
お友達の実に
興味深いブログwを受けて、ちょっと思うことをツラツラ書いてみます。
日本では、日本以外で生産され輸入販売されるクルマを「外車」と呼称し、これらのシェアは長く自動車販売全体の5~6%前後で推移してきました。実はコレって世界的に見ても非常に特殊な市場環境で、歴代の米国大統領が「市場が閉鎖的」とか難クセを付けて来たのは、実はそんなに変な話ではありませんでした。
(理由が相応にあるので、難クセではなかったとは言い切れませんが(苦笑))。
外国メーカーのクルマがどれでも一絡げに「外車」という呼称で括られている事実が示していますが、何で日本で外国のクルマが5~6%しか売れないのか?乱暴に言ってしまえば「価格が高いから」だとボクは考えています。
じゃぁなんで高いのか?これには歴史的な背景があると考えていて、以下がボクの理解(含む憶測)です。
先ず大昔w、日本が高度成長期を迎える以前、自動車産業が黎明期にあって外国の車に対して商品力が低かった時代があります。この頃は国(通産省かな?)が国内産業の保護と育成の名目で、輸入車に高い関税を掛けていました。当然のことながら関税分だけ車両価格は高くなりますが、こうしないと国産車は輸入車に勝てなかったので仕方がありません。ただ政府のこういった政策は、世界中の発展途上国では至極一般的に行われている事です。
その後、日本の自動車メーカーの努力によって商品力が上がり、米国を中心とした輸出によって外貨を稼ぐ日本の基幹産業に成長していくのですが、自動車の輸出によって貿易収支が大黒字になると、対日貿易赤字が大きくなった相手国は当然、面白くありません(苦笑)。
なんで自国で日本車が大量に売れるのに、日本で自国の車がサッパリ売れないのか?そら関税分だけ価格が高かったら勝負になりません。というワケで日本の自動車メーカーの躍進に呼応して、輸入自動車に対する関税は1978年に撤廃されます。
普通は関税が撤廃されれば輸入車の販売価格は、無くなった関税分だけ安く
できます。しかしどうも当時の輸入車ディーラーは、価格を
安くしなかったようです。
※この辺りはちゃんとデータを掻き集めたワケではないのですが、以降は多分に憶測を含む点はご容赦下さいm(_"_)m
当時のディーラーがなぜ販売価格を下げなかったのか?
これは
恐らく「既存客の保護」を考えたためと推察されます。
「外車」と一括りにされるように、当時の輸入車は高価であるが故に
希少で、それを購入してくれたのは
富裕層です。当然販売台数は国産車ディーラーに比べるべくもなく少なかった筈で、それ故に
大切な顧客であったことは言うまでもありません。
もし関税撤廃を受けて商品の価格を下げた場合、より多くの新規顧客に車を買って貰える一方で、割高wなクルマを敢えて買ってくれていた既存客の車の
資産価値を下げることになります。平たく言えば
下取り価格が下がる上に
希少価値も無くなるワケで、これでは既存客が面白い筈はありません。
事は関税の撤廃がトリガーなので、こういった既存客の不利益をディーラーで緩和(吸収)する方法は様々考えられます。「関税撤廃前に購入されたクルマの下取りは特別高くする」とか「該当する顧客の買い替え時には特別値引きをする」とか。手は何らかあった筈ですが、なぜか当時の輸入車ディーラーはその手を採らず、大切な既存客の資産価値を守るという名目で、関税撤廃後も販売価格はほとんど据え置いたのではないかと推察しています。(
参考)
もしそうだとしたら、一体何が起こるか?
