プリロードという概念について
何年か前から気になっていました。
物理の法則を考えずにプラシーボから生まれる感想は抜きにして
ガリレオ先生のように物理の法則に則って検証してみます。
先に結論から。
●プリロードをかけると、かけた分だけ伸びのストロークが減る。
これによる乗り心地の変化は
①デコボコがない道なら変化しない
②大きいギャップでは、プリロードをかけていない時よりも跳ねやすくなる
(ダンパーの伸びスピードと車速のバランスによる)
●プリロードをかけることによりバネレートが上がる事実は確認できない。
●全長調整式車高調において、プリロードをかけただけだと車高は上がる。
気になる方はこの長文を読んでみてくださいw
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AE111を例に簡略化して考えます。
車重1000kg
フロント荷重650kgf
リア荷重350kgf
サスペンション形式
フロント マクファーソンストラット
リア マクファーソンストラット
サスペンションレバー比 簡略化の為 1
バネレート
フロント 8 kgf/mm
リア 4 kgf/mm
全長調整式(フルタップ)車高調
使う式はこれだけ。
バネレートの計算
F = kx … (1)
F 力(輪荷重)[kgf]
k バネ定数(バネレート)[kgf/mm]
x ストローク [mm]
自分は運動方程式はニュートンで習ってる世代で、kgfへの変換がいまいちまとまってないので省略。
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左リアについて考える。
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①プリストローク 0mm (プリゼロ)
リア荷重350kgf
コーナーウェイトがドンピシャで出ているとすると、左リア一輪にかかる荷重は
175kgf
ここで、バネレートが4kgf/mmだとすると、1G接地状態における(縮み)ストローク量をL0 [mm]とすると、(1)式より
L0 = F / k = 175 / 4 = 43.75 mm
具体的に例えると
・クルマが設置しています。ジャッキアップするとタイヤが伸びてきます。その長さが43.75mmです。
・つまり、サスペンションの伸び側のストロークは最大で43.75mmとなります。 これ以上高い段差を超えると、クルマは一瞬ジャンプし、着地します。
・(細かく言えば、ダンパーの延びスピードと自動車の車速のバランスによっては簡単に浮くけど、これの算出がやっかいそう…)
次。
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②プリストローク 10mm (プリロード10mm)をかける。
ロワシートをぐるぐる回して10mm上に上げるわけですね。このとき固いのは、(1)式に則って、バネが縮むと反発してくるからスプリングとシートに垂直抗力が働き、それが摩擦を生むから。
この際、
・スプリングのロワシートをぐるぐる回して10mm上がる
・スプリングが10mm縮まる
つまり、車高調の長さは変わらない はずです。
プリストロークを10mmかけた時点で、バネには
F = kx = 4 * 10 = 40 kgf
の予荷重が生じる。予荷重、つまりPre load 、プリロードですね。
プリロードをかけるんじゃなく、予縮み(プリストローク)を与えるからプリロードが発生する。
ここで自分が疑問に思ったのは、ばねの反発力を保持しているのは誰?という疑問。世の中作用反作用の法則がないとクルマがアスファルトにズブズブ沈んて行くか空中に浮き上がってしまうから、ばねの反発力は誰が受け持ってるの?とずーーーーーーーーーーーーーーーーーっと疑問だった。
答えはロワシートを経由して最終的にはダンパーロッドらへんですか?
