
実は昨日、この話題でブログを書こうと思って書きそびれてしまったのだが、なんと今日、実にタイムリーな記事を見つけてしまった。「
【トヨタ オーリス 新型発売】年齢層は高くでも若者が好むデザインを」というresponce.jpの記事だ。
内容は読んで頂ければ良いのだが、ポイントとなる部分を以下に転載する。
『同社製品企画本部ZE主査の末沢泰謙さんは、
~中略~
当初狙っていたボリュームゾーンは30から40代で、小・中学生の子供がいて、ハッチバックでも苦にならない層であった。しかし実際は、「お子様がもう大学に行くなど、
いわゆる子離れ層のお客様がメインに買っていただきました」と分析。「その方たちの質感に対するこだわりなどがご希望に達しなかった。また、
デザインも、やはり格好いいほうがいいと。
歳を重ねた人向きのデザインではなく、ダイナミックなデザイン、かつ質感と、高級感があるものを求められていることがわかったのです」と話す。』
よーく読んでみると、この主査は実に妙なことを言っている。願わくばボクが太字や下線を付けたところに注意して、3回くらい読んでから、今日のブログのタイトルを読むと解ると思う。
メーカーが考える「歳を重ねた人」というユーザー像があり、その人たち向けのデザインというものがある。ボクもそろそろ50才に足が掛かる年齢だからこの「歳を重ねた人」にもう直ぐ含まれるのかもしれない。まぁ五十代から上のことなのか六十代以上なのか、その辺はメーカーに聞かねば判らんのだが、メーカーが考える「この人たち」向けのデザインとは、大体にオーソドックス、コンサバティブ、保守的、異口同音にそんな風に評されるものだ。そして、そのようにデザインされたクルマは売れない。なぜか?
また(笑)、自動車の歴史を紐解くと面白いことに上記の事が証明されている。
かつて1980年代後半に「ハイソカーブーム」なるものが起こり、トヨタのクラウン、マークⅡのハードトップが数年に渡り、カローラよりも売れた時期があった。当時のクラウン、マークⅡは4ドアセダンと4ドアハードトップの2タイプを用意していたが、バカ売れしたのはどちらもハードトップ。それを受けて数年後にはセダンタイプが廃止されるくらい、圧倒的にハードトップが売れる一方でセダンが売れなかったのだ。この事実を受けて「日本ではセダンが不人気で、ハードトップしか売れない」などと言う専門家も居たが、事実誤認も甚だしい。当時はバブル期とも重なるのだが、BMWの3シリーズもバカ売れし「六本木のカローラ」と揶揄された。BMWの3シリーズはセダンであり、ハードトップはラインナップにはないのだ。
じゃぁなぜ国産車はハードトップに人気が傾倒したのか?ハイソカーの代名詞とも言えたマークⅡの歴史を振り返ると明らかになるのだが、もともとマークⅡは4ドアセダンと2ドアハードトップの2タイプだった。それが2ドアハードトップの人気が陰り、ある時期のモデルチェンジを期に4ドアハードトップにデザインが改められた。その理由は本題から外れるので今日は割愛するが、4ドアのセダンとハードトップという2タイプのラインナップに切り替えられた最初のモデル(X60)は両タイプの
外観上の差異はあまり大きくは無かった。

ハードトップは当然、サッシュレスドア、センターピラーが目立たないデザインではあったが、その他はご覧の通りであまり変らず、パッと見た目が同じだった。2ドアが若者向け、4ドアがファミリーや年配者向けという従来の棲み分けは踏襲し、4ドアハードトップは若者向けであったにも関わらず。
そういった差別化が中途半端なモデルは販売面でも問題があったのだろう。マークⅡのフルモデルチェンジで4ドアハードトップとしては2代目となるモデル(X70)からセダンとハードトップは
パッと見た目にも違いがハッキリ解るくらいにデザインが差別化された。

差別化のポイントは同じ「4ドアハードトップは若者向け、
4ドアセダンは歳を重ねた人向け」である。そして前述のハイソカーブームと4ドアハードトップの大ブレイクへと至る。この歴史が語る真実は、
メーカーがオヤジ向けにデザインしたクルマは、当のオヤジたちにウケなかった
ということ。オヤジだって若々しいカッコイイデザインのクルマに乗りたいのだ。「ハイ、アナタはもうオヤジだからこっちのデザインをどうぞ」とコンサバティブなクルマを差し出されて、一体どこの誰が喜ぶだろう?「年寄り扱いするな!俺はまだまだ若いんだ!」と怒り出しても然りである。ボクが自分の年齢を理由にディーラーの営業マンにそんな態度を取られたら、二度とその店には足を運ばないだろう。誰だって年齢相応に敬意を払って欲しいとは思っても、年寄り扱いされれば不愉快だし、年より若く見られれば嬉しいものだ。実年齢はそれとして、若々しいデザインのクルマに乗りたいというのは多数の意見であろうし、ハイソカーブームと4ドアハードトップ人気とその背景を見れば、このことは20年以上も前に証明されている。
なぜ、「メーカーが考える歳を重ねた人向けのデザイン」が受けないのか?その答えは実に簡単だ。「メーカーが考える歳を重ねた人」という年寄り(オヤジ)は世の中に存在しないのだ。存在しない人たち向けにクルマをデザインしても、買ってもらえる筈は無い。だって存在しないんだもん。
冒頭に紹介した文章を再掲する。
「デザインも、やはり格好いいほうがいいと。歳を重ねた人向きのデザインではなく、ダイナミックなデザイン、かつ質感と、高級感があるものを
求められていることがわかったのです」
「年配の方がボリューム層なるにしても、格好いいデザインじゃないといけない。」
歳を重ねた人、年配の方も、歳を重ねた人向きのデザインではなく、ダイナミックなデザインが好まれると彼は言っている。
歳を重ねた人、年配の方も、ダイナミックなデザインが好まれる。
彼は歳を重ねた人が、歳を重ねた人向きのデザインを支持しないといっているのだ。つまり「歳を重ねた人向きのデザイン」を支持する歳を重ねた人は、この世の中に存在しない(あるいは少数)ということを言っているに等しい。
国内で4割ものシェアを持ち、ハイソカーブームでベストセラーモデルを作った当のトヨタですらこの様である。歴史に学ぶということが如何に難しいことか?の証左だろう。
トヨタもどうやら「愚者」であったようだが、そのことにすら気付かずにインタビューに答えている彼を、なんとも哀れに思ってしまった(苦笑)。
Posted at 2012/10/05 00:20:33 | |
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