買う側は何も変わりません。よって関税撤廃後も販売台数は前年比で大きく増えることも減ることも無かったでしょう。
じゃぁ売る側は?もし前年対比で販売台数が変わらなかったとして、しかし関税はもう無いワケだから、関税分がそのまま利益となって販社に転がり込んだ筈です。つまり昨年と同じような仕事をしていたにも関わらず、利益だけが倍増!なんてことが起こったワケ。
もし貴方が販社の経営者だったらどう思いますか?(^_^;)
今までと変わらぬビジネススタイルで、しかし昨年以前では考えられないような多額の利益が転がり込んで、しかもこの状態を維持出来れば毎年同じような利益を上げ続けられるとするならば、、、
「販売台数なんて増やさなくて良い。毎年この台数を、この価格で売れ!」
ってなりますよね?至極当たり前に。
恐らくこういった歴史的な経緯があって、日本の輸入車ディーラーは関税が撤廃される前の販売価格を可能な限り維持して販売台数も維持(増やさなくても良い)というビジネスモデルになって、その流れで現在に至っているというのがボクの理解です。
だから外車のシェアはずっと低いまま変わらなかったw
さてこの推察が正しいと仮定(笑)して、実はここ数年(十数年かも?)の日本の外車市場には変化が起こっていると認識しています。それが成り行きなのか、意図的なモノなのか、、、ちょっと興味が湧きました?(^_^;)
トラックバック先のブログでお友達が紹介している通り、ここ数年の外車販売では大幅な値引きや、ディーラーが自前で登録して新古車として売る実質的な値引き販売が密かにw行われているようです。ボクがこれを最初に知ったのがAudiの事例で、最近ではBMWのディーラーで問題になったとニュースが流れましたが、恐らく
高級ブランドと言われるところでは、程度の差こそあれ
横行していると推察されます。
正規の車両販売価格が異常に高い経緯は前述の通りと仮定して、しかし手段が大幅値引きであれ新古車販売であれ、実態として車両本体価格より大幅に低い価格で販売されたクルマの下取り価格(資産価値)は、当然販売価格に応じて下がります。
こうした結果によって起こることは、かつてのマツダが陥った「マツダ地獄」のように、相応で下取りしてくれるそのディーラーでクルマを買い替えることしか出来なくなるか、或いはあまりに低い下取り価格に失望した顧客が離反するか。
こう書くと「彼らは自分で自分の首を絞めている」と思われるかもしれませんが、実はそう単純な話でもありません(^_^;)。
例えばAudi、BMW、メルセデスの独社御三家について考えてみましょう。
先ずBMWとメルセデスは日本市場に於いて、既に高級ブランドという名声を獲得しています。Audiは両社に比べれば少し遅れを取っていて、しかし現時点では2社に続く独の高級ブランドという認知が得たでしょう。
この3社のディーラーが大幅な値引き販売に走っても必ずしもかつてのマツダwのように困った事態に陥るとは限らない理由はなんなのか?
それは彼らの元々の車両価格が、まるで関税が乗っかっているような割高な設定になっていて、その
上乗せ分がそのまま値引きの原資になっていると考えられるからです。つまり大幅に販売価格を下げても、日本では無い他国や本国で得られる利益は守れていて、日本市場特有の上乗せ利益分を削っているだけだから困らないのです(^_^;)。
だったら素直に車両価格を下げれば、、、とボクなどは考えてしまいますが、そうすると全体のどの位の割合かは判らない正価販売から得られる利益が無くなってしまう(苦笑)ので、積極的に止める動機は多分無いのでしょうね。
ただここ数年、これらのディーラーがこういった実質大幅値引きで販売台数を増やしに掛っている理由がある筈で、外車の販売は2012年以降ずっと増加を続けていて、近年はおおよそ10%前後の市場シェアになっています。そして独車のシェアは輸入車の3台に2台とか、最近は仏車もシェアを伸ばしているようです。
日本の自動車市場は完全に成熟期に入っていて、しかも近年は軽自動車のシェアが4割近くを占め、云わば限られたパイの中でシェアの食い合い状態になっています。そんな市場環境の中で、輸入車ディーラーも少ない台数で超高利益を追求するビジネスモデルから、他国と同様の標準的な利益で台数を増やすビジネスモデルに転換せざるを得ない状況に追い込まれているのかもしれませんが、実情がどうなのかは当事者に聞いてみないと判りませんね(^_^;)。
ただ輸入車が価格を下げてシェア(販売台数)を取りに来たとすると、従来競合しなかった国内メーカーにも少なからず影響が出てきます。勿論影響はシェアの小さいメーカーの高額車種や高級グレードが真っ先に受けると想定されます。4割のシェアがあるトヨタへの影響は限定的でしょうが、、、
改めて外車メーカー、特に欧州プレミアムブランドの狙いがどこいら辺にあるのか色々想像してみると、そこはやはり
「顧客の囲い込み」と考えるのが自然です。
例えばメルセデス。
今の日本市場は最高級ブランドと認知されるメルセデスが外車市場シェアでTOPという異常事態(苦笑)ですが、彼らがAクラス、Bクラスを投入する以前、DセグメントのCクラスがラインナップのボトムだった時代に、既存客の高齢化と若年層の新規顧客獲得に苦労していた背景があります。そら高級ブランドですから若者が簡単に手を出せないワケですが、彼らは既存の商品の価格を下げるのではなく、Cセグメント以下にラインナップを拡張することで価格カバレッジの下限を下げて、若年層の顧客獲得と、それによる既存客の若返りを図りました。
