
マツダがSKYACTIV GEN2(Generation 2:第2世代)と呼称している、HCCI(予混合圧縮着火)方式のガソリンエンジンを市場投入することがいよいよ秒読みに入ってきました。
全世界の自動車メーカーが研究開発をしつつも、なかなか実用レベル(市販)に漕ぎ着けなかったHCCI方式を、マツダがどのメーカーにも先駆けて市場投入するというのはなんとも感慨深いものがあります。
それはかつて世界中の自動車メーカーがサジを投げたロータリーエンジンを、マツダだけが唯一市販出来た事に相通ずるものがあるのですが、逆にロータリーに紐付けてしまうと、その歴史にも紐付いてしまって不安になるマツダファンも居るかもしれません(苦笑)。HCCIはあくまで内燃機関(ピストン・エンジン)に於ける燃焼方式のイチ形態であって、ロータリーと同じ運命を辿る心配は無いんですけどね(^_^;)。
さて、ここで改めてマツダがなぜHCCIの実用化を目指したか?ですが、

人見氏が示したお得意wのこのチャートの通りで、エンジンの効率改善はつまるところ
4つの損失(排気、冷却、ポンプ、機械抵抗)を低減していくことであり、それを
制御する因子は7つ(圧縮比、比熱比、燃焼期間、燃焼時期、壁面熱伝達、吸排気工程圧力差、機械抵抗)であるって話。HCCIは図中に示されている通り比熱比を改善するための打ち手ですが、「リーンHCCI」と記載されていますよね?
要するに希薄(リーン)燃焼で比熱比を改善させたいんですが、ガソリンエンジンの場合、理想空燃比より混合気を薄くしてしまうと燃え(火が点き)難くなってしまって、従来の点火プラグ方式では上手くいきません。だからHCCIで燃やそうというワケです。
ここで希薄燃焼という話が出てきますが、少しエンジンに興味がある人なら数年前に希薄燃焼のガソリンエンジン(三菱のGDIとか)が流行ったのは記憶されているでしょう。しかし今は廃れてしまいました。マツダがHCCIという超高難易度技術をモノにしてまで実現したいのが超希薄燃焼であるとするならば、かつて流行った希薄燃焼と何がどう違うのか?とか、一旦廃れてしまった理由はなんなのか?辺りは知っておいた方が良いですよね(苦笑)。
希薄燃焼についてはWikipediaなどを読んでくれれば或る程度の情報は入手可能ですが、廃れた理由を一言で言えば排ガス規制の問題でした。理想空燃比(空気とガソリンの混合割合の理想比率)をガソリンが薄い(リーン)状態にすると燃えにくくなり、NOxや煤などが生じて排ガス規制のクリアが難しくなったそうです。因みにこの頃の空燃比は理想空燃比の14.7:1に対して16~17:1から20:1程度だったようです。
これに対して今、マツダがHCCIで実現しようとしているのは理想空燃比の倍以上となる30:1という話なんですが、ここまで薄くした混合気に
上手く着火さえ出来れば、NOxはほとんど発生しないそうです。つまりかつての希薄燃焼が中途半端wだったが故に抱え込んだ排ガスの問題はクリア出来ると。
※参考:
近未来エンジンの進化の方向性:2016年07月06日
排ガスが問題にならずに効率が改善できるなら万々歳なワケですが、この超希薄な混合気にどうやって上手く火を点けるか?というのが最大の問題で、マツダはHCCIに行ったワケですが、他の国産メーカーではレーザーを使うとか、多点着火を行うとか、色々な研究を行っているそうです。
という感じで現在、自動車メーカー各社はどうやら一度は廃れた希薄燃焼に再び軸足を移して研究開発を進めている
らしいというのが見え隠れしているワケですが、実は思わぬところwで同じような動きがあったことをボクは最近知りました(^_^;)。
F1のハイブリッド・パワーユニットのICE(内燃機関)

今のF1のエンジンは熱エネルギーを電気に変える仕組み(MGU-Hと呼称)と、車体の運動エネルギーを電気に変える仕組み(MGU-Kと呼称)が組み合わさる一方、使用可能な燃料の量に厳しい規制が掛っていて、如何に効率良く電気エネルギーに転換して使用するか?というのが競争力のポイントのひとつとしてあります。
つまりMGU-Hの効率という話で、昨年までホンダが苦戦した理由もソコにあったワケですが、昨年辺りからフェラーリやルノーのエンジンがメルセデスに追い付くために採った打ち手がICEの改良であり、今年からホンダもそこに手を入れて、なかなか上手く行かずに苦戦しているのもこの「燃焼コンセプトの変更」であり、それはどうやら希薄燃焼らしいのです。
F1関連のニュースを読んでいると度々「セミHCCI」なる言葉に出くわすのですが、今のF1エンジンが採用している技術の基となっているのは、どうやら
MAHLEというエンジニアリング会社(?)のJet Ignitionというモノらしいです。
因みにMAHLE社のHPに紹介されているJet Ignitionは燃料噴射装置が2つあってF1のレギュレーション上、この仕組みはそのまま使う事が出来ないのですが、MAHLE社のHPには
MAHLE Jet Ignition® facilitates
the implementation of ultra lean-burn operation in gasoline engines,
MAHLE Jet Ignition@はガソリンエンジンの超希薄燃焼の実現を容易にする
と謳っている事から、これはHCCI方式に並び立つ技術、
超薄い混合気に上手に火を点けて燃やす手段のひとつと見ることが出来ます。
因みにホンダもこの技術に類似する燃焼方式を2017年度のエンジンに導入し、単気筒のベンチテストでは上手くいったものの、V6エンジンに組み込んでみたら上手く行かずに苦労しているらしいですね。レース用エンジンですからただ単に動きゃイイってワケにはいかずw、競争相手に対して負けず劣らずの出力と効率が得られなければお話になりませんから(^_^;)。
ただ一連の情報を眺めていて、MAHLE社のJet Ignition®が元々レース用エンジン専用の技術というワケではなかった点や、フェラーリがMAHLE社の協力を得て短期間で競争力のあるエンジン開発に成功した事実、一方で恐らく独自開発をしたホンダが性能を引き出すのに苦労している現実などを考えると、色々と妄想が膨らんで楽しいですね(笑)。
マツダは独自でHCCIを実用化して2019年3月末までに市場投入をするのは確定事項です。
この超希薄燃焼を行うガソリンエンジンの性能が期待通りのものであれば、各社は同じような超希薄燃焼方式で追随を図りたいところでしょうが、これまでがそうであったようにHCCIの実用化は容易ではありません。
しかしMAHLE社が持つJet Ignition®の技術を買ってきてw、自社エンジンに組み込めば他の自動車メーカーも超希薄燃焼のエンジンを比較的容易に準備することが出来るという話、、、かもしれません(笑)。ただそうするとMAHLE社にエンジン技術の一部を握られる(依存する)ことになるワケで、それが是か非かというのは各メーカーの思案のしどころです。しかしホンダのF1エンジンのように自前でなんとかしようとしたところで、そう簡単にモノにはならないとすれば、じゃぁHCCI方式とJet Ignition方式、どっちがより簡単なのか?なーんて話にもなって、、、(苦笑)
最近、こういった濃ゆーいマニアックな話がなかなか少なかったのですが、ちょっと面白そうなので注意深くネット上で情報漁りをしてたりします。。。(^_^;)
ブログ一覧 |
自動車市場 | クルマ
Posted at
2017/05/07 23:32:28