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2014年06月20日

我が愚弟、最期の日 “朝”

我が愚弟、最期の日 “朝”
 「コン! ウチに着いたよ!」

私は、急いで車から降り、後席のドアを開けようとしました。

しかし開ける直前に、大きな不安と恐怖が湧き上がって来

ました。

 「コンはもう…、逝ってしまっていないだろうな…」

一瞬、歯を喰いしばった後、祈る気持ちでドアを開けました。

コンは、コンは、まだ “現世” に居ました! その瞳は、シッカリと私を見据え、もう自由に動かせ

なくなった手足を、懸命に動かそうとしていました!

 「コン!無理すんな! 動かんで良いぞ! 俺がちゃんと運ぶから!」

コンの眼が、キラキラと輝いて見えました。しかし、だらしなく開いた口からは、

 「オイラ…、オイラ…、もう、動けそうも、ないよ…」

と言っているようでした。私はコンの頬に、これでもかと自分の頬を擦り付け、言い聞かせました。

 「あと少し、あと少しで、おウチの中だぞ!」

しかしここに来て、コンの呼吸は徐々に弱っていきました。私は兎に角、急ぎました。50kg近くある

コンの身体をフィットから引きずり出すと、ダランと持ちにくくなった身体を何とか担ぎ上げ、家の門

をくぐりました。が、ドアの鍵を開け、居間の鍵を開けるには、どうしても一度、コンを降ろさねばな

らない事に気がつきました。

 「クソ! こんな時に独り身は不便だなっ!」

仕方なく、玄関前の階段の中段辺りの段差に、もたれかかす様にコンを降ろし、ポケットから鍵を

取り出すと、直ぐにドアを開け、リビングの扉をあけました。そしてリビングの窓側に、コンのベッド

を持って来て、庭から直接居間へ入ってコンを寝かせようとしました。流石に鍛えていたとはいえ、

アラフィフのオッサンの身体のアチコチから悲鳴が上がり始めました。しかし、今は、そんな私より

も、もっと苦しい思いをしているコンが居るのです。私は荒い息の中、自分に喝を入れ、急いで階段

の所へと戻りました。そして深呼吸した後、一つ気合を入れ、階段の途中でもたれ掛っているコンの

身体を抱き上げようとしました。


 「コン、もう少しだから、あとちょっ………。 

                    コン?……コン?……コ…ン……」


瞬間、今まで感じた事の無いような悪寒が、吐き気と共に脊髄を駆け上がって来ました!

 「おい……、 コンッ! コンンッ!!」

私の眼が激しく動きました。目、鼻、口、足、そして、尻尾……。 しかし、何処を見ても、ピクリとも

動いていませんでした。抱き抱えようとした私の膝が、ガクガクと震え始めました。

 「ちょっと…まて…、ちょっと待てよ!! あとチョットじゃないかよっ!!」

抱き抱えたまま、私はコンの顔に自分の顔をこれでもかと押し込めました。そして胸に耳を当て、

コンの生命の欠片でも聞えればイイからと耳を澄ませました。しかし、いくら耳を押し当てても、コン

の身体から、生命の鼓動は聞こえて来ませんでした……。


                  ――平成26年 6月15日 6時54分――

           コンは、その波乱に満ちた犬生を終えました。享年11歳…。

         4日後に、満12歳の誕生日が控えていた、快晴の早朝でした……。


 たった一人ぼっちで、あの世に逝ってしまったこの愚弟が、とてもとても不憫に思えました。同時

に、己の腕の中で看取ってやれなかった自分に対し、どうしようもない自責の念が、マグマの如く

湧き上がって来ました。

 「クソッ!くそっ!クソォ――! 普段偉そうにしてるくせに、イザという時に、このザマだ!