てっきりプリストロークをかけたらダンパーも動くのかなって思ってたけど、ダンパーのアッパーシートとネジが刻んである部分は相対的には動かないまま、単にシートが回って上に上がり、バネが縮むだけなんでしょう。きっと。
話がちょいそれましたが
さて、ここでクルマを接地させましょう。
するとバネには重力の法則に則って
175kgfの力が働きます。(135じゃないよ。)
徐々にジャッキを下ろしていくと、タイヤが地面に当たります。そのままじわじわ下ろしていくと、しばらくはサスペンションが動かないはず。
なぜならバネがプリロードを与えられて反発して、ダンパーのネジが切ってある部分をぐいぐい押している。その反発力の矛先が、接地するにつれてタイヤを通して地面へと伝わる。ん?これじゃ地面には215kgfかかる事になる?いや、違うか。
とにかく接地させて最初の40kgf分はバネは縮みません。
40を超えたところでやっとバネが縮み始めるので、135kgf分がバネを縮める力になります。
ここで、式(1)より、プリストローク10mmにおける1G接地状態の縮みストロークをL10とすると
L10 = F / k = 135 / 4 = 33.75 mm
よって、サスペンションの伸び側のストロークは最大で33.75mmとなります。 これ以上高い段差を超えると、クルマは一瞬ジャンプし、着地します。
上に凸のギャップではクルマは跳ねやすくなり、乗り心地が悪化する場合があります。
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結言
●プリロードをかけると、かけた分だけ伸びのストロークが減る。
これによる乗り心地の変化は
①デコボコがない道なら変化しない
②大きいギャップでは、プリロードをかけていない時よりも跳ねやすくなる
(ダンパーの伸びスピードと車速のバランスによる)
●プリロードをかけることによりバネレートが上がる事実は確認できない。
「プリロードをかけること「と「乗り心地が良くなる」事には絶対的な相関関係はなく、バネの個体による特性の違いや、ダンパーのオリフィスの特性などの相性が偶然一致した事が乗り心地を向上させた要因と考えられる。
●全長調整式車高調において、プリロードをかけただけだと車高は上がる。
なぜなら、上に書いたようにショックユニットの長さは変わっていないことと、接地させたときの縮みストロークが43.75mm→33.75mmになることにより、車高は10mm上がる。
プリロードをかけても前の車高を保ちたい場合、シェルケース?をプリストロークの分だけ縮めましょう。
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余談
「バネのレートは立ち上がりが一定ではなく、初期は急に立ち上がるから乗り心地が***」
「プリロードをかけると初期を越えるのでレートが***」
という意見について、
このブログの計算法が正しいなら、接地させた時に数十mmストロークしているので、「初期***」をゆうに超えてリニアなレート領域に達していませんか?
その「初期***」が発揮されるのは、例えばRWD車がコーナーでターンインする際にイン側のリアが大きく伸びて、加速に移る際に接地した時なんかじゃないんでしょうか?
別にハイパ●を否定しているわけではありません。
ハイパコにはレートが一定意外にもたくさんのメリットがあるそうですし、自分もお金があれば是非入れたいと思っていますから。
全長調整式はダンパーとプリロード別々に考えられるからまだ簡単だけど
ネジ式車高調はもっと難しそう…
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2013.9
コメントを受けて追加
自分なりの考えです。間違いがあればご指摘をお願いします。
ご質問:プリロードをかけたショックユニットをつけたクルマを地面に設置させていくと、接地した瞬間から縮むのではないか?
現時点での自分なりの考え:設置した瞬間は縮まない。プリロードでかかっている荷重分を超えて初めて縮む。
2013.10
さらなるコメントでの議論を経ての結論
ご質問:プリロードをかけたショックユニットをつけたクルマを地面に設置させていくと、接地した瞬間から縮むのではないか?
地面に下ろす時に、「クルマの高さを下げていく」という観点からすると、接地した瞬間から縮み始める。
地面に下ろす時に「クルマを支えていた力を抜いていく」という観点からすると、接地してすぐには縮まず、プリロードでかかっている荷重分を超えて初めて縮む。
自分は「クルマの高さを下げていく」という視点にしばらく気付かなかった為、かたくなに「接地してもすぐには沈みません!」と言い張っていました(^^;)
いやぁ、もっと視野を広げないといけませんね。
このブログ・結論に関しまして、間違っている点・問題点があればコメントにてご指摘お願いします。
皆さんで色々議論しましょう~