットを用いているわけですが、逆に言えば2.7用には軽量でコントロール性の良い小径ローターを組み合わせている、とも言えます。そう、2.7は2.7で専用部品なのです。とは言え安物の構成ではなく、モノブロックキャリパーですしローターはドリルドです。マスターシリンダーやサーボまで専用セッティングかは分かりませんが、少なくとも非常にコントロールしやすいブレーキになっており、絶対的な制動力も公道なら十二分です。
小径ローターはホイールとの隙間が大きくてカッコ悪いという話を聞くことがあります。もちろん個人の好みなので別に良いのですが、本当は要求する性能さえ出ていれば小径の方が遙かに良いのです・・・。安易にローターやキャリパーをアフターパーツのキットに交換するのも考え物で、本当ならマスターシリンダーやマスターバックのサイズ選定、組合せをしっかり検討しなければ、例えばポルシェのように純正で素晴らしいフィーリング、特性が造り込まれているクルマは肝心なコトを失う可能性が高いと思います。でもマスターシリンダーやサーボまで変更する例はほとんど聞かないですね・・・。
私はむしろこの2.7の小径ローターを使ったシステムがとてもカッコ良く見えるんですが・・・
C43のフロントブレーキは360mmのドリルドローターにかなり大きな4Podキャリパー。重量とパワーに合わせて制動力は確保されているが、コントロール性はもう少し欲しい。しかし厚み(熱容量)は随分持たされており、しっかり連続制動まで想定されていることが分かる。
Posted at 2016/08/06 10:06:36 | |
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