                          この役立たずがぁ!!! …………うっうっうっぅぅぅぅぅ」

私は、コンの横に寄り添うように座り込みました。そして、まるで路上でへたり込んでいるオッサンの

後姿の様なコンの背中を、いつまでもさすりました……。



 居間の中央に、コンが眠るベッドを置き、まずは、コンを綺麗拭いてあげる事にしました。しかし、

余り強く拭くと、毛がゴッソリと抜けてしまいました。改めてコンの身体に宿っていた生命が居なく

なった事を実感しました。しかし、まだ温かく、柔らかい身体が、徐々に冷たく、硬くなっていくのを

黙って見ている事は、例え様も無い程の焦燥感との闘いでもあったので、兎に角、何かしていな

いと、心の平静が保てませんでした…。


 その日の午前中から、次々にコンの仲間達が訪れてくれました。そして皆、コンの事を偲び、泣

いてくれました。少しずつコンの亡骸の上に花が置かれてゆき、しかしそれは、あっという間にお

花畑の様になりました。あの、“ワイルド・コンチ”が、お花畑の真ん中で寝ているのです。生前の

彼なら、

 「花なんざ喰えねぇし、似合わねェ! 肉か骨ェ持って来い!」

とでも言ったでしょうが、今は黙々と、この現状を受け入れています。

 「勝手に一人で逝った罰だ! しばらくこのまま晒すからな!」

私はコンに、そう言いました…。


 犬友の弔問が一段落した頃、入院していた母が、一時帰宅して来ました。母は居間に入るなり

ヨロヨロと泣き崩れながら言いました。

 「でも、余り苦しまずに直ぐに逝ったから、コンも良かったんじゃないの?」

恐れていた “その言葉が” 私の胸深く迄、突き刺さった…。


 ココで、“或る事実”を言わねばならない…。


 救急病院内の別室で、担当医に告げられた或る事が有った。それはコンの腹腔内出血について

だった。私が、この若い獣医に対し、

 「この出血は、外的要因ですか? それとも内的要因なんでしょうか?」

と質問した時の返答が、

 「恐らく、出血は脾臓辺りからだと推察されますが、通常この量の出血が、外的要因による

          急性出血だった場合、かなり強い外部からのダメージが無いと起こり得ません…」

 「という事は…?」

 「脾臓を破損させるほどのショックともなると、そのショック自体で死に至る位の衝撃が必要となり

ますので、見た所、コンちゃんの身体にはそう言った痕跡が見られませんし、出血した血液も、新し

い血もありましたが、中に古い血も混じっておりまして…」

 「つまり…?」

 「まあ、ハッキリと断言は出来ませんが、恐らく1週間から半月前辺りから、

                           徐々に出血が始まっていたのではないかと……」

 「……。」

 「犬は…、とても、頑張り屋さんですから…、多分、我慢していたのでしょう……」

私は頭の天辺から爪先に太い杭を、巨大なハンマーで叩き込まれた様な衝撃に襲われた!

 「じゃあ、コン…は、もっと前から、ずっと…我慢して…いたと、いう事で…しょうか」

憐れみを帯びた目で獣医が静かに頷いた。途端、私は真っ暗な谷底に突き落とされた。しかし

頭の中で次々と思い当たる節が浮かんで来た。

 「半月前…。半月前って、あの、コンのブログをアップした頃じゃないか!」

突如、5月31日のブログに思い至った。そのブログの中で、間違いなく私は、彼の異変に気がつ

いていたのじゃないか! 私の身体が、まるで鉛の様に重くなり、その場にしゃがみ込んだ。

 「完全に、俺のせいだ……」

あの嘔吐きは、一度や二度の事では無かった。それこそ、毎日していたじゃないか!

 「お前さんは、あの頃から、ズーッと、苦しんでいたのか…」

隔離ケースを前に、私はコンに語りかけていた。コンはチラリとコチラを見て言った。

 「さあね…? もう、わすれたよ…」

私は怒りに打ち震えた。

 「お前は、全身真っ黒だから、顔色なんか、解る訳ねぇーじゃねーか!!

