「2019年台風15号、房総半島の災害と救助」の続き。
アクアライン木更津金田IC出口にある、大きな交差点の信号機が消えている。
4車線が交差する交差点だが、上下も左右も流れている。
郊外なので横断歩道を渡るような人がいないため、完全に停車することがない。お互い譲り合いながら、右左折車に注意し、トラックの影で視界を妨げないように、車間を空けて停滞せずに流れいてた。
不思議というか、ある意味当然なのかもしれないが、完全停止せずに阿吽の呼吸で通過できてしまう。
他の交差点でも同様だった。信号機がないほうが、渋滞は少ないのかもしれない。
ということは、内房の木更津から外房の鴨川まで山間部を横断するのに、本当に1時間ぐらいで行けるのかも。グーグルマップを見ても、鴨川までは渋滞していない。意外と順調に行けるのでは!とこのときは思った。
ところが直後にちゃぶ台返し。
木更津から郊外へ少し進むと、急に渋滞になった。沿道の店、コンビニは閉店している。
グーグルマップも動作が怪しくなってきた。通信パケットがなかなか来ない。
どうやら高速(館山自動車道)の
木更津北IC入口で渋滞しているようだ。館山道は通行止めのはずだが、解除されたのだろうか。ネットに繋がらないからわからない。
もし高速に入っても、そこで何かあったら自由に抜けることができない。高速で渋滞するほうが行き詰まる可能性がある。
わずかに繋がっていたときのグーグルマップの情報と、古いカーナビの案内と、鈍ったカンを頼りに、迂回路が多い一般道を進む。
地方は道路環境の変化が大きい。地図データが古いカーナビでも自車位置は正確にわかるが、新しい高速道路、バイパス、新道では案内としてのナビが頼りにならないことがある。頼りにならないが、既存の道は残ってるはず。また、何よりも道路標識が頼りになる。これは絶対。
グーグルマップが最初に示したルートは変わっておらず、たまにネットに繋がったときにルートを再確認しながら、古いカーナビのルートも参照し、最終的には道路標識で確認して進む。
普段からグーグルマップは、渋滞を自動で回避して、砂利道や狭い道などアグレッシブなルート案内をしてくる。
途中、田んぼの間の1車線の道を案内されたが、浅く冠水しておりヒヤヒヤした。
こういうことに関しても、リスクのあるルートを案内してくるグーグルマップは危険。
房総半島の中央付近に進むほど、車内から見える被害状況は悪化していく。
国道410号ではビニールハウスはなぎ倒され、道路脇の小屋、看板は倒れている。
信号機までもが風によって、変な方向に向いている。これでは通電しても役に立たないだろう。
山間部に入っていくと、倒木、折れて道路を転がってる枝、大量の落ち葉。電信柱も樹木も傾いている。家も損傷している。
電線に引っかかって、辛うじて道路を塞いでいない倒木。倒木の下を通過する車。
もし倒木の下を走っていて倒れてきたら…。もし大型トラックが引っ掛けたら…。そのような場所がいくつもあった。
実際12トントラックが、ギリギリで通過してるのを見た。
<追記>
これらの画像は通った道路。撮ってないが、倒木でUターンしたところもあるし、撮ってる余裕がなかったところもある。
画像をよく見て欲しい。倒木が反対車線側の電線に引っかかって、道路に倒れこんでないだけの、とても不安定な状態のものがいくつかある。これらを全部撤去して、電線を点検しないと、通電できないだろう。
田舎の平日の朝とは言え、内房と外房を結ぶ幹線道路。もっと地元の車が走っていても良さそうなものだが、すれ違う車が少ないのが気になる。
出かける必要もなく、それどころでもないのだろう。
こういう事態だからこそ、土木作業車や工事車両を見かけてもいいはずだが、まったく見ていない。路線バスも見ない。パトカーは1台すれ違った。救急車、消防車は見ていない。警戒も復旧作業も、している雰囲気はない。
気がつくと、走行している車に県外ナンバーを多く見かけるようになったきた。救援救助に向かう人達だろう。
山間部に入るとスマホは繋がらず、グーグルマップもいよいよ動作がおかしくなってきた。ルートをロストし、画面がぐるぐる回っている。
お陰で、
久留里付近の山の中に入ってしまった。同じく県外ナンバーの車がウロウロしている。同様にグーグルマップで迷ってしまっていると思われる。
カーナビのルートを見ながら、交差点を曲がって進むが、倒木で行き止まり。
交差点まで戻って元来た方向から直進するが、先程見かけた県外ナンバーの車が戻ってくる。行き止まりなのだろう。
対向車の地元ナンバーの人に道を聞くと、近道せずに久留里を経由したルートのほうが通れるという。一番信用できる情報を持っているのは、現地の人だった。
もう繋がらなくて役に立たないグーグルマップは閉じた。