これがまんまと成功してAクラス、Bクラスが相応に売れて若年層の顧客獲得がなったワケですが、その次にやるべきことは
囲い込みです。
自動車に限りませんが、全くの新規の顧客を獲得するより、既存客に買い替えて貰う方が遥かに効率的なので、彼らを
他のブランドに逃がさないようにすることが肝要です。
こう考えてメルセデスのラインナップを振り返ると、Aクラスだけを見ても、Aハッチバック、Aセダン、CLA、CLAシューティングブレイク、GLA、と実にワイドバリエーションです。顧客の趣味趣向がどう変化しようが「何でもあるぞ!」状態(苦笑)。同じようにB、C、E、Sクラスも同様にありとあらゆる種類を取り揃えてしまえば、もはやラインナップに無い車種を見付ける方が難しい(^_^;)。
もしメルセデスがこのようなビジネス戦略を採っているとするならば、これの成功要因は「如何にして若い顧客にAクラスを買わせるか」です。20代とか、最初に買うクルマがメルセデスで、その後もずっとメルセデスw、免許返上するまでメルセデスww。
これを日本法人が達成するための戦術として、新規顧客向けに大幅な値引きをするというのは実に理に適っています。そして長く日本でシェアTOPだったVWを抜いてTOPに立ったという事は、この戦術が機能して戦略通りに事が進んでいると評価できます。
メルセデスがいつからこの戦略でビジネスを進めて来たのか、はボクの想像では恐らく先代Aクラスを出す少し前あたりから数年間を掛けて、ではないかと考えています。ラインナップは短期間で揃えることが出来ませんからね(^_^;)。
メルセデスのこの戦略にBMWとAudiは追随できるか?ラインナップ戦略という意味では追随しているように見えますが、少なくとも日本法人がちゃんと追随できているか?は微妙。
BMWはディーラーで問題がニュースになったように、単にメルセデスのやり方を真似るだけでは不十分です。或る程度のところまではイケるでしょうが。
Audiはブランドイメージの確立に向けて無理をして、大幅値引き販売で顧客は一時的には増やした割には、囲い込みが上手くいっていないように見えます。
因みにルノー、プジョー、シトロエンなどの仏社、ボルボなどは別の戦略を採っているように思いますが、今日は割愛(笑)。
さて最後に日本メーカーへの影響。
ミドルクラス以上のセダン、なんて特定のセグメントには既に影響が顕著ですが、今日書いたように外車メーカーの日本市場戦略が変化しているとすると、日本メーカーもその影響は無視できません。
一番苦しいのはレクサスで、ラインナップの値付けは基本的に競合する独高級ブランドに倣っているので、彼らが大幅な値引きで新規顧客の獲得に動くと辛いです。レクサスはブランド確立の途上にあるので、安直な値引きも、正規価格の低減もやり辛いでしょうから、結果的に後発ブランドでありながら、ライバルより高い値付けで勝負
させられている状況(^_^;)。
他は、例えばマツダ。
先日のブログで書いた通り、今彼らは各車種の価格カバレッジを徐々に上方に広げて、高額グレードがより多く売れることを目指しています。価格上限が上昇するといつかは高級ブランドと競合するワケで、現時点で例えばMAZDA3はメルセデスのAクラス、BMWの1シリーズのボトムグレードとX搭載の最上級グレードが丁度オーバーラップするところまで来ました。
価格の安さは依然として強みで、しかしここで価格でなく中身で勝負して勝てることが当面の課題ですが、競合が正規価格ではなく50万引きとかいうレベルが常態化しているとしたら、前提条件が変わって来ます。100万円違えば大いに勝ち目はあっても、それが50万円、或いは30万円差になったとき、それでも勝てる魅力をアピールできるのか?
まぁ最後は「でもウチの方が
大幅にお安いですょ」と言えたのが
もう言えなくなっちゃったってことなので、本当に商品の魅力をアピって勝負というワケですが、ブランド品相手なので簡単ではないでしょう(^_^;)。いつかは越えなければならないハードルで、時期が少し早まっただけかも(苦笑)。
例えばホンダ。
あまり嬉しくない伝統wで、保守系のセダンが弱いのですが、最近投入されたインサイト(356万)やアコード(465万)。CセグメントとDセグメントのセダンですが、ホンダのセダンにはもはやブランド力が無いので、こう言っちゃなんですが頼りは価格のみ(苦笑)。両車共にハードウェアの出来は悪くなく、買ってしまえばオーナーに大きな不満は無い筈ですが、
最大の問題は買って貰えるか(^_^;)。
この値付けだと大幅値引きをした独ブランドに対して価格競争力は全く無いwので、ブランドの無いホンダ・セダンには万が一にも勝ち目はありません(爆)。
そうするとこの2車種のメインターゲットは新規顧客の獲得というよりむしろ、既存のホンダ・セダンオーナーを他ブランドに逃がさない繋ぎ止め策、と見ることが出来ますが、そういう目で見てもやはり価格は高い(苦笑)。
恐らくメルセデスやBMW、Audiの正価を見ているとこの値付けで十分安いという判断になるのでしょうが、正価-50万、或いは-100万を実勢価格と見ていたら、ちょっと違う値付けになったような気がします(^^;