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2014年06月19日

我が愚弟、最期の日 “夜”

我が愚弟、最期の日 “夜”
 「…ィ、…兄ィ! どうしたの? 何で、泣いてるの?」

 「アホ! そりゃ俺の傍で、“スカしっ屁” をする奴が

                   居なくなったからだよ!」

 「兄ィ…、それを言うなよ…」

 「言いたくもなるわっ!」

 「じゃあ、オイラも言わしてもらうけど、兄ィが屁をこく時、

            いちいちオイラの鼻先でするのも結構キツかったぜ!」

 「コンチ…、それを言うなよ…」

 「とにかく、オイラまだ、兄ィの傍にいるから、いい加減、涙を拭けよ!!」

 「何を一丁前に言いやがって…」


 ……と、耳がキーンと鳴り響き、私はガバッと起き上がり、真っ暗な部屋の中を見回した。確かに

愚弟は、私の傍に居る。息もせず、冷たい身体となって……。


  “その日”。朝から特に変わった事は無かった。いつもの様に私が食事する正面に座り、涎を垂

らしていたし、いつもの様に退屈になると、「オイラと遊べ!」と、ジャレて来た…。


 異変を感じたのは、夜になってからだった。何となく、落ち着きがなくなっていた。アッチへウロ

ウロ、コッチへウロウロしていた。そしてそれが終わると、私の膝に顎を置いて、ジッと私を見つ

めるのだった。

 「何か変だな…」

と思い、いつもの様に抱き抱えようとした。と、その時、

 「キャン!」

と、コンが叫んだ! 別に何かを踏んだ訳でも無く、痛い事をした訳でも無い。

 「ん? どうした?」

私は慌ててコンを床に降ろし尋ねた。しかしコンは何事も無かったかのように、私の脛をペロペロと

舐め始めた…。


 それから2時間程が経過した時、徐々にコンの息が荒くなり出した。よく見ると足元もおぼつかな

くなっていた。

 「暑くなってきたから、脱水症でも起こしたのかな?」

これまで、こう言った状態の時は、熱射病による脱水症状の時に似ていたからだ。

 「コン、じゃあ、冷たい牛乳でも飲むか?」

その言葉に、コンは目を輝かせて歓び、私の元に走り寄ろうとした。

 その時!

コンは突然床に這いつくばった! 震える手足を懸命に伸ばして立ち上がろうとするが、直ぐに

ストンッ!と這いつくばってしまう!

 事、ここに至って、尋常では無い事に気がついた。

 「コン!どうした!?」

 「ハッ・ハッ・ハッ・ハッ…」

返答は、更に荒くなった呼吸だった。顔を覗き込むと、苦しそうな表情に変わっていた。

私も這いつくばり、正面からコンを見据えた。既に首を動かす事すら出来なくなっていた。しかし、

目は私の方へ向ける事が出来た。

 「なんかよく解らないけど……、オイラ…、なんかおかしいよ…」

そう言っているように聞こえた。

 「ちょっと待ってろよ! 今すぐお医者さんへ連れて行くからな!」

こうした時の私の癖で時計に視線を向けると、午前2時を少し過ぎていた。急いで夜間の救急病院

を探した。1件目の病院は、本確的な手術の設備が無いとの事で、やんわりと断って来た。しかし

素人目にも緊急を要する事は解っていた。すると先方も私の感情を汲み取ってくれた様で、自宅

から近い所にあり、更に最新設備が整った病院を改めて紹介してくれた。そしてすぐにコンの元へ

駆け寄り、既に焦点も合わず虚ろとなっていた目をしたコンに言い聞かせた。

 「コン! 大丈夫だよ! これから病院行くからな! 頑張れよ!」

そう言いながら、既に反応が無くなった頭部を撫でました。すると、もう、手も足も、身体も頭も、そし

て眼も動かせなくなっていたコンが…、コンが…、≪ぴょこん・ペタン、ぴょこん・ペタン≫と、尻尾を

動かしてくれました。私は居た堪れなくなり、何度も何度も頭を撫で続け、何度も何度も尻尾を撫で

続けました……。


 数分後、その病院から緊急治療の受け入れ準備が整ったとの連絡があり、未だ息の荒いコンを

フィットに乗せようと担ぎ上げました。

 「うっ!」

コンの身体は、今まで経験した事の無い、まるで猫の様な身体の“柔らかさ”となっていました。既に

全身の力が抜けており、ダランと首が垂れ下がってしました!

