
今年はオイルネタは少ないハズって言ってたのに…
MoDTC(モリブデンヂチオカーバメート)が作る二硫化モリブデン被膜が何故ターボ車には向かないか?
どういうエンジンになら向いているのか?
実際の経験を裏付けしてみます。
このオイルはMoDTCが一番効果あったやつですが、サーキット1周走るとモリブデン被膜が取れてしまって保護して欲しい肝心な時にMoS2被膜が全然居ないという問題です。
まずはMoDTCとは何ぞや?
日本語だと有機モリブデンと言ったりします。
モリブデンとジチオカーバメート基の分子でジチオカーバメート基は窒素、炭素、2つ硫黄から構成されてます。
この周りにアルキル基が付いているので油への親和性が高い。
Rはアルキル基(オイル)

有機モリブデンが二硫化モリブデン(灰色のあれ)より優れている理由はこれでしょうか。
アルキル基が居るのでオイルとして振る舞う。
二硫化モリブデンは単体でモリブデンなので成膜効果はない。
隙間に入って潰れる際に滑る効果しかない。
悪く言えば最初からオイル内にゴミが舞ってる。
このMoDTCはエンジン内に入ると熱とか力(シリンダーなら側圧)によって分解されます。
MoとNとCとSはバラバラになる。
MoとSは二硫化モリブデン(MoS2)になって金属表面で被膜になる。
この時ZnDTP(亜鉛ジチオホスフェート)が先に被膜を作っているとMoS2被膜を生成する土台になりやすくより強固な被膜が出来る。
それぞれのせん断強度(引き剝がされる強度)はこんな感じ。
これは常温での話なので高温時は別。
燃焼室近傍の側壁なら200℃は超えるでしょう。
MoS2 単結晶層 約 20~MPa
ZnDTP 摩擦被膜 約 100~MPa
鉄(鋼)表面 約 500 MPa 以上
ZnDTP被膜の方が圧倒的に強いのですね。
ZnDTP必須だけどMoS2は無くてもいい理由はここ。
ただし、MoS2被膜の方が摩擦係数は低いです。
耐久性は弱いけど使いたい理由はこれ。
剥がれる(境界潤滑)で効果を発揮するのがMoS2なのである程度剥がれる必要もあるのでこの位が設計強度なのでしょう。
MoS2のせん断強度とピストン側圧がバランスするような領域にいればMoS2は剥がれつつ再生されるのでMoDTC滑らか!となります。
ピストン側圧がMoS2せん断強度を上回り続けると被膜が出来ずに効果が出ない。
何故ピストン側圧に限定して話をするのか?
それはピストン側圧がエンジンによって全く異なるから。
ピストン側圧を計算してみます。
重要なのは連桿比と最大筒内圧力です。
連桿比はコンロッド中心間距離をストロークの半分で割った数値。
1枚目の画像は東海大の資料から引用したものですが、クランク軸が回転運動と上下運動をする際に上死点を0度とすると90度付近と270度付近ではピストンが横に押される力(側圧)が最大になります。
これは爆発が無い空回しの状態で、実際には圧縮上死点からちょと下の辺りで最大側圧になるようです。(ATDC15度くらい)
90度まで来ると爆発の圧力は下がってますからね。
押す力(最大筒内圧力)と連桿比から最大側圧は算出出来ます。
この辺はAIに計算してもらいますが、代表エンジンの連桿比と最大筒内圧力と側圧はこんな感じでした。
絶対値は参考程度ですが、相対値で見ても全然違うのが判ると思います。
G16E-GTSの方がK20Cより最大筒内圧力が高いのは圧縮比(10.5と9.8)とブースト圧の差でしょう。
1.6Lターボで304psですからやはり負荷が高い。
連桿比が有利なショートストロークエンジンだと側圧はかなり下がります。
SR16VEは最大筒内圧力はB16Bより高いけど連桿比が4を超えるので側圧は差が無い。
いずれにせよハイチューンNAエンジンでもターボ車との差は歴然。
そして友情出演のD4204Tの側圧も非常に高い。
自己着火ディーゼル故まだまだ圧縮比も高いですからね。
中々興味深い結果ですね。
(良く聞くBMEPは正味平均有効圧力なので2回転に1回爆発するサイクルの平均値)
MoS2被膜のせん断強度は常温で20MPa~なのでこれが100℃、200℃となると強度は半分より下がります。
高負荷域では10MPaは下回るでしょう。
加えて低温で生成されるMoS2は強度も落ちます。
60℃から効果のあるMoDTCが話題になりますが、従来のMoDTCに比べて高温時の効果は当然下がりますよね?
結晶体の構造がそもそも強くならないと思う。
HKSもこんなコメントを出してます。
ターボエンジンを50年開発してきたHKSの経験から、ハイパフォーマンスターボ車への回答として低モリブデン処方としています。
過酷な条件で使用されることを想定し、ターボスラッジの原因となるモリブデン系FM剤を配合しておりません。
以上、推定計算ではありますが、ターボ車にMoDTCは肝心な時に効果が無いの裏付けにはなったでしょうか?
サーキット1周目は効果あり、油温が上がってくると全部剥がれる。
再成膜されるのは翌日で肝心な時に被膜が保護してくれない。
そんなMoDTCですが、街乗りNAエンジンなら効果を発揮できるかもしれません。
その場合も油温は100℃以上に上げた方がいいので定期的にブン回して被膜を作って楽しむ。
LOVCAのプレミアムレーシング0W-25はMoS2被膜はガッツリ出来ましたのでこれをNAエンジンに入れたらどうなるか気になりますね。
サーキットの翌日がメチャクチャいいのですよ…
ただ、剥がれたMoS2は三酸化モリブデン(MoO3)になります。硬いです。
MoS2から分離したSは硫酸(H2SO4)になります。
酸化安定性は悪いのでロングドレインには不向きです。
ZnDTPのように必須添加剤なら諦めもつきますが、モリブデンは無くても害はありません。
必須添加剤と言われているモリブデンアミンという酸化防止剤ありますが、これもベースオイルの酸化耐性が強い場合不要かも?なんて説もあります。
シェルやモービルの成分分析で微量(70ppm)検出されるモリブデンは大抵これです。
モリブデンアミンもMoDTCと同様でアルキル基を付けて油溶性になっています。
これが分解して三酸化モリブデンになるのはMoDTCと一緒。
加えてアルキル基の分子量が大きいのでディーゼルでは煤の元になる。
結局鉱物油が諸悪の根源なんですよね。
鉱物油が酸化しやすいから酸化防止剤が沢山必要。
酸化防止剤もオイルを汚し、鉱物油もオイルを汚す。
鉱物油は粘度指数が低いのでポリマーの効果が出にくいから沢山入れる。
モリブデンにせよポリマーにせよ残った固体はスラッジになってエンジンを摩耗させる。
(ポリマーのスラッジはまだ柔らかい)
摩耗させないためにまたモリブデン。血で血を洗う負の連鎖。