以前に山口敏太郎の本に載っていた「ジェニー・ハニバー」の話をしようと思う。
ジェニー・ハニバーって、いったい何なの?という方はネットで調べてみてはどうだろう。
この謎の生物の死骸、正体のほとんどはエイの死骸が腐敗したものという結論のはずである。
あえて〃ほとんど〃と書いたのは、全てではないと俺は言い切れるからで、その理由は、俺自身がジェニー・ハニバーを写真に撮ったことがあるからだ。
とはいえ、色々な古いUFO事件が「昔だからだろ」という情報のレベルが多いのと同じで、かなり古い話なので、そんなイメージで読んで欲しい。
俺が小学校低学年の時だ。
謎の、今で云うところのダイレクトメールが俺宛でやってきたことがある。
確か、切手や玩具の通販だったと思う。
なんで子供にダイレクトメールとなるとこだが、当時から頭の悪い俺は何故に個人情報が漏れているのか?などとはまるっきり考えが及ばず、自分宛てで送られてきたハガキが嬉しかった。
更に嬉しかったのが「君は選ばれた!このハガキの右はじをアブってみてくれ!一等なら自転車が千円、二等ならスパイカメラが五百円で買えるぞ!」と書いてあった。
早速にアブってみると「二等当たり!!」の文字が!
お婆ちゃんにねだって現金書留でお金を送ると数週間後にガッカリするくらいの小さく壊れやすいプレスのカメラと小指大のフィルムが送られてきた。
それでもフィルムをセットして近所のお店に現像を頼んでみた。
上がってきたものは、像といえるレベルのものではなく、お店のおじちゃんも「ボク、、、フィルムが真っ暗のばかりだったよ、ごめんな」と言われる始末だった。
しょんぼりしている孫を気遣って、お婆ちゃんは自分が使っていたハーフカメラを「使いなさい」と貸してくれた。
俺は喜んで何を撮ろうかあれこれ考えた。
なにせハーフカメラは、通常のフィルムの送りを文字通り半分だけするもので、倍の枚数を撮れるようにしたものだ。
そのぶん、小さなレンズになったりで集光力が落ちたり画像が荒くなったりもするのだが、素人目には通常写真となんら遜色がなく、実に小学生向けともいえるガジェットであった。
実家は大家族であった。 カメラをお婆ちゃんから貸してもらったことを知った叔父さんが、写真撮るのに海にでもドライブにいくか?と提案してくれた。
俺は大きく頷き、たちまち日曜の早朝から行ってみるという話になった。
さて日曜日の早朝とは聞いていたが、「そら、行くぞ!」と起こされた時間は、走行にライト点灯が必要な時間だった。
俺は半分寝たまま、ライトバンの中で夜明けを迎えた時には既にアテもない適当な海岸線を走行していた。
ガキってのは適当に出来ている生き物で「とりあえず到着だぞ」と言われるや、さっきまでのグッタリーノな俺は消滅しており、カメラを持って波打ち際まで駆けていっていた。
海につきましたーとはいえ、叔父さんがつれてきてくれた海岸は季節はずれなただの砂浜で、漁港の様なエキサイティングな情景もなければ、釣り人もいない。
しかも天気は曇天で鉛色の雲と日本海特有の重い藍色の海が急速に少年チビータのはしゃぐ心を鎮火させていった。
地球が多少は丸いかも知れないと想像できる水平線をみながら「こりゃ駄目だ」感満載で途方にくれながら、それでもせっかく写真撮りに海まできたんだからと、海岸を散策しはじめた。
流木やら壊れた洗濯機やらが漂着していたが、撮るには寂し過ぎた。
しばらく下を見ながら歩いていると、波打ち際から5メートル位のところにホッケのひらきの様な死骸が見えた。
しかしホッケよりもかなり大きく、しかもなんだかおかしいと感じた。
作り物ではなかった。
腐敗が今一つ進んでないのは気温のせいだ。
そのなんだか分からない死骸は、海洋生物であろうことだけはサメにも似た形状の頭の皮膚感や羽根とはことなる固い質感で茶色に黒い縞模様の尻尾らしい部分でなんとなくわかる。
しかし、この間接のイメージがないネコの様な足はなんだ?
胸のところにある、ひじから先だけの腕はどういうことだ?
簡単にここまで観察した時に、急に一昨日に読んだ少年マガジンのニュースコーナーで、ヨーロッパで宇宙からきたと思われる生物の死体がうちあげられていたという小さな写真付きの記事を思い出した。
これって、もしかして、、、と思ったら急に怖くなってきた。
俺は、見ちゃいけないものを今、見ているんじゃないか?
そう思ったら、ますます怖くなってきた。
大人に教えるべきなんじゃないか?
とも考えた時にはカメラで、その怪しい死骸をカシャカシャ写していた。
一番注目したのは手だ。 シャッターを切りながら観察してみた。
ひじがない。
いきなり手首みたいな印象で、生後すぐの赤ん坊のような手は指が四本あった。
指には関節意識があり、我々と同じように3自由度のものだ。
ただし!
親指に相当するものが見受けられない。
しかし、可動部位の密度が高い。足の造りのゾンザイさとはえらい違いだ。
足はまるでキリタンポの様で胴体との接合部にも筋肉質が見受けられない。
どうみたって、こんな落書きみたいな足では地上で歩行は出来ない。
俺が砂浜の一ヶ所であまりにシャッターをきっているものだから様子を見に叔父さんもやってきた。
「いったい、さっきから何を撮って、、、うわっ?!なんだこれは?!」
わかんないから写真に撮ってるんだ
「なんなんだろな、、、いや、なんなんだろう」
そんな観察をしていたら、犬の散歩で近所の人が通りがかった。
「あら、何か落ちてらっしゃるの?」
いや、これ何かなあって
「へーぇ、、、えっ?!なにこれ?!何の生き物なの?!」
分かんないです
「なんだろ、なんか怖いわ、これっ!やめなさいっ!!」
犬が近づこうとするのを引っ張ってとめていた。
さんざん写真も撮ったし、どうしようもないので帰ることにした。
帰りの車の中では、ほとんど喋らなかった。
唯一といえば「あれ、なんだろうね」くらいだった。
俺は帰るなりフィルムを近所の店に現像に出した。
上がりは4日後で、その間、撮れているかどうかが気になって仕方がなかった。
仕上がり日に店に取りにいくと、いつものオッサンが
「なあ、ボク。これに写っているもの、あれはなんなんだい?」
といいながら俺にネガと紙やきが入った袋を手渡した。
その写真は、その後の幾度もの引っ越しの際になくなってしまった。
実は、あれがジェニー・ハニバーなる名前で呼ばれているのを知ったのは、今から精々五年ほど前のことである。
エイが腐敗しても手首はない。
だから、俺がみたものは、もしかしたらジェニー・ハニバーではないのかもしれないし、ある意味本物の未確認生命体の死骸だったのかもしれない