
印象に残ったエンジンを数回に渡って挙げてみたわけですが、こうして色々と思い出しながら考えてみると、これから先の将来、エンジンを楽しめるクルマがどれだけ出てくるだろうかとあらためて考えてしまいます。CO2規制の厳しさから電動化の流れは免れないですし、一部は完全EVとなるでしょう。一方で、エンジンによるハイパワー追求という意味では行き着くところまで来てしまっています。C63の476psですら、所々で使うことは出来ても踏み続けることは出来ない。。。電動パワートレインが今後増えていくのは間違いなく、既に出力的にも内燃機関は追い越されつつあり、しかもバッテリー技術にブレイクスルーがあればあっという間にそれが一般化します。であれば、エンジンはもうパワーを追い求めるのではなく、そろそろ味へ転換するようなことは考えられないものか。クルマという商品はバイクとは違って基本的にはより社会性が求められ、日常の足、生活の道具であり、開発費用を含めて考えればクルマ好きのボリュームだけではビジネスが成り立たない。これは何となく分かります。しかし旧車の人気が衰えないのは結局のところ面白いからであり、こうした流れへのアンチテーゼ。
そう考えるとバイクの世界は実に面白い流れがあり、最新技術で”古い”エンジンを開発しているわけです。
ハーレー・ダビッドソン Milwaukee eight
1980年代、日本車がバイクブームに乗って台頭していた頃。ハーレーは旧来の空冷45°Vツインを使い続けていたけれど、その将来に不安を持っていたようです。そこでハーレーは新型エンジンの先行開発をポルシェへ依頼。この時は60°V2, V4, V6という形で開発したものの立ち消え。それがその後レース用エンジンとして水冷60°V2になり、VR1000というAMAスーパーバイクを走るレーサーに。
このエンジンをベースに再びポルシェと市販化へ向けて共同で開発を行い、2002年にリリースされたのがV-ROD。このV-RODのエンジンは通称レボリューションエンジンと呼ばれ、VR1000用エンジンがベースとされた水冷60°V2。そしてヘッドは何とDOHC。そしてドライサンプ。こうして新世代エンジンはリリースされるわけですが、それはもう賛否両論。何しろ今までのハーレーと全く違います。低回転での鼓動(パルス)、味わいが特徴だったハーレーがDOHCで上までブン回る速いエンジンへ・・・。
何しろ当時の空冷ツインカム88エンジンは最大トルクを3000rpmで発生していたところ、レボリューションでは7000rpmで発生するような高回転型だったのです。これはこれでアリかと思いきや、ハーレーのファンは全くそうではなかった・・・。ハーレー自身もそうしたファンの反応から空冷Vツインを捨てられず、結局新世代空冷VツインとしてMilwaukee Eightを開発。しかも2018年にはV-RODシリーズをディスコン、遂に水冷化を諦めて空冷(一部モデルはヘッド水冷)へ回帰するのです。
Milwaukee Eightは
以前もブログに書きましたが、最新の設計ではあるもののOHV、しかもツインカム88ではカムが2本だったものが1本へ戻されました。でもバルブは4バルブ。排気量を拡大して現在では114ci=1868ccが標準的な仕様です。このエンジンに乗ると、やはり味が重要なんだと分かります。低速でのパルス感、排気量で押し出す必要以上に太いトルク。趣味性が極めて高いバイクの世界では、結局そうした味が重要であるということなんです。しかも、昔ながらの三拍子を刻むためにハイカムを入れつつアイドリングを極端に下げたり、鼓動感を増すためのチューニングすらあるんです。
BMW R18 Concept
ハーレーのアイコンが45°Vツインなら、BMWのエンジンアイコンはフラットツインです。それはなんと1923年にBMWブランドとして生産が開始された最初のバイク、R32から採用されているのです。しかも本当に驚くことに、日本では関東大震災があった1923年、フラットツイン、シャフトドライブという現代のBMWフラットツインの基本構成が既に確立されていたのです。このR32はサイドバルブのエンジンでしたが、その後1928年にはOHVヘッドを持つR62になりました。それから1936年にR5という500ccフラットツインのエポックメイキングなモデルをリリース。
このモデルが現代のバイクへ続くダブルクレードルフレームやテレスコピックのフロントフォークを採用し、さらにはギアシフトが左手のクラッチと足によるペダル変速になった、と。(それまでは所謂ジョッキーシフト) BMWはこのR5をオマージュしたモデル5 Hommageを2016年にコンセプトモデルとして発表。これは完全にコンセプトモデルで、オリジナルのR5を大改造して作ったモデルでした。しかしこのデザインがとても魅力的で好評だったため、BMWは市販化を決定、今年6月にR18コンセプトとして発表しました。