ネットナビは、ネットに繋がらなければ使えないし、危険。
狭い山道が、落ちた枝でより狭くなっている。対向車とのすれ違いも厳しくなってきた。
久留里の駅の近くまできたら、
上総地域交流センターという建物があった。一旦トレイを借りて休憩しようと寄ったところ、入口には「住民避難場所 電気、水、トイレは使えません。」と張り紙があった。これでは避難になってない。
外には名水を汲めるところがあり、住民たちは並んでボトルに水を汲んでいた。断水しているのだろう。
この日の気温は、台風一過で36度。被災者に容赦なく暑い。冷房がなくて水もなかったら、熱中症になるだろう。体の不自由な人、お年寄り、赤ちゃんなどの弱者には、こんな天候が続いたら非常に危険であることは容易に想像できる。(実際、数日続いた)
もう、地域はみんな遭難している状態。
結局トイレは使えないので、そのまま走り出す。
倒木や落下物がありながらも、譲り合って意外とスムースに鴨川付近まできた。
震災とは異なり、道路が崩れたり、地割れしているわけではない。電気も電波もないが、道は案外無事なので、車がある人は動けている。
車が使えれば、脱出も救出もできる。ガソリンがあれば、だけど。
案の定、ガソリンスタンドはほとんど開いていない。電気がないから店が開かない。
途中たった2箇所だけ、営業中のスタンドがあった。そこには車が20台ぐらい列を作っていた。列には救急車もいた。
この調子ではガソリンスタンドも、備蓄がすぐに底をつくだろう。車が使えていた地元の人達も、やがて動けなくなるだろう。そのときは本当に厳しい状況になるだろう。
安房鴨川駅近くまで来たところで、渋滞にはまる。市街だから混雑しているのだろうか。
やがて渋滞の原因にまでたどり着く。電線が道路に垂れ下がり、対面通行できなくなっていた。
すぐ近くの電線が垂れ下がっている箇所は、コーンが置かれていた。やっと人が介入してる痕跡をみた。
近くに
鴨川警察署があるが、その目の前の交差点の信号機は動いていない。そこには交通整理する警官もいない。手が回っていない。
そこを通過すると、その先の交差点の信号機は動作していた。歩行者もいる。なにか、やっと文明のある場所にたどり着いた感じ。
それにしても不思議なことに、
安房鴨川駅周辺だけが電気が来ているようだ。スマホも繋がるようになった。どうりで息子ともLINEでやり取りできるわけだ。逆に、だからこそ駅の向こう側は電気がない暗黒大陸と化している、なんて想像してないわけだ。
合宿所で息子と合流。結局ここまで3時間かかった。
連れて帰れない他の大学生たちは、疲労感はなく、元気だった。
彼らは2日分程度はカップラーメンを買い込んでいるらしいが、もう付近の店からは食料がなくなっていることは把握していた。
「君たちが思っているよりも、遥かにまずい状況だ。自覚はないだろうけど、君たちは遭難している。電車は明日も明後日も動かないと思う。電気は復旧しないし、架線の点検も、踏切の点検も、線路の点検も、数日では終わらない。電気とスマホが使えるのはここは、まだマシだ。復旧を待っててはダメ。行動を起こして、なんとか脱出しなさい。」
と伝えた。
なんとかするって元気よく言うので、まあなんとかなるだろう。
息子とあと2人乗せて帰路へ。帰路は基本的に逆戻りにした。車内から見える被害状況に、息子たちは驚いていた。
途中、高速道路(首都圏中央連絡自動車道)が流れているのが見えた。部分的に復旧したのだろう。
木更津東ICから高速に乗った。
そのまま順調にアクアラインに入った。
アクアラインを抜けて川崎へ。
コンビナートから登る煙、渋滞する車とトラック。信号機はすべて動き、歩行者も往来していた。いつもの日常があった。
アクアラインは、時空を超えるタイムトンネルのようだ。電気がない世界から、電気がある文明世界に抜け出た不思議な感覚。
元いた電気がない世界が心配でならなかった。あの状況は長引くだろうから…。
余談。
合宿所に残した学生たちが心配だったが、翌日大学側に確認したところ、バスをチャーターして脱出したそうだ。
余談その2。
台風明けの2~3日目ともなると、被害状況がやっと報道され始めるようになってきた。被災地からは情報発信手段がないのだから、伝わってなかったのだろう。メディアも行政も、座ってないで現場を見てきて欲しい。見れば深刻さと緊急度はわかったはずだ。
現場を見てない人たちは、誰が悪いだ、何をすべきだと、余計な口を挟む前に、募金するなりボランティアすることを考えて欲しいもんだ。
余談その3。
台風から一週間後。まだ復旧し始めたばかりだが、袖ヶ浦で開催された氣志團万博に今年も参戦。復旧が終わらない中の開催には、主に当事者じゃない人たちによる議論があった。
1週間で2回もアクアラインを往復するとは思わなかった。腹をくくって楽しんだ。
