
ボクスターの1年点検に合わせて、昨年マイナーチェンジされた最新型のカイエンをお借りしました。実はカイエンに乗るのは初めて。マカンくらいの大きさならまだしも、5m x 2mもあるSUVが我が家にとって現実感が無かったので・・・。ポルシェの最多量販車ですしクルマとしては興味はあったんですが。
お借りしたのはカイエン・クーペのe-Hybrid。3L V6+モーターで出力の低い方。それでもシステム出力は470psというんだから凄いです。ハイブリッドというシステム自体には全く興味が無いのですが、こういう高出力なハイブリッドというのも乗ったことがないので、ハイブリッド470psがどんな感じなのか。純エンジンの476ps(C63)とどう違うのかも気になります。例によってポルシェの試乗車はオプションが盛り盛りでして、この個体はベースが1500万円くらいのところにオプションが500万円以上乗っていて約2000万円の仕様。シャシー関係ではエアサス、PDCC、そしてリアアクスルステアが組まれています。リア左右のトルクベクタリングPTV PlusはSモデル以上じゃないと選択出来ません。PASMは標準で、すっぴんの仕様ではこれにコイルサスが組み合わされます。おそらくすっぴんとは相当フィーリングが違うのだろうと思うのですが、エアサス+PDCC+リアアクスルステアというこの仕様が一番カイエンのキャラクターを表すシャシー仕様なんだろうな、と乗り終えた今となっては思います。その他走りに影響しそうなところではホイールが21インチのAero Designというホイールです。因みにPSCBは後期型になってオプションから無くなりました。
ところでそもそもカイエン・クーペって?標準のカイエン(区別するためにワゴンと言います)と基本的にほとんど同じで、Bピラー以降のデザインが違うだけ。ルーフ形状の違いによって全高が20mmクーペの方が低くなっていますが、それ以外の車体スペックは全長、全幅、ホイールベース、前後のトレッド幅全て同じ。標準仕様同士での車両重量は実はワゴンの方が軽く、これは標準仕様の装備の違いです。クーペは標準がガラスルーフでサンルーフの設定はありません。ついでに言えばスチールのルーフもありません。ガラスルーフかオプションの軽量仕様パッケージによるカーボンルーフのみ。またクーペではスポーツクロノも標準で、ヘッドレスト一体型のスポーツシート、さらに4人乗り仕様が標準で5人乗り仕様はオプションです。あと当然カーゴルームはワゴンの方が大きいですが、ベルトラインから下は両車で同じなので上まで積み上げなければあまり差は無さそうです。
サスペンションは前後ともマルチリンク。フロントは最近多いアッパーアームを前後で分割したダブルウィッシュボーンに近い形。リアは物凄くゴツいサブフレームにアーム類をマウントしてますね。アーム類はエアサス仕様では全部アルミ。(コイル仕様ではスチールが一部で使われているらしい)現物を見るとアーム類単体は車重の割には案外華奢に見えます。この画像で目立つのはアンチロールバーの中央にある大きな筒。これがPDCCのアクチュエーターですね。
さて走り出しましょう。まずは標準となるハイブリッドモード。これだとサスも標準の高さ、硬さになります。走り出すと素晴らしい乗り心地。タイヤ外径の大きさも効いているのでしょうけど、細かいギャップを綺麗にいなします。しかもダンパーのセッティングが絶妙で単に柔らかいだけでなく収束も良い。なのでスムーズながらすっきり気持ち良く走ります。一方でストロークは結構規制されている感じで、大きなギャップでは案外揺すられます。足首は非常に良くスムーズに動くけど膝の動きは規制してるような、そんな感じ。エアサスなのでストロークすれば二次曲線的にバネレートが上がるのかもしれませんが、同じエアサスのSクラスは綺麗にストロークします。なのでカイエンの場合乗り心地は非常に良いのですが柔らかいかと言われれば初期のストロークだけはね、という感じ。Sクラスはちょっとした浮遊感を伴うくらいの柔らかさで外界と断絶されている感すらあるのですが、カイエンは地に足が着いている感じ。Sクラスと比較するのはおかしいんですけど、自分の中で乗り心地のベンチマークなので・・・。
ステアリングはポルシェに期待するフィーリングになってます。接地感があり精度感もあり、リニアなので思った通りに反応してくれます。街中で気付いたのはリアステアが結構効くこと。慣れないと交差点でオーバーシュートするくらい曲がります。Sクラスもそうだったんですが、リアステアって確かに小回りが効いて便利なシーンがある反面、リニアリティとは真逆なので気持ち悪い時もあってあまり好きになれないです。5mの全長で必要かな?という気もしますし。