 「コンッ!コンンッ! まだ駄目だ! もう少し我慢しろ!今直ぐに病院に行くから」

すると、コンが話しかけてくれました。

 「うん…、わかった…。 なら、チョット急いでくれよ…。オイラ、オイラ、なんか苦しくなってきた…」

 「分かったから! お前を担いで車に行くから、少しでイイから頑張れよ!」

 「うん、わかった…たのむよ…」

私は、今までで一番重くなったコンの身体を、渾身の力を込めて持ち上げ、ヨロヨロとした足取りな

がらも、なんとかフィットに乗せました。

 「コン! 行くぞ!」

 「う…ん、兄ィ、まか…せ…た…よ…」

私はフィットに乗り込むと、人生で一番深くアクセルを踏み込みました……。



 「誰か、仲の良い犬友はいらっしゃいますか?」

 救急医療室へ担ぎ込まれてから、30分程経ったのち、担当医が私の所に来てそう言って来た…。


 病院に到着するや否や、入り口で待機していた病院のスタッフが、大勢でストレッチャーにコンを

乗せ、慌ただしくER室に運び入れた! そして直ぐにバリカンで手足や腹の毛を刈り出し、ソコに

色々なチューブを埋め込み始めた。口には人間用と同じ様な酸素吸入器が取り付けられている。

 「では、お兄様は待合室で御待ち下さい」

そう言って部屋から出されると、ゆっくり扉が閉じられた…。


 「誰か、仲の良い犬友はいらっしゃいますか?」

最初、その質問の真意が解らず、更に詳しい説明を促すと、腹腔内に大量の血が溜まっていると

の事で、腹を開いて手術をするにも、大量の輸血が必要となるという事だった。更に、

 「現在、当院では、大型犬の輸血用のストックが無いので、

              差支えなければコンちゃんの友達に輸血を頼めないかと思いまして…」

確かに友達は大勢いる。しかし皆、コンと同世代の老犬だった。その ”おじいちゃん、おばあちゃ

ん” から、輸血してもらう訳にはいかない。それに若い友達犬も、その殆どが小型犬ばかりだった。

チワワとラブラドールでは、容量に数倍もの差がある。故に輸血に必要となる血の量も小型犬の

数倍に及ぶのだ!


       ――私は天を仰いだ――


 しかし、背に腹は変えられない。兎に角、手術の執刀を、この若い獣医にお願いした。すると彼

は用意していた用紙を数枚、私の前に提示した。そこには、手術の同意書と、失敗した時の了承、

及び、心臓停止に至った時の、電気式、手動式、による蘇生マッサージの了解の同意等が明記さ

れていた。途端に、私の顔が曇った。“読み齧り”、或いは、“聞き齧り”ではあるが、そのどちらを

するにしても、身体にかなりの負担がかかる事を知っていたからだ。

 「電気ショックによるマッサージって、かなり皮膚を損傷しますよね?」

途端に暗い表情となった医者は言った。

 「確かに、電気ショックを2回程続けると、少し重い火傷を負います」

被せる様に私が言った。

 「手でマッサージすると、アバラ折れますよね?」

更に暗い表情となった医者は、静かに頷いた。私は、拳を握りしめた。老犬になって、火傷してまで、

骨折させてまで苦しい思いはさせたくなかった。コンも嫌がるのは目に見えていた。しかし現状は切

迫していた。兎に角、腹に溜まった血は抜かねばならず、その出血した分の血は、直ぐに補充しな

ければならないのだ! そんな私の心情を慮ってか、医者の方から私に或る提案をして来た。

  “自己血輸血”