このバイクは何とこのデザインに近い状態で2020年に市販されると発表されています。そしてこのR18に搭載されているエンジンが、完全新規開発の新しいフラットツインなのです。私が持っているR1200GSのエンジンは、空冷フラットツインのOHC4Vヘッドですが、サイドドラフト・前方排気というホリゾンタルフロー。それにクラッチは乾式シングルプレート。それが2013年にモデルチェンジされ、ヘッドのみ水冷の空水冷のDOHC4Vとなり、ダウンドラフト・下方排気のバーチカルフロー、クラッチも一般的なウェットのマルチプレートとなり一気に現代化しました。今は排気量も1250ccまで拡大され、私のモデルでは105psだったパワーも何と136psまでUPしています。しかし実は私の空冷フラットツインでさえ、まろやかな味のある回り方をするエンジンで(私自身はバルブクリアランス調整直後のパルス感がある方が好きなので、マイルドなフィーリングは大して好きではありませんがw)、これを好むオーナーがいたこともあって今はこのエンジン(ただしDOHCヘッド)はR-nineTというシリーズに搭載されています。
そしてR18。エンジンは空冷フラットツイン、そしてホリゾンタルフローに戻され、しかもプッシュロッドOHV!クラッチも乾式単板に戻されています。もはや完全に先祖返りw。しかしもちろん最新技術を投入しており、燃焼室は最新の設計、4バルブでツインプラグです。そしてポート噴射のインジェクション。クランクシャフトは鍛造。排気量は何と1800cc。BMWフラットツイン史上最大です。低回転を重視している性格なのは当然ですが、少し意外なのはボアxストが107.1 x 100.0とショートストロークで設計されていることです。ハーレーはこの辺りは拘っていて、例えば107ci(1745cc)では100.0 x 111.1、114ci(1868cc)では102.0 x 114.3とロングストロークです。因みにハーレーのチューニング部門、スクリーミングイーグルが107エンジンへの114ciボアアップキットをリリースしていますが、これはボアだけを広げて114ciにするのでストロークは111.1のまま。したがってもっと回るフィーリングだと言われています。R18でも粘り強いロングストロークのトルク特性が好まれるとは思いますが、しかしフラットツインでストロークを伸ばすことはすなわちエンジン全幅を増やすことになり、バイクとしては色々と良くない面も出てきてしまうので100mmまでに抑えたのでしょう。
クランクケースは何と左右分割で、シリンダー辺り900ccの爆発トルクを受け止めてクランクシャフトの振動を減らすためトリプルベアリング化。シリンダーにはニカジルコーティング。ピストンリングは2本のコンプレッションリングにオイルワイプ1本
このR18のエンジンはパワーは90psを4750rpmという低回転で発揮、レッドラインはたったの5750rpm。下手したらディーゼル以下ですw。そりゃシリンダーあたり900ccもあったら重くて回らないでしょうね。だからOHVでも全然OKなんでしょう。しかしトルクは158Nm!これを3000rpmで出しますし、2000-4000rpmでの加速感に拘ったとのこと。
バイクの世界でももちろん性能を追求した流れはあり、先日発表されたホンダの新型ファイアーブレードは1000ccで217ps、カワサキH2は1000ccにスーパーチャージして242ps(高速域でラム圧が効いている時)を出します。速いバイクも面白いことは面白いのですが、何しろこの速さはライダーの恐怖心に直結します。つまりクルマ以上に「開けられるライダー」が少ないはずです。怖い思いをしてまでの速さは要らない。実際はそんなライダーの方がむしろ多い。しかしつまらないエンジンも嫌だ、と。これはもう、とことん趣味の世界であり、クルマの世界とは違うのだいうのは分かっています。しかしクルマの世界でこういうのは本当に絶対に出来ないものなんだろうか・・・。もちろん一般に入手しづらいバックヤードビルダーやモーガンのような超小規模メーカーでなく、普通に買えるメーカーで。普通に考えれば無理なのは分かってます。今のクルマ造りは制約が多過ぎるし、何しろそんなマニアックなモデルはビジネスになりにくい。例えば普通のクルマの3倍の値段でゴルフより遅いとか??面白ければ私はかなりアリですが、まぁ大メーカー的にはF1参戦以上に無理な話かな・・・。
それにしてもR18は本当にシビれるほど格好良い・・・。バイク史上でも上位に入る美しさだと思うんです・・・

Posted at 2019/12/09 09:37:47 | |
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バイク | 日記