高速道路ではそのフラットライドがまず素晴らしい。速度を上げてもダンピングが不足するようなことはなく、乗り心地が良いままにダンピングも効いて極めてフラット、直進性も文句無し、ビシーっと走ります。幅が広く長さもあり、重量もあるので物理的にモーメントが起きにくいというのもあるのでしょうけど、重心が高いハズなのにこれだけ揺れずにフラットに走るのは実に素晴らしい。ステアリングも剛性があってリニアなのでコントロールしやすいです。乗り心地以上に驚いたのが高速コーナリング。何コレ。ほとんどロールしません。PDCCの効果なのでしょうね。相当なスピードで曲がっても信じられないほどフラット。その状態でギャップに乗ってもきちんと吸収するのがまた信じられない。こんなにスタビが突っ張ってたらサスなんて動かなそうなのにそうじゃない。かなりの横Gをかけた状態で車線変更してもほぼフラットなまま。何だか理屈は良く分からないけど凄いw。ポルシェによれば、PDCCはコーナリングだけでなく直進中も細かく制御していて、フラットライドに貢献しているようです。ただ速度を上げると分かるのはバネ下の重さですね。サイズ的にどうしようもないと思いますが、大きめなギャップではバタつく感が多少あります。それからロードノイズも少し大きめです。
ワインディングは比較的中高速のところへ持って行ったのですが、異次元でした。マカンでも驚きましたが驚き具合ならカイエンの方が2枚くらい上でした。車高が下がるSport, Sport+で走ったのですが本当に異次元のコーナリング。このハイブリッド仕様は2.5tもあるのですが、とんでもない速度で曲がれます。ステアリングの応答・フィーリングは素晴らしく、クイック過ぎない点も好感が持てます。流石にロールはしますが極小で、狙ったラインにビタっと乗ります。何より2.5tもあるSUVでワインディングが楽しめるんですから、本当に素晴らしいです。
・・・と、絶対的な性能はとても高く良いのですが、フィーリング面ではマカンとだいぶ違います。マカンはSUVにも関わらずクイックな身のこなしですが、かなりアナログなフィーリングです。以前インプレに書いた通り極論するとランエボとかインプレッサWRXのような感じで、フィールも豊かで限界が近いとか先が読めるから攻め込めるし信頼出来ます。カイエンの場合は本来は無理だろ、という物理的な不利を全て技術で補って物凄い速さを実現しているデジタル感があります。だから相当な速度まで出てるけど怖くてその先には行けない。限界が見えないだけじゃなく、近づいているかどうかすら分からない。まぁこの大きなSUVに対して何言ってるんだ、って話なんですけどね。こんなことを感じる時点で凄いクルマだし、おそらくこの一族(ウルスとか)のクルマ以外にこんなことを感じることはないのでしょうけど、でもスポーツSUVを謳ってるし何よりポルシェなので・・・。それからハイブリッドのパワートレインとブレーキ。いずれもナチュラルとは言い難く、「ハイブリッドとしては良いけどね」「回生ブレーキの協調制御も上手く出来てるね」というexcuseが必要。流石のポルシェでも限界があるんだな、と思いました。買うなら間違いなくガソリン仕様にします。
わーい速いぞー、ロールしないぞー、良く曲がるぞー。本当にこういうセッティングの方向性は論理的に正しいのか?2.5tのクルマとしてあるべき姿なのか? 実際ワインディングでは結構なエアボリュームがあるはずなのにタイヤの内圧が随分上がりましたし(2.6→2.8)、ブレーキはフェードこそしなかったもののかつてのポルシェ各モデルでは感じなかったほど強いブレーキ焼けの匂いがしました。これが物理としての現実なのではないかと。それが頭にあったから、実際はとんでもなく速かったと思いますが自分の中ではマカンのようには攻め込めなかった。どこかで破綻することが怖く、しかもそれがどの辺なのか見当がつかなくて。マカンはその辺のフィーリングが感じ取れたし、だからこそこれはSUVの形をしたスポーツカーなんだな、と思いました。実際カイエンが実現しているのは凄いレベルです。物理を超越しているかのようにとんでもなく速く走れるし、それとサルーンのような乗り心地まで両立していてこれはマカンでも成し得ていないレベル。だからクルマとしての完成度はマカンより高いと評価するのが妥当なのかもしれません。実際素晴らしいクルマで、とても快適なツアラーでスポーティに走れるGTでもある。単に今まで経験したことないクルマに戸惑っているだけかもしれないし、慣れの問題かもしれない。それにそんなレベルまで行かないレベルでは充分以上に走りを楽しめる。でも・・・何かどこか引っかかるものがある。
とは言え、SUVを買うならこれのガソリン仕様が最右翼という気持ちではあるんですが。

Posted at 2024/07/20 08:25:35 | |
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Porsche | 日記