                       ちゃんと、≪オイラ、苦しい≫って、俺に言えよ!」

また、コンはチラリとコチラを見て言った。

 「もう…いいよ…、終わった事だから…」

 私は覚悟した。“この事実”が、これからもずっと私を苦しめるであろう事。これからの私の

人生と、そして人生を終え墓場に入った後も、

 「彼自身は本当に幸せだったのか? そして彼は、私を許してくれるだろうか?」

との自問自答が続く事を……。


 「コンは、良いコだった…。イイ子だったよ…」

 そう何度も言いながら、泣きじゃくる母を取り敢えず寝かせ、私はまたコンの元へと向かった。

辛うじて花束の隙間から出ている顔を優しく撫でた。もう硬く、冷たくなっていた。

 「ゴメンな…」

そうして、また一撫でしようとした時、突然インターホンが鳴った。既に深夜の時間帯だった。

訝しげに受話器を取ると、一言、

 「俺…」

と言う声が受話器から伝って来た。懐かしい声だった。それは、“或る事情”で、音信不通となって

いた悪友の声だった。ドアを開けると、私とはまた別系統の異形の強面が立っていた。

 「コンチ…、居るか?」

 「ああ、居るよ…。早く、会ってやってくれ…」

 「分かった…」

奴は相変わらずの無愛想で、勝手知ったる居間へと歩いて行った。そして居間に横たわるコンの

亡骸を前にして、不遜とも言える態度で煙草に火を点けました。私は只、ジッと奴の様子を見てい

ました。すると奴は、やおらしゃがみ込み、そっと左手をコンの顔に当てました。

 「………クッ、クッ、クッ、ク」

彼の肩が僅かに揺れ、その振動で煙草の灰が落ちました。私はその驚きの光景を、固唾を飲ん

で見守っていました。

 「ヤツが…、奴が、泣いている…」


 奴は若い頃から、その容貌と性格も手伝って、余り人付き合いの上手い奴ではありませんでした。

誰構わず牙をむき、そして絶対に相手を認めないという依怙地な奴でした。故に、多くの人から忌

み嫌われ、本人も人の道から外れた行動をとるようになり、誰も近寄らない状態となっていました。

私とも、文字通り殺し合いの様な喧嘩をした事もありました。が、それが却って私との距離を縮める

結果ともなりました。私は奴にとって、数少ない“友”と言える存在となりました。そして、もう一人、

奴の“友”となった者がいました。それが “コン” です。

 人間を含む大抵の生き物に嫌われていた奴に、まだウチに来たばかりのコンは、その純真な心

を表すかの様に、真正面から奴の懐に飛び込んでいきました。そして、無防備に奴に全てを曝け

出し、ジャレ続けました。コンは頑なに閉ざしていた奴の心を、あっと言う間に温かく包み込みまし

た。奴は私以外で、初めて友達が出来たのです。そしてそれは、コンにとっても、私と家族以外で、

初めての “友達” となった人物でした…。


 訳有って、しばらく私の周りから消えておりましたが、今、数年ぶりに会うやいなや、絶対に弱み

を見せなかったヤツが、私の前で静かに泣いています。

 私はこみ上げるモノを抑え込もうと、天井を見上げました。


 「お前さんが、こんなに大勢の人達に愛されていたなんて、俺はちっとも知らなかったよ・・・」


     深夜のリビングで、大の男が二人、一匹の犬の為に、静かに泣いていました……。



     “最期の日” おわり



    そして、“最期の刻” へ、つづく・・・


   この日の模様は、愚弟が大好きだった、“ホンダフィット” の

                     フォトギャラリー内の → “ココ” にアップしております・・・。
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Posted at 2014/06/20 19:29:00

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この記事へのコメント

2014年6月20日 21:03
もう
コメントなんてできないくらい
辛かったけど・・・

すこしずつ・・客観的に
泣きながらも見るようにできてきた。
あぁ・・・それは、あたしね。

>「お前は、全身真っ黒だから、顔色なんか、
解る訳ねぇーじゃねーか!!
ちゃんと、≪オイラ、苦しい≫って、俺に言えよ!」

うけるよ(泣笑)

悪友さぁ
めっちゃあったかい人だね。
いろいろあったかもしれないけど
しんげんさんの辛さを知って
かけつけた。
いい悪友だね。
コメントへの返答
2014年6月21日 17:07
相変わらず、セイラ女史は優しいね…(^^)

アリガトさんですm(_)m


この悪友はね、お互い、絶対にアイツの方が

“ワル” だ! と、思っている間柄です(爆)
2014年6月20日 21:21
しんげんさんの反社会的な悪友さんは
本当のしんげんさんの友ですね。
ワンコの死も悲しかったと思いますし、尚且つしんげんさんへの気持ちの表れとも感じとれましたよ。
一緒にいても感じ取れない事って多々有ることです。
その事にしんげんさんが苦しむのも解りますがその事すら気づかない人が大半な処、悔やまれるお気持ちは優しさや愛情しかありません。
愚弟がどのような最期であれ同じように考えてしまうのではないでをしょうか。
コメントへの返答
2014年6月21日 17:11
何度も、ワタクシの様な若輩者に、大人の

サジェスチョンを頂き、恐縮ですm(_)m


愚弟とは、もし貸し借りと言うモノが有る

ならば、完全に私の方が債務超過状態と

なっているので、居なくなった後も、彼に

一生をかけて借金を返済して行かねば

ならないと思っております……。(^^;
2014年6月20日 23:01
こんなときに何の関係もないけど…
私…6月15日の朝6時台に生まれたの…
ドキッとしました…
しんげんさまにも私にも忘れられない日になりましたね

コメントへの返答
2018年9月27日 9:48
ぶっち女史には悪いですが、実はこの
6月15日の朝6時には、私も思い入れが
有りまして、それは私が大好きだった
夭折した某天才棋士が生誕した、正に
その時間なのです!
何か、偶然とは思えない凄いモノを
感じました(^^;

そっか…、ぶっち女史は、村山聖と
誕生日が同じなんですね!(^^)

因みに、コンの誕生日は、6月19日です!
2014年6月22日 19:18
ごめんなさいm(_ _)m読んでいてとても苦しくなりました。
コンちゃんにあったことも無いのに、凄く心惹かれると言いますか、胸が張り裂けそうで。
子供を亡くした時と同じ気持ちになりました。
もうこの世に居ないのだと実感した時更に悲しみと苦しみがありました。
コンちゃん
コメントへの返答
2014年6月25日 14:11
ども、


有難う御座いました・・・m(_)m

プロフィール

「[整備] #フィット 2023年 サマータイヤ交換! https://minkara.carview.co.jp/userid/336753/car/884194/7261619/note.aspx
何シテル?   03/12 18:57
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