散歩中に通りがかかったトヨタのお店。ふとクラウンに乗ってみたくなったので試乗をお願いした。
冷たいお茶が飲みたかった、というのもちょっとあった。
ニュルで鍛えた6ライトのニュークラウン。さてさて、どんなものか。
用意されたのは2台。
3.5リッターHV。先代で言えばアスリートに相当するモデル。3.5 RS Advance
もう1台は2.5リッターHVでロイヤルに相当するモデル。2.5 G
今回のモデルはアスリートとかロイヤルとかないらしい。やっと浸透してきたブランドイメージをここにきてあっさり捨てたようだ。
近くで初めてじっくり見た。
トヨタのトップモデル、中小企業の社長の御用達、The 冠婚葬祭なフォーマルカー。そういった雰囲気はもはや皆無。抑揚のあるフォルム、アグリーな顔、後席のフォーマル感を感じさせないクーペっぽい6ライトなグラスエリア・・・。
もう冠婚葬祭、中小企業の社長はベンツやレクサスなのかもしれない。だがそれでもクラウンには存在価値があったと思う。ちょっと前のクラウンに乗ってるご年配の方をまだよく見かける。そういう人たちには必要なんだと思う。「いつかはクラウン」は健在だ。
しかしその価値を、自ら捨て去ったような感じ。クラウンの自己否定。クラウンじゃないクラウンは、誰が必要なんだろうか。
3.5アドバンスから試乗。
乗り込むとカーボンインパネで、暗くて華がない。スポーティモデルという位置づけなのだから、そういうことなんだろう。それにしても、つまみやボタン類に、もっと高精度感、高品質感があってもいいと思うんだが。トップモデルという雰囲気はない。
この画像見て、クラウンって思う?
ボディはしっかりしてる。特にフロントのサスタワー付近や、リア回りががっしりしている印象。
だから、足回りの動きもいい。上下の揺さぶられ感が少なく、ギャップやうねりの後の収まりがよい。
ボディや足が固いのではなく、ボディの振動がよくダンピングされている感じ。この乗り味は構造用接着剤によるところが大きいと思う。
ステアリングの切り始めのゲインの立ち上がりと、クルマのヨウの立ち上がりに遅れや曖昧さがなく、運転している感覚はいい。なるほど、ニュルで鍛え上げたセッティング。
これはクラウンの名前を語っているが、6ライトで4ドアのスポーツカー。いや、GTカーだ。
気になったのが、タイヤノイズというか、タイヤのざらざらした接地フィーリング。表面が固い感じ。もっと騒音と、ステアリングに伝わる振動を減らせたらいいのに。
ただし、このボディサイズで、このパワーで(何馬力か知らないけど)、タイヤ幅225という細いくてナローショルダーのタイヤをチョイスしたことは、見識のあって立派だと思う。フーガやレジェンドなんて245もあるんだから。
●マイナスポイント列記
よく音振は追いこまれているのに、妙にハイブリッドのモーター音が侵入してくる。プリウスのように燃費走行しろという強迫的なインパネでもないが、ハイブリッドであることを忘れさせてはくれない感じ。
ウインカーの作動音が、昔ながらのソレノイドの「クッカっ、クッカっ」って音で、妙にここだけアナログ感が漂う。オンラインでオペレーターに繋がってるような、先進的なクルマなのに。ウインカーの音にも演出が欲しい。
ステアリングが高級感が全然なくて、下のクラスとあまり変わらないデザインと素材感。気分が萎える。
乗ればわかるけど、速度計の数字が文字盤ではなく表の透明アクリル側に印刷してあり、その影が文字盤側に映り込んでしまう。つまり文字が2重に見える。これが大変目障りで視認性に欠く。
メーターなんか見ないで、HUディスプレイを見てくれ、ということなのか。
そもそも、このクラスの車でメーターが全面液晶でないことに、かなり驚いた。まだ針があるのかと。昭和かと思った。
総じて、インパネは最新最先端な雰囲気がなく、がっかり感が非常に強い。
音色に一貫性がない、いろんなアラーム音がする。
それぞれのブザーから、それぞれの下請けメーカーのアラーム音がする。音色、音階のトータルコーディネートをして欲しい。例えば、同じブザーを使って、「プ!」「ピッピッピ!」とか、音色を揃えて鳴らし方は変えるとかして欲しい。
トランクを開けて貰ったが、電動ではなく室内からオープナーを使っての手動だった。リモコンキーでのオープンも、足でのオープンもなかった。半ロックからは電動クローザーが効く、という意味の分からない仕様だったが、このクラスだったらフル電動で開閉して欲しい。
シートが、座面のサイドがサポート性を良くするために固い。乗り降りでサイドシルをまたぐときに、固いサイドのエッジが腿に当たって痛い。
続いて2.5Gの試乗。
走り出して軽くステアした瞬間、鼻先が軽いことを実感する。エンジンが軽い。
乗り心地は車体が重いほうが良いとされているが、この車重の軽さと前後バランスは、ハンドリングと乗り心地に良い方向に効いている。
車が軽快なのに軽薄ではない。むしろ2.5と乗り比べたことで、3.5のほうがフロントが重いデメリットを実感してしまうことになった。
足回りのセッティングでノーズの入りを作り上げた3.5と異なり、2.5は重量バランスの良さでノーズが入る。
あとで調べてみると170kgも違うようだ。これは効くよ。まず2台の違いで大きいのは、まずこれ。
乗り心地は、3.5アドバンスは少々固めだった。おっさん向けロイヤル仕様な2.5Gは、少々ソフトなセッティング。ギャップを超えた後のバネの伸びは明確にあって、縮んだバネがフワっと車体を押し上げる。3.5アドバンスではこのようなバウンシングはない。しかし、このほうがクラウンらしい乗り心地だ。
また、タイヤの接地感も良い意味で軽快で、タイヤのエアスプリングが効いている感触。
タイヤを見ると215/50-18。このボディサイズで215/50というのが効いている。タイヤが路面をトレースし、トレッドがちゃんと路面を掴んでいる感じ。
3.5と比べてもタイヤのざらついた硬質なノイズが少なく、音振の点でもこのタイヤは好ましかった。
ただし、エンジンの音、駆動系の音は、3.5よりも伝わってきて、総合的には3.5よりも一段うるさい。
エンジンのレスポンスは十分。パンチの効いたパワフルさはないが、十分なトルクと加速感がある。不満は出ないだろう。
3.5も2.5もハイブリッドではあるが、そこを特徴とするようなエンジンフィールではない。実際の燃費がいいのか、そもそも燃費を気にしてこの車を選ぶのかも、正直よくわからない。
総じて、3.5よりもタッチがよく、2.5Gのほうが何もかも軽やかで好ましい仕上がり。お勧めはこっち。
安全装備だが、オプションで加わるものが多く、標準では何が搭載されているのかわかりにくい。
アラウンドモニターがオプションだと言われたときには、ちょっと驚いた。前車に追従するオートクルーズよりも、レーンキープよりも、日常的に役に立つブレーキアシストとアラウンドモニターなどの安全確認装備は、これくらいの車には標準装備にして欲しいところ。ご年配の方もいいだろう。
それでは感想。
ドイツ車もどきのクラウンよりは、いつかはベンツが正解かな。
もしくは、国産で近いサイズで、上質な乗り味で言えばレガシィやアコード。
国産FRセダンでないと、という人にはフーガ。
清水さんの試乗記