それは、最終手段とも言える禁断の方法だった。

 腹腔内に出血した血液を取り出し、それを透析器で濾過し、再び体内へ注入するという方法だ。

ドーピング等に用いられる手法だが、今回は腹腔内に溜まっていた血を使うのであって、原因が

特定されないまま、その血液に原因があるかもしれないのに、再度動脈内へ注入するという事は、

却って死期を早めるのではないかと言う、大きなリスクが有るのだ。

 「それで、おねがいします…」

 「分かりました。では全ての透析が終わるまで、2時間程

                  かかりますので、待合室の方で御待ち下さい…」


 …2時間後、ER室の扉が再び開かれた。

 「お兄さん、中へどうぞ」

私が緊張して中へ入ると、思いの他、深刻な雰囲気は感じられなかった。医者が言った。

 「心配しましたが、どうやら失敗では無かったようです。

            血圧も上がり、ほんの少しですが、意識も戻りつつあります」

そう言って隔離ケースの方を指差した。数個並べてある隔離ケースの中で、一際大きいケースの

中にコンが入れられていた。他に入っている犬のケースと比べると、縦横それぞれ2~3倍の差が

有るから、容積では10倍から15倍位の差が有った。

 私の表情が一段落した頃を見計らって、医者が決断を促してきた。

 「で…、どうされますか?」

私は、厳しい決断に迫られた。 ココでリスクの高い手術をするか、それとも、コンの苦しみを無視し

て、このまま家に連れ帰るか…。

 私は、絶望的な二者択一を突きつけられた。

と、その時、私の耳にコンの声が聞えて来た。ふと、隔離ケースに目をやった。

 「もういいよ…、兄ィ、もう、いいよ…。オイラ、おウチへ、かえりたいよ…」

隔離ケースの向こうで、コンがそう訴えかけているように見えた。私は決断した。

 「解りました。手術は結構です。このコはウチで看取ります…。 だから、

     だから、取り敢えず、ウチまで持ってくれるように、最低限の処置だけはお願いします!」

そう言って、若い医者に頭を下げた。そしてコンの元へと歩いて行った…。


 隔離ケースに私が近づくと、ぐったりしていたコンは、視線を上げ私を見つけると、また尻尾を

≪ぴょこん・ペタン、ぴょこん・ペタン≫と振り始めた。

 「やっぱり、お兄さんの事、解るみたいですね! 私達には全く振りませんでしたから…」

病院のスタッフ達が気を使ってか、乾いた笑い声で、私にそう言いました。 私はしゃがみ込み、

未だ色んなチューブに繋がれたままのコンに囁きかけました。

 「こんな狭いガラス箱の中に、一人ぼっちにさせてゴメンな…。

           じゃあ一緒に帰ろうな! お前さんの大好きな、俺んちへ…」

そう言うと、心なしか、コンが微笑んだように見えました…。


 数分後、応急処置を終え、未だ手足と腹部を包帯で巻かれたまま、フィットの後部座席に乗せ

られた後、スタッフ全員で見送られながら、私達は病院を後にしました。


 そしてそれは、“コン” にとって、“現世” での、最後のドライブとなりました…。


  つづく


   この日の模様は、愚弟が大好きだった、“ホンダフィット” の

                     フォトギャラリー内の → “ココ” にアップしております・・・。
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Posted at 2014/06/19 20:06:52

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この記事へのコメント

2014年6月19日 20:49


大切な家族の死はいたたまれない心臓を握られているような思いです。

愚弟の天命だったと思います。

医学の進歩や自分に対しての罪悪感は別としても

天命だと僕は思います。

言葉が見つからないですが愚兄も愚弟も通る路だと思います。

生意気言ってすみません。
コメントへの返答
2014年6月20日 19:36
お気遣い恐縮ですm(_)m


確かに、天命だと思いたいのですが、

自分の力で何とか出来る範囲の天命

だったので、悔やんでも悔やみきれない

所もあります・・・。
2014年6月19日 22:33
実は、ラブ友のネットワークで、南菜は二度ほど輸血用の献血したことがあります。

コンちゃんの為なら、喜んで献血したのに…(≧∇≦)

でも、かなり緊急を要したようなので、
いずれにしても間に合わなかったですね。

先代ラブのヴォルフィーの死と重なって、
読んでるだけで辛いです。

通勤電車で涙をいっぱい溜めてスマホを見つめる、変なオッさんからでした(T_T)
コメントへの返答
2014年6月20日 19:37
お気遣い無く!


犬にも、血液型が有るので、もうあの状態

では、マッチする血液を探す時間もありま

せんでしたので・・・。
2014年6月20日 1:40
初コメント失礼いたします

わたくしも犬2匹で暮らしているので…

涙せず読むことは出来ませんでした

名一杯可愛がってあげたいと思います
生まれてよかったと思えるように

上手く言えなくてすみません…
コンちゃんのご冥福を心よりお祈りします
コメントへの返答
2014年6月20日 19:38
ども


有難う御座います・・・m(_)m
2014年6月20日 13:03
涙が止まりません…

ご冥福をお祈り申し上げます
コメントへの返答
2014年6月20日 19:39
コンの為に泣いてもらい、

有難う御座います・・・m(_)m

プロフィール

「[整備] #フィット 2023年 サマータイヤ交換! https://minkara.carview.co.jp/userid/336753/car/884194/7261619/note.aspx
何シテル?   03/12 18:57
犬、クルマ、バイク、食べ歩き等で常に忙しい休日を送っている、渋谷生まれの代々木育ち。でも今は川崎(笑) 遊びの資格を、結構持っているので(スキューバ、ボート、ス...
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